第4話 深層の秘宝
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
最弱職【掃除士】、実は世界最強でした 第4話をお届けします。
いよいよ上級ダンジョン『古代王の墓所』へ!
千年分のゴミの山、一括浄化モード、そして――
伝説の聖剣エクスカリバーとの出会い!
お楽しみください!
召喚から一週間。
俺のレベルは25になっていた。
冒険者ギルドの朝は早い。まだ薄暗い空に、東の地平線がようやく白み始めた頃、俺は既に依頼掲示板の前に立っていた。朝露に濡れた石畳が、ブーツの底をひんやりと冷やす。革製の掃除道具入れを肩に掛け、腰にはミスリルダガーと浄化したポーション瓶が、歩くたびに小さく音を立てて揺れる。
毎日ダンジョンを掃除し、浄化でアイテムを復活させ、経験値を稼ぐ。単調に見える作業だが、俺にとっては宝探しのような楽しさがあった。汚れの奥に眠る本当の価値を見出す瞬間――それが、俺の生きがいになりつつある。
今では『掃除士の翔太』として、ギルドでも認知されるようになった。朝の挨拶を交わす冒険者も増え、時には清掃の依頼を直接持ち込まれることもある。
「おはよう、翔太! 今日も早いな」
顔見知りの弓使いが声をかけてくる。彼の笑顔は、もう嘲笑ではない。純粋な親しみだ。
「今日はどこのダンジョンを綺麗にするんだ?」
「まだ決めてません。何か良い依頼があれば」
そんなある日、特別な依頼が舞い込んだ。
受付カウンターに近づくと、リサが神妙な顔で待っていた。いつもの営業スマイルは消え、眉間に皺を寄せている。
「翔太さん、ちょっと……」
彼女が小声で呼ぶ。周囲を確認してから、別室へと案内された。
════◆════
個室に入ると、リサが扉を閉め、施錠する。カチリという音が、妙に重く響いた。
「上級ダンジョン『古代王の墓所』の調査依頼が来ています」
彼女が依頼書を差し出す。羊皮紙には、王国の紋章が押されていた。国家レベルの重要依頼だ。
「上級ダンジョン……」
俺は依頼書を手に取る。羊皮紙特有の滑らかな感触と、インクの微かな匂い。内容を読み進めるうちに、背筋が凍る思いがした。
「Aランク冒険者のパーティーが全滅したらしくて」
リサの声が震えている。
「『銀狼団』です。国内でも五指に入る実力者たちが……」
「全滅……」
背筋が凍る。思わず息を呑んだ。手にした依頼書が、急に重く感じられる。
Aランクといえば、国でも指折りの実力者たちだ。竜すら倒せると言われる彼らが全滅するような場所に、レベル25の俺が? いくら浄化スキルがあるとはいえ――
「でも、彼らの遺品回収の際に、奇妙な報告があったんです」
リサが声を潜める。身を乗り出し、俺の耳元で囁く。香水の甘い香りと、彼女の温かい息が頬にかかる。
「ダンジョンの最深部に、とんでもない量のゴミが堆積してるって。まるで、何千年分もの廃棄物が一箇所に集められたような」
ゴミの山。
その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が高鳴った。血が熱くなり、指先がむずむずと疼く。これは、浄化スキルが反応している証だ。俺の職業が、俺の本能が、そこに行けと叫んでいる。
「どれくらいの量ですか?」
「生還した斥候の話では、『小山のような』と」
小山。文字通りの山。それほどの廃棄物があれば――
「ただし、条件があります」
リサが真剣な表情で続ける。彼女の瞳には、心配の色が濃い。
「護衛として、高レベルの冒険者パーティーと同行すること。いくら掃除士として有名になったとはいえ、上級ダンジョンは危険すぎます」
彼女が俺の手を取る。細い指が、俺の手を包む。
「瘴気だけで、低レベルの者は意識を失います。呪いで発狂する者もいます。本当に、本当に危険なんです」
「誰が護衛を?」
「それが……」
リサが複雑な表情を浮かべる。同情と、心配と、少しの好奇心が入り混じった顔だった。
「召喚組の、あの三人です」
════◆════
「よう、翔太。久しぶりだな」
ギルドの別室で待っていたのは、ケンジ、ユウキ、ミカの三人だった。
剣聖、魔法剣士、賢者。召喚組のエリートパーティー。
全員が上質な装備に身を包んでいる。ケンジの鎧は、ミスリルの鱗が重なった竜鱗鎧。ユウキの剣は、刀身に魔法の紋様が刻まれた魔剣。ミカのローブは、古代の魔法糸で織られた神秘の衣。
一週間前とは見違えるような風格を漂わせている。でも、その目には疲労の色も見える。レベル上げに必死だったのだろう。
部屋の空気が、微妙に張り詰めていた。過去の因縁が、見えない壁となって俺たちの間に立ちはだかっている。
「お前らが護衛?」
俺の声に、皮肉が滲んだかもしれない。
「ギルドからの正式な依頼だ」
ケンジが腕を組む。彼の鎧が金属音を立てる。新調したらしいプレートメイルは、魔法の紋様が刻まれた高級品だった。
「レベルは?」
「俺は32」
ケンジが答える。プライドが滲む声。
「ユウキが30、ミカが28だ」
一週間でかなり上げたようだ。おそらく、寝る間も惜しんで狩りをしたのだろう。目の下のクマが、その苦労を物語っている。
「俺たちも最深部に用がある」
ユウキが付け加える。彼の腰の魔法剣が、薄く青白い光を放っている。
「古代王の遺産を探してる。伝説級の武器があるって噂だ」
「それに、お前の浄化能力は認めてる」
ミカも頷く。彼女の手にした杖の先端には、高純度の魔法石がはめ込まれていた。
「協力すれば、お互いメリットがある。私たちは戦闘を担当、あなたは環境整備。理にかなってるでしょ?」
一週間前とは、明らかに態度が違う。俺を見下していた目は、今は値踏みするような、計算高い光を宿している。俺の能力を認めざるを得なくなったのだろう。
でも――それでいい。過去は過去、今は今だ。
「いいだろう。ただし、ビジネスとしてだ」
俺は淡々と答えた。感情を込めず、事務的に。
「浄化したアイテムは山分け。戦闘は任せるが、清掃作業には口出ししない。それでいいなら」
「……ああ」
ケンジが複雑な表情で頷いた。彼の目に、かすかな後悔の色が見える。唇を噛みしめ、何か言いたそうにしていたが、結局黙った。
おそらく、謝りたいのだろう。でも、プライドが邪魔をしている。それでいい。俺も、今更謝罪なんて求めていない。
════◆════
『古代王の墓所』
街から半日の距離にある、巨大なピラミッド型のダンジョン。
砂漠の中にそびえ立つその姿は、遠くからでも威圧感がある。高さは百メートルを超え、底辺は更に広い。砂岩で作られた外壁は、千年の風雨に晒されても威厳を保ち、表面に刻まれた古代文字が、夕日を受けて金色に輝いていた。
近づくにつれて、空気が変わった。
乾いた砂漠の風が、じっとりとした重さを帯びる。魔力の密度が高すぎて、普通の空気とは違う質感になっているのだ。息をするだけで、肺が重くなるような感覚。皮膚がピリピリと痛み、髪が逆立つ。
入口に立つと、重厚な魔力を肌で感じる。
古代の結界が、今も生きている証だ。石造りの門には、警告文が刻まれている。『死を恐れぬ者のみ、この先へ進むべし』――古代語だが、なぜか意味が理解できた。聖剣との共鳴か、それとも浄化スキルの副次効果か。
「ここが上級ダンジョンか……」
ユウキが緊張した声を出す。彼の手が、無意識に剣の柄を握っている。指の関節が白くなるほど、強く握りしめていた。額には、早くも汗が滲んでいる。
「大丈夫。私の解析だと、第三層までなら安全に進める」
ミカが魔法で道を探る。彼女の杖の先から、薄い青の光が広がり、ダンジョンの構造を読み取っていく。しかし、彼女の額にも汗が滲む。それだけ、このダンジョンの魔力密度が高いのだ。
「第四層から先は……正直、未知数ね」
彼女の声が震える。
「でも、古代王の財宝があるとすれば、最深部よ」
俺たちは慎重に進んだ。
入口の扉を押し開けると、冷たい空気が流れ出てきた。カビと、土と、そして死の匂い。松明の灯りが、石壁に不気味な影を作る。足音が、静寂の中で不自然に響く。
通路は狭く、天井は低い。圧迫感が、じわじわと精神を蝕んでくる。
════◆════
第一層、第二層と、モンスターと戦いながら進む。
ミイラ化した古代兵が、朽ちた剣を振りかざして襲いかかる。包帯が解けかけた身体から、腐敗した肉片が零れ落ちる。目は虚ろで、しかし確実に俺たちを狙っている。
呪われた石像が、赤い目を光らせて動き出す。関節から石の破片を撒き散らしながら、重い拳を振り下ろす。その一撃は、地面を砕くほどの威力。
亡霊が、壁をすり抜けて現れ、冷たい手で首を絞めようとする。実体がないため、物理攻撃が効かない。
どれも手強い。通常の物理攻撃が効きにくく、魔法への耐性も高い。
ケンジの剣が、古代兵を両断する。
「はあっ!」
剣聖の技が炸裂し、光の斬撃が空間を切り裂く。しかし、ミイラはすぐに再生を始める。切断された部位が、砂のように集まって元に戻る。
「くそっ、キリがない!」
ユウキの魔法剣が氷の刃を放ち、動きを止める。
「凍てつけ! アイスブレード!」
青白い冷気が広がり、ミイラを氷漬けにする。しかし、それも一時的。すぐに氷を破って動き出す。
ミカの光魔法が、亡霊を消し去る。
「聖なる光よ、邪を払え! ホーリーライト!」
白い光が亡霊を包み、断末魔の叫びと共に消滅させる。これは効果的だが、ミカの魔力消費が激しい。
戦闘は三人に任せ、俺は後方で通路を掃除する。
血痕、腐敗した肉片、砕けた骨、魔物の体液――それら全てを浄化していく。
「浄化」
光が広がり、汚れが消えていく。すると、床や壁の本来の姿が現れる。
美しいモザイク画が姿を現した。色とりどりの石で描かれた、古代の物語。精緻な彫刻が壁一面に広がり、かつての王の偉業を伝えている。天井には、星座を模した装飾。
この墓所が、かつてどれほど荘厳な場所だったかが分かる。
そして浄化したアイテムは、パーティーで山分け。
上級ダンジョンのアイテムは質が違う。レアな魔法石は、虹色の光を放つ。高級な素材である竜の鱗は、手のひらサイズでも金貨100枚の価値がある。古代の遺物は、失われた魔法技術の結晶だ。
『レベルが26に上がりました』
頭の中にメッセージが響き、全身に力が満ちる感覚が走る。血管を熱い何かが駆け巡り、筋肉が引き締まる。
『レベルが27に上がりました』
経験値も凄まじい。古代の呪物一つで経験値500。千年物の血痕で経験値300。通常の戦闘では得られない量の経験値が、浄化で手に入る。
第三層を抜け、第四層へ。
ここからが本当の地獄だった。瘴気が濃く、普通に呼吸するだけで肺が痛む。壁からは呪いの言葉が響き、精神を蝕もうとする。
「うっ……きつい」
ユウキが顔をしかめる。
「これ以上は……」
そのとき、俺の汚染耐性が効果を発揮した。瘴気が、俺には それほど効かない。
「俺が前に出ます」
「は? お前が?」
ケンジが驚く。
「汚染耐性があるんです。瘴気なら、ある程度は」
俺が先頭に立ち、浄化で道を切り開く。瘴気を中和し、呪いを弱体化させながら進む。
そして、ついに最深部――第五層に到達した。
════◆════
「なんだこれは……」
ケンジが呆然と呟く。
彼の声が、巨大な空間に吸い込まれていく。エコーが幾重にも重なり、やがて闇に消える。
最深部は、想像を絶する広さだった。
天井は見えないほど高く、闇の中に消えている。少なくとも50メートル、いや、もっと高いかもしれない。壁には古代文字がびっしりと刻まれ、ところどころで薄く光を放っている。それは、星のように瞬いて、この空間に神秘的な雰囲気を与えている。
床は大理石で出来ており、複雑な魔法陣が描かれていた。幾何学模様が幾重にも重なり、見ているだけで目眩がする。
そして、その中央には――
山。
文字通り、ゴミの山がそびえ立っている。
高さ15メートルはあるだろうか。横幅も相当なもので、小さな丘と言ってもいいほどだ。
壊れた武器が無数に突き刺さり、まるで針山のよう。砕けた防具が層を成して積み重なり、地層のような模様を作っている。朽ちた魔道具が所々で不気味な光を放ち、正体不明の物体が腐敗して液体となって流れている。
金属の錆びた臭い、革の腐った臭い、何か有機物が発酵したような臭い――様々な悪臭が入り混じり、息をするのも苦しいほどだ。
何百年、いや何千年分の廃棄物が堆積している。これは、古代王国の歴史そのものかもしれない。
「これ全部、掃除するの?」
ミカが引きつった顔をする。彼女は袖で鼻を覆い、涙目になっている。
「これは……想像以上ね」
「古代王国の廃棄場だったのか」
俺は前に出た。
不思議と、悪臭はそれほど気にならなかった。汚染耐性のおかげかもしれない。それよりも、このゴミの山から感じる『何か』に、心が躍っていた。
浄化スキルが、激しく反応している。全身がむずむずと疼き、魔力が勝手に活性化していく。これだけのゴミがあれば、とんでもないレベルアップができるはずだ。そして、きっと凄いものが埋もれている。
「浄化」
手を翳すと、光がゴミの山を包み始める。すると――
『大量のアイテムを検知しました』
『一括浄化モードを起動しますか?』
頭の中に、初めて聞くメッセージが響いた。
一括浄化モード? そんな機能があったのか。今まで一つ一つ浄化していたが、まとめて処理できるということか。これは、掃除士の隠された能力なのか。
「はい」
『警告:全魔力を消費します。気絶の可能性があります』
『実行しますか?』
リスクはある。全魔力を使い果たせば、無防備になる。もしモンスターが現れたら――でも、ケンジたちがいる。ビジネスパートナーとして、最低限の信頼はできるはずだ。
それに、この機会を逃したくない。
「実行」
次の瞬間、俺の全魔力が解放された。
════◆════
眩い光が部屋全体を包み込む。
まるで小さな太陽が生まれたかのような輝き。純白の光が、闇を完全に払い、影すら消し去る。あまりの眩しさに、ケンジたちが目を覆う。
「うわっ! なんだこれは!」
俺の身体から、今まで感じたことのない量の魔力が流れ出ていく。
血管が熱くなり、まるでマグマが流れているよう。心臓が激しく脈打ち、太鼓のような音が耳に響く。全身から汗が噴き出し、服が肌に張り付く。膝が震え、視界が霞む。
それでも、俺は倒れなかった。これが、俺の使命だと感じたから。
ゴミの山が、みるみるうちに変化していく。
まるで、超高速で再生される映像のように。いや、もっと根本的な変化。存在そのものが、本来の姿を取り戻していく。
錆びた剣が輝きを取り戻し、鋭い刃を見せる。朽ちた鎧が威厳を取り戻し、美しい装飾が蘇る。壊れた魔道具が力を取り戻し、魔法の光を放ち始める。
千年の時を巻き戻すかのように。
失われた栄光が、今、蘇る。
「すげぇ……」
ケンジが息を呑む。彼の目に映るのは、もはやゴミ山ではなかった。
光が収まると、そこには整然と並んだ装備品の山があった。
まるで、博物館の展示品のように、種類別に分類されている。剣は剣でまとまり、鎧は鎧で積まれ、魔道具は魔道具で並んでいる。全てが、新品同様の輝きを放っている。
レア、エピック、レジェンダリー……とんでもない等級のアイテムが、所狭しと並んでいる。
そして、その頂点に――
「あれは……」
一本の剣が突き立っていた。
いや、最初は剣には見えなかった。
真っ黒で、ドロドロで、触るのも憚られるような、汚物の塊。表面には、何か粘性のある液体がこびりつき、ところどころから紫色の霧が立ち昇っている。まるで、地獄の底から引き上げられたような禍々しさ。
全ての汚れと呪いを吸い込んだかのような、究極の穢れ。
でも、なぜか俺の目には、それが剣に見えた。浄化の力が、その本質を見抜いている。あの汚物の奥に、何か特別なものが眠っている。神聖な何かが、穢れに覆われて苦しんでいる。
「おい、翔太。あれヤバくないか?」
ユウキが警戒する。彼の顔が青ざめ、一歩後退る。
「触るだけで呪い殺されそうだ」
確かに、禍々しい気配がする。近づくだけで、吐き気がするような瘴気。普通なら、絶対に触れたくない代物だ。
でも――俺の浄化スキルが、激しく反応している。これは、浄化すべきものだと、本能が叫んでいる。
「あれも、浄化してみる」
「正気か?」
ミカも止めようとする。
「私の知識でも、あれが何なのか分からない。でも、間違いなく危険よ。古代の呪物、いや、それ以上の何か」
俺は深呼吸をして、少し回復した魔力を確認してから、黒い剣に近づいた。
一歩、また一歩。
近づくにつれて、瘴気が濃くなる。肌がピリピリと痛み、まるで無数の針で刺されているよう。呼吸が苦しくなり、肺が焼けるような感覚。汚染耐性があっても、これはきつい。
近くで見ると、さらに汚い。
何層もの呪い、怨念、瘴気が折り重なっている。表面には、呪殺された者たちの顔が浮かんでは消える。苦悶の表情、絶望の叫び、怨嗟の声。まるで、地獄絵図が剣の表面で再現されているかのよう。
でも、その奥に――微かに、本当に微かに、光を感じる。
「浄化」
光が黒い剣を包む。しかし――
『浄化レベルが不足しています』
『必要レベル:浄化Lv.10』
『現在レベル:浄化Lv.4』
光が弾かれた。黒い剣は、びくともしない。むしろ、嘲笑うかのように瘴気を強める。
「無理か……」
いや、待て。不足してるだけなら――
その時、新たなメッセージが現れた。
『蓄積経験値を浄化スキルに集中投資しますか?』
『警告:レベルは上がりません』
『警告:一度実行すると取り消せません』
経験値を直接スキルに? そんなことができるのか。
でも、これはチャンスかもしれない。この剣を浄化できれば――
「……やる」
『浄化Lv.4→Lv.10』
『必要経験値を消費しました』
瞬間、世界が変わった。
レベルは27のままだが、浄化スキルだけがレベル10になった。
全身から力が湧き上がる。今まで見えなかったものが見える。汚れの本質、穢れの構造、呪いの仕組み――全てが手に取るように理解できる。
浄化の本質が、理解できる。
それは単なる清掃ではない。存在そのものを、本来あるべき姿に戻す力。歪められたものを正し、汚されたものを清め、呪われたものを解放する――それが、真の浄化。
「もう一度――浄化!」
今度は違った。
光が、黒い剣に浸透していく。ゆっくりと、しかし確実に、汚れが剥がれ落ちていく。
千年の呪いが解け、万年の瘴気が晴れ、永遠の怨念が浄化されていく。
黒い塊が砕け、その破片が光となって消える。怨霊たちの顔が、安らかな表情に変わり、感謝の言葉を残して昇天していく。呪いの言葉が、祝福の歌に変わる。
そして――
黄金の輝きが、部屋中を照らした。
════◆════
「まさか……」
ミカが震え声を上げる。彼女の賢者の知識が、剣の正体を告げている。
「伝説の……聖剣?」
現れたのは、美しい黄金の剣。
刀身は、純粋な光を宿したかのように輝いている。鏡のように磨かれた表面には、古代文字で銘が刻まれている。『悪を断ち、世界を浄める』――その文字が、薄く光を放っている。
柄には竜と鳳凰の紋章が彫られている。東西の聖獣が、剣を守護しているかのよう。握りの部分は、手に吸い付くような形状をしており、触れる前から、それが自分のためのものだと分かる。
鍔の部分には、七つの宝石がはめ込まれているが、光っているのは一つだけ。赤い宝石が、心臓の鼓動のようなリズムで明滅している。残りの六つは、まだ眠っているようだ。
鑑定する。
【聖剣エクスカリバー(第一段階解放)】
等級:神話級
攻撃力:+300
特殊効果:邪悪特効、不滅、成長型、浄化付与
説明:かつて勇者王が魔王を倒した伝説の聖剣。浄化の力によって穢れから解放された。完全解放には七つの試練を乗り越える必要がある。
「エクスカリバー!?」
ケンジが叫ぶ。彼の顔に、羨望と悔しさが入り混じる。拳を握りしめ、歯を食いしばっている。
「なんでこんなところに!? しかも、なんで掃除士が……」
分からない。でも、今、それは俺の前にある。
手を伸ばす。
柄に触れた瞬間、温かい何かが全身を包んだ。それは、母親の抱擁のような、太陽の光のような、優しくて力強い感覚。
同時に、剣の記憶が流れ込んでくる。
――千年前、勇者王がこの剣で魔王を倒した光景。
――その後、嫉妬した者たちによって呪われ、封印された記憶。
――長い年月、穢れに覆われながらも、浄化される日を待っていた想い。
聖剣が、俺を選んだ理由が分かった。
俺は掃除士。穢れを浄化し、本来の姿を取り戻させる者。この剣が求めていたのは、強い戦士ではなく、浄化できる者だったのだ。
柄を握った瞬間――
『聖剣エクスカリバーが新たな主を認めました』
『称号:聖剣の主 を獲得しました』
『特別ボーナス:レベルが36に上がりました』
一気にレベル36!?
力が、体中に満ち溢れる。血管を熱い何かが駆け巡り、筋肉が引き締まり、視界がクリアになる。今まで感じたことのない、圧倒的な力。
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【ステータス】
佐藤翔太 Lv.36
職業:掃除士
称号:聖剣の主
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HP :650/650
MP :950/950
攻撃力:82(+300)
防御力:298
敏捷 :82(+50)
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【スキル】
浄化 Lv.10
└呪い浄化まで可能
鑑定 Lv.4
収納 Lv.4
剣術 Lv.1(NEW)
浄化効率:50
汚染耐性:20
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攻撃力382。もはや最弱職じゃない。
掃除士にして、聖剣の主。
これが、俺の新しい道だ。
聖剣を掲げると、刀身が輝き、部屋全体を照らす。その光は、穢れを払い、希望をもたらす光。
ケンジたちが、呆然と俺を見ている。
最弱と呼ばれた掃除士が、伝説の聖剣を手にしている。この光景は、彼らの常識を完全に覆したのだろう。
「これからどうする?」
ケンジが複雑な表情で尋ねる。
「同じだよ」
俺は答える。
「俺は掃除士。世界を綺麗にする。ただ、今は聖剣も一緒にいるだけだ」
聖剣エクスカリバーが、俺の言葉に応えるように、優しく光った。
第4話、いかがでしたでしょうか?
ゴミの山から発掘された、伝説の聖剣エクスカリバー。
浄化スキルレベル10への集中投資という選択。
そして聖剣が認めた、掃除士・佐藤翔太。
レベル36、攻撃力382という圧倒的な成長!
最弱職から聖剣の主へ――新たな道が始まります。
次回、聖剣の力で何が起こるのか?
アンデッドキングとの激闘の行方は?
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