第18話 満月の夜
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最弱職【掃除士】が実は環境最強でした 第18話をお届けします。
満月の夜、ついに決戦の時が訪れます。
元宮廷魔術師団長マグヌス(レベル60)との死闘。
そして翔太に宿る新たな力とは……?
朝靄がギルドハウスの中庭を包む中、金属と金属がぶつかり合う音が響いていた。
「もっと腰を落として!」
カールの厳しい声が飛ぶ。リクとシンが、汗だくになりながら剣の素振りを繰り返している。二人の額から滴る汗が、朝日を受けて輝いた。
「はい!」
リクの剣捌きが、この三日間で見違えるように鋭くなっていた。従者という職業でも、基礎体力と技術があれば、ある程度は戦える。彼の瞳には、もう迷いはない。守るべきものができたことで、彼は確実に成長していた。
「シン、反応速度はいいが、力任せすぎる」
カールが的確に指導する。元騎士としての経験が、若い二人の成長を加速させていた。
「獣人族の身体能力を活かしながら、技術も磨け」
「分かった!」
シンの尻尾が、集中の証のようにぴんと立っている。その動きは野生的でありながら、徐々に洗練されていく。三日間の特訓で、彼のレベルは9から11まで上がっていた。
研究室では、ミーナとゲオルグが封印術式の解析に没頭していた。
机の上には、古文書の山。二人の周りを、青白い光を放つ小さな術式モデルが浮遊している。千年前の技術を、現代の魔法理論で再構築しようとしているのだ。
「この部分の構造、分かりました!」
ミーナが興奮気味に声を上げた。彼女の指先から、複雑な光の糸が紡ぎ出される。
「封印の核となる術式は、七十二の点で相互に補強し合っている。一つが破壊されても、他がカバーする仕組みです」
「なるほど……だが、それが逆に弱点にもなる」
ゲオルグが顎髭を撫でながら呟いた。長年の研究で培われた洞察力が、封印の脆弱性を見抜く。
「特定の順序で破壊すれば、連鎖的に崩壊する可能性がある」
「第七の封印は、その要石の一つ……」
二人の表情が厳しくなった。第七の封印が破壊されれば、他の封印も急速に弱体化する。時間との戦いだった。
治療室では、クララが新しい治癒魔法の習得に挑戦していた。
「【高速治癒】……まだ難しい……」
額に汗を浮かべながら、何度も詠唱を繰り返す。彼女の手から放たれる緑の光が、徐々に輝きを増していく。司祭見習いとしては異例の速さで、高位魔法を習得しようとしていた。
「クララ、無理は禁物だ」
俺が声をかけると、彼女は振り返って微笑んだ。その笑顔には、強い決意が宿っている。
「でも、皆さんが傷ついた時、すぐに治せるようになりたいんです」
その純粋な想いが、彼女の成長を支えていた。
俺自身も、修練を怠らなかった。
ギルドハウスの地下訓練場で、新たな浄化技の開発を試みる。聖浄化の力を、さらに高次元へと昇華させる技。だが、なかなか形にならない。
「聖浄化の力を、もっと凝縮して……」
金色の光が俺の全身を包む。だが、ある一定以上の密度になると、制御を失って霧散してしまう。まるで、器に入りきらない水が溢れるように。
「難しいな……」
それでも諦めない。満月の夜までに、少しでも強くならなければ。仲間たちを、王都を、そしてエリーゼを守るために。
◆
三日目の昼過ぎ、俺たちは王城に召集された。
大会議室には、騎士団の精鋭たちが集結していた。銀色の鎧が整然と並ぶ様は、まさに王国の守護者たちだった。空気が張り詰め、金属の擦れる音さえも緊張を増幅させる。
「皆、よく集まってくれた」
レオンハルト騎士団長が、重々しく口を開いた。彼の顔には、この三日間の疲労が色濃く表れている。それでも、その瞳は決意に満ちていた。
「今夜、満月の夜。敵は必ず第七の封印を狙ってくる」
騎士たちの表情が引き締まった。誰もが、この戦いの重要性を理解している。
扉が開き、エリーゼが姿を現した。
純白のドレスに身を包んだ彼女は、いつもより顔色が青白い。王族として、民を守る責任の重さが、彼女の細い肩にのしかかっているのだろう。それでも、その佇まいは気品に満ちていた。
「翔太様」
彼女が俺に近づいてきた。ラベンダーの香りが、ふわりと漂う。
「この三日間、ずっと不安でした」
その声には、隠しきれない恐怖が滲んでいた。第三王女として、常に毅然としていなければならない。だが、一人の少女として、恐怖を感じるのは当然だった。
「大丈夫です、必ず守ります」
俺の言葉に、エリーゼの瞳に安堵の色が浮かんだ。
「翔太様なら、きっと……」
その時、会議室の扉が勢いよく開かれた。
「失礼する」
入ってきたのは、ケンジだった。剣聖の称号を持つ彼の後ろには、勇者ユウキ、大賢者ミカの姿もある。かつて俺を見捨てた、あの三人だ。
会議室の空気が、一瞬凍りついた。
「何の用だ」
俺の声は、自然と冷たくなった。今更、何をしに来たというのか。
ケンジは、まっすぐ俺を見つめた。その瞳には、以前のような傲慢さはない。代わりに、何か決意のようなものが宿っていた。
「前回の借りを返しに来た」
「借り?」
「第五の封印の時、お前に助けられた」
ケンジは深く頭を下げた。剣聖がこうも簡単に頭を下げるなど、以前なら考えられないことだった。
「俺は……ずっと後悔していた」
ケンジの声が震えた。
「転移した時、お前を見捨てた。同窓会でも、お前の仕事を笑った。最低だった」
彼の拳が、ぎゅっと握りしめられる。
「でも、お前は変わらなかった。掃除士として、誇りを持って戦っている。俺の方こそ、恥ずかしい」
「ケンジ……」
「今度は、俺たちが力を貸す」
ユウキも頷いた。勇者としてのプライドよりも、王都を守ることを優先したのだろう。
「僕たちも戦う。王都を守るために」
ミカが杖を握りしめた。
「過去のことは……謝っても許されないと思う。でも、今は協力させてほしい」
三人の申し出に、俺は少し迷った。確かに、戦力は多い方がいい。だが……。
「翔太様」
エリーゼが俺の袖を引いた。
「今は、皆で力を合わせる時では?」
彼女の言葉に、俺は頷いた。個人的な感情は、後回しだ。
「分かった。一緒に戦おう」
ケンジの顔に、安堵の色が浮かんだ。
レオンハルトが作戦図を広げた。
「配置はこうだ。第七の封印は王城地下の最深部にある」
地図には、複雑な地下通路が描かれていた。いくつもの防衛ラインが設定されている。
「第一防衛線は騎士団第一小隊。第二防衛線は第二小隊と勇者パーティー」
ケンジたちが頷く。
「最終防衛線は、浄化士ギルドが担当する」
俺たちが、最後の砦となる。それは、最も重要で危険な役割だった。
「各隊、連携を密にして戦う。通信用の魔法具を配布する」
小さな水晶が配られた。これで、離れた場所でも意思疎通ができる。
「敵の戦力は未知数だ。油断するな」
全員が緊張の面持ちで頷いた。
◆
夜が訪れた。
満月が、不気味なほど明るく王都を照らしている。月光は青白く、まるで死者の国から差し込む光のようだった。街は静まり返り、市民たちは皆、家に閉じこもっている。
俺たちは、王城地下の第七封印前で待機していた。
巨大な封印は、青い光を放ちながら脈動している。その中心には、複雑な紋様が刻まれた巨石がある。千年前の魔術師たちが、命を懸けて作り上げた封印の要だ。
「静かすぎる」
カールが呟いた。彼の研ぎ澄まされた感覚が、嵐の前の静けさを感じ取っている。
「来るぞ」
シンの耳がぴくりと動いた。獣人族の聴覚が、遥か遠くの異変を察知する。
通信水晶が光った。
『第一防衛線より報告! 黒ローブの集団を確認! 数は……五名!』
五名。予想より多い。
『交戦開始!』
水晶から、戦闘音が響いてきた。剣と剣がぶつかり合う音、魔法が炸裂する音。そして、騎士たちの叫び声。
『強い! レベル40以上が三名……ぐあっ!』
通信が途切れた。
「第一防衛線が……」
リクが青ざめた。騎士団の精鋭が、こうも簡単に突破されるとは。
『第二防衛線、敵と接触!』
今度はケンジの声だった。
『こいつら、ただの魔術師じゃない! 終焉の使徒の幹部クラスだ!』
激しい戦闘音が続く。勇者パーティーでも、苦戦を強いられているようだった。
そして――
地下通路の奥から、足音が響いてきた。
規則正しく、そしてゆっくりと。まるで、勝利を確信した者の歩みのように。
「来たか」
俺は聖剣を抜いた。刀身が、封印の光を受けて青く輝く。
闇の中から、五つの人影が現れた。
全員が黒いローブを纏っている。だが、その中の一人は、明らかに他とは違う威圧感を放っていた。歩くたびに、床の石が瘴気で黒く変色していく。
「久しぶりだな、掃除士」
三日前の、あの声だった。
「今日は、仲間を連れてきた」
黒ローブたちが、フードを下ろした。
俺は息を呑んだ。
見覚えのある顔が、そこにあった。かつて宮廷魔術師団の副団長だった男、そして――
「マグヌス……!」
ゲオルグが愕然とした声を上げた。
中央に立つ初老の男。かつて宮廷魔術師団長を務め、十年前に失踪したマグヌス。白髪に皺だらけの顔だが、その瞳には狂気じみた輝きが宿っていた。
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【マグヌス】
職業:大魔導師
レベル:60
HP:2,800
MP:4,500
称号:元宮廷魔術師団長
終焉の使徒・幹部
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「ゲオルグか……久しいな、弟子よ」
マグヌスが薄く笑った。その笑みは、かつての温厚な師の面影を完全に失っていた。
「なぜです、師匠! なぜこんなことを!」
ゲオルグの声が震えた。尊敬していた師が、まさか敵として現れるとは。
「なぜ? 簡単なことだ」
マグヌスが杖を掲げた。禍々しい紫の光が、杖の先端に集まっていく。
「千年前の真実を知ったからだ」
◆
「千年前、人類は魔神と戦い、辛うじて封印することに成功した……それが、お前たちが知っている歴史だろう?」
マグヌスの声が、封印の間に響く。その声には、狂信的な確信が込められていた。
「だが、真実は違う」
彼が杖を振ると、空中に紫の光で描かれた映像が浮かび上がった。それは、千年前の光景を再現したものだった。
荒廃した大地、累々と横たわる死体、そして空を覆う魔神の群れ。
「人類は、負けていたのだ。完全に」
映像が切り替わる。
ぼろぼろになった騎士と魔術師たち。その前に立つ、巨大な魔神の姿。
「だが、魔神の王が取引を持ちかけた。『千年の猶予をやろう。その間に、我らを倒せる力を身につけよ』と」
「嘘だ!」
レオンハルトが叫んだ。だが、その声には確信が欠けていた。
「嘘? では、なぜ封印は千年で劣化する? なぜ魔神は、封印される時に抵抗しなかった?」
マグヌスの問いかけに、誰も答えられなかった。
「すべては、魔神の計画通りなのだ。千年の時を経て、人類がどれだけ成長したか試すために」
「仮にそれが真実だとしても」
俺は前に出た。
「だからといって、封印を解く理由にはならない」
「愚かな」
マグヌスが嘲笑した。
「千年経っても、人類は何も変わっていない。相変わらず争い、差別し、弱者を虐げている」
彼の瞳に、怒りの炎が宿った。
「魔神に審判されるべきだ。この腐った世界は、一度滅びて、新しく生まれ変わるべきなのだ」
「それで多くの罪のない人が死ぬ!」
クララが叫んだ。
「罪のない人間など、いない」
マグヌスが冷たく言い放った。
「さあ、始めよう。第七の封印の破壊を」
彼が杖を振り上げた瞬間、戦闘が始まった。
五人の黒ローブが、一斉に魔法を放つ。
「【闇魔法・破滅の雨】!」
「【腐食魔法・死の霧】!」
「【精神魔法・恐怖の叫び】!」
様々な属性の攻撃魔法が、俺たちに降り注ぐ。
「【浄化領域展開】!」
俺は全力で浄化の領域を広げた。金色の光が、仲間たちを包み込む。だが、敵の攻撃は激しく、領域が軋みを上げた。
「援護します!」
ミーナが反撃に転じた。
「【火炎魔法・業火の渦】!」
赤い炎が渦を巻いて、黒ローブたちに襲いかかる。だが、マグヌスは片手で軽々と炎を消し去った。
「レベル20にも満たない魔術師が、私に挑むとは」
彼の杖から、巨大な闇の槍が放たれた。
「危ない!」
カールがミーナを庇い、剣で槍を受け止めようとした。だが、闇の槍は剣ごとカールを貫いた。
「カールさん!」
クララが駆け寄り、必死に治癒魔法をかける。緑の光が傷口を覆うが、瘴気が治癒を妨げる。
「くそっ、瘴気が邪魔を……」
俺は聖剣を構え、マグヌスに斬りかかった。
「【剣技・光速斬】!」
光の軌跡を描きながら、刃がマグヌスに迫る。だが――
「遅い」
マグヌスは、俺の剣を素手で掴んだ。聖剣の刀身を、瘴気を纏った手で。
「なっ……!」
「レベル54で、私に勝てると思ったか?」
彼の手から、強烈な衝撃波が放たれた。俺は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。全身に激痛が走った。
「翔太さん!」
リクとシンが俺に駆け寄る。だが、他の黒ローブたちが二人の前に立ちはだかった。
「ガキは引っ込んでろ」
黒ローブの一人が、闇の鞭を振るう。リクとシンが必死に避けるが、徐々に追い詰められていく。
戦況は、絶望的だった。
レベル差がありすぎる。マグヌス一人でも手に負えないのに、他に四人もいる。
「もう終わりだ」
マグヌスが封印に向かって歩き始めた。その手に、禍々しい瘴気が集まっていく。
「やめろ!」
俺は立ち上がろうとしたが、体が動かない。ダメージが大きすぎる。
このままでは、封印が――
その時だった。
「させるかよ!」
通路の奥から、ケンジたちが駆けつけてきた。三人とも傷だらけだが、まだ戦える状態だった。
「【剣技・天空剣】!」
ケンジの剣が、光を纏ってマグヌスに迫る。
「【勇者スキル・聖なる一撃】!」
ユウキも全力で攻撃を放つ。
「【大魔法・天雷】!」
ミカの雷撃が、黒ローブたちを襲う。
一瞬、戦況が動いた。
だが――
「面倒な」
マグヌスが片手を上げただけで、三人の攻撃がすべて消失した。
「勇者、剣聖、大賢者……確かに優秀だ。だが、所詮はレベル40台」
彼の全身から、圧倒的な魔力が放出された。紫の瘴気が、部屋全体を覆い尽くす。
「私の前では、無力だ」
瘴気の波動が、ケンジたちを吹き飛ばした。三人は意識を失い、床に倒れ込む。
「これで邪魔者はいなくなった」
マグヌスが再び封印に向かう。
絶体絶命。
もう、誰も彼を止められない。
だが、その時――
俺の中で、何かが弾けた。
◆
熱い。
体の奥底から、灼熱のような何かが湧き上がってくる。それは、今まで感じたことのない感覚だった。
聖浄化の力が、俺の中で共鳴している。いや、それだけじゃない。仲間たちの想いが、俺の中に流れ込んでくる。
『翔太さん、あなたなら……』
アンナの声が聞こえた気がした。
『リーダー、俺たちを信じて』
グスタフの声も。
『みんなで、一緒に』
クララの優しい声。
そうだ、俺は一人じゃない。
「まだだ……まだ終わってない!」
俺は立ち上がった。全身から、金色の光が溢れ出す。それは、今までとは比較にならないほど強く、純粋な光だった。
「何……!?」
マグヌスが振り返った。その顔に、初めて驚愕の色が浮かぶ。
俺は、自然と新しい技の名前を口にしていた。
「【聖浄化・天照】!」
瞬間、俺を中心に、太陽のような光が広がった。
それは、ただの浄化の光じゃない。仲間たちの想いが込められた、希望の光だった。
瘴気が、音を立てて消えていく。黒ローブたちが苦悶の声を上げた。
「ば、馬鹿な! レベル54の掃除士が、なぜこんな力を!」
マグヌスが防御魔法を展開するが、光は容赦なくそれを貫いた。
「これが、俺たちの力だ!」
光は、倒れていた仲間たちにも降り注ぐ。カールの傷が癒え、ケンジたちも意識を取り戻した。
「すごい……これが浄化の究極形態か」
ミーナが呆然と呟いた。
「いや、違う」
ゲオルグが震える声で言った。
「これは、絆の力だ。一人では決して到達できない領域」
俺は聖剣を構え直した。刀身が、太陽のように輝いている。
「マグヌス、あんたの言う通り、人類は完璧じゃない」
一歩、前に出る。
「でも、だからこそ助け合える。支え合える」
また一歩。
「それが、人類の本当の強さだ」
マグヌスの顔が歪んだ。
「綺麗事を……!」
彼が全力で闇魔法を放つ。だが、俺の光の前では、それも塵のように消えていく。
「ケンジ!」
俺は叫んだ。
「ああ!」
ケンジが立ち上がり、俺の隣に並んだ。かつて見捨てられた俺と、俺を見捨てた彼。だが、今この瞬間、俺たちは仲間だった。
「合わせるぞ」
「了解だ」
二人同時に、剣を振り上げた。
「【聖浄化・天照】!」
「【剣技・光刃乱舞】!」
光と剣技が融合し、巨大な光の刃となってマグヌスに迫る。
「ぐあああああ!」
マグヌスが絶叫した。彼の体から、瘴気が剥がれ落ちていく。
他の黒ローブたちも、次々と倒れていった。レベル40を超える実力者たちが、浄化の光に耐えられずに膝をついた。
「負けた……のか……」
マグヌスが膝から崩れ落ちた。その顔には、信じられないという表情が浮かんでいる。
「なぜだ……計算では、完璧だったはず……」
「計算じゃ測れないものがある」
俺は静かに言った。
「それが、人の心だ」
マグヌスの瞳から、狂気の光が消えていく。代わりに、深い疲労と後悔が滲んだ。
「そうか……私は、大切なものを見失っていたのか……」
彼の体が、光の粒子となって消えていく。瘴気に侵されすぎた体は、浄化されると同時に崩壊するのだ。
「ゲオルグ……すまなかった……」
「師匠!」
ゲオルグが駆け寄るが、マグヌスの体はもう形を保てなかった。
「最後に……警告しておく……」
消えゆく唇が、かすかに動いた。
「これは……始まりに……過ぎない……」
そして、マグヌスは完全に消滅した。
後には、黒いローブだけが残された。
◆
戦いは終わった。
第七の封印は、無事に守られた。俺たちは、辛うじて勝利を掴んだのだ。
「やった……やったぞ!」
シンが歓声を上げた。リクも安堵の表情を浮かべている。
だが、俺の心には、マグヌスの最後の言葉が引っかかっていた。
これは始まりに過ぎない。
どういう意味なのか。
「翔太!」
階段から、エリーゼが駆け下りてきた。彼女は俺に飛びつくように抱きついた。
「よかった……無事で……」
彼女の体が、小刻みに震えている。どれほど心配していたのだろう。
「約束通り、守りました」
俺の言葉に、エリーゼは涙を流しながら微笑んだ。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
その後、国王からの感謝の言葉があった。
「翔太殿、そして浄化士ギルドの諸君」
アルフレッド王が、玉座から立ち上がった。
「君たちの勇気と力によって、王都は救われた」
国王は、従者に何かを持ってこさせた。それは、金色に輝く勲章だった。
「これは、王国最高位の勲章『守護者の星』だ」
俺の胸に、勲章が掛けられた。ずっしりと重い、責任の重さを感じさせる重量だった。
「浄化士ギルドには、正式に王国の認可を与える。また、年間予算として金貨一万枚を支給する」
仲間たちが歓声を上げた。これで、ギルドの活動が大幅に広がる。
だが、祝賀の雰囲気の中でも、俺は違和感を拭えなかった。
マグヌスが持っていた手帳を、もう一度確認する。そこには、まだ解読できていない文字がびっしりと書かれていた。
「ミーナ、これを解読できるか?」
「時間をください。でも……」
彼女が指差した箇所に、不気味な記述があった。
『六十五の封印を段階的に解放し、最後に七つの要を同時破壊する』
六十五。
まだ、六十五もの封印が狙われている。
「それに、終焉の使徒という組織」
ゲオルグが沈痛な表情で言った。
「マグヌスは幹部の一人に過ぎない。まだ上がいるはずです」
確かに、マグヌスは「幹部」と名乗っていた。ということは、さらに強大な敵が控えているということだ。
「でも、今は勝利を喜ぼう」
グスタフが皆を励ました。
「大変な戦いだったが、俺たちは勝った。それは紛れもない事実だ」
「そうだね!」
クララが笑顔で頷いた。
「みんなで力を合わせれば、どんな敵にも勝てる!」
その言葉に、皆の表情が和らいだ。
ケンジが俺に近づいてきた。
「翔太……いや、佐藤」
彼は手を差し出した。
「今日の借りは、必ず返す」
俺はその手を握った。
「もう貸し借りはなしだ。同じ王都を守る仲間だろ」
ケンジの顔に、初めて心からの笑顔が浮かんだ。
夜が明けようとしていた。
満月は西の空に沈み、東の空が朱色に染まり始める。新しい一日の始まりだ。
だが、俺たちの戦いは、本当に始まったばかりなのかもしれない。
終焉の使徒、六十五の封印、そして千年前の真実。
謎は深まるばかりだ。
でも、俺には仲間がいる。
この絆がある限り、どんな困難も乗り越えられる。
そう信じて、俺たちは朝日に向かって歩き始めた。
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【翔太】
職業:掃除士
レベル:55
HP:1,160 / 1,160
MP:1,700 / 1,700
スキル:
・浄化 Lv.14
・聖浄化 Lv.3
・浄化領域展開 Lv.4
・聖浄化・極光
・聖浄化・完全解放
・聖浄化・天照(NEW)
・鑑定 Lv.5
・収納 Lv.5
・剣術 Lv.5
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【浄化士ギルド・メンバー】
リク(従者)Lv.12
アンナ(家政術師)Lv.12
グスタフ(施設管理士)Lv.16
ミーナ(元素魔術師)Lv.19
カール(元騎士)Lv.24
シン(獣人族)Lv.11
ゲオルグ(元宮廷魔術師)Lv.26
クララ(司祭見習い)Lv.10
トーマス(会計士)Lv.13
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【新たな情報】
・終焉の使徒は大規模組織
・残り六十五の封印が危機
・千年前の真実に謎が残る
・国家最高勲章を授与
・浄化士ギルド正式認可
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第18話、いかがでしたでしょうか?
三日間の特訓を経て、ついに満月の夜の決戦!
マグヌス(レベル60)という圧倒的な敵を前に、翔太の新技「聖浄化・天照」が覚醒しました。
仲間の絆が生み出した奇跡の逆転劇でしたね。
ケンジとの関係も改善し、国家最高勲章も授与されました。
しかし、六十五の封印の謎と終焉の使徒の存在が……。
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