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第17話 封印の調査

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

最弱職【掃除士】が実は環境最強でした 第17話をお届けします。


七十二の封印の真相が明らかに。

そして、謎の闇術師との遭遇戦。

終焉の使徒という組織の影が見え始めます。

朝の光が、ギルドハウスの研究室の窓から差し込んでいた。


俺が扉を開けると、すでにミーナとゲオルグが古い本に囲まれて議論を交わしていた。二人の周りには、積み上げられた古文書が小山のようになっている。羊皮紙特有の、かび臭いような独特の匂いが鼻をついた。


「おはようございます、翔太さん」


ミーナが顔を上げた。その瞳は、徹夜明けのように充血している。だが、そこには疲労よりも興奮の色が濃かった。彼女の指先は、インクで黒く染まっている。


「徹夜か?」


「はい……でも、重大な発見がありました」


ゲオルグが、震える手で一冊の古書を差し出した。革装丁の表紙は、年月を経てひび割れ、触れるとぱらぱらと粉が落ちる。ページを開くと、かすれかけた古代文字がびっしりと書き込まれていた。


「『七十二の封印に関する記述』です」


老魔術師の声には、隠しきれない興奮が滲んでいた。長年の研究者としての血が騒いでいるのだろう。彼の痩せた指が、文字の一つ一つをなぞっていく。


「見てください、ここに……『千年前の大戦において、人類は究極の選択を迫られた』とあります」


俺は身を乗り出した。古書から立ち上る埃が、朝の光の中で金色に舞う。ページの余白には、誰かが後から書き込んだらしい注釈が、赤いインクで記されていた。


ミーナが別の箇所を指差した。その指は興奮で微かに震えている。


「『七十二の魔神を封じるため、王都の地下に巨大な封印陣を構築した』……魔神?」


魔神。その言葉の重みが、研究室の空気を一変させた。窓から聞こえていた小鳥のさえずりさえ、遠くに感じられる。


「魔王軍の上級指揮官のことでしょうか」


ゲオルグが眉をひそめた。額に深い皺が刻まれ、長年の思索の跡を物語っている。


「いや、もっと恐ろしい存在かもしれません。この記述によれば、一体でも解放されれば、王都は三日で滅びるとあります」


三日。その短さに、俺の背筋に冷たいものが走った。部屋の温度が、急に下がったような錯覚を覚える。


「でも、なぜ今になって封印が破壊され始めたんだ?」


俺の疑問に、ミーナが新たな文献を開いた。そのページには、複雑な魔法陣の図が描かれている。幾何学的な模様が、見る者を惑わすように入り組んでいた。


「封印には寿命があるみたいです。千年という時間は、魔法的にも限界に近い。誰かが、その弱体化を狙って……」


その時、扉が勢いよく開かれた。


「翔太殿!」


グスタフが息を切らして立っている。普段は冷静な彼の顔が、汗で光っていた。その表情には、ただならぬ緊張が浮かんでいる。


「王城から、緊急の召喚です」



王城への道中、馬車の車輪が石畳を叩く音が、異様に大きく響いた。


街の様子がいつもと違う。市民たちの顔に、不安の影が落ちている。商店の主人たちが、ひそひそと何かを囁き合っていた。子供たちも、いつもの元気な声を潜めている。


「嫌な雰囲気だ」


カールが警戒するように周囲を見回した。元騎士の勘が、危険を察知しているのだろう。彼の手が、無意識に剣の柄に触れている。


「瘴気の臭いがする」


シンが鼻をひくつかせた。獣人族の鋭い嗅覚が、常人には感じ取れない異変を捉えている。彼の尻尾が、ぴんと立った。


「でも、前みたいに濃くない。もっと……陰湿な感じ」


王城の門をくぐると、騎士たちの表情も硬い。いつもの威厳ある佇まいとは違い、どこか焦りが見て取れた。鎧の金属が擦れる音が、緊張感を増幅させる。


謁見の間には、すでに多くの重臣たちが集まっていた。国王アルフレッドの表情は、いつになく厳しい。玉座に座る姿にも、重圧がのしかかっているのが分かる。


「来てくれたか、翔太殿」


国王の声には、安堵と緊張が入り混じっていた。


「騎士団の調査で、新たな封印破壊の痕跡が発見された」


レオンハルト騎士団長が前に出た。彼の顔には、深い疲労の色が浮かんでいる。ここ数日、不眠不休で調査に当たっていたのだろう。


「第二十三、第三十一の封印に、破壊の兆候があります」


彼が広げた地図には、王都の地下構造が詳細に描かれていた。赤い印が、すでに破壊された封印の位置を示している。そして、黄色い印が新たな危険箇所だ。


「このペースで破壊が進めば、一ヶ月以内に半数の封印が失われます」


重臣たちがざわめいた。その顔には、恐怖の色が浮かんでいる。


「犯人の手がかりは?」


俺の問いに、レオンハルトは苦渋の表情を浮かべた。


「高位魔術師の関与が濃厚です。封印を破壊するには、相当な魔力と知識が必要ですから」


高位魔術師。それは、この国でも数えるほどしかいない。宮廷魔術師団、魔法学院の教授、そして……。


「内部の人間の可能性もあるということか」


俺の言葉に、謁見の間が静まり返った。誰もが、その可能性を考えたくないのだろう。だが、現実から目を背けるわけにはいかない。


「調査への協力を頼む」


国王が立ち上がった。


「浄化士ギルドの力を貸してほしい」


俺は深く頭を下げた。


「承知しました」



王都地下への入口は、王城の地下深くにあった。


螺旋階段を下っていくと、空気が徐々に冷たくなっていく。石壁には、ところどころに古い松明の跡が残っている。千年前、ここを多くの魔術師たちが行き来したのだろう。


「ここからが、封印区域です」


レオンハルトが重い扉を開けた。錆びた蝶番が、耳障りな音を立てる。


扉の向こうには、想像を超える光景が広がっていた。


巨大な地下空間。天井は見えないほど高く、柱が林立している。そして、床一面に描かれた魔法陣。その複雑さは、見る者を圧倒した。青白い光を放つ線が、蜘蛛の巣のように張り巡らされている。


「これが……七十二の封印」


ミーナが息を呑んだ。魔術師として、この規模の術式の凄まじさが理解できるのだろう。


「すごい……こんな大規模な封印陣、見たことない」


俺たちは慎重に封印の間を進んだ。足音が、広大な空間に響き渡る。


「シン、瘴気の流れを追えるか?」


「うん、こっち」


シンが先導して進む。彼の鼻が、見えない瘴気の痕跡を追っている。


しばらく進むと、明らかに異変がある箇所に辿り着いた。


封印の一つが、薄紫色に変色している。本来なら青白く光っているはずの魔法陣が、瘴気に侵されかけていた。まるで、毒が静脈を通って広がるように、紫の線が封印を蝕んでいく。


「第二十三の封印……」


ゲオルグが杖で封印を調べた。杖の先から、探査の魔力が流れ出す。


「まだ完全には破壊されていませんが、時間の問題です」


「浄化で修復できるか?」


「やってみます」


俺は封印に手をかざした。浄化の光を、慎重に流し込んでいく。


だが――


「!」


突然、封印から紫の稲妻が走った。俺は咄嗟に飛び退いたが、左腕に鋭い痛みが走る。


「罠だ!」


カールが叫んだ。


封印の周囲に、紫色の魔法陣が浮かび上がった。それは、明らかに後から仕掛けられたものだ。触れた者を攻撃するよう、プログラムされている。


「計画的だな」


俺は左腕の傷を確認した。浅い切り傷だが、瘴気が侵入しようとしている。すぐに浄化の光で傷口を覆った。


「誰かが、俺たちが来ることを予想していた」


その時、シンの耳がぴくりと動いた。


「誰か来る!」


闇の奥から、足音が響いてきた。ゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてくる。


黒いローブに身を包んだ人影が、姿を現した。フードで顔は見えないが、その佇まいから相当な実力者だと分かる。手には、禍々しい気を放つ杖を持っていた。


━━━━━━━━━━━━━━━

【謎の魔術師】

 職業:闇術師

 レベル:45

 HP:???

 MP:???

━━━━━━━━━━━━━━━


「浄化士ギルド……邪魔者め」


声は、男とも女ともつかない。魔法で変声しているのだろう。だが、その声には明確な敵意が込められていた。


「お前が封印を破壊しているのか」


俺は聖剣を抜いた。刀身が、封印の間の青い光を反射して輝く。


「破壊? 違うな」


黒ローブの人物が、低く笑った。その笑い声が、石壁に不気味に響く。


「解放しているのだ。七十二の封印は、偽りの平和に過ぎない」


偽りの平和。その言葉に、俺は眉をひそめた。


「どういう意味だ」


「知らないのか? 千年前の真実を」


黒ローブが杖を掲げた。紫色の魔力が、渦を巻いて集まっていく。


「人類は、魔神と取引をしたのだ。封印と引き換えに、千年の猶予を得た。だが、その時が来た」


「嘘だ!」


レオンハルトが叫んだ。


「封印は、魔神を永遠に閉じ込めるためのものだ!」


「愚かな……歴史は、勝者によって書き換えられる」


黒ローブが杖を振るった。


「【闇魔法・腐食の霧】!」


紫色の霧が、俺たちに向かって押し寄せてきた。触れるものすべてを腐らせる、恐ろしい魔法だ。


「【浄化領域展開】!」


俺は全力で浄化の領域を展開した。金色の光が、霧を押し返していく。だが、相手の魔力も強大だ。拮抗状態が続く。


「援護します!」


ミーナが火球を放った。だが、黒ローブは軽々とそれを避ける。


「レベル45にしては、動きが速すぎる」


カールが剣を構えて突進した。元騎士の剣技が、黒ローブに迫る。


だが――


「遅い」


黒ローブの手から、黒い稲妻が放たれた。カールが吹き飛ばされる。


「カールさん!」


クララが駆け寄り、治癒魔法をかけた。緑の光が、カールの傷を癒していく。


「くそっ、強い……」


戦闘は激しさを増していった。


黒ローブの魔法は多彩で、しかも強力だった。闇の槍、腐食の霧、精神攻撃。次々と繰り出される攻撃に、俺たちは防戦一方だった。


「このままじゃ……」


リクが必死に浄化を放つが、効果は薄い。レベル差がありすぎる。


だが、俺は気づいた。黒ローブは、俺たちを殺そうとはしていない。あくまで、足止めをしているだけだ。


「時間稼ぎか」


俺の言葉に、黒ローブが反応した。


「さすがに気づいたか。だが、もう遅い」


彼が指差した先で、第二十三の封印が完全に紫色に染まった。そして――


パリンという音と共に、封印が砕け散った。


「しまった!」


封印の破片から、黒い霧が立ち上る。それは、確実に何かの前兆だった。


「第一段階完了だ」


黒ローブが満足げに呟いた。


「まもなく、第二段階が始まる」


「待て!」


俺は黒ローブに向かって走った。聖剣を振り上げ、全力で斬りかかる。


だが、黒ローブは煙のように消えた。


「また会おう、掃除士」


声だけが、虚空に響いた。そして、完全に気配が消えた。


残されたのは、破壊された封印と、困惑する俺たちだけだった。



「これを見てください」


アンナが、床に落ちていた何かを拾い上げた。小さな手帳のようなものだ。黒革の表紙には、奇妙な紋章が刻まれている。


「黒ローブが落としたものかもしれません」


俺は手帳を受け取った。ページを開くと、そこには暗号のような文字がびっしりと書かれていた。


「解読できるか?」


「私に任せてください!」


ソフィアが手帳を受け取った。彼女の眼鏡がきらりと光る。


「王立図書館で、この種の暗号を研究していました。古代暗号ですが……あっ、これは!」


ソフィアが素早くページをめくり、文字を解読していく。


「『満月』の意味があります。それから……『第三位』という文字も」


ミーナとゲオルグが手帳を覗き込んだ。二人の表情が、次第に青ざめていく。


「これは……一部解読できます」


ミーナが震える声で読み上げた。


「『第七の封印……王城直下……満月の夜』」


第七の封印。それは、最も重要な封印の一つだ。王城の真下にあるということは……。


「エリーゼ様が危ない」


俺は愕然とした。王城が標的になれば、王族も無事では済まない。


「いつが満月だ?」


「三日後です」


トーマスが手帳を確認しながら答えた。


「それから、経費の計算もしました。三日間の特訓と準備に必要な資金は、金貨三十枚。幸い、先日の依頼報酬で賄えます」


彼の几帳面な性格と会計能力が、こんな時に役立つ。


「準備する時間はある」


レオンハルトが決意を込めて言った。


「騎士団も総力を挙げて警備に当たる」


だが、俺の不安は消えなかった。


黒ローブの正体も、その目的も分からない。そして何より、「終焉の使徒」という組織の存在。手帳の最後のページに、その名前が記されていた。


終焉の使徒。世界の終わりを望む者たち。なぜ、彼らは封印を破壊しようとするのか。



ギルドハウスに戻ると、緊急対策会議が開かれた。


研究室に全員が集まり、今後の方針を話し合う。テーブルの上には、王都の地図と封印の配置図が広げられている。


「三日後の満月の夜、第七の封印が狙われる」


俺は状況を説明した。


「俺たちは、それを阻止しなければならない」


「でも、相手は闇術師レベル45」


リクが不安そうに言った。確かに、今日の戦いでは歯が立たなかった。


「一人じゃない」


グスタフが落ち着いた声で言った。


「俺たちには、仲間がいる」


「そうだ!」


シンが尻尾を振った。


「みんなで協力すれば、きっと勝てる!」


「ただし、敵は強大です」


ソフィアが真剣な顔で付け加えた。


「手帳の最後に、『第三位ヴァルキリー』という名前がありました。もしかしたら、満月の夜に現れるかもしれません」


その無邪気な言葉が、皆の緊張を和らげた。


「訓練を強化しよう」


カールが提案した。


「三日間、できる限りのことをする」


「私も、封印の研究を進めます」


ゲオルグが決意を込めて言った。


「千年前の真実が何であれ、今を生きる人々を守ることが大切です」


クララも頷いた。


「治癒魔法を磨いて、皆さんを支えます」


一人一人が、自分にできることを宣言していく。その姿を見て、俺の胸が熱くなった。


レベルや職業は関係ない。皆が、同じ目的に向かって進んでいる。これが、浄化士ギルドの強さだ。


「よし、準備を始めよう」


俺は立ち上がった。


「三日後、必ず封印を守り抜く」


全員が力強く頷いた。


窓の外では、夕日が王都を赤く染めていた。平和に見える街並みの下に、恐ろしい脅威が潜んでいる。


だが、俺たちは負けない。


この仲間と共に、必ず王都を、そしてエリーゼを守ってみせる。


「終焉の使徒」が何者であろうと、俺たちの浄化の光は、決して消えることはない。


三日後の決戦に向けて、俺たちの本当の戦いが始まる。


━━━━━━━━━━━━━━━

【翔太】

 職業:掃除士

 レベル:54

 HP:1,140 / 1,140

 MP:1,680 / 1,680

 

 スキル:

 ・浄化 Lv.13

 ・聖浄化 Lv.2

 ・浄化領域展開 Lv.3

 ・聖浄化・極光

 ・聖浄化・完全解放

 ・鑑定 Lv.5

 ・収納 Lv.5

 ・剣術 Lv.4

━━━━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━━━━

【浄化士ギルド・メンバー】

 

 リク(従者)Lv.10

 アンナ(家政術師)Lv.11

 グスタフ(施設管理士)Lv.15

 ミーナ(元素魔術師)Lv.18

 カール(元騎士)Lv.23

 シン(獣人族)Lv.9

 ゲオルグ(元宮廷魔術師)Lv.25

 クララ(司祭見習い)Lv.8

 トーマス(会計士)Lv.12

━━━━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━━━━

【判明した情報】

 ・七十二の封印=千年前の魔神封印

 ・黒幕組織「終焉の使徒」

 ・次の標的:第七の封印(王城直下)

 ・決戦:三日後の満月の夜

━━━━━━━━━━━━━━━

第17話、いかがでしたでしょうか?


千年前の魔神封印という重大な秘密が判明しました。

謎の闇術師レベル45との戦いでは苦戦を強いられましたね。

そして「終焉の使徒」という不穏な組織名が……。


三日後の満月の夜、王城直下の第七の封印が狙われます。

エリーゼ様を守るため、浄化士ギルドの決戦が始まります!


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


X: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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