第11話 浄化士ギルド設立
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
最弱職【掃除士】、実は世界最強でした 第11話をお届けします。
ついに浄化士ギルドが正式に設立!
新たな仲間、リク、アンナ、グスタフと共に、翔太の新しい冒険が始まります。
そして王都近くで発見された古代遺跡の謎とは……?
お楽しみください!
王都の冒険者ギルド本部は、朝から異様な熱気に包まれていた。
広大なホールに詰めかけた冒険者たちの声が、石造りの壁に反響している。俺、佐藤翔太は、その喧騒の中心にいた。正確には、議論の的になっていた。
「掃除なんて冒険じゃねぇだろ!」
筋骨隆々の戦士が、テーブルを叩きながら怒鳴る。その衝撃で、隣のエールジョッキが跳ね上がった。
「そうだそうだ! ギルドは戦う者のための場所だ!」
賛同の声が次々と上がる。俺は壇上から、その光景を見下ろしていた。隣では、ギルドマスターのガルドが苦い表情を浮かべている。
「静粛に!」
ガルドの一喝で、ざわめきが少し収まった。白髪混じりの髭を撫でながら、彼は続ける。
「佐藤翔太殿の功績は、諸君も知っての通りだ。第三王女の呪い浄化、王城の千年の穢れ浄化、そして禁忌の呪術師マルドゥークの救済……」
「だからって掃除士部門なんて作る必要があるのか?」
割って入ったのは、赤いローブを纏った魔法使いだった。彼女の声には、明らかな嫌悪感が滲んでいる。
「掃除なんて誰でもできる。それをギルドの正式部門にするなんて、冒険者の誇りを汚すことだ」
俺の胸に、じわりと怒りが湧き上がった。誰でもできる? この世界に来てから何度も聞いた、その言葉。でも、俺は深呼吸をして、感情を抑える。ここで感情的になっても、何も変わらない。
「では、実演をさせていただけませんか」
俺の提案に、ホール全体がざわめいた。
「実演?」
「ええ。言葉では伝わらないようですから、実際に見ていただくのが一番かと」
ガルドが興味深そうに身を乗り出した。
「ほう、それは面白い。では、訓練場を使うがよい。ちょうど……困った問題もあることだしな」
◆
ギルドの地下にある訓練場への階段を下りながら、俺は異変に気づいた。
いつもなら聞こえるはずの、剣戟の音や魔法の炸裂音が聞こえない。代わりに、鼻を突く腐臭が漂ってきた。何人かの冒険者が、顔をしかめながら俺の後をついてくる。
「なんだこの臭いは……」
「うげっ、吐きそう」
階段を降りきると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
本来なら整備された訓練場であるはずの空間が、黒い汚泥に覆われている。壁も床も、触手のような黒い何かがびっしりと這い回っていた。その表面からは、緑色の瘴気が立ち上っている。
「三日前から、こうなんだ」
ガルドが重い口調で説明する。
「原因は不明。浄化魔法も効かない。このままでは、訓練場が使えないどころか、上階にまで汚染が広がる恐れがある」
俺は一歩前に出た。聖剣エクスカリバーの柄に手を添えながら、【鑑定】スキルを発動する。
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【鑑定結果】
古代遺跡の残留瘴気
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レベル :45
性質 :物理・魔法複合汚染
浄化難易度:A+
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なるほど、普通の浄化魔法では太刀打ちできないわけだ。でも、俺の【浄化】スキルは、もうレベル12に達している。概念浄化まで可能な領域だ。
「皆さん、少し下がっていてください」
俺が振り返ると、そこには見慣れない顔が三人いた。
一人は、ボロボロの服を着た少年。もう一人は、メイド服の女性。そして、作業着姿の老人。彼らは皆、俺を見つめていた。その目には、希望と不安が入り混じっている。
「あの……俺たちも、見ていいですか?」
少年が、おずおずと声をかけてきた。
「君たちは?」
「リク、です。レベル3の……従者という職業です。浄化の適性が少しあるみたいで」
浄化適性。その言葉に、俺の心が動いた。
「私はアンナ。家政術師として働いていましたが、今は……その、新しい仕事を探してます」
女性が続ける。彼女の手は、長年の労働で荒れていた。
「儂はグスタフじゃ。施設管理士として五十年、王都の建物を守っとる」
老人の顔には、深い皺が刻まれている。でも、その目は輝いていた。
「もちろん、見ていてください。いや、むしろ一緒にやりませんか?」
三人の目が、驚きで見開かれた。
◆
俺は振り返り、黒い汚泥と向き合った。
「浄化には、段階があります」
説明しながら、俺は聖剣を抜いた。刀身が、淡い光を放つ。
「まず第一段階。物理的な汚れを認識すること」
剣先を汚泥に向ける。黒い触手が、威嚇するように蠢いた。
「リクくん、この汚れの中に、何が見える?」
少年は怯えながらも、じっと汚泥を見つめた。
「えっと……ただの、汚い泥?」
「違う」
俺は首を振った。
「よく見て。この汚れの中には、かつてここで訓練した冒険者たちの汗や血、そして努力の痕跡がある。それが時間とともに変質し、瘴気と混ざり合った結果なんだ」
グスタフが、ハッとした表情を見せた。
「確かに……儂にも見える。幾重にも重なった、時間の層が」
「そうです。汚れを理解することが、浄化の第一歩」
俺は【浄化】スキルを発動した。レベル12の力が、剣を通じて広がっていく。
最初は、表面の汚泥が震えるだけだった。しかし、徐々に変化が現れる。黒い色が薄まり、その下から古い石畳が姿を現し始めた。
「すごい……」
リクが息を呑む。アンナも、目を見張っていた。
「でも、これだけじゃ足りない」
俺は剣を下ろし、三人を見た。
「第二段階は、汚れに価値を見出すこと。この瘴気だって、元を辿れば自然のエネルギー。それを正しい形に戻してやれば……」
再び【浄化】を発動する。今度は、より深く、より優しく。
瘴気が渦を巻き始めた。緑色だった気体が、徐々に透明になっていく。そして――
キラキラと、光の粒子が舞い始めた。
「きれい……」
アンナが呟く。確かに、それは美しい光景だった。穢れが浄化され、純粋なマナとなって空気中に還っていく。
「これが、浄化の本質です。破壊じゃない。再生なんです」
俺は三人に向き直った。
「皆さんも、やってみませんか?」
◆
リクの手が震えていた。
小さなモップを握りしめ、まだ汚れの残る床の一角に向かう。彼の額には、緊張の汗が浮かんでいる。
「できるかな……俺、レベル3だし」
「レベルは関係ありません」
俺は優しく言った。
「大切なのは、汚れと向き合う心です」
リクは深呼吸をして、モップを床に押し付けた。最初は、ただ汚れを広げているだけのように見えた。でも――
「あ……」
モップの先から、かすかな光が漏れ始めた。ほんの小さな、蛍火のような光。でも、確かに浄化の光だった。
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【レベルアップ】
リクがレベルアップしました!
レベル3→レベル4
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「やった! レベルが上がった!」
リクの顔が、喜びで輝いた。その様子を見て、アンナも前に出る。
「私も……やってみます」
彼女は慣れた手つきで、雑巾を手に取った。メイドとしての経験が、その動きに現れている。膝をつき、丁寧に床を拭き始める。
すると、彼女の手元から、淡い青い光が広がった。リクよりも大きく、安定した光。
「これは……気持ちいい」
アンナの表情が、穏やかになっていく。まるで、長年のわだかまりが解けていくような、そんな顔だった。
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【レベルアップ】
アンナがレベルアップしました!
レベル5→レベル6
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最後に、グスタフが進み出た。
「儂も、やらせてもらおう」
老人は、使い込まれた箒を取り出した。その柄は、手の形に擦り減っている。五十年使い続けた、相棒のような箒だ。
グスタフが箒を振るうと、風が起こった。
いや、ただの風じゃない。浄化の風だ。黄金色の風が訓練場を吹き抜け、残っていた汚れを次々と払っていく。
「ほっほっほ、こりゃあ愉快じゃ」
グスタフが笑う。その笑顔は、まるで少年のようだった。
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【レベルアップ】
グスタフがレベルアップしました!
レベル8→レベル10
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訓練場が、完全に浄化された。
石畳は元の白さを取り戻し、空気は澄み渡っている。壁には、古い訓練の痕跡――剣傷や魔法の焼け跡――が、誇らしげに刻まれていた。
「これが、浄化士の力です」
俺は、集まった冒険者たちを見回した。さっきまで反対していた者たちも、呆然と立ち尽くしている。
「確かに、派手さはありません。モンスターを倒すこともない。でも――」
俺は三人の新しい仲間を示した。
「この世界には、浄化を必要としている場所がたくさんある。そして、それができる人材が必要なんです」
沈黙が流れた。そして――
「……認めよう」
最初に反対した戦士が、口を開いた。
「確かに、これは俺たちにはできない。そして、必要な仕事だ」
次々と、賛同の声が上がり始めた。
◆
ギルドマスターの執務室で、正式な書類にサインをしていると、扉が勢いよく開いた。
「ギルドマスター! 緊急事態です!」
飛び込んできたのは、斥候の青年だった。顔面蒼白で、肩で息をしている。
「王都から南に三里の地点で、瘴気の噴出が確認されました! 規模は……」
彼は言葉に詰まった。
「規模は?」
「……直径百メートル。しかも、拡大中です」
ガルドの顔が青ざめた。それほどの規模となると、通常の冒険者では対処不可能だ。下手をすれば、王都にまで被害が及ぶ。
「A級以上のパーティーを招集しろ! 急いで――」
「待ってください」
俺は立ち上がった。
「俺たちが行きます。浄化士ギルドの、最初の仕事として」
リク、アンナ、グスタフが、緊張した面持ちで頷いた。
「しかし、彼らはまだ――」
「大丈夫です。俺がいます。そして、彼らにも力がある」
俺は振り返り、三人を見た。
「行けますね?」
リクが、震えながらも拳を握った。
「はい! せっかくレベルも上がったし」
アンナが、メイド服の裾を整えた。
「私も、新しい仕事を見つけたところですから」
グスタフが、箒を肩に担いだ。
「儂も、まだまだ現役じゃよ」
ガルドは、しばらく俺たちを見つめた後、大きく頷いた。
「……分かった。頼む。ただし、無理はするな」
◆
現場に着く前から、異常は明らかだった。
空が、緑色に染まっている。木々は枯れ、鳥や虫の姿もない。そして、息苦しいほどの瘴気が、肌にまとわりついてくる。
「うっ……」
リクが、口を押さえた。
「大丈夫、慣れれば平気だから」
俺は【浄化領域展開】を発動し、周囲の瘴気を薄めた。すぐに、三人の顔色が良くなる。
「ありがとうございます、翔太さん」
アンナが礼を言う。その時、俺たちは噴出口に到着した。
そこは、まるで地獄の釜のようだった。
大地に開いた巨大な穴から、濃密な瘴気が噴き上がっている。その瘴気は、触れるもの全てを腐らせ、朽ちさせていく。周囲の地面は、どす黒く変色していた。
「これは……」
俺は【鑑定】を使った。
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【鑑定結果】
古代遺跡への入口
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危険度 :S
深度 :不明
内部構造 :迷宮型
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古代遺跡。まさか、こんなところに眠っていたとは。
「翔太さん、どうしますか?」
グスタフが聞いてきた。彼の声は落ち着いているが、握る箒の柄が軋んでいる。
「まず、噴出を止めないと」
俺は聖剣を抜いた。
「皆さんは、周囲の瘴気を薄めることに専念してください。俺が、噴出口を封じます」
しかし、穴に近づいた瞬間、異変が起きた。
瘴気が渦を巻き、その中から巨大な影が立ち上がったのだ。
それは、瘴気で構成された巨人だった。高さは十メートルはあるだろうか。目に当たる部分が、赤く光っている。
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【鑑定結果】
瘴気の巨人
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レベル :60
HP :5,000
弱点 :核の浄化
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「レベル60……」
リクが震え声を上げた。無理もない。俺でさえ、レベルは52だ。
でも、逃げるわけにはいかない。
「皆さん、離れて!」
俺は叫びながら、巨人に向かって駆け出した。聖剣が、眩い光を放つ。
巨人の拳が、俺めがけて振り下ろされた。地面が砕け、土煙が上がる。間一髪でかわしたが、その衝撃で体が浮いた。
「くっ……」
空中で体勢を整え、着地する。巨人は既に次の攻撃の構えを取っていた。
その時、俺の視界の端で、光が見えた。
リクが、小さなモップで瘴気に立ち向かっている。彼の放つ光は小さいが、確実に瘴気を浄化していた。
アンナも、雑巾を振り回しながら、瘴気の塊を次々と消していく。
グスタフは、箒で風を起こし、瘴気の流れを変えていた。
三人の頑張りが、俺に力をくれた。
「行くぞ!」
俺は【浄化】をレベル12の最大出力で発動した。聖剣が、太陽のように輝く。
巨人の胸部――核がある場所に、剣を突き立てた。
瞬間、巨人の体が内側から光り始めた。瘴気が浄化され、光の粒子となって散っていく。巨人は、断末魔の叫びを上げながら、崩れ落ちた。
しかし、安心するのは早かった。
噴出口から、さらに濃密な瘴気が溢れ出してきたのだ。そして、その奥から――
何か巨大なものが、這い上がってくる気配がした。
「これは……古代遺跡!?」
地面が割れ、石造りの構造物が姿を現し始めた。それは、明らかに人工的な建造物だった。表面には、見たこともない文字が刻まれている。
「すごい……」
リクが、驚嘆の声を上げた。
俺も、同じ気持ちだった。これほどの規模の古代遺跡が、王都のすぐ近くに眠っていたなんて。
でも、今はまだ中に入るべきじゃない。瘴気が強すぎる。
「一旦、撤退しましょう」
俺は決断した。
「でも、入口を封印して、これ以上の瘴気漏れを防ぎます」
俺は全力で【浄化領域展開】を発動した。光の障壁が、噴出口を覆う。完全に封じることはできないが、これで時間は稼げる。
「ギルドに戻って、対策を練りましょう」
◆
王都への帰路、三人は興奮していた。
「レベルが、また上がりました!」
リクが、目を輝かせている。確かに、先程の戦いで全員がレベルアップしていた。
「でも、まだまだ力不足ですね」
アンナが、悔しそうに言う。
「いや、皆さんのおかげで、俺も戦えました」
俺は本心から言った。
「確かに、皆さんの浄化能力は俺の百分の一にも満たない。でも、その小さな力でも集まれば大きな力になる。浄化士ギルドは、一人じゃない。みんなで協力すれば、どんな汚れも浄化できる」
グスタフが、優しく笑った。
「いい言葉じゃな。儂も、まだまだ頑張れそうじゃ」
夕日が、俺たちを照らしていた。オレンジ色の光が、まるで祝福のように感じられる。
浄化士ギルドは、今日、正式に始動した。
まだ小さな一歩だけど、確実な一歩だ。
そして、あの古代遺跡――
きっと、そこには何か重要なものが眠っている。瘴気の源を断つ鍵が、あるかもしれない。
俺は、空を見上げた。
明日から、本格的な探索の準備を始めよう。新しい仲間たちと一緒に。
浄化士として、この世界を綺麗にしていくために。
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【ステータス】
佐藤翔太 Lv.53
職業:掃除士
称号:聖剣の主、宮廷浄化士、聖泉守護者、王城浄化官、ギルド創設者
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HP :930/930
MP :1480/1480
攻撃力:113(+300)
防御力:403(+50)
敏捷 :113(+50)
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【スキル】
浄化 Lv.12
└効果:概念浄化まで可能
鑑定 Lv.5
└効果:隠された情報も取得可能
収納 Lv.4
剣術 Lv.2
└効果:基本剣技習得
浄化効率:65
汚染耐性:30
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第11話、いかがでしたでしょうか?
浄化士ギルドがついに始動しました!
最初は反対の声ばかりでしたが、実演を通じて浄化の価値を理解してもらえた瞬間は、とても感慨深いものがありました。
新たな仲間たちも個性的ですね。
リク:レベル3→6の従者。若く、まだ未熟だけど情熱的。
アンナ:レベル5→7の家政術師。メイドとしての経験を活かす。
グスタフ:レベル8→11の施設管理士。50年の経験を持つベテラン。
彼らの浄化能力は翔太の百分の一にも満たないですが、その小さな力も集まれば大きな力になる。これが浄化士ギルドの理念です。
そして古代遺跡の発見!
レベル60の瘴気の巨人との戦闘は、仲間たちの協力があってこそ勝利できました。
この遺跡には一体何が眠っているのか……次話で明らかになります。
翔太もレベル53に到達。着実に強くなっていますが、それ以上に仲間との絆が彼の力になっているのかもしれません。
次回、古代遺跡探索編!
果たして遺跡の奥には何が待ち受けているのか?
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