第10話 満月前夜と守護の腕輪
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最弱職【掃除士】、実は世界最強でした 第10話をお届けします。
満月前夜、最終決戦を前に準備を進める翔太たち。
古代の記録から明らかになる影の司祭の存在、そして王都の地下に眠る恐ろしい秘密とは……?
エリーゼから託される守護の腕輪に込められた想いとは。
お楽しみください!
満月前夜。
王城浄化官に任命されてから二日が経ち、俺は王城の隅々まで調査を進めていた。聖剣を手に、普段は誰も立ち入らない場所まで徹底的に浄化して回る。
「こちらの倉庫も、瘴気の反応なし」
俺が報告すると、同行していた騎士が記録帳に書き込む。
朝から始めた調査も、もう夕方に差し掛かっていた。塔の最上階から地下牢まで、考えられる全ての場所を確認したが、新たな汚染陣は見つかっていない。
しかし、それとは別の発見があった。
「翔太殿、これを見てくれ」
騎士団長ガレスが、古い書庫から一冊の本を持ってきた。革装丁の分厚い書物で、表紙には見慣れない紋章が刻まれている。
「これは?」
「旧王朝時代の記録だ。その中に、興味深い記述がある」
ガレスが開いたページには、古代文字でびっしりと文章が書かれていた。俺には読めないが、ガレスが要約してくれる。
「『穢れを崇める者たちあり。彼らは影の司祭と呼ばれし者に従い、満月の夜に禁忌の儀式を執り行う』」
影の司祭。その名前に、俺は嫌な予感がした。
「続きがある」
ガレスがページをめくる。
「『影の司祭は、清浄なる力を恐れ、特に浄化の術を持つ者を敵視す。彼らの目的は、世界の理を覆し、穢れによる新たな秩序を築くことなり』」
まさに、今の教団と同じだ。いや、もしかすると――
「教団は、旧王朝時代から続く組織なのかもしれません」
俺の推測に、ガレスも頷く。
「その可能性は高い。そして、影の司祭が今も生きているとすれば……」
◆
その時、エリーゼが息を切らせて駆け込んできた。
「翔太さん、大変です!」
彼女の手には、一枚の羊皮紙が握られている。
「アルフレッドの執務室から、暗号文書が見つかりました」
羊皮紙を受け取ると、そこには意味不明な記号の羅列が書かれていた。しかし、よく見ると規則性がある。
「これは……置換暗号ですね」
俺が呟くと、エリーゼが驚く。
「分かるんですか?」
「元の世界で、少し暗号解読の趣味があって」
実際は、会社の機密文書の管理で使っていた知識だが、説明が面倒なので省略する。
俺は羊皮紙を机に広げ、記号のパターンを分析し始めた。エリーゼとガレスが、固唾を呑んで見守る。
三十分後――
「解けました」
俺が解読した文章を読み上げる。
「『満月の夜、王都中央広場にて最後の儀式を執り行う。影の司祭様の降臨により、全ては穢れに包まれる』」
中央広場。王都で最も人が集まる場所だ。
「人質を取るつもりか」
ガレスが険しい顔で言う。
「いや、違います」
俺は暗号文の続きを読む。
「『広場の地下に眠る、古代の汚染源を解放する。それは王都全体を、一瞬で穢れの海に変える』」
古代の汚染源? そんなものが王都の地下に?
「聞いたことがあります」
エリーゼが青ざめた顔で言う。
「王都建設の際、地下深くに何かを封印したという伝説が。でも、詳細は王家の秘密として……」
彼女は急に立ち上がった。
「父上に確認してきます!」
エリーゼが部屋を飛び出していく。
◆
夕暮れ時、俺は王城の中庭で準備を進めていた。
満月の夜に備えて、浄化の結界を各所に設置する。特殊な魔石に浄化の力を込めて、いざという時に発動できるようにしておくのだ。
「おい、掃除士」
振り返ると、ケンジが立っていた。相変わらず派手な鎧を着て、腕を組んでいる。
「何か用か?」
「……明日の作戦について、打ち合わせをしておこうと思ってな」
意外だ。ケンジの方から協力を申し出てくるなんて。
「俺は剣聖だ。接近戦なら誰にも負けない」
彼が炎の剣を抜く。
「だが、瘴気を浄化することはできない。そこはお前の役目だ」
「分かってる」
俺も聖剣を抜く。二人で軽く手合わせをしながら、連携の確認をする。
ケンジの剣術は、やはり凄まじい。俺の剣術レベル2では、まともに太刀打ちできない。しかし――
「お前、前より動きが良くなったな」
ケンジが珍しく褒める。
「レベルだけじゃない。実戦での経験が、お前を成長させている」
「……ありがとう」
素直に礼を言うと、ケンジは顔を赤くして横を向いた。
「べ、別に褒めたわけじゃない! ただ事実を言っただけだ!」
相変わらずのツンデレだ。でも、彼なりに俺を認めてくれているのが分かって、少し嬉しかった。
◆
夜になって、俺は城壁の上にいた。
王都を見下ろすと、家々の明かりが星のように輝いている。平和な光景だが、明日の夜にはどうなっているか分からない。
「翔太さん」
後ろから声がして、振り返るとエリーゼが立っていた。月光に照らされた彼女は、いつもより幻想的に見える。
「父上から聞きました。古代の汚染源は、確かに存在するそうです」
彼女が隣に並ぶ。
「千年前、魔王との戦いで生まれた巨大な穢れの塊。それを封印して、その上に王都を築いたんだそうです」
「なぜそんな危険なものの上に……」
「封印を維持するためです。王城の聖なる力で、常に押さえ込んでいる」
なるほど、それで王城がここに建てられたのか。
「でも、もし封印が解かれたら……」
エリーゼの声が震える。
「王都は一瞬で穢れに飲み込まれます。そして、その影響は国全体に広がるでしょう」
想像以上に深刻な事態だ。絶対に阻止しなければならない。
沈黙が流れる。二人で夜風に吹かれながら、明日への不安と向き合っていた。
「翔太さん」
エリーゼが俺の方を向く。その瞳には、強い決意が宿っていた。
「私、翔太さんに渡したいものがあります」
彼女が懐から小さな箱を取り出す。中には、銀色の腕輪が入っていた。精巧な細工が施され、中央には青い宝石が嵌め込まれている。
「これは、王家に伝わる守護の腕輪です」
エリーゼが説明する。
「身に着けた者を、あらゆる害悪から守る力があります」
「そんな大切なものを、俺なんかに……」
「受け取ってください」
彼女が俺の手を取り、腕輪を握らせる。
「翔太さんは、私を呪いから救ってくれました。この国を守ろうとしてくれています。だから……」
エリーゼの頬が、月光の下でほんのり赤く染まる。
「必ず、無事に戻ってきてください。約束です」
俺は腕輪を見つめ、それから彼女の目を見た。
「分かりました。必ず、この国を守ります」
腕輪を左腕に着ける。すると、温かい力が全身に広がった。
【守護の腕輪を装備しました】
防御力+50
特殊効果:致命傷を一度だけ無効化
これは心強い。エリーゼの想いが、俺を守ってくれる。
「ありがとう、エリーゼ様」
「エリーゼでいいです」
彼女が微笑む。
「もう、様なんて他人行儀な呼び方はやめてください」
「じゃあ……エリーゼ」
名前を呼ぶと、彼女の笑顔がさらに明るくなった。
◆
深夜、俺は自室に戻って最後の準備をしていた。
装備の確認、ポーションの補充、そして作戦の最終確認。全てを終えて、ベッドに横になる。
明日は満月。教団との最終決戦だ。
不安がないと言えば嘘になる。影の司祭という未知の敵。古代の汚染源。そして、王都の命運を賭けた戦い。
でも、俺は一人じゃない。
エリーゼ、ケンジ、ガレス、そして王都の人々。みんなが俺を信じてくれている。
左腕の守護の腕輪を撫でる。温かい力が、不安を和らげてくれる。
窓の外を見ると、明日満月になる月が、不気味に輝いていた。
王都の各所では、騎士団が巡回を続けている。市民たちも、何か不穏な空気を感じ取っているのか、いつもより早く店じまいをしていた。
そして――
王都の地下深くで、何かが蠢いている気配がした。千年の封印が、きしみ始めているのかもしれない。
明日、全てが決まる。
俺は聖剣を抱きしめ、目を閉じた。
体力を温存しなければ。明日は、今までで最も過酷な戦いになるだろうから。
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【ステータス】
佐藤翔太 Lv.50
職業:掃除士
称号:聖剣の主、宮廷浄化士、聖泉守護者、王城浄化官
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HP :900/900
MP :1450/1450
攻撃力:110(+300)
防御力:400(+50)
敏捷 :110(+50)
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【スキル】
浄化 Lv.10
└効果:呪い浄化まで可能
鑑定 Lv.5
└効果:隠された情報も取得可能
収納 Lv.4
剣術 Lv.2
└効果:基本剣技習得
浄化効率:60
汚染耐性:25
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レベル50。ついに大台に到達した。
そして明日、王城浄化官として、この国の未来を賭けて戦う。
満月の夜、影の司祭との対決。
古代の汚染源を封じ、王都を守り抜く。
それが、俺の使命だ。
第10話、いかがでしたでしょうか?
ついに満月前夜まで来ました。
影の司祭という謎の存在、古代の汚染源という最大の脅威……。
王都の運命が、明日の戦いにかかっています。
エリーゼから守護の腕輪を受け取るシーンは、二人の関係性の深まりを表現できたでしょうか。
「様」を付けるのをやめて、と言うエリーゼの想いが伝わればいいなと思います。
ケンジとの手合わせシーンも、彼なりの友情表現として描きました。
ツンデレながらも、しっかり翔太の成長を認めている彼の姿が印象的でした。
そして、ついにレベル50到達!
召喚されてから約二週間で、ここまで成長した翔太。
でも、本当の強さは仲間との絆にあるのかもしれません。
次回はいよいよ満月の夜、最終決戦!
果たして翔太たちは王都を守れるのか?
影の司祭の正体は?
第1部クライマックスに向けて、物語は加速していきます!
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次回もお楽しみに!
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