第二話
誰かが道をひいている――そんな感覚があった。
封筒、手紙、地図。
すべてが“自分のため”に用意されていたように思えてならない。
理屈ではない。
ただ、あそこへ行かなければならないという確信があった。
夜の街を、足音を潜めるように歩く。
スマートフォンは、ポケットの中で沈黙したまま、気づけば電源さえ落ちていた。
外界との繋がりが、少しずつ途切れていく。
璃愛は、気づけば森の入口に立っていた。
木々はまるで、外の世界を拒むかのように枝をからませ、空を遮っていた。
空気はねっとりとしていて、肺に吸い込むたび重く沈む。
落ち葉が厚く積もった地面は、足音を吸い込んで返さなかった。
この森では、足跡を残すことさえ許されない。
「……ここ、だよね。」
ぼそっと呟いた彼女の目線の先には、存在しないはずの館があった。
屋根の端は崩れ、壁は黒ずんだ苔に覆われている。
それはまるで時間に取り残された遺物のように、森の奥でひっそりと佇んでいた。
あたかも、“この世”と“あの世”を繋ぐ門番のよう。
森の中に穿たれた傷口────それがこの館だった。
忘れ去られた記憶が物質化したような、埃と悪意の塊。
璃愛は、おぞましい光景を目撃した。
足がすくむ。
それでも、璃愛は引き返さなかった───
思わず、固唾を呑む。
鉄製の門は開いており、まるで彼女のことを待っていたようであった。
門をくぐり抜け、その先にある館の入口の前までたどり着く。
璃愛は館の扉に手を伸ばした。
8月24日 午後2時30分,第3話投稿予定