詩「父の影」
冷たい潮風に乗って
吹き荒れる砂がバチバチと
おれと親父に衝突する浜辺
凍えそうな波しぶき
冬の呼吸が止まる度に
膨らんでいく白波
俺たちを完全に見下ろして
砂の上に散っていく
誰かの影を奪おうとしながら
同じところから歩き出したのに
二人の距離は少しずつ離れていった
似たような歩き方で
似たような速度で
似たような道を歩いてきたはずだった
のに
古希になった親父の足元に
透明な波が手を伸ばす
遠くから呼びかける
いくら声を出しても
波の音で届かない言葉
親父と目が合った
おれはキャッチボールを思い出す
透明な言葉を
親父に向かって投げる
親父は落ちていた枝を拾って
大きく振った
カーンと音が響いた
白波が一斉に引いて
親父は次にその辺の石を拾うと
軽く上に放って枝を振った
空振りだった
なんとなくの流れで
次はおれの番だった
おれは大きく振った
背中に親父の影を感じながら
空振りの先に海が広がっていた