クリップボード履歴って知ってる?
飯綱丸マネージャー
「あ~、にとり君、呼び出したのは外でもない。君の実装した、コピー履歴機能のことで、話しがあるんだが……」
エンジニアにとり
「はあ? あの機能が何か?」
飯綱丸マネージャー
「右クリ……いや、コンテキストメニューにデフォルトで追加? あり得ないだろう、そんなのっ!」
エンジニアにとり
「ひゅいっ!? な、なぜ? 便利な機能だから、右クリ……じゃなかった、コンテキストメニューに入れておけば、ユーザーが喜ぶかと……」
飯綱丸マネージャー
「君は馬鹿なのか!? そんなことしたら、ユーザーに、便利すぎるだろうがぁっ!!!」
エンジニアにとり
「……え……あ……あの……仰っている意味がよく……」
飯綱丸マネージャー
「君、我が社の企業理念を知っているかね?」
エンジニアにとり
「え? はあ……た、確か、ユーザーに、取っつきやすく使いやすいOSを提供し、コンピューター産業の一層の発展を……」
飯綱丸マネージャー
「ちっがーう!!! わが社の真の企業理念は、馬鹿な一般ユーザーを、取っつきやすく、使いやすそうに見せ掛けた糞OSで騙し、リンゴ社と共に、他社から、まともなOSが出ないように市場を独占して、エンジニアの育成を阻害することにより、コンピューター産業という、未知の恐ろしいテクノロジーの発達を抑制し、我々、既存の支配階級による統治システムに、影響が出ないよう、調整することだっ!!!」
エンジニアにとり
「ええええぇぇぇぇっ!!??」
飯綱丸マネージャー
「その理念から言えば、こんな便利な機能を、右クリ……違う、コンテキストメニューに標準で実装する、などという、お人好しな危険思想は言語道断だっ!」
エンジニアにとり
「じゃ、じゃあ、この機能はなかったことに……?」
飯綱丸マネージャー
「いや、実装しておくのは良い。実装しておけば、この機能を知ってるだけで、知らない者より、生産性が増すだろう。こうした小さな積み重ねが、積もり積もって山となる。都合が良い者だけに知らせれば、わが社による、市場コントロールの一助に出来るはずだ。重要なのは、知らないと、まず絶対に使えないようにしておくことだ」
エンジニアにとり
「で、では、CtrlにCでコピーなので、その履歴ということで、ctrl+Cに、ログのLという……」
飯綱丸マネージャー
「だから、君は、馬鹿なのか!! それだと、ctrlキーにCでコピーだと知っている者なら、自然と気付くかもしれんだろうがっ! それに、押しにくい! 教えられないと気づけないような組み合わせだが、知ってれば、簡単に使えて、知らない相手と差が付けられるような組み合わせじゃないとダメだ!」
エンジニアにとり
「じゃ、じゃあ、WindowsキーとVでは……?」
飯綱丸マネージャー
「WindowsキーとV……ふむ、良いじゃないか! コピー履歴と、WindowsキーにV、何一つ関連性がない! これなら、絶対に自然と思いつくことはないし、絶妙な距離感があるから、知っていれば使いやすいが、ミスタッチなどして、自然と気付く心配も殆どゼロだっ!」
エンジニアにとり
「そ、それでは、そういう仕様で……」
飯綱丸マネージャー
「いや、まだ足りない。自然と気付くことも、押すことも殆どないだろうが、あらゆるショートカットを手当たり次第に試すようなユーザーにはバレる。念には念を入れ、たまたま押しても、使えないようにしなくてはならない。」
エンジニアにとり
「設定で、有効にしないと使えないようにするとか?」
飯綱丸マネージャー
「うむ、それは良い。だが、設定にコピー履歴、なんて項目があったら、設定を、隅から隅まで調べるような、説明書を全て読んでからでないと、ゲームを始めないタイプのマメなユーザーに、この機能の存在がバレてしまう。そうだなぁ……コピー履歴、などという、分かりやすく、自然にピンとくる、親切すぎる名称は止め、たまたま押して表示されたり、設定欄に書かれてあっても、何の機能なのか分からず、そのまま素通りして、印象にも残らないような、地味な名前に変えるんだ。」
エンジニアにとり
「うぅ~ん……なら、フィーリングですが、ダウンフォール・インジェクテッド機能とか……」
飯綱丸マネージャー
「違う違う! なんだその中二病みたいな格好いい名前! 地味な名前と言っとろうが!! それに、そこまで実像とかけ離れた、おかしな名称にするのは不味い。あまりにやり過ぎると、また右クリ……ええぃ鬱陶しい! コ・ン・テ・キ・ス・ト・メニューの、二の舞だっ! また、わが社の社員は、実社会の感覚から乖離した、実存主義哲学を聞きかじったヒッピーボヘミアンの集まりなのか、はたまた、ユーザーを愚弄したいだけの、愚民化政策の一種なのか、ただ右クリックすると出てくるメニューに、コンテキスト(文脈)メニューなんてポエミーな命名をするのは狂気の沙汰だ、なんて記事が、我々の支配が及んでいない、気の利いた個人ブロガーとかに書かれてしまう! 勘の良いガキどもに、わが社の影の企業理念がバレるわけにはいかん。もっと絶妙に、分かるように思わせて分からない、バカな衆愚どもが、疑問には思わないくらいの、ギリギリのラインを責めなければならんのだ。」
エンジニアにとり
「えぇ~……そんな無茶な……ん? クリップボード……ハッ! クリップボード履歴……クリップボード履歴っていうのは!?」
飯綱丸マネージャー
「クリップボード履歴……それだっ!」
こうして
コピーりれk
もとい
クリップボード履歴が
実装された
一般消費者アリス
「あっ! また間違って変な機能開いちゃった……ん? クリップボード履歴ぃ? はぁ!? 使用したいなら設定を有効にぃ!? なんなのこれ? もぉ~、なんでウ〇ンドウズって、こう意味わかんない機能ばっか無駄に付けたがるのかしら?」