卒業できない君と僕
「なろうラジオ大賞6」に応募させて頂く作品です。
「恋愛は、好きになった方が負け」なんて定理がまかり通るのなら、敗北は幸せに類する言葉だ。
モノクロの世界の中、ただ目を瞑るだけで、君がくれた鮮やかな日々が思いだされる。これを幸せと呼ばずして、人は一体何を糧に生きられるだろうか。
全ては3年前、まだ授業は始まらない、しんとする教室。ふと窓の外を見たときに、桜の下に立つ君と目が合ったのが始まりだった。咄嗟に目をそらして下を向いた僕に、君は駆け寄って来た。
「ねぇ、名前なんていうの」
と満面の笑みを浮かべる君は、僕の聞こえないふりなんてお構いなしに
「へぇ!昴くん!私マミだよ」
と机の上のノートを盗み見て、満足そうに去っていった。
それから数日、数か月と時が流れた。命が生まれ、抗い、死んでいく中で、マミだけは変わらなかった。
「昴君!今から石畳を削って、ハート型にするんだ。一緒に来てよ!」
「みて!つるつるデコてん!名前なんていうのかな」
「にしし」と笑いながらこちらを伺うマミに、次第に最初の恐怖心は消えていった。
教室の装飾も赤と緑に染まった頃、少ししょんぼりしたマミが近寄ってきた。
「ねぇ、昴君。マミって、居ちゃダメな子なのかな」
いつもの天真爛漫さが消えたマミは、うつむきながら続ける。
「今日も、みんなに挨拶をしてたんだ。そしたら、いつもは笑顔のおばあちゃんが『お前がいるからみんな不幸になるんだ。私の前から消えろ』って。
マミのせいで、皆が悲しい思いをするなら、マミは消えた方がいいのかな」
「そんな訳ないだろ!」
つい、口が滑ってしまった。見ると、マミも驚いたようにこちらを見ている。
「昴君、もしかして、マミが見えるの」
返す言葉もなく、ただ頷くしかできない。
「そっか」
と少し震えた声で頷いた後、マミはスッと壁を通り抜けて消えた。
これが、俺が見たマミの最後の姿だった。
ふっと、目を開けて「卒業おめでとう」と看護師さんが差し出してくれた花束を受け取る。
この田舎町の病院では、子どもは、大抵数日で退院するか、大きな病院に移っていく。だから、今日この院内学級で卒業式を迎えるのは俺一人だった。
死期が近づいた人間にだけ見える地縛霊の『マミ』を、奇跡的に回復した俺は、もう感じることさえできない。だけど、あいつは、これからもここに居ると信じたかった。
マミと出会った桜の木の下に花束を添えて、
「また、遊びに来るよ」
と手を合わせる。そんな俺の頬を、柄にもなく北風が優しく撫でた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます!
後書きに何を書いたらいいのか分からなくて、書いたり消したりしてます。
すみません(-_-;)
今回は「色んな捉え方ができる作品」を目標に書きました。良ければ、どんな風に解釈したか教えていただけると、すごく嬉しいです。マミの存在とか、卒業というキーワードについてとか……。
ちなみに自分は、語感だけで決めた「つるつるデコてん」が一体何を指すのか未だに分かりません。
こんな駄文にも最後までお付き合い下さり、ありがとうございます。
優しいあなたにガリガリ君が当たる位の幸せがありますように。冬だけど。