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天才画家が理想の彼氏を描いたら、月が見る夢で、幻と手をつなぎました。

作者: 柏原夏鉈

美大生のライムは深夜テンションになっていた。


エキセントリックな言動が目立つライムに、元からあるのか怪しい判断と理性を司る機能がいつも以上に低下し、感情が振り切れて本能のままに行動してた。


「どうしてこんな難しいテーマにしたんだっけ?そうだ!部屋が片付かないからだった!」


夜遅く、ライムは自宅マンションで、作業部屋を見回しながら、叫んでた。幸い、しっかりしたつくりのマンションなので、窓さえ閉めておけば近所迷惑にはならない。


部屋の中はキャンバスやスケッチブック、絵具や鉛筆が散らばっていて、混沌としている。ライムはスケッチブックと鉛筆を手にして、部屋の中を歩き回り、独り言を言いながら考え事をしている。


「そろそろきっかけくらい掴まないとコンクールに間に合わなくなるんだけど部屋も片付けたい!片づけてくれるような恋人が居たらいいんだけどな!よし!理想の彼氏でも書くか!」


けたけたと、大きな声で笑い出す。頭の中で完璧な彼氏のイメージを膨らませ、それをスケッチブックに写し始める。


「うん、高身長で、整った顔立ち、優しげな目と笑顔。掃除がマストだから、家事全般が得意で、優しくて、私みたいな絵描き馬鹿に理解のある性格がいいな」


独り言を言いながらスケッチを続ける。描き進めるうちに、ライムはますますその理想の彼氏に夢中になる。


「こんな人が現実にいたらいいのに」


彼女はスケッチを続け、やがて、完成した絵を見て満足げに微笑む。


「まあ、こんな完璧な人はいないよね。そもそも完璧な人は私を恋人になんかしない!」


その結論に満足して、スケッチブックを閉じようとして、ふと思いつく。


「せめて夢の中で会えたら嬉しいな」


そう言いながら、スケッチブックから理想の男性像のページを破り取り、丁寧に折り畳んだ。


ライムは寝室に移動してベッドに入り、枕の下に折り畳んだスケッチブックの1ページをそっと挟みこんで、彼女は目を閉じながら、念じた。


「こんな完璧な彼氏がいたら、私の生活も変わるかな」


夢で会えることを期待して、やがて眠りに落ちる。



   ◇   ◇   ◇



翌朝、ライムは目覚まし時計の音で目を覚ます。


「……なんだ?」


何かが違うと感じながら、ベッドから起き上がる。自分の生活にはありえない音が聞こえてる。キッチンの方から、誰かが何かしているような。


ライムは一人暮らしだ。両親は遠く故郷にいる上に、絶対に来るな!と常々言ってるので、急にやって来て朝食を作ってるなんてことはありえない。


意を決して、ダイニングへ向かう。キッチンカウンターの向こう側に、人がいた。どこかで見たことのある男性だ。IHコンロで何かを焼いているようだが、ライム自身は一度も使ったことがないそれを使う人がいた。


不思議と警戒する気持ちがわいてこない。それより、どこかで見たことがある、という気持ちが最も強い。どこで見たんだ?と思いを巡らせている。


「あ」


あわてて寝室に戻って、枕の下をまさぐって、折り畳んだスケッチブックの紙片を取り出し、再びダイニングに戻った。


「あ、ライム、おはよう」


今度は目が合ってしまった。まっすぐにお互いが顔を合わせたことで、どこかで見たという思いが強くなり、手に持った紙片を広げて掲げてみた。


間違いない、そこにいた男性は、昨夜、寝る前にライムが書いた絵にそっくりそのままだった。まるで目の前の男性を見ながらスケッチしたみたい。


「どうしたの?朝ご飯はもう出来るよ、顔を洗ってきたら?」


「……あなたは誰?」


「俺はユーキだよ、君と同棲している恋人」


「え?恋人?本当に?」


「うん、本当だよ。証明する方法はないけど。ほら、朝ご飯を食べようよ。コーヒーを飲んだら、きっと思い出すよ」


ユーキと名乗った男性は、ライムのあしらいを心得ているみたいで、テーブルの上に朝食を並べたら、そのついでに、ライムの両肩に自然に手を乗せて、椅子に座るように促す。あまりに自然な所作のため、ライムは逆らうことなく、促されるままに椅子に座った。


「いただきます」


「……いただきます」


ライムの目の前に、どこか喫茶店にでも来たのかな?と勘違いするような、完璧なモーニングセットが配置されていた。


まず目に入るのは、こんがりと焼かれたトーストだ。外はカリッと、中はふんわりとした食感が楽しめる。バターがたっぷりと塗られ、その上に甘いジャムが添えられている。トーストを口に運ぶと、バターの香りとジャムの甘さが口いっぱいに広がる。


次に目を引くのは、鮮やかな色合いのサラダ。シャキシャキとしたレタスやきゅうり、瑞々しいトマト、そしてアクセントに加えられた紫キャベツが美しく盛り付けられている。自家製のドレッシングが絶妙に絡まり、新鮮な野菜の味を引き立てる。


その隣には、ふんわりとしたスクランブルエッグが盛られている。さっきIHコンロで調理してたのはこれか!とろけるような食感と、ほんのりとした塩味が朝の胃袋を優しく包み込む。卵の隣には、ジューシーなソーセージが3本、きつね色に焼かれている。ひと口頬張ると、肉汁が口の中に広がり、幸せな気分に浸れる。


そして、モーニングセットの最後を飾るのは、香り高いコーヒーだ。カップから立ち上る湯気とともに、心地よいアロマが漂う。ひとくち飲むと、深いコクと程よい苦みが広がり、朝の目覚めを一層引き立てる。


理想の彼氏が作った理想の朝食だった。とても美味しかったので無心で食べてしまった。


「さあ、支度して。一緒に大学に行こう」


「え、一緒に行くの?」


「うん、学科は違うけど、門までは一緒でしょ?一限に間に合わなくなるよ」


そう言って、ユーキは立ち上がって、食器をテーブルからシンクに運んで洗い始めた。その様子を漠然と眺めていたが、手際よくその作業を終わらせたユーキがライムを見ていった。


「せめて髪はブラシしていった方がいいんじゃない?」


ユーキがそういうので、ライムは頭に手をやると、ぼさぼさになってるのがわかる。確かにこの頭で外に出るのはまずいか、と思って、のろのろと洗面所に向かって、身支度をしながら、いったい何が起こってるのか、考えてみたけど、わからなかった。



   ◇   ◇   ◇



「カナネ!ちょっと聞いて!」


「おはよう、ライム。どうしたの?珍しくハイテンションじゃん。良いことでもあったの?」


一限目の講義室で、目当ての女友達のカナネを見つけて、挨拶抜きで声をかけた。


カナネはすっごい美人で、ライムのようにいかにも絵を描くこと以外興味ありません!というダサい恰好じゃなくて、おしゃれでお化粧もばっちりで、でも、少し冷たい印象のする女性だ。


「おはよ。びっくりなことよ!なんと、私に彼氏が生えてきた」


「ユーキでしょ?」


事も無げに答えたカナネに、目を大きく見開いて驚愕したライム。まるで、ユーキのことを知っているみたいに、カナネはつまらなさそうに言うので、慌てて確認する。


「知ってるの?」


「知ってる。ライムのイケメン彼氏。マジうらやま。マジ」


「なんで知ってるの?」


「知らない人の方が少ないよ。ね?」


カナネが周りを見回しながら、近くに座ってる学生たちに話をふると、皆がうんうんとうなずいていた。みんな知ってるらしい。その様子にびっくりしているライムに、カナネは声をかける。


「覚えてないの?記憶を失ったの?」


「他のことは覚えてる、カナネのことはわかるし」


「でも、同棲までしてるユーキのことは覚えてないんだ?」


「うん。って、私、同棲してるの?!」


「ユーキがライムのだらしない生活を見かねてね。今朝も一緒に家を出て来たんでしょ?」


「うん」


そうだ、言われてみれば、家にいて朝食を作ってたということは、一緒に暮らしてるってことだ。と言うか、ユーキ自身がそう言ってた気がする。昨日まで彼氏無しで一人暮らしだったはずが、なんで一晩で同棲しているイケメン彼氏がいるのか、意味が分からない。これは、夢なのか?


「……ライムさ。また面白いことになったね。でもさ、せっかく現れたイケメン彼氏なら、楽しまなきゃ損だよ。ユーキのことをもっと知ってみなよ」


にやにやしながらカナネが面白がって言う。他人事だと思って!とライムは言いたかったが、一限目の講義が始まったので、静かになった。


理想の彼氏を絵に描いて、枕の下において眠ったら、理想の彼氏が出来てた。そんなことが現実にあるんだろうか。


講義の内容なんか全く頭に入ってこないライムは、どうやって、ユーキが現実かを確認しようか、悩んでいた。



   ◇   ◇   ◇



俺たちは、夕飯を食べるため食卓を囲んでいた。


「ユーキが現実か確認する方法、その一」


そう呟きながら立ち上がった月夢(ライム)が、俺の横にやって来た。彼女の予測不能な行動には慣れてきたが、それでも興味をそそられる。俺はただ、彼女が何をするのか見守ることにした。月夢(ライム)は俺の頬をつねった。


「痛い」


「うん、痛いってことは現実かな」


月夢(ライム)は納得したように手を離した。俺は頬をさすりながら、不満を漏らした。


「現実かどうか確認するなら、自分の頬で試してよ」


「痛いのは嫌だもの」


月夢(ライム)はそう言って、再び席に戻り唐揚げを食べ始めた。今日の夕飯は、釜炊きの白米、鶏の唐揚げ、ポテトサラダ、スープ、そして冷ややっこ。まるで定食屋のメニューのようだと、自画自賛したくなる出来栄えだった。


「まあ、確かに」


月夢(ライム)の行動の理由を考えるのは無駄だ。彼女と俺では思考タイプが違う、彼女の行動を追いかけるのは諦めるのが賢明だ。


「変装じゃないかも確認したかったの。だからついでに」


「ああ、スパイ映画みたいに顔を変装するやつ?」


「そう、つねってみたけど、本物の頬だった。でも、私より肌がつるつるなのは嘘っぽい」


理不尽なことを言われたが、俺は苦笑した。


「保湿クリームくらいは塗ってるよ」


「それは女子力アピール?」


「いや、そういうわけじゃないよ」


月夢(ライム)は芸術の才能に恵まれている分、他のことはあまり得意じゃない。そんな彼女をそのまま受け入れるのが、俺にとっての幸せだ。



   ◇   ◇   ◇



夕飯が終わると、月夢(ライム)は懐中電灯を持ち出し、俺にじっと立っているように頼んだ。


「ユーキが現実か確認する方法、その二」


「具体的には?」


「グリッチを探してる」


「グリッチ?」


俺は一瞬理解できなかった。ゲーム用語でいう”不具合を利用したズル”のことか?いや、そうではないだろう。多分、”デジタル的な欠陥”を探しているのだろう。


「それって、モデリングエラーやレンダリングの不具合を探してるってこと?」


「そう」


月夢(ライム)がデジタル用語を知っているのは意外だった。彼女がそんな技術に興味を持っているとは思わなかった。


「つまり、俺の体は現実に投影された三次元モデルだと思ってるわけ?」


「うん」


月夢(ライム)は俺が拡張現実によるモデルだと疑っているらしい。


「前にヴァーチャルライバーの三次元モデルのデザインを手伝った時、モデラーがどんなに巧妙に作っても、どこかに再現しきれない部分があるって言ってた」


「なるほど、気が済むまで調べていいよ」


「うん……。細身だと思ってたけど、意外に筋肉しっかりしてるね」


月夢(ライム)は俺の二の腕を触りながらぶつぶつと呟いた。俺はされるがままにしていた。


「変なところは見つかった?」


「細マッチョ。筋肉の再現が完璧。ミケランジェロのダビデ像みたい」


月夢(ライム)は絵を描くために人体の筋肉には詳しい。服をめくってお腹の筋肉なども確認してる。


「褒められてるのかな」


俺は内心で恐れていた事態を予感して震えていたが、懸命に平静を装った。誤魔化すように聞かれてもないことが口をついて出る。


「高校ではボート部だったんだ。知ってるかい?ボート部ってオフシーズンは筋トレばかりなんだ」


「そうなんだ。ヌードモデルを頼みたい」


月夢(ライム)が腰のベルトを緩め始めたので、俺は彼女の手を止めた。


「モデルはいいけど、何してるの?」


「確認したい」


「どこを?」


「そこを」


月夢(ライム)は俺の股間を指差した。


「……ここはダメ」


「どうして?誰にも見られないし、手抜きして描写してない?」


「いや、そうじゃないよ」


「じゃあ、確認させて?」


月夢(ライム)は鼻息荒く迫ってきた。俺は困惑しながらも、意を決して反撃に出た。


「どうしても見たいなら、見せてもいいけど、リビングではちょっと雰囲気出ないし、先にシャワーを浴びさせて欲しいな」


「雰囲気……?シャワー……?」


月夢(ライム)は困惑した表情を見せた。


「それともリビングでの方が興奮する?」


「待て、何の話?」


手のひらを向けて待てをする月夢(ライム)に、俺は指を立てた。


「ヒントをあげよう」


月夢(ライム)は素直に頷いたので、続けた。


「私たちは同棲している恋人、男と女、二十歳の大人だ。スキンシップの延長線上には、何がある?」


俺は雰囲気を変えて、獲物を追い詰めるように、彼女の頬を撫でた。月夢(ライム)は顔を赤くしながら後ずさりした。


「ごめん、そんなつもりじゃなかった!現実か確認したかっただけ!」


「わかってるよ」


「私は部屋で絵を描いてくる!」


月夢(ライム)は作業部屋に駆け込み、ドアを閉めた。「無理!」と叫ぶ声が聞こえ、俺はそっと胸を撫で下ろした。



   ◇   ◇   ◇



ライムは、作業部屋にあったスケッチブックをすべて引っ張り出した。


ライムはいつもA4サイズの小さめのスケッチブックを持ち歩いていて、何か思いついたり、落書きしたり、あるいは昨夜のように理想の彼氏を描いたりしてる。絵日記替わりみたいなところがある。


すごい勢いで落書きを十数枚描いたりする日もあるので、A4サイズと言えど、すごい数のスケッチブックが段ボール箱に納まっている。そのうちデジタル化にしないとかさばってしょうがないなぁとは思うんだけど、やっぱ未だに思いついてすぐに書くという手軽さや、紙にペンを滑らせる感覚には代えがたい。


いつ描いたのかわからなくなるので、日付だけはまず最初に書くように習慣づけている。スケッチブックをめくっていきながら、びっくりしたのは、理想の彼氏であるユーキを描いたのは、昨夜が初めてではないらしい、ってことだ。


一か月前も二カ月前も、週一くらいのペースで、ユーキが描かれていた。ユーキを観察しながら、いろんな表情が描かれてる。日付を遡っていくと、ある日から急に、ユーキが登場しなくなる。それが一年前くらい。


他にも、気になった絵があった。部屋の様子を描いたスケッチだ。そのスケッチは二枚続けて書かれてる、一方は、部屋の中はキャンバスやスケッチブック、絵具や鉛筆が散らばっていて、混沌としている。もう一方は、それが片づけられたあとの、同じ部屋の様子を描いてる。まるで、掃除前と掃除後を描いたみたい。


「間違いなく、この絵は私が書いてる。それはぜったい。でも、私はどうして覚えてないの?」


絵を見れば、それが自分が書いたことは疑いようもなかった。しかしユーキに関わる部分だけ、消しゴムで消したみたいに何も思い出せない。


ライムにはユーキと過ごしたという日々の記憶がない。ライムの主観としては、やはり、自分が書いた絵からユーキが飛び出してきた、としか思えない。


自分以外のすべてが、ライムの記憶違いだという証拠を突きつけられようとも、ユーキの事を思い出せないんだから、そう思うしかない。


「でも、待って」


ふとカナネの言葉が頭によみがえった。


『……ライムさ。また面白いことになったね。でもさ、せっかく現れたイケメン彼氏なら、楽しまなきゃ損だよ。ユーキのことをもっと知ってみなよ』


「そうだ、楽しまなきゃ、損だ!」


事実がどうであれ、今のライムには理想の彼氏が一緒に住んでいるのだから、いろいろと試せるじゃないか。


彼氏が出来たらやりたかったことがたくさんある。理想の彼氏であるユーキなら、きっとライムのわがままを聞いてくれそうだ。


「っていうか、私が描いた絵から飛び出してきたのなら、それは私のものじゃないか!私が好きにして良いって事だ!」


ならば、まずは、ずっと憧れていたこと叶えてみよう。私が知ってる男性ならきっと嫌がるから、ライムに彼氏ができても我慢するしかないなぁと思ってた事を試せるんじゃないだろうか。


「美術館デートに行く!」



   ◇   ◇   ◇



週末の朝、ライムは美術館デートの準備を始める。


普段は絵を描くことに夢中で、外出の際もあまり気にしない服装をしているが、今日は少しだけおしゃれをすることに決める。


着替えてリビングに行くと、ユーキが準備万端で待っていた。


「今日の服、とても可愛いよ」


ユーキが褒めてくれるので、ライムは嬉しくなって早くもテンションが上がった。


「ありがと!でも、良かったの?美術館はユーキが退屈しないかな?無理して行かなくても……」


「俺も楽しみにしてるよ、ライムが好きな画家の絵もあるんでしょ?」


「うん、そうなんだ!私は何度も行ってるけど、いつもは一人で行ってたから、誰かと一緒に行くの、楽しみなの!」


無邪気な笑顔で答えるライム。自分で思ってた以上に、今日の美術館デートが楽しみでしようがない。


「さあ、行こうか!」


「うん!」



   ◇   ◇   ◇



美術館に到着すると、ライムは興奮を抑えきれない様子で、ユーキの手を引いて中に入っていく。


「ユーキ、早く早く!今回の特別展、すごく楽しみなの!」


ユーキは微笑みながらライムについてくる。


「そうだね。君の好きな画家の作品もあるんだよね?」


「うん!特に楽しみなのは、エリナ・ブルームの『夢見る森』よ。実物を見るのは初めてなの!」


二人は展示室に入り、ゆっくりと作品を鑑賞して行く。ライムは各作品の前で立ち止まり、ユーキに向かって熱心に解説を始める。


「ねえユーキ、この絵の色使いを見て。画家がどんな気持ちでこの色を選んだと思う?」


こんな事を絵画に興味のない彼氏に言ったら、きっと不機嫌そうに「知らない」って言われてしまう。でも完璧な彼氏のユーキは真剣に絵を見つめ、自分なりの解釈を見出した。


「うーん、深い緑は自然の神秘を表現してるのかな。でも、所々に散りばめられた金色の光が希望を感じさせるね」


「そう!私もそう感じるの!特にこのうっすらと描かれた赤いラインが、構図を引き締めてるのよ!」


ライムは嬉しそうに笑顔を見せる。


しばらく歩いていくと、ついに『夢見る森』の前に到着した。ライムは息を呑むように絵を見つめる。


「わぁ!本当に幻想的……」


夢中になるあまりデートだというのに、ライムはユーキの事を忘れて絵に見入ってしまった。ハッとなって振り返ると、ユーキもその美しさに見入ってる。


「確かに素晴らしいね。想像力が画面から溢れ出てくるようだ」


「ねえ、この霧がかった森の表現を見て。ブルームの内なる神秘性を表現してるの。そして、この輝く蝶。夢と現実の境界を象徴してるのよ」


「君の解説を聞くと、絵がより生き生きと見えてくるね。本当に素晴らしいよ、ライム」


ライムは照れくさそうに微笑み、ユーキが退屈してない事にほっとした。


「えへへ、ありがとう。ユーキと一緒に見られて本当に嬉しいわ」


美術館内のカフェで休憩を取ることにした二人。コーヒーを飲みながら、見た作品について、ライムは思い切ってユーキに聞いてみた。


「ユーキ、今日はどの作品が一番印象に残った?」


「やっぱり『夢見る森』かな。でも、アレックス・ノヴァの『時の螺旋』も印象的だったよ」


「わかる!『時の螺旋』は本当に不思議な魅力がある作品よね」


「そうだね。時間の流れを視覚化した感じがして、見ていると引き込まれるんだ」


「うん、ノヴァの作品は時間と空間の概念を独特の方法で表現してるのよ。例えば、螺旋の中に描かれた象徴的な物や風景。私は技法ばかり見てたけど、ユーキが『共通する要素が歴史の重なりを感じるね』って言ってくれて、初めて気づいたの。改めて作品の深さを感じ取れたわ」


ユーキは優しく微笑みます。


「同じ絵を見ても見る人によって感じ方は変わるから、それをこうして語り合えるって楽しいね」


「うん!すごく楽しいよ!」


ライムは心から楽しいと思えた。まさか夢見てた美術館デートが実現するなんて、信じられない。これが夢なら覚めないで欲しいと願ってる。


「ねえユーキ、いま、私は難しいテーマに取り組んでいるの。でもまだ見えてない。私も素晴らしい作品を描けるかな?」


ライムが少し不安そうに尋ねると、ユーキは真剣な表情で答えてくれる。


「もちろんだよ。君には才能がある。それに、こんなに情熱を持って絵と向き合ってる。きっと素晴らしい作品を生み出せるはずだ」


「ありがとう、ユーキ。あなたがそう言ってくれると、頑張れる気がするわ」


美術館を出た後、二人は近くの公園にやってきた。ライムはスケッチブックを取り出し、ユーキに尋ねた。


「ユーキ、少し描いてもいい?今日の感動を形にしたくなっちゃって」


「もちろん。ライムの創作の時間を大切にして」


ユーキは優しく答えてくれる。


ライムが絵を描く間、ユーキは静かに見守り、時折飲み物を差し出し、甲斐甲斐しく世話までしてくれた。


「ありがとう、ユーキ。あなたがいてくれるだけで、描くのが楽しいの」


「俺も君が絵を描く姿を見るのが好きだよ。君の表情が生き生きとしてるから」


「本当?ありがとう、ユーキ。今日はあなたと一緒に過ごせて本当に幸せだったわ」



   ◇   ◇   ◇



俺は覚悟を決めた。


その日は、月夢(ライム)と付き合い始めてちょうど一年の記念日だった。記念日が近づくにつれ、俺は月夢(ライム)の喜ぶ顔を思い浮かべながら特別な計画を立てていた。俺が選んだのは、小さな島で開催されるアートフェスティバルだった。


世界中から集まったアーティストたちが作品を展示し、島全体が巨大なギャラリーとなる場所だ。


「今から楽しみすぎて、船から海に飛び込みたいくらいだよ!」


「よくわからないけど、喜んでもらえたのなら良かったよ」


俺たちは島に渡るための船に乗っていた。朝早く起き、急いで身支度をして電車を乗り継ぎ、やって来た。


島に到着すると、俺は月夢(ライム)の手をしっかりと握った。港から見える景色は、緑豊かな自然と、所々に点在するアート作品が調和した美しい風景だった。


月夢(ライム)の目は輝き、期待に満ちた表情を浮かべている。


「すごい!夢みたいだよ!」


「また俺のほっぺをつねってみる?」


「ううん、大丈夫。でも、しっかり握って手を離さないでね」


「わかった」


俺たちはしっかり手を繋いで、アートの島へと足を踏み入れた。


まず出迎えたのは、巨大なインスタレーション作品だった。屋外に設置されたこの作品は、まるで巨大なアーケードのような枠組みの中に、様々なアートのきっかけとなった出来事が集約されていた。


枠組みは錆びついた鉄骨で構成され、その上には色とりどりの布やリボンが風に揺れていた。布の間には、様々な素材で作られたオブジェや彫刻が点在し、それぞれが異なる時代や文化のアートの誕生を象徴していた。絵画の複製や歴史的な写真も混ざり合い、訪れる人々にアートの歴史を語りかけているようだった。


「すごい情報量。まるで頭に直接、アートの歴史を注ぎ込まれているみたい!」


月夢(ライム)は目を輝かせながら、手を伸ばして布やオブジェに触れようとした。


「本当に。様々なものが集められて調和を試みている。驚きだね」


俺は応え、月夢(ライム)と共に作品の細部をじっくりと観察した。



   ◇   ◇   ◇



フェスティバルの会場を巡りながら、俺は月夢(ライム)が次々と新しいアート作品に引き込まれる様子を見守っていた。特に、地元の子供たちが作ったカラフルなモザイク作品に月夢(ライム)は心を奪われ、その純粋な創作意欲に感銘を受けていた。


「このモザイク、本当に素敵ね。子供たちのピュアな気持ちが星のようにキラキラ輝いてる」


月夢(ライム)は感嘆の声を上げた。


「そうだね。子供たちの純粋さと想像力には驚かされるよ」


昼食には、島の特産品を使った料理が楽しめるカフェに立ち寄った。テラス席から見える青い海と空は、まるで一枚の絵画のようだった。


食事が終わったら、月夢(ライム)がスケッチブックを取り出し、即興で風景を描き始める。俺はその傍らで彼女を見守りながら、自分の異変を月夢(ライム)に悟られないように、震える手をテーブルの下に隠した。


月夢(ライム)がスケッチに集中する姿を見ながら、俺の心は複雑な思いで満たされていた。ライムがアートに夢中になるほど、彼女の世界での俺の存在が揺らぐように希薄に感じることがあった。


月夢(ライム)が筆を走らせる間、俺は彼女の顔を見つめながら、その気高い姿を少しでも記憶に留めようとした。


しばしスケッチブックに夢中だった月夢(ライム)が顔を上げ、俺に言った。


「他にもいっぱい見たい!行きましょう!」


「うん、行こう」


◇ ◇ ◇


午後も島の中をくまなく歩き回り、展示されたアート作品に魅了され、刺激され、感動しながら、月夢(ライム)は堪能しているようだった。その様子を見て、俺はここに来て良かったと思った。


帰りの船便に乗る前に、俺は月夢(ライム)をサプライズで夕日の見える丘へ連れて行った。そこで二人は、日が沈む瞬間を手を繋ぎながら、静かに見つめていた。


「今日は本当にありがとう」


月夢(ライム)が静かに言った。


「俺こそ、感謝の気持ちでいっぱいだよ。今日のこともそうだし、ライムと付き合うようになってからの一年、ライムと一緒だから、とても楽しかった。これからもずっと一緒に楽しくありたいと願ってるよ」


「……そっか、そうだったね。今日は一年記念でここに来たんだったね」


月夢(ライム)は寂しそうな表情で、俺を見ずに夕日だけを見ている。俺はその横顔を見つめながら、月夢(ライム)の言葉に強い違和感を感じていた。


「……ライムは楽しくなかった?」


「楽しかったよ。こんなにはしゃいだのは久しぶり……というか初めてかもしれない。でも、だからこそ今、急にさびしく感じちゃって」


月夢(ライム)はまだ俺を見ない。俺は急激に押し寄せてくる夜の気配に似た、自分の中に湧き上がってくる変化に気づいていた。


「たそがれ時は、何かが終わりを告げる。闇色の帳が降りると、楽しかったことも悲しかったことも、すべてがその静寂の中に包まれて、終わったことさえ隠してしまう」


俺がそう呟いた。それは意図した発言ではなく、感情の発露、口を突いて出た言葉だった。すると、少しの間を開けて、びっくりした表情で、月夢(ライム)が初めて俺を見た。


「詩的だね、急に。誰かの詩の引用なの?」


「いや、いま頭に浮かんだ言葉だよ」


「へえ、意外!詩の才能があるんじゃないかな?」


急激に暗くなっていく世界で、月夢(ライム)は俺をしっかり見つめながら、続けて言葉を紡いだ。


「きっとユーキならもうわかってると思うけど、わたし、ユーキのこと、覚えてないの。ある朝、目が覚めたらユーキがいた。最初は夢でも見てるんだと思ってた」


突然の告白に、俺は言葉が出ない。今はただしっかり握った月夢(ライム)の手の感触だけが、この世界に俺を縫い付けている。


月夢(ライム)が続けて言った。


「付き合って一年の記念にって言われても、わたしは何も覚えてないから、正直に言って、怖かったんだ。どこに連れて行かれるんだろうって」


「アートフェスに行くよって伝えたよ?」


「ううん、場所のことじゃなくて、わたしたちの関係のこと。わたしはずっと一人だったから、男の人はもちろんだけど、女の人とだって、こんなに親しくなったことさえ覚えがない」


それは天才であるがための贖罪か。あまりに飛び抜けた才能を持つものが、ふと周りを見回したとき、自分と同じ風景を見ている者がいないことに気づく。俺にはその孤独感はわからない。


「なら、良かったよ」


「え?」


「俺はライムに何をしてあげられるだろうってずっと考えてた。それが、いまはっきりと俺がライムにしてあげられることがわかったよ」


「それはなに?」


「ずっと一人だっていうライムと、これからはずっと一緒に居てあげられる。ほら、この島に来たときにライムは言ったよね。手を離さないでね、って」


今も俺たちが繋いだ手はしっかり互いに握りしめ合っている。まるで手を離せば、奈落の底に落ちてしまいそうな気持ちを抱く。


「うん」


「ずっと離さない。ずっとライムと一緒にいるよ」


その言葉を聞いて、月夢(ライム)はじっと俺を見つめて、黙っている。彼女の中で何が起こっているのか俺にはわからないが、じっと待つしかない。


現実が揺らぎ、流されてしまいそうになっても。


すっかり日が落ちて、暗くなってしまったけれど、月夢(ライム)の双眸は煌々と輝き、俺を見つめているように思えた。


「……絵を描く時は離して欲しいかな、ずっと手を繋いでたら、絵が描けないから」


少し恥ずかしそうに、月夢(ライム)がつぶやいた。


「もちろんだよ。月夢(ライム)の創作の時間は大切にして欲しい。邪魔はしない。その合間で良いんだよ」


「うん、だったら嬉しい」


月夢(ライム)のその照れた様子が可愛くて、俺は月夢(ライム)を包むように抱きしめた。月夢(ライム)も少し恥ずかしそうに、俺を受け入れて、俺の背に手を回してくれる。


「さ、帰ろうか。船が行っちゃうと島に泊まらなきゃいけなくなる」


俺が努めて明るい声でそう言った。


「え!それを早く言ってよ!あと何分あるの?」


「うーん、数分もないかも」


「急ごう!」


再び俺の手をしっかり握った月夢(ライム)が引っ張る。それに引き上げられるように、俺は歩き出した。



   ◇   ◇   ◇



ぴぴぴ、と電子音が響き、ライムが脇に挟んだ体温計を引き抜いた。


「37.6度、微熱だね」


「微妙。いっそ高熱だったら諦めもつくのに」


ライムは朝起きたら妙に体がだるい。朝食を食べるためにダイニングに行くと、すぐにライムの異変に気付いたユーキが、体温計を差し出すので、体温をはかってみた。


「他に何か症状はある?喉が痛いとか鼻水が止まらないとか」


「怠いだけ。喉は痛くないよ」


「そっか。じゃ、病院に行こうか」


「え、病院なんか行かないよ。寝てれば治るでしょ?」


ユーキが大袈裟なことを言うので、ライムはびっくりする。風邪くらいで病院には行かないだろう。


「そういうわけには行かないよ。感染症の場合、今は症状が軽くても、後で恐ろしい後遺症が……」


「いいから!病院なんか行かないよ!」


ユーキは心配性なんだろうか。今までだって熱で寝込んだことはあったけど、寝てれば治った。たいした熱でもないし。ライムはそのまま寝室に引き返そうとしたが、ユーキが呼び止める。


「後で飲み物を持って行くから」


「わかった」


ライムは寝室に戻り、ベッドに潜り込む。


ライムがベッドに潜り込んでしばらくすると、ユーキが部屋に入ってきた。手には温かい飲み物の入ったマグカップと、タオルが載せられたお盆を持っている。


「ライム、少し起きられる?温かい蜂蜜レモンを持ってきたよ」


ライムは少し面倒くさそうに体を起こす。


「ありがとう、でも大丈夫だよ。そんなに気を使わなくても……」


「いや、これを飲むと喉が潤って楽になるはずだよ。それに、ビタミンCも摂取できるし」


ユーキは熱心に説明しながら、マグカップをライムに手渡す。ライムは仕方なく受け取り、少しだけ飲む。


「うん、美味しい。ありがとう」


「良かった。あ、それと、これは冷えピタ。額に貼ると熱が下がるかもしれない」


ユーキはタオルの下から冷えピタを取り出し、ライムの額に貼ろうとする。


「え、いいよ。そこまでしなくても……」


「でも、これで少しは楽になるはずだよ」


ユーキは構わず冷えピタをライムの額に貼る。ライムは少し居心地悪そうな表情を浮かべるが、黙って受け入れる。


「それと、ときどき体温を測ろうね。熱が上がってきたら病院に行こう」


「ユーキ、本当にそこまでしなくていいって。ちょっと休めば治るよ」


「でも、万が一のことがあったら……」


「わかったわ。でも、少し休ませて」


ライムは疲れた様子で言う。ユーキは少し躊躇いながらも、部屋を出て行く。


数時間後、ユーキは再びライムの部屋に入ってくる。今度は手に湯気の立つお椀を持っている。


「ライム、野菜スープを作ったよ。これなら食欲がなくても栄養をしっかり取れる。早く治るはずだ」


ライムは起き上がり、困惑した表情でユーキを見る。


「ユーキ、ありがとう。でも本当に大丈夫だから……」


「いや、食べた方がいいよ。薬もあるから、もし熱が辛いようだったら……」


ユーキはスープと一緒に薬を差し出す。ライムは渋々受け取るが、内心では少しイライラし始めている。


「ユーキ、心配してくれるのはわかるけど、こんなに大げさにしなくても……」


「でも、ライムの健康が一番大切だから」


ユーキの真剣な表情を見て、ライムは何も言えなくなる。仕方なくスープを少し飲み、薬を飲む。


「しばらく眠りたいからそっとしておいて。ユーキに頼みたいことがあったら、言うから」


「わかった、気兼ねなく言ってね」


そう言いながら微笑んで、ユーキは寝室を出て行き、ライムは大きなため息をついた。


ベッドに横たわりながら、ライムは考える。


(ユーキは私のことを思ってくれてるんだろうけど)


ライムの中に二つの考えが対立してた。


一つは、ユーキが理想の彼氏で、ライムがそう望んだ通りの素晴らしい男性なのだから、彼のことを何も覚えてないけど、受け入れるべきだという考え。


もう一つは、ライムにとってはユーキは突然に現れた異物で、役に立つなら置いていても良かったが、邪魔になるなら、要らないという考え。


今は後者が優勢だ。


時々はユーキが大切に思える時もある。家事をしてくれるし、ご飯も美味しい。ライムの喜ぶ事を考えてくれる。美術館デートやアートフェスも本当に楽しかった。


でも、どこの誰だかわからない男性が自分の生活を侵食してる、という気持ちが正直なところだった。


アートフェスのとき、ユーキのことを覚えてないと、決死の覚悟で告げたのに、はぐらかされた。


夕陽を見ながら「ずっと一緒にいるよ」と言われて、たぶん喜ぶべきだったんだろうけど、喜びより邪魔だなって思った。


せめてもの抵抗で「絵を描く時は邪魔するな」という気持ちを伝えたつもりだ。それまでだって、ユーキはライムが絵を描く時に邪魔はしなかった。口出しもしない。


だけど、絵を描いてる時に、ふとユーキのことを考えてる時があって、間接的に邪魔されてる気持ちになる。


何もかも、面倒になる。


(こんなに面倒くさいなら、恋人なんていなくてもよかったかも...)


ライムはため息をつき、目を閉じた。


次の日には風邪は治ったものの、心の中に小さくない亀裂が生まれていた。



   ◇   ◇   ◇



今、月夢(ライム)は作業部屋に籠って、大きなキャンバスに向かい、緊張と興奮が入り混じった表情で筆を走らせてるだろう。


俺は時折作業部屋から出てくる月夢(ライム)の様子を見つめながら、心配でならなかった。


月夢(ライム)が挑戦する「新星アート展」は、若手アーティストの登竜門として名高いコンクールだ。毎年全国から才能あるアーティストたちが集まり、その厳しい審査を通過した作品だけが選ばれる。月夢(ライム)にとって、このコンクールは自身の才能を証明する絶好の機会だった。


美術の世界に詳しくない俺も、月夢(ライム)のサポートのためにコンクールのことを詳しく調べた。参加資格は18歳から30歳までの若手アーティストで、月夢(ライム)のような美術大学の学生も歓迎される。


応募作品は、油彩、水彩、アクリル、デジタルペインティングなど多様な技法が認められており、テーマは自由だ。しかし、技術力、表現力、独創性、そして自らが決めたテーマに対する解釈力が厳しく評価される。


月夢(ライム)の作品は間違いなく美しい。その才能には少しも心配するところなど無いはずだが、彼女自身がそのプレッシャーに耐えられるかが気がかりだった。


月夢(ライム)は難しいテーマに取り組んでいた。そのテーマについて、詳しくは教えてもらえなかったが、何か大きな犠牲を必要とするテーマだと言ってた。とても苦しんでいる様子だった。


俺は月夢(ライム)のためにできることを考えた。


月夢(ライム)から「作業部屋には入るな」と言われている。用があれば自分で部屋から出てくるからと。だからできることは限られていた。


いつお腹が空いたと言われても、何か食べるものを用意できるように準備しておき、月夢(ライム)から何か買ってきて欲しいと頼まれた時のために、いつでもすぐに出かけられる準備をしていた。


大学の講義は単位に必要なものだけ受けて、出席数が単位に影響しない教授の講義は友達からノートをコピーさせてもらった。提出の必要がある製図はダイニングのテーブルにて持ち運べるドラフターを使って書いた。


俺の自室もあるが、月夢(ライム)が作業部屋から出てくるのをいち早く知るために、眠るのもリビングのソファで寝た。


しかし、そういった献身が逆に月夢(ライム)を苛立たせた。


「ライム、コーヒーを準備しておいたよ。少し休憩したらどう?」


俺は月夢(ライム)が作業部屋から出てくるタイミングがわかってきたので、あらかじめ月夢(ライム)の好み通りにしたコーヒーを用意して待っていた。ところが、待たれていたことが月夢(ライム)にとっては監視されているようで気に障ったようだ。


「私が出てくるのをじっと待ってるの?」


「いや、たまたまライムが出てくる頃合いだと思ったら、出てきただけ。ずっと待ってるわけじゃないよ」


「それは嘘。わざわざリビングで寝たり、ここで課題をやったりしてるでしょう。見張られてるみたいで、気持ち悪いのよ」


「……それはごめん。そんなつもりはないんだ。ただライムのために何かできないかと思ってーー」


「いつもそれを言うけど、うざい。私のため、私のため、そればっかり。私がそう頼んだわけじゃないのに」


俺は黙ってしまう。苛立っている月夢(ライム)に何を言っても、悪いように取られてしまう。かと言って謝ってばかりでも、きっと苛立ちを募らせるだけ。


そんな様子の俺に、ついに彼女の中でずっとギリギリで均衡を保っていた天秤が、大きく傾く時が来た。


「ユーキ、あなたは私が描いた絵から出てきた理想の彼氏。私のためにできる事はあるわ。今すぐ消えて、なくなってよ」



   ◇   ◇   ◇



ライムは満足げに出来上がった作品を眺めていた。


「もっと時間がかかるかも、って心配してたけど、急に筆の進みが良くなった。間に合って良かった」


その作品はライムが絵画コンクールの『新星アート展』のために半年も前から構想をあたためて、一ヶ月かけて書き上げた油絵だ。


テーマは「秘められたまま消える悠久の美」だ。


存在の終焉が近づくとき、その美しさが初めて輝きを増す。混沌の中にあって、悠久の時の中で繰り返され、人々に寄り添いながら、気づくことなく消えていく美しさ。犠牲と対比の中で浮かび上がる、儚くも永遠に感じられる瞬間を描いた。


これは、失われて初めて気付く美しさを讃える絵画。


ライムはずっとそれがどんな物であるかを考え続けていたが、あと少しで掴めそうなのに掴めず、いざ作品を描き始めてもなお、満足のいくものには仕上がらず、焦ってた。


でも、何故か急に、それが何かわかったのだ。まるでそれを目の当たりにしたかのように。


自分の内側から溢れてきた感情のままに、筆を叩きつけるように描いた。一気に描き上げた。素晴らしい全能感だ。どんなことも描き現し、だれであっても感動させられる、創作の女神になったかのような感覚を味わった。


「さて、一休みしよう。彼が休憩しろってうるさいし」


作業部屋を出て、ダイニングへと向かう。なんだかスッキリした気持ちだったので、足取りも軽い。ずっと構ってなかったけど、彼に甘えてみるのも良いな、ご褒美だよね、とライムは考えていた。


「ねえ、コーヒーが飲みたいんだけど……」


ダイニングにも、キッチンにも誰も居なかった。可動間仕切りで仕切られたリビングを覗いてみても居ない。不思議と、探し回るまでもなく、このマンションには自分しかいないという確信があった。だって、彼は――。


「どこに行ったんだろう?」


嫌な思いから目を逸らし、テーブルの上にはコーヒーカップを見つけた。中にはコーヒーが入っているようだったので、のどが渇いていたのもあって、躊躇いなくそのコーヒーカップを手に取り、ぐいっと飲み干す。


すっかり冷めたコーヒーは、甘くて、ライムの好きな味になっていた。


急に身体の力が抜けるように、ライムは床に座り込んだ。自分がいったい何をしたのか、今になって、恐ろしくなってしまった。


わかってた。いったい何をしてしまったのか。


「うそ、でしょ……」


ライムが「消えて」と言ったから、彼は本当に消えて無くなってしまったのだろうか。はっきりとは覚えていない。何か美しいものを見て、それを絵に描かなきゃ!と思って、作業部屋に飛び込んでしまった。


まるで夢を見て飛び起きたあとのようだ、感情だけ残ってるけど、どんな夢だったのか、まったく思い出せなくなっていく。


でも、彼が居ない。


ライムはノロノロと立ち上がり、彼の自室に向かった。思えば、彼が現れてから今まで一度も、彼の自室には入ったことがない。


もしその部屋が、空き部屋になってたらと思うとライムはもう恐ろしくて、身体の震えが止まらない。でも確認しないのはもっと恐ろしい。


控えめに、こんこん、とノックした。しかしなんの返事もない。念の為に声を掛けようとしたが、怖くて声が出ない。意を決して、ドアノブを回し、ドアを開く。


そこには彼が居た痕跡があった。デスクにベッドにクローゼット。ライムのものでは絶対にない家具や道具があった。部屋に入ってみると、ふわっと彼の残り香を感じた。


ライムは安堵して、力が抜けた。床に座り込んで、周りを見回す。彼は確かに居た。ここにはその証拠がある。


彼らしく、きちんと整理整頓されている。彼が図面を書くのに使ってた定規の付いた板みたいな道具も壁に立てかけてあった。


でも、彼は居ない。


そう思うと涙と悲しみの感情が溢れてきた。彼の部屋でしゃがみこんで、ずっと泣いていた。


「ごめん、わたし、きえてなんて、本気で思ってなかった。なんかむしゃくしゃして、消えろって言ったら、どうなるんだろうって思ったの。ごめん、なさい」



   ◇   ◇   ◇



気がつくと、朝になってた。


彼の部屋で、泣きながら寝ちゃってたらしい。彼の部屋を出て、ダイニングに戻ったけど、彼は居なかった。


「ねえ、帰ってきてよ。私が悪かったの。謝るから。お詫びに何でもするから。出てきてよ」


再び溢れてくる涙を止めてくれる彼も、慰めてくれる存在も現れない。一人じゃ何もできない。強い後悔にライムは動けなくなってしまった。


どうせ消えるなら、何もかも消えてくれれば良かったのに。彼が居た痕跡や、この孤独感までも。


ふと遠くで何か音が鳴っている気がした。


最初はマンションの外の音なのかと思っていたが、それは自分のスマートフォンのバイブレーションである事に気がついた。


「彼かも!」


飛び出すように立ち上がり、作業部屋に向かう。そこには震え続けてるスマートフォンがあった。ライムは急ぎスマートフォンを手にして、画面を見る。


そこには『カナネ』と表示されてた。彼のはずもなかった。でも、今はありがたい、電話に出た。


「あ!やっと出た!もう何度かけたとーー」


「カナネ!助けて!彼が消えちゃった!」


「え?何を言ってーー」


「どうしよ!わたし、消えろって言っちゃって!」


「ライム!落ち着いて!電話じゃわからないから、今から言うところに来て!」



   ◇   ◇   ◇



私、可南子(カナネ)は泣きじゃくる月夢(ライム)を見つめながら、さてどうしたものかと冷静に思案していた。


ひとまず月夢(ライム)を駅前の喫茶店に呼び出したまでは良かったが、月夢(ライム)から聞き出した状況は、思っていた以上に複雑だった。


月夢(ライム)は彼のことを、自分が描いた絵から出てきた理想の彼氏だと思い込んでいた。そして、彼が自分を大切にしてくれていると感じる一方で、彼を邪魔にも思っていたという。


創作がうまくいかない苛立ちから「消えろ」と言ってしまい――。


「そしたら、本当に消えちゃったみたいに、いなくなったの」


月夢(ライム)が消えたと思ってるみたいだが、彼の私物はすべて残っているらしいので、それが意味するのは、月夢(ライム)の深層心理ではまだ彼の存在を認めているということだ。そうでなければ、月夢(ライム)が言うように「消した」のなら、彼が居たという記憶さえも消えているはずだ。


月夢(ライム)は非常に不安定だった。創作の女神のごとく素晴らしい絵画を描く彼女は、時に現実と想像の世界を行き来し、現実の認識があやふやになることがあった。現実感喪失というらしい。


月夢(ライム)を知る人たちの中で、それは「現実が揺らぐ」と表現されていた。日常的に些細なことが揺らいでいた。


授業中、月夢(ライム)は突然手に持っている鉛筆を見つめ、「鉛筆が踊ってる!」と言い出した。鉛筆はただ手に持って絵を描いていただけなのに、月夢(ライム)の目にはその鉛筆がスケッチブックの上で自由に踊り回っているように見えていたらしい。


水たまりの水面を指さして「水中に街が見える!」と言い出したときもあった。周りの人々にはただの水面しか見えない。彼女の目には水の中に美しい街が広がっているように見えていたらしく、その様子を彼女はその場でスケッチして、見せてくれた。そこには本当に美しい城下町のような風景が描かれてた。


でも、今回のようにひとりの存在に関する揺らぎは、私が知る限り初めてのことだ。


月夢(ライム)をしっかりと現実に戻すには、慎重に質問を重ねていき、月夢(ライム)に段階的に現実感を取り戻させる必要がある。


手順を間違えれば、彼氏を自分が消してしまったという過酷な現実が月夢(ライム)の中で定着してしまう。そうなれば、心に深い傷が残り、新たに彼氏を作ることも、人間関係全般にも影響が出てしまうだろう。


何より、私の存在すらも、月夢(ライム)の望むところでなくなれば揺らぐかもしれない。目の前にいても、その存在を感じられなくなり、月夢(ライム)はずっと孤独に泣き続けることになるだろう。その姿を想像するだけで、私の胸は締め付けられる思いだ。


大切なのは、質問の順番だ。月夢(ライム)が彼を必要とするように誘導する。


「ライム、少し話そうか」


私は意を決して、そう切り出した。


「うん」


涙を拭いながら、月夢(ライム)はしっかりと私を見つめた。


「最近の自分の作品でさ、一番気に入ってるのはどれ?」


「え?私の絵のこと?」


「そう。彼のことは心配だと思うけど、まずは私の質問にだけ答えてみてほしいの」


「……そうね。やっぱり描きあげたばかりの、『新星アート展』のために描いた絵かな。タイトルはまだ考えてないけど、テーマは「秘められたまま消える悠久の美」を描いているの」


月夢(ライム)は、私が何のつもりでそんなことを言いだしたのか納得できない様子だったが、自分の絵のことを聞かれたので素直に答えたようだ。


「そう。素晴らしいテーマね。私にはそのテーマでどんな絵を描くべきか、すぐには思い描けないわ。何か特別なインスピレーションがあったの?」


「うん、きっかけは自分の作業部屋を見て思ったことだった。こんなに物にあふれて、あらゆるものが整理されず、散らかっていたら、失くした物なんて見つからないし、あるいは失ってるってことさえ気づいていないんじゃないかって」


「ああ、わかるわ。私も部屋はひどいの。特に美容道具ね。いろんなのを試してるから、もうどれがどんなつもりで買ったのかわからないときがあるのよ」


「あはは。カナネでもそうなんだね」


少し笑った月夢(ライム)は、少しだけリラックスできたようだ。私はもう少し踏み込んでも大丈夫と判断して、月夢(ライム)に話の続きを促す。


「散らかった部屋を見て、特別なインスピレーションを感じたのね?」


「うん。私は美しいものを描きたいってずっと思ってる。そのためなら、他に何もいらない。でも、部屋の中を見て思ったの、こんなに散らかった部屋の中にさえ、私が気付かないまま、私が描きたくなるような美しいものが生まれ、そして失われていってるんじゃないか」


「ライムの美しいものを描きたいという執念はすごいものね」


「うん。でも、なかなか描けなかったの。だって、大きな矛盾を持つテーマだわ。誰もが見たくなるような美しさを持ちながら、人の目には触れていない。しかし失われているからこそ、さらに美しく輝くもの」


「失って、初めて気づく、ということね?」


「そう。私も大切なものを失ってみなければ描けないと思った。犠牲を払わなければ。でも、私にとって大切なものは絵描くことしかないの。もし絵を描くことを失ったら、私はもう生きる意味もなくなってしまう」


「つまり、絵を失わなければその美しさを見つけられないけれど、絵を失ったらそのテーマを描くこともできない、ジレンマね」


「そうなの。だからずっと私は描けなくて苦しんでいたの。でも、何かつかめそうな感覚はずっとあったの。あと少しで私にも見えてくるんじゃないかという予感があったの」


「それで、ついに見えたんだね。その美しさが」


「ええ、美しい輝きを放つ失われつつあるものを見た気がする」


その言葉の意味するところは一つしかないが、しかし今は追求しない。次の段階に進むのは今だと私は感じた。月夢(ライム)に彼の存在を想起させなくてはいけない。


「そもそもあなたに彼がいなかったら、その作品はどう変わっていたと思う?」


「え?」


「ライムは、ある日に突然に、彼が現れたと言ったわ。その素晴らしいテーマに影響を与えたのではないの?」


「……そうね、影響はしてると思う。彼が現れて、新たな経験をたくさんした。アートフェスに行ったときに、それまで輪郭さえ見えていなかったテーマのシルエットが見えてきた気がする」


月夢(ライム)が考え込む様子を見て、私はそのままに考えさせるのではなく、別の視点を与えるべきだと思った。一つのことだけで強く考え込んでしまうと、思考の袋小路に入って出てこれなくなってしまう。


「その絵を描いているとき、彼はどうしていたの?」


「……え。彼?彼は、私のためにいろいろしてくれてたみたい」


「いろいろって、部屋の掃除とか?」


「ううん、作業場には入らないでってお願いしてたから」


「どうして?」


「邪魔されたくないっていうのもあったの」


「彼に邪魔されたことあったの?」


「ううん、彼はいつだって私が絵を描くことを邪魔しなかった。私がデート中に絵を描き始めても、じっと静かに待っていてくれたの」


「じゃあ、部屋に来ても邪魔しないんじゃない?他に理由があったんじゃないの?」


「他に理由……?」


「うん。私はわかる気がするの。彼を部屋に入れなかった理由が他にあるって」


「え、それは何?」


「絵が完成するまで、未完成の絵を見られたくなかったんだよ。私も経験あるもの。描いている途中を覗き込まれるのって、なんか嫌だよね」


「あ、そうかも。そう言われたら、すごくそうだって気がしてきた」


「ライムは、絵を描いているとき、これが完成したら誰かに見せたいって思う?」


「ううん、あまり思ったことないの。自分が描きたいから描いてる」


「彼に自分の絵を見せたことはある?」


「え?う、うん、何度もあるよ」


「彼はライムの絵をどう評価してた?他の人とは違う反応はある?」


「うん、全然違うよ。彼は美術に詳しいわけじゃないから、技法とかはわかってないんだ。でも、まるで物語を読むように、本のページをめくるみたいに、一ページずつ読み解くの。それに絵の世界を空間としてとらえるの。構図に描かれてない外側まで見えてるみたいなの!」


「へぇ。ライムとは違った感性なんだね」


「そうなの!でも、だからこそ彼と一緒に絵を見ていると感動するの。そっか、そんな風にも見えるんだなって――」


「そんな彼に、完成した絵を見てほしかったんだね。だから作業中は見られたくなかった」


そう言うと、月夢(ライム)は黙り込んでしまった。今まで誰かに見てほしくて絵を描いたことなどなかっただけに、自分が彼に見てほしいと思っていたということが、なかなか受け入れられないように思えた。だから、私は続けた。


「私はその気持ち、わかるよ」


「……」


「完成した絵を見せて感動させたい。その感想が聞きたいって気持ち。特に、自分のことを理解して応援してくれる人なら、なおさらだよ」


大きく目を見開いた月夢(ライム)は、初めて自分の苛立ちの理由を知ったようだった。


締め切りに間に合わないから焦っていたのではない。自分が望む完成に近づけないから苦しんでいたのでもない。


一緒に美術館デートをしたり、アートフェスに行ったことで、月夢(ライム)は新しい喜びを知ってしまったのだ。月夢(ライム)が共に語り合いたかったのは、他の誰でもない、彼だったはずだ。


「……そうかも」


「今までライムはずっと一人だって思ってた。だからあまり経験がないのかもね。私は絵を描き続けるモチベーションは、大切な人に見てもらいたいっていうものもあるの」


「うん、今ならわかるよ。私も、今すぐにでも彼に見てほしい。一緒に見てほしい。でも、そんな彼を私は――」


「ライムの住んでる今のマンション、間取りって、3LDKだっけ?」


また急に話が変わったので、月夢(ライム)は目を白黒させてびっくりした。しかし、反射的に質問には返事をしてしまう。


「うん、そうだけど」


「一人暮らしには広すぎない?」


「うん、でも、寝室と作業部屋はぜったい分けておきたかったから、そうしないと寝る場所がなくなっちゃうんだ」


「それでも、2部屋あれば十分でしょう?掃除もしないで、部屋だけ余らせても無駄よ」


「それはそうなんだけど……。カナネ、一体何が聞きたいの?」


「ライム、私はね、あなたから聞いたの。彼を初めて自分の部屋に招いた日のことを」


「わ、わたしから?!」


「うん。今のマンションじゃなくて、前に住んでいたアパートの時の話よ」


「前に住んでたのって、ワンルームだったときね」


「そう。ドキドキしながら彼を迎えたのに、部屋があまりにひどい有様で、見かねた彼は片づけを始めてしまった。その時、手伝うわけでもなく、その様子をスケッチした」


「部屋のスケッチ……!」


「掃除前と掃除後の部屋の様子をスケッチして、見比べられるように。そのビフォーアフターを私にも見せてくれたわよ」


「あのスケッチは、たしかに部屋がどんどん片付いていく様が面白くなって描いた!今思い出したわ。そうか、あれは彼が片づけてくれてたんだ」


「そして、彼はあなたに言ったわ。覚えてる?」


「それは、まったく思い出せない。なんて言ったの?」


「こんな状況じゃ病気になるから、もっと大きな部屋に引っ越して、一緒に住もう」


「……覚えてない。でも、だから私は今のマンションに引っ越したのね」


ここだと確信を持った私は、月夢(ライム)に最後通牒を突きつけることにした。


「彼は、ライムが描いた絵から出てきた理想の彼氏なんかじゃないわ。ずっと付き合っていた現実の彼氏よ」


「ほんとうに?」


「ええ。本人に聞いてみなさい」


「聞けるなら聞きたいよ!でも、消えちゃったから――」


「電話、してみた?」


「え、電話?」


「そうよ。普通、同棲している彼氏が家に帰ってこなかったら、まずは電話してみるものよ。どこにいるのか確認するの。スマートフォンを出してみなさい」


月夢(ライム)はトートバッグからスマートフォンを取り出した。私は手を差し出してそれを受け取り、月夢(ライム)にも見えるように机に置いたまま、メッセージアプリを開いた。彼の名前に未読を示すバッジがついているのを指さす。


「あ、ほら、彼からメッセージが来てるわよ」


「ユーキ……!」


月夢(ライム)は震える指で彼の名前「幻希(ユーキ)」をタップした。すると彼からのメッセージが開く。私にもはっきりと見える、「邪魔をしてごめん」とだけ書かれたメッセージ。それを見た月夢(ライム)は呟いた。


「ユーキは何も悪くない。私が勝手に怒っただけじゃない」


「そうね。それを彼に伝えてあげなさい。電話より、どこにいるのか聞いて会いに行った方がいいかもね」


「うん、聞いてみる」


ライムがスマートフォンを手に持って、文字を打ち込んでいる。短い文章だ。すぐに送信した。すると彼からもすぐに返事が来たようだ。


「え、家にいるって!」


「じゃあ、急いで帰って、謝りなさい」


「うん!ごめん、カナネ!この埋め合わせは――」


「いいわ、そんなの後でいいから。急いで!」


「うん!ありがとう!」


そう言って立ち去っていく月夢(ライム)の背中を見ながら、私はほっと胸を撫で下ろす。


「私まで揺らぐところだったわ。まったく。後は上手くやりなさいよ、ユーキ。世界を滅ぼさないでよ」



   ◇   ◇   ◇



「ユーキ!」


急ぎ、家に帰ったライムが飛び込んでいくと、いつも通りにキッチンに立って料理をしてるユーキが居た。


飛びつくようにライムはユーキに抱き着き、泣きながら謝った。


「ごめん、なさい、ひどいこと、いってーー」


「大丈夫、怒ってなんかいないよ」


「でも、居なくなってーー」


「邪魔しちゃいけないと思って、漫画喫茶で時間を潰してたんだ」


「わたし、ユーキを消しちゃったって思ってーー」


「消えたりしないよ。約束したでしょ?ずっと手を離さない、ずっと一緒にいるよって」


「うん、うんーー」


あとはライムの言葉は言葉にならなかった。ユーキは優しく頭を撫でて落ち着くのを辛抱強く待ってくれた。



   ◇   ◇   ◇



「私って病気なの?」


それが泣き止んだライムの第一声だった。


「病気?どうしてそう思ったの?」


「だって変だもの。今も、あなたと出会って一年、あなたの記憶だけは全くないの。美術館デートした頃からの記憶しかないわ。他の記憶はある。でも、その記憶には無数の矛盾がある」


カナネが教えてくれた。このマンションに住んでるのは、ユーキと同棲するため。言われてみると、その通りだと思った。一人暮らしじゃ、こんな広い家は必要ない。


掃除前と掃除後のスケッチも描いた記憶を今ははっきりと思い出した。どんどんと変わっていく部屋を見て、すごく楽しくなって描いたのをよく覚えてる。でも、その記憶に登場すべきユーキの姿だけ、思い出せない。


「俺は病気だとは思ってないよ。むしろ素晴らしい才能だと思ってる」


「素晴らしい才能?」


ライムは首を傾げた。ユーキは「ちょっと待って」と言って、ユーキの自室に入っていく。その様子を見ながら、そういえば、勝手にユーキの部屋に入ったことを謝らなきゃ、とライムは思った。


ユーキがスケッチブックを手にして、戻って来た。


「ユーキ!私、あなたを探して勝手に部屋に入っちゃった、ごめんね」


「ううん、いいよ。それより、これを見てほしい」


ライムはユーキの差し出したスケッチブックを手に取り、開いてみた。そこには墨で描かれた日常を切り取ったような絵があった。お世辞にも上手とは言えない。詳細な部分はよくわからない。だが、全体を俯瞰してみたときに、墨の濃淡が絵に立体感を生み出していることに気付く。


「これは、ユーキが描いたの?」


「そう。恥ずかしながら、俺が描いた絵だ。美大の建築学科に通う学生だから、絵も描くんだよ」


ライムは、ページをめくっていく。どの絵も、墨で描かれている。共通して、日常の中で心に残ったシーンを切り取って、自分が注目している物は濃く細い線で、それ以外は段階的に薄く太い線で描かれている。


「とても温かい絵だね。あなたの優しさが伝わってくる、こうして見てるだけで、心が温かくなるのがわかる」


「出会ったときも、ライムはそう言ってた」


「え?私、前にも見たことがあるの?」


「うん。このスケッチブックが、俺たちの出会いのきっかけ、そして俺たちが付き合うきっかけなんだ。俺が講義室に忘れてきたのに気づいて取りに戻ったら、ライムがスケッチブックを見てるところだった」


そんな大切な物、そんな大切な記憶を、どうして私は全く思い出せないんだろう。何より、絵の事で、私が覚えてないなんて、信じられない。こんな素敵な絵を見たことを忘れるなんて、ありえない。


「……私、憶えてない。思い出せないよ」


とてもつらく、悲しくなってきた。この絵を見るだけで、私はユーキが好きになった。こんな絵を描ける人なら、きっと私の理想的な彼氏になる。そう確信を持った。


「この絵を描いた人、きっと優しい人なんだろうな」


「え?」


「温かくて柔らかな笑顔を持ち、何気ない日常の一瞬一瞬を大切にする人。きっと、彼は周りの人々をよく観察し、その中から美しい瞬間を見つけ出している。その眼差しには、どんな小さなことでも見逃さない鋭さと、全てを包み込むような優しさが宿っている」


「……」


「彼は穏やかな声で話し、いつも人の話に真剣に耳を傾ける。忙しい日々の中でも、ふとした瞬間に立ち止まり、周りの景色や人々を見つめては、心に焼き付けているのだろう。そんな彼だからこそ、絵に描かれたシーンはどれも温かみがあり、見る人の心に深く響く」


「……、それ、言ったの、私?」


「こんな人と一緒にいられたら、きっと毎日が特別なものになるに違いない。彼氏になって欲しいな……」


その言葉を聞いたとき、ライムはふわっと記憶の残り香を嗅いだ気がした。その時の記憶は今も戻らないけど、何度繰り返しても、きっと同じことをライムは思うだろうという確信があった。


ライムにとって、どんな口説き文句より、どんな高価なプレゼントより、どんなイケメンであったとしても、このスケッチブックには敵わない。


まさに理想の彼氏。


「それを聞いていた俺が、ライムに声をかけた。そのスケッチブック、俺の忘れ物です。俺も、あなたの事が気になってました。俺と付き合ってください、って」


「私、なんて言いたか、当てようか?」


「どうぞ」


「絵を描くことしか考えてない絵描き馬鹿だけど、それでも良い?」


「驚いた!本当にそのままだよ!俺は、だからあなたは美しい、って言った。そして付き合うことになった。その場にいたライムの友だちがみんなびっくりしながら祝福してくれてたよ」


だからみんなユーキのことを知ってたんだ。色々と繋がってくる。


「不思議なの。今も、全く覚えてない。でも、この絵を見て、そう言われたら、私、ぜったいに恋をするわ。記憶が何度失われても、何度でも恋する自信があるわ」


「そう言ってた。ライムはそう言って、失ったんだ」


「え?」


「すべては、絵を描くため。ライムは、絵を描くために、俺との記憶を失った」



   ◇   ◇   ◇



彼女に、事の経緯を説明する。


「ライムは、難しいテーマに取り組むことになり、苦しんでいた。詳しくは教えてもらえなかったけど、大きな犠牲を必要とするテーマだと言ってた。でも、ライムは絵を描くことを犠牲には出来ない」


「うん、ずっと苦しんでた」


「ライムは、俺に聞いたんだ。あなたにとって美しく輝くものってなに?と。俺は答えた、君に出会ってからの思い出。とても楽しい日々、満たされた毎日」


「ユーキらしい答え」


「そうしたら、それ、私も持ってるね、絵しかないと思ったけど、ユーキを犠牲にしてでも見えるかも、と言い始めたんだ」


「あー、言いそう!それ、私が言いそうなことだ!今もそう思ったもん、ユーキが失われたら、きっとすごい絵が描ける――。え、あれ、もしかして、そういうこと?」


彼女はようやくにして答えに辿り着いた。すべては絵を描くためだ。


「正直、怖かったよ。今にもライムが包丁を手にして、俺を刺しに来るんじゃないかと」


「ちょ、ちょっと!さすがにそこまでしないよ!」


「いや、ライムが言ったんだよ。ぼそっと、包丁ってキッチンにあるよね?って」


「怖っ!その女、頭おかしいよ?別れた方がいいんじゃない?」


彼女がそういうのは間違ってる。さすがに客観的に見れば、自分の奇行がわかるんだなと意外な思いがした。


「でも、ライムは思い直してくれた。さすがにユーキを消すのは無理があるから、ユーキとの思い出を消してみるよって」


「どうやって?」


彼女の疑問は当然だろう。俺もそこだけは疑問だ。


「さあ。俺にはわからないよ。そして、俺との思い出は、そんなにあっさり消せるんだって、悲しかった。でも、君は言うんだ、ユーキとの思い出はユーキさえ居たら、また作れるから。このスケッチブックを見せて、付き合って欲しいって言ってみて。私はきっと簡単に口説けるって」


「もう一度言うけど、その女、頭おかしいよ?」


「そのスケッチブックを見せるタイミングは、絵の完成を待ってほしいとも言った」


「そっか。だから、今まではユーキは黙ってたんだね。私に何も説明せず、でも、私を大切にしてくれた」


「俺には、君が記憶を消した方法はわからないけど、たぶん方法なんてものはなくて、絵を描くために、邪魔だから消えろって念じたんじゃないかな」


「むちゃくちゃな説明だけど、納得できる。私だもの」


「ただ誤算があった。俺との思い出を消したは良いけど、その犠牲だけでは君は絵を描けなかったみたいだ」


「あ!確かに。考えてみたら忘れちゃってるんだから、見たかったものも見たかもしれないけど忘れちゃってるね」


あっけらかんと言うけど、俺との思い出は犠牲になったわけで。


「俺はライムの望みを叶えてあげたかった。そのために命を落とそうとも」


「え……」


「俺の事を忘れてしまったから、俺はライムにとって大切な物ではなくなった。だから、まずは好感度を稼ぐ必要があった。でも、その反面で、俺を犠牲にするための布石も考えなくてはいけない。だから、あえてライムが邪魔に思うようにも振る舞った」


「そ、そんなこと考えてたの?」


「うん。アートフェスで夕日を見ながらライムが望まない言葉を言ったり、体調が悪いときはライムは放っておいて欲しい人だと知ってるけど、あえて構ったり。作品の追い込みに入ってからの、邪魔はしない範囲で監視してると思わせたり」


「あれ、ぜんぶ、わざとだったの!?」


「さじ加減が難しかったよ。理想は、ライムの中で「便利で大切にしてくれるから嬉しいけど、邪魔にもなる」という関係性だった。そうなれば、最後にはきっとライムは俺を追い出すか、殺すかするんじゃないかと思った」


「殺さなくてよかったよ」


「……ああ。ところで、絵は、完成した?」


「あ、そうだ!ユーキに見てほしい!」


そう言って、彼女は俺の手を取って、作業部屋へと向かう。そこには彼女が才能のすべてを注ぎ込んで、俺との思い出を犠牲にしてまで描き上げた、素晴らしい絵があった。


「すごい。視線が自然と絵の中の重要な部分に導かれるようになっていて、静かな空間の中におぼろげなシルエットが浮かび美しさが際立っている」


「うんうん」


「まるで、夢か現か、重なり合っているかのような感覚がする」


「うんうん!」


「薄れゆく光や霞む輪郭が、見ているだけで、切なく感じてしまうよ。暗い部分と明るい部分のコントラストが、絵に立体感を生み出し、消えゆく美しさを一層引き立てている」


「うん!」


「おめでとう、ライム!すごい絵が完成したね!」


そう言って、感極まって、俺は彼女を抱きしめた。彼女も、快く受け入れ、しっかり抱きしめてくれる。


「ユーキのおかげだよ!ユーキが居なかったら、ぜったいに完成してない!」


「ライムの才能あってこそだよ。でも、その助けになれたのなら、とても光栄なことだよ」


「……ありがとう、心から嬉しいよ。今までもたくさん絵を描いてきたけど、絵を評価されて、こんなに嬉しいのは初めてかも」


「お疲れ様。お腹すいたよね?ご飯作ってるから、食べよう」


「うん!」


彼女と手を繋いで作業部屋を出るとき、そっと振り向いて、その絵をもう一度見た。


絵の中のシルエットも、振り返って、こちらを見ている。声を出さず、俺は彼に伝えた。


(すまない、ユーキ)


「どうしたの?」


「いや、何でもないよ、今日はカレーだよ」


「やった!ユーキのカレー、大好き!」


見なかったことにして、ドアを閉めた。



   ◇   ◇   ◇



二人は答え合わせをしました。


「ライムの、好きな色は何?」

「サップグリーン、かな」

「グリーン、ってことは緑色ってこと?」

「そう。顔料って石とか土が多いんだけど、サップグリーンは植物から作るんだ。つまり、自然の緑に最も近い色ってイメージが私の中にあるんだ」

「なるほど」

「ユーキの好きな色は?」

「萌黄、って答えるかな。芽吹いたばかりの若葉の色」

「スプリンググリーン、だね。良い色だよね、私も好き」

「うん。建築の世界でも、色はとても重要な因子なんだけど、俺にはあんまり色彩感覚ってないみたいで。萌黄が好きというの、昔読んだ漫画に重ね色目の萌黄が登場するからなんだ」

「不思議な理由!もしかして、色が苦手だからスケッチに書かれた絵は墨で書かれてたの?」

「そうなんだ」


「ユーキが好きな画家は誰?」

「ライム」

「ふふ、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、他の人で!」

「そうだね、たぶんライムが望んでる答えとは違うかもだけど、安藤忠雄かな」

「私の知らない画家かな、どんな人?」

「画家じゃないよ、建築家なんだ」

「へえ、建築家も絵を描くの?」

「むしろ絵を描くところから始まるんだ。建築家は、建築アイデアやコンセプトを視覚的に表現し、具体化するためのプロセスとして、スケッチを描くんだ。画集もあるんだよ」

「そうなんだ!じゃあ、ユーキもそうやってスケッチを描くんだね」

「そういう勉強をしているところ、かな」


「ライムにとって、絵を描く以外でリラックスするためにしていることって何かある?」

「ふふ、よくぞ聞いてくれました」

「お。ぜひ聞かせて?」

「実はネコとおしゃべりすることがリラックス方法なの」

「猫は可愛いね。動物に癒されるというのはわかるな」

「うん、ネコって多元宇宙に遍在するオムニプレックスなんだよ。だからすごく物知りでね、いろいろ教わるんだ」

「うん?オムニプレックス?おしゃべりって、一方的にライムが話しかけるのではなく?」

「ちがうよ?ネコは言うんだ、本当はもう世界は消滅したんだけど、今はその残響の中にあるんだって」

「そっか、そっちか。これだから天才は……」

「ネコって、観察して触れている間は確かにそこにいるんだけど、目を離した瞬間に、同じネコがそこにいるとは証明できなくなるの」

「うん。ライムはどんな話をネコにするの?」

「いろんな話をするよ。今日あった出来事や、感じたこと、絵のアイディアとか。ネコはじっと聞いてくれるのがいいんだ。心が落ち着くの」

「ネコとおしゃべりしてるライムの姿を想像すると、微笑ましいね」

「ありがとう、ユーキ。ネコと過ごす時間は、私にとって大切なリラックスのひとときなんだ。ユーキも一緒にネコとおしゃべりしてみる?」

「ぜひやってみたいな。ライムと一緒なら、どんなリラックス方法でも楽しめそうだよ」

「じゃあ、今度一緒にやろうね。ネコの不思議な魅力に触れると、きっと心が軽くなると思うよ」

「楽しみにしてるよ」


「ライム、絵のタイトルは決まったの?」

「決まったよ、月に夢みて幻にのぞむ、だよ」

「俺たちの名前だね」

「うん。私にとっては一つの区切りになった作品だと思うから」


「ライム、一緒に行きたい場所ってある?」

「うーん、たくさんあるけど、一つ選ぶならアイスランドかな」

「アイスランド?なんでまた?

「オーロラを見たいんだ。自然の壮大なショーを二人で見るなんて素敵じゃない?」

「それはいいね。オーロラは一生に一度は見てみたいと思ってたよ」

「それに、アイスランドの風景って絵になると思うんだ。火山や氷河、温泉とか。見てるだけでインスピレーションが湧きそう」

「確かに。自然の絶景を前にしたら、描きたくなるのはわかるよ」

「あとは温泉でリラックスしたり、地元の料理を楽しんだりね。ユーキと一緒なら、どこに行っても楽しいけど、アイスランドは特別な思い出になりそう」

「そうだね。二人で新しい場所を探検するのは楽しそうだ。アイスランドの他にも行きたい場所はある?」

「たくさんあるよ。例えば、モロッコのマラケシュ。あの色とりどりのスークを歩きながら、スケッチしたり、写真を撮ったりしたいな」

「異国情緒あふれる場所は、きっと刺激的だろうな」

「そうだね。でも、何よりもユーキと一緒に新しい経験を共有するのが楽しみなんだ。どんな場所でも、二人で行けば特別な思い出になる」

「僕も同じ気持ちだよ。どこに行ってもライムと一緒なら楽しいし、特別な時間を過ごせると思う」

「うん、これからもたくさんの場所を一緒に探検しようね」

「もちろんだよ。次の冒険が待ちきれないね」


二人は、新たな冒険を夢見ながら、手を取り合って歩み続けました。

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