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黒歴史研究部へようこそ  作者: 青帯
■見学編
6/20

第五話 龍の子 前編


 四月八日。月曜。


 昼休みになっている。


 文華は土曜日に言っていた通り、歴奈と二人でお弁当を食べてくれた。そして食事が済むと、文庫本を持って教室を出て行った。今日の読書は中庭でするつもりらしい。


 歴奈の席は一番後ろの列で左端の窓際だ。教室全体が見渡せる。

 部活体験期間の開始日だけあって、部活の話をしているクラスメイトが多いようだ。


 歴奈の右隣の席の男子などは、待ちきれないといった様子で卓球のラケットの点検をしている。その男子と、少しだけ部活の話をした。


 放課後になると、隣の男子は張り切った様子で部活に向かったようだった。


 部活を楽しみにしているのは歴奈も同じだ。文華と一緒に一年A組の教室を後にした。


 渡り廊下への出口に向かって歩いていると、廊下の少し先の階段から上級生たちが下りてきた。上級生だと分かるのは、教室棟のフロアが学年別にきれいに分かれているからだ。


 歴奈たち一年は一階、二年は二階、そして三年は三階。教室棟も中央棟と同じく四階まであるが、少子化の影響か生徒数が減少し、今では三階までしか使われていないらしい。


 階段の前を通り過ぎて掲示板の前に差し掛かった。ポスターや色々な用紙が張られているが、これまで意識して見たことはない。


「これ、歴史研究部が作ったんじゃない? 発行、歴史研究部って書いてあるわよ」


 文華が足を止めて言った。その視線の先に新聞紙片面ほどの大きな掲示物がある。見出しは『歴史研究新聞』となっており、名前の通り新聞のようなデザインだった。


「こういうのを作る活動をするのね。歴ちゃんも好きな三国志がテーマよ」


 ちらりと見て嬉しいことが分かった。歴史研究部には歴奈と同じ三国志好きがいるようで、しかもそれが女子ということだ。大黒とは別の女子だ。


『伏見龍子』


 歴史研究新聞の記者名に、そう書かれていた。凛々しい名前だと思った。


「入部したくなったらじっくり見てみるよ。行こう」


 文華と二人で渡り廊下への出口まで進んだ。昇降口もすぐそこに見えている。


「じゃあ見学、行ってみるね。ちょっと緊張しちゃうけど」


「大抵の部は歓迎してくれるはずよ。大丈夫、大丈夫。部活の様子、聞かせてね」


 文華を見送って一人になると、少し心細くなった。


 だが大黒から、今日なら見学は大丈夫だと言ってもらっている。三国志好きの女子がいるらしいという期待もある。そう思って渡り廊下に出た。


 右手の体育館の二つの出入口の扉が今は開いているようだ。体育館はバスケットコート二面分の広さがあり、扉はそれぞれのコートの真ん中あたりの位置だ。


 歩きながら一つ目の出入口を覗いた。


 二人の男子が折りたたんだ状態の卓球台を運んでおり、キャスターの転がる音が響いている。こちらのコートは卓球部の練習スペースらしい。今は準備中で、まだその二人しかいないようだ。隣の席の男子も見当たらなかった。更衣室で着替え中なのかもしれない。


 二つ目の出入口では興味を引かれて足を止めた。向こう側のゴール近くで、バスケ部らしき二人が対戦中だったからだ。歴奈は出入口の端に立ってその二人に注目した。


 奥側、歴奈から遠い方にいる男子は赤い服装をしている。赤いノースリーブの上着と大きめのハーフパンツは、いかにもバスケの練習着といった感じだ。赤。


 手前側、背を向けている方の男子は灰色のスポーツウェア姿だった。トップス、ボトムスともに七分丈で、肘、膝の少し先あたりまでが灰色に覆われている。灰色。


 壇上側のコートにいるのも、今は赤と灰色の男子二人だけだ。


 対戦が仕切り直され、灰色がバスケットボールをバウンドさせ始めた。赤を抜き去って、後ろのゴールにシュートを決めようとしているようだ。


 ボールのバウンド音やシューズと床の擦れる音が、体育館の外のここにまで届いている。


 赤が伸ばしてくる腕を、灰色が巧みに躱しながらバスケットボールをキープしている。


 灰色は今も背中を向けていて顔はほとんど見えない。


 トップスのフードの上の襟足は少し刈り上げられているが、髪の上側は丸くボリューム感がある。その髪が、体の動きに合わせて大きく揺れる。そして体の動きが落ち着くと、少し遅れてきれいにまとまる。


 歴奈は、いつのまにか灰色の後ろ姿に惹きつけられていた。


 勝負が動いた。


 灰色が腰を低く沈めると、赤が近づいた。


 赤の手がボールに届いたと思った瞬間、灰色は右手のボールを自分の足の間でバンドさせ、体の後ろに構えている左手に移した。


 灰色は若干体勢を崩した赤の左側をすり抜けて、ゴールに向かって勢いよく加速した。


 跳んだ。躍動感に溢れた、宙を舞うような跳躍力だった。


 灰色の手を離れることなく、ボールがゴールへと叩き込まれた。そして灰色はふわりと着地して、バウンドしているボールをキャッチした。


 歴奈は、興奮で体が少し熱くなっていることに気付いた。ダンクシュートを生で見るのが初めてだったということもあるが、それ以上に、灰色の動きに目を奪われていた。


 赤が灰色に近づいて、少しうなだれた後で手を高く上げた。小さくパチンという音が聞こえた。灰色が赤に応えてハイタッチをした音だ。


 灰色の横顔が見えている。ツーブロックのイケメンの男子だ。


 赤と何かを話しているが遠くて聞こえない。


 もう少し近くで見てみたい、声も聞いてみたいと思った。

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