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眠りから始まる鉄道の旅  作者: 曇空 鈍縒
2/3

2話

「はっ」


シュッシュッシュという、機関車みたいな音が僕の目を覚ました。


座席の形が変わっている。


さっきまで通勤電車のロングシートだったのに、特急みたいなクロスシートになっている。


しかも、落ち着いた赤色の布地が使われ、木製のひじ掛けが付いた、豪華な物だ。


「えっ?」


あわてて切符を取り出す。


茶色い、昔の切符になっていた。


無論、裏に磁石はついていないし、改札とかで使える感じじゃない。


「え!」


その声に驚いて、客が振り向く。ほとんど満席状態だ。着物を着ている。


何人か、学生服が混じっていた。あと、灰色のローブを着た人が、二人ほどいた。


窓の外を見てみる。


今は、森の中らしい。良かった。普通の森だ。普通の?


窓から狼が見えた。毛が赤い。近くにウサギがいる。狼が突然火を噴いた。


「え!」


また客の注目を浴びる。


「すみません」


僕は小さくつぶやいた。きっと見間違えたんだ。


もう一回見てみる。丸焼けのウサギを狼が旨そうに食べていた。見間違いじゃない。


僕は悲鳴を飲み込んだ。おかしい。僕は寝た。起きた。そしたら変な世界にいた。


「嘘だろ・・」


リアルすぎる感覚が、夢ではないことを無慈悲に告げていた。




「切符拝見」


しばらく座っていると、制帽をかぶった車掌がやってきた。座席を回って切符を切っている。僕は、ぎこちない動きで自分の切符を渡した。


車掌の眼を見て、僕はかなり驚いた。さっきまで帽子の陰になって見えなかったが、片目が驚くほどの濃紺なのだ。しかも輝いている。もう片方は、普通の黒だった。


車掌は切符を切ると、僕に返した。


「拝見しました」


そう言って次の席に行った。


僕は切符を見た。どうもこの切符は、メイスという所から、カルアという所に向かっているらしい。


僕は、ポケットに手を入れた。ここまできてようやく、僕が、昭和なデザインの学生服を着ていることに気が付いた。いつの間にか服装まで変わっていたらしい。


かなり驚かされたが、先ほどの衝撃連続で脳の驚く部分がマヒしている。


なぜか地図が入っていた。それを広げてみる。まるで中世のような、カッコいい地図があった。


森の位置を考えると、ここはメイーギ市からだいぶ離れて、『炎の森』という場所らしい。


そしてあと五駅ほど進むと、メイス市につくらしい。メイス市はかなりの大都市らしい。結構広い範囲で、りっぱな都市が描かれている。楽しみ、なんていってる場合じゃない。


何があったんだ?まず状況整理だ。


僕はさっきまで疲れて眠った。その時は、まだ僕のいつも乗っている普通の電車に乗っていた。


寝たらなんかファンタジーぽい世界にいた。そこで僕は気づいた。今僕はこの世界で使える金を持っていない。この世界で生き抜く技術も知識も道具もない。


あんな炎を吐く化け物がいる世界に放り出されて、生きていくのは難しいだろう。


機関車が止まった。駅に着いたらしい。


駅のホームでは、灰色のローブを着た人同士で、魔法らしきものを使った殺し合いをしていた。


炎や氷が飛び交い、駅員が慣れた動作でお客さんなどの避難をさせている。何人かは怪我をしていた。避難させていた駅員に氷が当たった。駅員さんは崩れ落ちた。


僕は目を背けた。ただ、乗客はそこまで驚いた感じじゃない。慣れている。


こんなこと日常茶飯事といった雰囲気がある。カオスだな。治安の悪さは恐ろしいレベルらしい。


こんな世界に放り出されたら死ぬ。死ななくてもろくでもないことになる。


僕は席を立った。この列車の中から、帰還の手がかりをつかむために。


まず座席。怪しいところなんてない。隙間という隙間。木のシミまで見たが、全く分からない。僕は、後ろの車両から順番に見ていくことにした。


まずこの列車は八両編成で、一番前の車両の前半分が車掌室になっているらしい。残り半分は、本や、ソファーが設けられたラウンジになっている。


二両目が食堂車、三両目が寝台車、あとは客車だ。


僕の席は八両目にある。


全ての車両を見て回った。残りはラウンジだ。おれは、一両目の扉を開けた。


僕はかなり驚いた。洒落たソファーが数か所に設置されていて、本棚には高そうな革表紙の本が並んでいる。


何人か、談笑したり本を読んだりしていた。


本棚の中に一冊だけ、何か異質な本が置いてあった。


僕は、それを手に取ってみる。


蒼い革表紙の、文庫本程度のサイズの本だった。


表紙はほとんど飾りがなく、小さな瞳が金箔で押されていた。


ページを開いてみる。白紙だ。次のページも白紙。次も。そうして何ページかめくったところに文章が書いてあった。


『この世界は心のスキから入り込み、人間の脳に出現する。そして狂わせる。世界の中心である蒼い眼を破壊しろ』


何じゃこりゃ?厨二病の詩か?十秒ほどたつと文字は消えた。


厨二病の詩じゃなさそうだ。


この本に書いてあることが正しいとすると、この世界を破壊しないと僕は狂うと言うことだ。で、青い目を破壊すればこの世界が崩壊して僕は助かると言うことだ。


「青い目と言えば・・」


一つ心当たりがある。車掌の眼。青だった。だがあれを破壊しろと・・。


突然、談話していた老人二人が僕に杖を向けてきた。本を読んでいた青年が懐から匕首あいくち(つばのない小刀)を取り出した。


杖から銃弾が飛び出し、僕の横の本棚を貫いた。貫いた部分から青いインクが出てくる。


本に文字が浮かび上がった。


『もし君がこの世界で死ねば、向こうの世界の君は精神が崩壊する』


どうやらこの本は、僕の味方らしい。いや。情報を垂れ流すだけの日和見主義者と言った方が正しいか。


青年が投げてきた匕首を、僕はよけた。僕は動体視力が結構いい方だ。


匕首が刺さったところから、蒼いインクがどくどくとあふれ出る。


突然全ての本棚から本が飛び出した。僕は、飛んできた匕首を木製の本棚から引き抜き、本に切りかかった。


僕は、何とか車掌室の前に着いた。鍵を匕首で壊すと、そこから青いインクが溢れる。


僕はドアをけ破った。


車掌がおどろいたように振り返った。


僕は、問答無用で切りかかる。もしこれで青い瞳が違ったら、俺は逮捕されるのかな?


この世界に法律があれば。


車掌は、手からナイフを打ち出してきた。


まさに機関銃のように。僕は、手に持っていた本でうけた。本からは、黒いインクがあふれてきた。最後に開かれたページには、『健闘を祈る』と書いてあった。


逃げるつもりなのか、これから死にゆくのかは分からないが、特に問題はなさそうだ。


僕は、匕首を持って突っ込んだ、ナイフを弾く。


一気に間合いを詰めた。


向こうもナイフを振り上げる。僕の匕首の方が少し早かった。僕の匕首が、車掌の瞳を砕く。


甲高い悲鳴が響いた。そこら中からインクが噴き出した。


僕は、その海におぼれた。

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