番外編 2
◇◆ミケル◇◆
「ミケル!お誕生日おめでとう~!」
「「おめでとう」」
サクラコさんの発声で、みんなからも祝いの言葉がかけられる。
今日でぼくは十八歳になった。大陸では大部分の国で成人といわれるようになる。
今、ぼくたちが暮らしている東大陸の青龍国も同じだ。
テーブルの上にならんでいるご馳走を見ながら、ぼくはサクラコさんに拾われてから毎年祝われる事に、未だにやっぱり夢なんじゃないかと思ったりする。
もう八回目だけど。
サクラコさんのお邸で目を覚まして、初めて言葉を交わした日の事を、今でもはっきりと覚えている。
名前と歳を聞かれて、知らないと答えると、サクラコさんは怒りだした。
それはぼくに向けてのものじゃなかったけど(そういうのには敏感だ)ぼくのために怒っているとわかってすごくびっくりした。
そうしてもらった名前。ミケル。
生まれて初めて人から何かをもらって、それにもすごくびっくりした。
それから、誕生日というものも決めてもらった。
名前をもらった日の夜の事、食卓の席で(食卓の席!)サクラコさん以外全員が“こっち側の者”なのに驚いていると
「みんな、ミケルはいくつくらいだと思う?」
「十歳くらいかと」 うんうん
「え! ……十歳にしては、ずいぶん小さくない?」
「ぼくたちのようなものは栄養が足りてませんから」
「…………」
言葉が途切れた後、またサクラコさんが怒りだした。
それもまた、ぼくに対してでも、ここにいるこっち側の者に対してでもなかったけど。
それからサクラコさんはぼくを見ると、怒った口調のまま早口に言った。
「ミケルは今日が十歳のお誕生日でいい?」
あまりの剣幕に、ぼくは頷く事しかできなかった。
「それで、今夜からお腹いっぱい食べて、ぐっすり眠って、ちゃんとした十歳の子くらいに健康になろうね!!」
ますます熱の入った言葉に、やっぱり頷く事しかできなかった。
だけどその後、サクラコさんは子供のぼくに向かってこう言ってくれたんだ。
「ミケルはまだ子供だから、私たち大人は君を保護する義務があるの。成人するまではここで一緒に暮らそうね。成人した時にここを出ていくか、そのまま一緒に暮らすか、ミケルが決めていいからね」
ぼくが決めていいって言ってくれた。ぼくたちみたいなものに、何かを選んだり決めたりなんて、そんな事を言ってくれる人はいない。
この日だけで何度びっくりしただろう。全部が驚きで、何が何だかわからない程だった。
混乱しているぼくに、サクラコさんは空色のカップをわたしながら
「これはここに住む事になったみんなにもあげた(オーナー)プレゼントだけど、お誕生日のプレゼントって事でもよろしく♪」
ニッコリ笑って(ぼくに笑いかけてくれた?!)そう言った。
「でしたら、ぼくもサクラコさんと初めて出会った日を誕生日にしていいですか?」
「ぼくも!ぼくも誕生日なんて知らないんで!」
「そういえば、わたしも知らないなぁ。誕生日なんて気にした事もなかったわ」
「私は知っているぞ」
「フェリクス様は知っているでしょうよ……」
大騒ぎになったのは、いい思い出だ。
成人した今夜、初めて酒が許された。
冒険者なんてやっていれば、みんな成人前から酒なんて飲んでいるのに、サクラコさんはかたくなに「子供のうちは健やかに育たないとね!お酒なんて大人になったらいくらでも飲めるよ!」と許さなかった。
まぁ、ぼくたちのような者が酒を飲めるなんて、ちょっと前には考えられない事だったんだけどね。
ぼくはその頃子供だったから記憶は曖昧だけど、死にたい程の辛さや、死ぬ間際の冷たさは憶えている。
「ミケルが成人するまでに、君たちが普通に生活できる場所を作りたかったんだ。なんとかスタート地点には立てたかな?」
隣の席から笑うサクラコさん。
「最高の誕生日プレゼントです!」
「よかった♪ 」
サクラコさんが嬉しそうに言う。
でもね、サクラコさん。
拾われた日からずっと、笑いかけてくれる事が最高のプレゼントなんですよ。
◇◆ラーシュ◇◆
“ぼくたちの家”に帰ってくると、ドアを開ける前にひとつ、気合を入れる。
「ただいまかえりました」
「ラーシュ君おかえり~!お疲れ様!」
だけど、今日もダメだった。
迎えてくれたサクラコさんに抱きしめられると、どうしても動きが止まってしまう。
気合なんてなんの意味がないほどの威力!
サクラコさんと、恋、人、になって六年ほど、サクラコさんはぼくの事情をくんでくれて、徐々にスキンシップを増やしていってくれた。
そうしてなんとか、少しずつ慣れてきたと思えたら、夫婦になった。
サクラコさんは「恋人も夫婦もそう違わないから!」と言っていたけど、色々違うと思う!
ふ、夫婦、になって二年ほど。まったく慣れずに、やっとの思いで両腕を動かし、サクラコさんの背中に回す。
「私ばっかり嬉しがってるみたいで淋しいよ!」と言われたら、抱きしめ返さないでいられようか。
サクラコさんに淋しい思いなんてさせてはいけない!そんな思いをさせるくらいならぼくはどんな事だってする!
それに、本当はぼくだってすごくすごく嬉しいんだから。
信じられないほど幸せだ……。
今でも時々思う。やっぱりこれは夢なんじゃないかって。
サクラコさんが魔法使いのギルドを作って、ぼくたちはそこで一人前の魔法使いとして登録されたけれど、当然大陸中の人々はぼくたちのような者を認めなかった。
ぼくたちはそれを当たり前と思ったけど、サクラコさんはそう思わず、大陸中の“こちら側”の者を全員(魔法使いギルドの登録者)連れて東大陸に移った。
東大陸でもぼくたちのような者は醜いとされていたけど、大陸ほどではなかった。
龍大陸とも言われている東大陸の人々はそのほとんどが龍人で、龍人の価値観では強さが一番だったからだ。
ぼくたちは魔法ならそれなりに自信がある。
結果、東大陸の人々に認められ、ぼくたちは東大陸に住む事を許された。
土地を買ったサクラコさんはそこに魔法使いギルドの町を作って、ギルドの仕事を“派遣”という仕組みに変えて、世界中から受け始めた。
依頼を受けて仕事をするという形は同じなのに、ぼくたちの身を守ってくれるカイシャ組織になったのだ。
サクラコさんとユリウス様、それと何人かの龍人以外“こちら側”の者たちだけが暮らす町。
暴力に警戒する事も、不当な搾取を受け入れる事もない、安心して、人として生きていける場所。
まだフードをかぶったままの者も多いけれど、ローブを脱いで生活する者も増えてきた。ぼくもその一人だ。
ぼくたちのような者が、こんな生き方ができるようになるなんて……。
ここでならぼくたちだって、健康や幸せになれるんだ。
「サクラコさん、今日はすごいご馳走ですね」
「うん、ラーシュ君が一週間ぶりに帰ってきたんだからね!ソロキャンセットはあるといっても疲れたでしょ?ご飯だって後半は携帯食だったでしょうし」
「サクラコさんのお国の携帯食は充分美味しいですよ」
「そうかなぁ、私はあんまりなんだけどね。というか、一週間ぶりっていうのもあるけど、もうひとついい知らせがあるんだな♪」
「いい知らせ? なんですか?」
サクラコさんはぼくをじっと見て、笑顔になった。
「赤ちゃんができました~♪ ラーシュ君はパパになるよ!」
……赤ちゃん? パパ? ……ぼくが、 パパ?
「お~い、かえっておいで~」
ぼくの目の前で、サクラコさんが手をひらひらさせながら言っているけど、反応できない。
「本当に、君は泣き虫だなぁ」
そうして、ふんわりと抱きしめられた。
泣き虫? ……あぁ、ぼくは泣いているのか。
だって、
ぼくたちのような者が、友人や恋人はおろか、結婚ができたり親になれるだなんて、たった八年前までは考えられなかった。
あの日、サクラコさんに出会わなかったら、ぼくにこんな幸せがおとずれるなんてありえなかった。
「サクラコさん…… ありがとうございます」
万感の思いは、とても短い言葉になってしまった。
だけどサクラコさんにはちゃんと伝わって
「私こそありがとう、ラーシュ君」
ほら、いつもの笑顔でそう言ってくれるんだ。
ずっとずっと
夢のような日々は続いていく。
数多ある物語の中から、目を止め読んでくださってありがとうございました。
こちら一度完結した作品なのですが、番外編の投稿で再度完結済みに上がり、お目に止まったかと思います。
初めましての方、ようこそおいでませm(_ _)m
お馴染み様、毎度ありがとうございますm(_ _)m
今回の番外編ですが。
私事で少し創作活動から離れておりまして、感想をいただいていたのに気づかず、お詫びの投稿となりました。
蛇足にならず面白かったと思っていただけたら一安心です^^ ;
長くなりました。ではご挨拶を♪
ブックマークがついた時や感想をいただいた時はいつもとても嬉しいです!
誤字報告もありがとうございます!
もしも気に入ってくださったなら、次回作でまたお会いしましょう。




