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さぁ!お腹もいっぱいになった事だし、ラーシュ君の常宿に連れていってもらおうか!


大通りの間は、少し離れてラーシュ君の後をついて行く。

なんか、どんどん街の中心から離れて行くんだけど……。

灯りも少なくなっていくし。これ大丈夫?ほんとに宿屋さんに向かってるんだよね?


大通りから外れると月明かりだけになってしまった。

ラーシュ君は暗い道を慣れた足取りで進んでいく。


「ラーシュ君まだ?なんか暗くてよく見えないんだけど」

「すみません。もうすぐなので」

「わっ」

「大丈夫ですか!」

「あっぶな!転ぶところだった!暗くて足元よく見えないし。ちょっとラーシュ君の腕につかまらせてもらっていいかな?」

「…………」


はいはい、また固まってるんでしょ。

よく見えないけどわかるわ。

私は勝手に腕につかまらせてもらった。

ローブ越しだけど、ラーシュ君の身体は驚くほど跳ねたよ。


「ごめんね、宿屋さんまでだから助けてね。こう暗くちゃ何度転ぶかわからないわ」

「…………」


さっきまですいすい歩いていたラーシュ君は、ガッチガチのロボ歩きになってしまった。

なんか逆の意味で危ないわ。


それからもう少し歩いて、もうほんと街はずれってところでラーシュ君の常宿についた。


お宿に入る前に、手持ちのパーカーを着てフードをかぶる。

パーカーは上着用にLサイズだからちょっと大きいし、元々マキシ丈のサロペットワンピを着ているので、ちょっとは体型を隠せるでしょ。

「それで深く俯いたらなんとか……」と、ギリセーフの判定ももらったし。


ラーシュ君たちはほっそりとしているから(細マッチョ含む)標準体型の私は身体も誤魔化さなければならない。

ちなみに、細い、普通、太いの表現は、私の感性でお伝えします。


「宿の主人も私たちのような者なので、何か深く聞かれる事はないでしょう。料金の提示をされるので、払えば部屋の鍵を渡されます」

「わかった、ありがとう。 ところでお宿でもラーシュ君と話したらダメなの?」

「……誰も見ていなければ」

「わかった。今夜はもう遅いしお疲れでしょうから、近いうちに時間を作ってもらえたらありがたい。私はこの国の事がよくわからないから、色々教えてもらえると助かるわ」


切実に。ご飯の時は楽しくおしゃべり♪なんて雰囲気じゃなかったし、道中はロボになっちゃってたし。


「そういう事でしたら早い方がいいですね、今夜でも大丈夫です。私の部屋か、サ、クラコさんの部屋で」

「いいの?ありがとう!じゃあもう決まっているラーシュ君の部屋で。疲れているのにごめんね」

「いえ!全然平気です! ……私の部屋は、階段を上がった二階の一番右です」

「ありがとう!じゃあまた後で」


ぎこちなくラーシュ君が中に入っていって、一呼吸。

私も宿屋のドアを開けた。




「こんばんは~」


声をかけながら、入り口からまっすぐ先にあるカウンターに近づくと、奥からフードを深くかぶったローブ姿の人が出てきた。


「一泊銀貨二枚、朝食つきなら銀貨三枚」


わ~ぉ。ラーシュ君が言った通り、男の人は(声で判断)言葉少なく言った。


「朝食つきでお願いします」


カウンターに銀貨三枚を置くと、ご主人は銀貨の横に鍵を置いた。


「部屋は二階。朝食は夜明けから8時まで」

「わかりました。お世話になります」


鍵を受け取って階段を上がる。

鍵には部屋番号が書いてあって、私の部屋はラーシュ君のふたつ隣の部屋だった。


私は自分の部屋には行かず、そのままラーシュ君の部屋を小さくノックした。

もう遅いし、明日も仕事があるでしょうし、さっさとすませた方がいいよね。


ドアはすぐに開いた。


「おじゃまします」


小声でそう言うと、私はラーシュ君の部屋の中に入れてもらった。

ベッドと、小さな机なのか、物を置く台なのか、それだけがある殺風景な狭い部屋だ。


ではさっそく!

私は知りたい事を色々聞いた。

やっぱり美醜逆転物あるあるのオンパレードだったよ!


太っていてブサイクな人程美しく、ムダな脂肪のないスラリとした人、私的には美形な人が醜いという事。


醜い者(私的には美形)への差別はひどく、ラーシュ君たちは人権がないような扱いをされている事。

だけど、そういう人たちは強い魔力を持っているので最悪な事態にはならず、都合よく使われている事。


就ける職業も選択肢が少なく、冒険者が多い事。

どんな仕事に就いても、賃金は一般的な半分くらいしかもらえない事。


「ひどいね!聞いててやんなっちゃうよ!」

「すみません、話すのをやめますか?」

「なんでラーシュ君が謝るのよ。私が怒っているのはそんな社会にだよ!」

「…………」


この国がある大陸のほとんどの国では、同じ価値観だという事。

驚く事に、ラーシュ君たちはこれを受け入れて生きている事。

いや驚く事ではないか、ずっとそうならそういうもんだと思うのかもしれない。


諦めて生きているけど、そんな権利はないとわかっているけど、死ぬまでに一度でいいから、いい事があればと願っている事。


なんて健気なの!


「ラーシュ君、人は幸せを求めていいんだよ。人は幸せになるために努力したり頑張ったりするんだよ。少なくとも私の生まれ育った国ではそういう考え方をしているよ」

「…………」


ラーシュ君は黙ったままだ。何を考えているんだろう。顔が見えないからわからないよ。


「それから言っておくけど、私の生まれ育った国とこの大陸とでは美醜の価値観が逆なんだ。だから私にはラーシュ君はとってもカッコいい人に見えてるよ」

「……え?」

「ラーシュ君はめちゃくちゃ美男子だよ」

「……ぼくが? 美、男子?」


あら、ラーシュ君一人称は“ぼく”なんだ。

何だかこっちの方が似合ってぞ。


私は微笑んで続ける。


「うん。しかも超がつく」

「…………」


生まれてから今までに身についた常識や価値観は、そう簡単に変えられないよね。

私だって、あのお太りのブサイクさんたちが美形だなんて思えないし。


「ちなみに私は、この国とか大陸の人たちにはどのくらいの評価になるの?

これから先の私の生活にかかわる事だから、正確に教えてほしい」


これ重要だよね!なんせブサイク(私的には美形)がひどい扱いを受けてる社会だ。


これが本当に夢ではなくて、異世界転移だなんて事だとしたら……、日本に戻れるまで、どうにかここで生きていかなければならない。


多くの物語のように、もし……、もし戻れないとしたら……

やっぱりここで生きていかなければならない。


それなら私は、今までの人生と同じように幸せに生きていきたい!

突然訳も分からず、しかも自分のせいでもないのにこんな状況に陥って、大人しく従うなんてまっぴらだ!

私の人生は、私が決めて生きていく。


「サ、クラコ、さんは…。私なんかが言うのは烏滸がましいですが、普通の人だと、思います。普通の人たちや美しい人たちから、ひどい扱いを受ける事はほぼないでしょう。私たちのような者は近づきません。

特に目立った事をしなければ、サ、クラコさんのお国と同じかはわかりませんが、平穏に生きていけると思います」

「そなのね。ありがとう」

「あの、あの……」

「ん?」

「あの……、 ……」

「うん?」

「あ…、したから、どうされる、おつもりですか?」

「う~ん……。どうしようかな。今晩考えてみる」 

「……はい」


ラーシュ君、何か別の事を言いたそうだったな。

気になるけど言いづらい事かもしれない。言ってくれるのを待とうか。


「遅くまでありがとね!また頼る事もあると思うけど、その時はよろしくお願いします。 じゃあ、おやすみなさい」

「はい! ……お、おや、すみなさい」


待つけどさ。忍耐力が培われるな。




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