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◇◆ユリウス◇◆
サクラコさんの祖国は、いったいどんな国なんだ。平民なのに、仕事を休む日が週に二日もあるなんて。
貴族だって月に三日あればいい方で、それだってあってないようなものなのに。
それほど余裕のある豊かな国なのか。
「うちは週休二日にするよ!やっぱり人は働くだけじゃダメよ。しっかり休んでこそだと思うんだよね♪」
サクラコさんは笑顔でそういったが、皆は意味が分からないという顔をした。
それはそうだろう、この国、いや大陸全体でも、平民に仕事を休むという習慣はない。仕事ができない程の病気や怪我をした時くらいだ。
そういう訳で、病気も怪我もしていない皆は何をすればいいかわからなかった。
サクラコさんはそれと気づくと「そっか~!知らない事はできないよね!」と、平民の休日というものよりもっと驚く事をした。
外に出ても嫌な思いしかしないローブ者のために、邸の中に娯楽室を作ったのだ。
まずはシアタールームというもの!
我が国、いや大陸中を探しても、これほど高画質の映像はないだろう!
魔石を使った映像を見た事はあったが、薄く揺らいでいて短時間だった。サクラコさんの国のこれとは大違いだ。しかもこの映像は物語になっていた。心躍る楽しい作品や笑える作品など色々あった。
一点難を上げるなら、醜い者たちが主人公という事だ。
皆そちらは見ないで、サクラコさんが言う邦画の方を見た。
図書室も充実している。
平民なら持ちえない蔵書の量には目を見張った。その種類も豊富で、どれから読もうか迷う程だ。その迷う事さえ彼らは楽しそうに見えた。
フェリクス様さえ「私の図書室よりおもしろい」と、興味深そうに見回していた。
座り心地のよい椅子と机もあって、何時間でも読んでいられるだろう。
だけどそれらよりフェリクス様と私が惹かれたのは遊技場だ。
ビリヤードというものは初めて見た。皆初心者で、ルールブックを見ながら遊んだが、これがものすごく楽しかった!フェリクス様と私は休日といわず、毎日夕食後もワンゲームしたくらいだ。
初めは皆、サクラコさんに連れられるようにして一緒に行動していたが、ほどなくして自分の好きなものに集中し始めた。
ラーシュとクラウスは本を読みまくり、エネはホウガを見ている。
そんな皆を、サクラコさんは満足した顔で見て回っている。時々どこかに混ざる。
あぁ、本当にこの邸の中は穏やかな時間が流れているな……。
古くからの根源は簡単には変えられないと思うが、この邸で過ごす中、いつかフェリクス様や皆がこの生活を当たり前と思えるようになればいいと、願った。
◇◆ミケル◇◆
あたたかい……。
暗い底から、意識が浮き上がる。
「ねえ、この薬を飲んで。飲んで元気になって生きよう。幸せになるために私たちと一緒に生きよう」
言われた意味はからなかったけど、優しい声に、もう大丈夫だと思えた。
次に気づいた時、最初に思ったのは、生きてるんだ…、という事。
それから柔らかな感触に驚いて周りを見回せば、豪華な部屋と立派なベッドにおののいた。
この状況がどういう事かちっともわからなくて、この立派なベッドから出ようとするんだけど、体が全然動かない。
「あ!気がついた?大丈夫?どこか痛いところとか、具合が悪いところはない?」
ぼくが焦っていると、扉を開ける音がして女の子の声が聞こえた。
「私が癒したのだ。痛いところも具合の悪いところもあるまい」
それから、ちょっと偉そうな男の人の声も。
ぼくは恐ろしくてそっちを見られなかった。
「怖がらなくて大丈夫だよ。私たちは君に酷い事をしないからね」
そんな事を言われたのは初めてだった。
言葉はわかるのに意味がわからない。
「わぁ!綺麗な子とは思っていたけど、目を開けたらほんと綺麗!可愛い!!マジ天使!!」
ますます意味が分からない。
その後、名前のなかったぼくにサクラコさんが名付けてくれた。
ミケル。
ぼくがもらった初めての贈り物。それと空色のカップ。ぼくの宝物だ。




