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「で?こいつらとパーティーを組むって?」
あの後、ギルマスさんの部屋に通された私たちは、応接セットのテーブルをはさんで向かい合って座っている。
や、座っているのはギルマスさんと私だけで、ラーシュ君たちは私の後ろに立っているんだけどね。
たぶんラーシュ君たちは、今まで誰かと同じ席に着くという事がなかったから座れないんだと思う。
勧められてさっさと座った私が、あれ?と見ると、ラーシュ君がわずかに首を振っていた。
クラウス君とエネちゃんはラーシュ君よりも、もう一歩下がっちゃってるくらいだし。
フェリクス様が立っているのはなんでかわからないけど。
「はい。私とラーシュ君とクラウス君とエネちゃんとフェリクスさ、ん、と五人組で」
フェリクス様はちょっとまずいかと、さん付けで紹介する。
「ふ~ん…」
いや、ふ~んって。
「何か問題でも?パーティーは誰とでも組めるって聞いてますけど?」
「まあそうだが。 そういやお嬢ちゃん、初めてここに来た時も、そいつを庇って騒ぎを起こしていたっけな」
げっ。やっぱ覚えていらっしゃいましたか。
だけど!
「私は悪くありません」
すまして言ってみた。
ギルマスさんは少しの間面白そうに私を見ていたけど、最後にひとつニヤリとすると
「まあいい。そいつらと組みたいってんならやってみな。手続きは俺がやってやるよ。うちのこ達じゃちょいと無理だからな。また倒れられたら面倒だ」
「ありがとうございます!」
こうして無事に?ラーシュ君たちとパーティーを組む事ができた。
さて、パーティー名も登録する事になって。
こういうのって、なんか中二っぽいのが多いよね。
え? 名前は何にしたかって?
……まぁ、ちょっと教えられないわ☆
さて、一つめの目的は達成。次は営業をしてみようか♪
この世界のものとは比べようもないほど快適に過ごせる野営セットと、それらがコンパクトに収まる上に、中は時間が止まっているから食料が腐る心配もないという魔法のようなカバン♪(いや、魔法のある世界だけど)
こういった時間と空間の魔法ってファンタジー物にはあるものだと思っていたけど、この世界にはないようでラーシュ君たちにはもの凄く驚かれた。
フェリクス様も、こんな高度な魔法は見た事も聞いた事もないって言っていたし。
という事は、これって便利なうえにけっこう貴重なグッズだったりするよね♪
特に冒険者には!
「私の国の快適グッズに、こういうものがあるんですけど…」と、小さなカバンと中身を紹介する。
気分は実演販売のあの人だ。
軽くて組み立てが簡単なテントや、重量級のギルマスさんが寝てもビクともしない簡易ベッドや、通気性や保温性の高い寝袋。それから、軽くて丈夫な炊事セットや、折り畳み式のテーブルとイス。風が吹いても消えないガラス張りのランタンなんかを次々と取り出す。
見ているギルマスさんの顔ったら!
中身の野営セットもだけど、小さなカバンからその質量に見合わないテントなんかが出てきた時には驚愕していたよ。うん、わかる。
中は時間が止まっている事も伝えると、もうお腹いっぱいとばかりに片手で私を制していた。
ちなみに、これらはソロキャンを始める時に最初にそろえる最小限のものらしい。
ネットで調べて一番よさそうなセットを選んでみた♪
一番よいものだからか、金額は初心者用の平均よりだいぶしたけど、使いやすさと質重視!
なんせ私はアウトドアに無縁だった全くの初心者だからね!
驚愕から復活したギルマスさんとの話し合いの結果、残念な事にこれは半分売り物にはならなかった。
野営セットだけならABランクの人たちは買えるし、Cランクの人も頑張れば買える。
だけどそれらを入れるカバンに値段がつけられなかったのよ。
つけられたとしても、とても買えるような金額にはならないだろうと、カバンはレンタルになった。
後々、その方が私にはよかった事に気づく。
カバンを貸し出している間、ずっとレンタル料が入ってくるんだよ。働かなくてもいいくらい、毎月かなりのお金がギルドの私の口座に入ってきた。
そしてそんな魔法のカバンは、壊れる事も劣化する事もなく使い続けられるんだからね。
野営セットは丈夫だけど、こっちは消耗品だからね。
しばらく使うと、みなさん壊れた順に再購入していたよ。
野営セットとカバンがどれ程素晴らしい物か知ってもらったところで、二つめの目的、ラーシュ君のカバンが盗まれた事を話す。
これは今回ラーシュ君に依頼したやつらが盗ったのか、他のやつらが盗ったのかわからないけどね。
だけどローブの中に斜めがけにしているカバンが、何かのはずみで外れるとは考えられないので、間違いなく盗まれたって事になる。
「これほど高価な物を盗んだ奴が、うちのギルドにいるかもしれねぇってか…」
顔怖っわ!!
ギルマスさんはめちゃくちゃお怒りだ。
怒るのは、普通に窃盗罪だからだ。
腹立たしい事に、ローブ者の物を盗んでも罪にはならないけれど、このカバンは私がラーシュ君に貸している私の物と言ってあるからね。
「盗っても中の物は出せないので使えないですけど」
あまりに恐ろしい顔と声なので、盗ったやつらがちょっと気の毒になって指紋認証の事を付け加える。
「だから盗ったやつには、ただの小さなカバンです」
「そんな性能まで……」
ギルマスさんの声がもっと低くなった。
なんか、余計怒っちゃってる気が……。
とまぁ、そんな一幕もあったけど、その日のうちに盗られたカバンは無事返ってきた。
顔を腫らしたブサデブからの謝罪もあったしね。
許さないけどな!
さて、カバンを返してもらったら、野営セットの販売とカバンのレンタルを開始する。
正式にギルドと契約して、レンタル料の支払いはギルド経由にしてくれた。
取りっぱぐれがないので安心だ♪
「おい!他では手に入らない、凄ぇもんを紹介するぜ!興味がある奴はこっちに来な!」
夕方の、人が賑わうギルド内。ギルマスさんは大きな声でそう呼び掛けると、自分の野営セットをカウンターに並べた。
さっき私がしたみたいに、小さなカバンから次々に取り出す。(おわかりでしょうが、ギルマスさんはお客様第一号ね☆)
それを見た人たちはみんな驚いている。
商品説明は私。引き続き実演販売の達人になりきる♪
商品説明が終わると、ABランクの冒険者は野営セットの購入とカバンのレンタル契約に殺到した。
そりゃあほしいよね!魔法のようなグッズだもん♪
そうそう。
ラーシュ君からカバンを盗んだパーティーには、もちろん野営セットを売ってあげないし、カバンも貸してあげないよ!
そうだな……、とりあえず一年は反省しなさい!
そう言うと、見るからにガッカリしていたよ。
そんな営業が落ち着いて。
パーティーを組んだ私たちはCランクの依頼を受け始めた。
ランク差ふたつまでなら、新人の私たちも上の依頼を受けられるからね。
本当ならAランクでもおかしくないラーシュ君や、じつは結構強い魔法使いだったクラウス君、謙遜していたけど(いや、本当にそう思っているみたい)ちゃんと強かったエネちゃんのおかげで、Cランクの依頼は余裕で達成できた。
フェリクス様も、魔法攻撃はできないけど剣の腕がとんでもなくて、サクサク魔物を倒していく。
私と同じEランクじゃ申し訳ないくらいだよ。
私は戦い方面では何の役にも立たないけど、というか、足手まといにならないようにしっかり自分の身を守る事に徹した。
そうして、順調に二ヶ月ほどがたった。




