43.5
◇◆エネ◇◆
「ただいま~!エネちゃん、ラーシュ君も一緒に帰ったよ!」
玄関ホールに元気な声が響く。
ずっと外の様子を気にしていたから、サクラコさん達が帰ってきたのには気づいていた。
「おかえりなさい。みんな無事でよかった」
手洗いうがいに向かうみんなを見送って、お茶のためのお湯を沸かす。
三日ぶりにサクラコさんのお茶が飲める。
サクラコさんが淹れてくれるお茶って美味しいんだよね。
自分で淹れてもああならないのはなんでだろう?
それにしてもサクラコさん、疲れた顔をしていたな。
お嬢様が馬車に三日も乗る遠出なんて、それは疲れるよね。
サクラコさんがお茶を淹れてくれている間にお風呂を準備しよう。
ラーシュも大丈夫そうだし。
結構ゲスなパーティーの助っ人だったのに、今回は無事ですんでよかった。(後からかなりひどい状態だった事を聞く)
よかった。これでまたいつもの生活だ。
……あれ? わたし、いつものとか思ってるし。
なんか、照れ笑いする。
でも、今回ラーシュは無事だったけど(いや、無事じゃなかったけど)これから先も無事とは限らないんだよね……。
フェリクス様はどうなんだろう?
フェリクス様は大丈夫そうだな。
なんて心配は、サクラコさんのびっくり発言で吹っ飛んだ!
「という訳でね、明日みんな揃ってギルドに行くよ!」
サクラコさんは、いつも驚く事を言う。
言うだけじゃなくて行動もする有言実行の人だ。
「本当に…、わたしたちのような者が、パーティーを組めるんでしょうか…」
サクラコさんを疑ってる訳じゃない。
この世の理を思えば、わたしたちのような者が何かを得られるなんて……
あぁでもすでに、こんな幸せをもらえてるわ。
それは神からではなく、サクラコさんからだけど!
サクラコさんの話を聞きながら……、
もしかしたら。サクラコさんと一緒なら、もしかしたら……。
奇跡が起こるかもしれない。
翌朝ギルドに行って、受付の人が倒れたのを見たら、やっぱり無茶だったんじゃないかと思ったけどね。
◇◆冒険者ギルドの受付嬢◇◆
朝の忙しい時間をやり過ごしてやっと少し落ち着くと、私たちはまた、今度は違う気合を入れる。
「そろそろね、みんな大丈夫?」
「OK!」
「大丈夫!」
よりよい依頼を得ようと混雑する早朝の時間(一番人が多い時間)をずらして、アレらがやってくる。
自慢じゃないけど、冒険者ギルドの受付は一定の強さを持つ者しか座れない。
見込みのある者が訓練を受け、これなら大丈夫と合格した者しか座れないのよ。
往々にしてローブ者は高い魔力を持つ者が多い。
この世のすべてから嫌悪されるおぞましいアレらが生きる術は、強い魔法での戦闘だ。
高位ランクのパーティーでも難しい依頼に必要となる。それが、アレらをここにいさせておく理由。
そういう訳で、疎ましいアレらでも死なれたら困る。
日々の糧のため、稼がせてやらなければならない。
そうするとアレらと対応する受付が必要になるという訳。
そうしてつかみ取ったこの席。(給金が一般女性平均の十倍)
訓練を受けた私たちは、一対一ならば、顔を見なければ、なんとか対応できる。
だけどこれは無理でしょう!!
四人そろったローブ者を目にして、意識を失わなかっただけでも褒めてもらいたい!
ギリギリ踏ん張って女の子の対応をしたナスターはすごい!
というか!ローブ者四人を背に、平然としているあの子はもっと凄い!何者なの?!
薄情と言われても、倒れたナスターを助けに行くのは無理だった。
アレらの側に近寄るなんて、頭と体が拒否してる。
だからすぐにギルマスが来てくれて助かった!
私は素早く動いてドアを開け、そのままナスターを運ぶギルマスについて行った。
受付に残った同期から恨みがましい視線を感じたけど、ここは早い者勝ちだ。
……一週間ランチを奢らされる事は覚悟しておこうと思う。




