42.5
◇◆ラーシュ◇◆
サクラコさんの声が聞こえる……。
何を言っているのかわからないけど、サクラコさんの声だから何でもいいや。
ぼくは……
もしかしたら、もう死ぬのかもしれない。
本当はちゃんと本人に会いたかったけど、幻聴でも最後にサクラコさんの声が聞こえたんだから、よかったと思おう。
ぼくたちのような者が唯一幸せを感じるのは、死ぬ時だと聞いていたのは本当だった。
いや、幸せを感じたのはサクラコさんと出会ってからずっとだな。
ローブ者だから当たり前だけど、碌でもない人生だった。
この半月ほど、絶対に手に入らないと思っていた、人並みの生活をおくれたんだ。
人々から忌み嫌われるこんな顔でも、サクラコさんが美しいと言ってくれた。
それはサクラコさんのお国の事情だけど、でもそのおかげであんなにも幸せな日々を過ごせたのだから、それまでの人生と引き換えにしてもいいくらいだ。
ただひとつ心残りなのは、サクラコさんに何のお返しもできていない事……。
ぼくなんかに返せるものなんて何もないけど、何の価値もないこんな命なら捧げられる。
そうだ!
サクラコさんのために何もならず、ただ死んではだめだ!
諦めかけていた気持ちは、強く生きたいと願い始めた。
だけど何て事だろう、体が軽くなっていく。痛みも感じなくなって…… 本当にもしかしたら、
いやだ! サクラコさん!!
「ラーシュ君! 気がついた?大丈夫?痛いところは?苦しいところは?」
サクラコさん?! 本物?!
「サクラコ、そう矢継ぎ早に聞いても答えられぬだろう。 ラーシュ、水だ。ゆっくり飲め」
水!
受け取った水を飲みほして、自分の今の状況がわかると、一気に体温が上昇した。
なんで、 こ、こんな……?
目が回りそうなほど、頭と顔が熱くなった!
「あの…、この、状況は…?」
なんでぼくは、サクラコさんに寄りかかっているんだ?!
はにかむように説明してくれたサクラコさんは、その後一転、声を上げて泣き出した。
時々、ぼくの無事を安堵して喜んでくれる言葉が混ざる。
サクラコさん……。
ありがとうございます。ぼくは、胸も熱くなる。
それから、サクラコさんをこんな風に泣かせたらいけないと思った。
これからどうやって危険を回避すればいいんだろう。拒否なんてできないぼくたちだけど……。
考えても答えの出ない問題は、サクラコさんがサラっと解いてくれた。
◇◆クラウス◇◆
ラーシュを無事に(じゃなかったけど、結果として)回収できて、家路についた休憩の時に、サクラコさんから驚く事を言われた。
だいたいサクラコさんは、ぼくには考えもつかない事ばかり言う。
サクラコさんは生まれ育った環境や教育のせいだと笑うけど、それでもこの大陸の人間には思いもよらない事ばかりだ。
だって!
こんな、ぼくたちのような者とパーティーを組むだなんて!
……ああ、でも、サクラコさんはすでにぼくたちのような者と一緒に暮らしてくれている。
パーティーよりそっちの方が驚きか。いや、どっちもありえない驚くべき事だな、うん。
いや、それより今はパーティーだ。
「でね、誰がリーダーになってもいいと思うけど、君たちの誰かがなったら、あいつらのいう事をきかされちゃうでしょ?」
いえ、ぼくたちじゃリーダーにはなれないと思います。
「経験豊かな君たちを差し置いて、新人の、しかも戦闘力が0の私がリーダーになるのは本当なら間違っているけど、私の仲間を勝手に他所の依頼には使わせないから!名ばかりリーダーにならせてね!」
いえ!ぼくたちのリーダーになるとしたら、サクラコさんしかいません!
だけど、ぼくたちのような者がパーティーを組むだなんて、そんな事許されるのかな……。
ぼくたちの希望が叶う事なんて、今まで一度だってなかった。
だけどもしかしたら。サクラコさんなら、もしかしたら。
サクラコさんは言った事を実現させる力があるからな。
小さな希望が灯った。




