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41.5




◇◆ラーシュ◇◆




その日の朝、ギルドに行くと受付で助っ人の依頼を言い渡された。


前回から少し空いたからな……。

そろそろかと思っていたけど、とうとうきたか。

ぼくは暗雲とした気持ちで出口に立っているAランクパーティーの方に歩いて行った。


(おせ)えよ!」


リーダーの男が吐き捨てるように言うと、四人はそのまま建物を出て行く。

ぼくは黙って後を追いながら、サクラコさんを思った。


ぼくが助っ人依頼を受けた事は、クラウスかエネがわかるだろう。サクラコさんには伝えてもらえると思うけど、きっとサクラコさんはもの凄く心配するだろうな……。


そんな事を考えていたら、ちょうどぼくたちとすれ違うようにしているエネが目に留まった。


“サクラコさんに心配しないように伝えてほしい”


ぼくの思いがちゃんと伝わったかわからないけど、エネはわずかに頷いたから託すしかない。

それから二日、魔獣が大量に発生したという場所に向かって歩いた。




魔獣が発生した場所は、古都と王都を結ぶ大きな街道の側だった。

ぼくはそこまでの二日間、今までとは比べ物にならない程快適に過ごせていた。


移動も少し離れて歩いているくらいのぼくは、当然食事や野営も離れる。もっというなら、目につかないようにするほどだ。

という事は、サクラコさんから貸し与えられた便利グッズを見られないという事になる。


毎食の出来立ての美味しいご飯も、テントや寝心地のいい簡易ベッドも、ものすごくありがたかった簡易結界も(これがどれほど高価か、後から知って大汗をかいた)知られたら取り上げられてしまう。


これらのおかげで、ぼくは今までになく元気に現地まで行きつけた。

精神的にはいつも通り疲労したけれど、体が健やかに保てたのは大きかった。着いてすぐに討伐に参加しても、余裕で魔法を使う事ができたくらいだった。

サクラコさん、ありがとうございます。




討伐は思ったより厳しかった。

飛行型なので剣が届かない。襲ってくるものに対しては戦えるけど、矢も届かない上空にいるものには魔法以外には打つ手がなかった。

そして、何よりその数が多かった。


ぼくと何人かの魔法使いは、空を飛ぶ魔獣たちを魔法で落とすという事を淡々と続けた。

その場にいる冒険者の面々は、落ちてきた魔獣に止めを刺す。それを延々と続ける。

冒険者たちは代わる代わる休憩をとりながら、討伐は三日続いた。


ぼくはたちのようなローブ者は、ほぼ無休で魔法を放ち続ける。ぼくは何度か気絶するように意識を失ったけど、すぐにたたき起こされた。

そうして、もう魔力が枯渇するという寸前に、最後の一匹が倒されたのを見て、今度そこ本当に意識を失った。




どれくらいたったか……

寒さに目が覚めると周りに人の気配はなく、明け方の空の下でぼくは道端に倒れていた。

何故か脱がされているローブは、だけど汚いものを隠すように雑にかけられていてーーー


『ない!』


しゃがれて声にならない息が出た。

サクラコさんの肩掛けカバンがなくなっていた。

意識を失っている間に奪われたんだ!


自分を見下ろす。

ローブは切り裂かれてボロボロで、体中も傷だらけだった。戦闘中は気にしていられなかったけど、何度も魔獣の攻撃を受けていた。助け合う、助けられるなんて事はないし、回復薬を飲ませてくれる間もない。


乾いてこびりついているから血は止まっているようだけど、胸が痛い。もしかしたら肋骨が折れているのかもしれない。

熱もあるようだ。寒さを感じて目が覚めたのに、今は燃えるように全身が熱かった。


奪われなかったら肩掛けカバンの中に回復薬があったのに……。

今までだって、何度も死にそうになった事があった。今だって同じだ。ぼくは立ち上がって歩き出した。


サクラコさんが心配している。帰らなくちゃ……。


その思いだけで歩けた。ボロボロのローブでもしっかりかぶって、顔を見られないようにしなければ。

これ以上暴力を受けたらサクラコさんの元に帰れない。


サクラコさん……。


何日も食べていない。奪われて水もない。何度も意識を失いながら、目覚めて足を動かす。


死ぬのなら、もう一目だけ、サクラコさんに会いたい……


「ラーシュ君!!」


サクラコさんの声が聞こえた気がした。




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