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一晩中心配しながら過ごした翌日、いつものように ……って、あれ? いつものようにって、私そう思うようになってたんだ……。
何の気もなしに、自然にそう思った事に驚いた。
今でもあっちの世界に帰りたい気持ちはあるし、元の生活を諦めたわけではないけど、ここでの生活も私の日常になっているんだと、何といっていいかわからない複雑な思いになった。
未だに、夢や物語の中のような世界だなぁ…… と、思う事がある。
だけど現実だし、私はここで生活しているし、帰れなかったらここで生きていくしかない。
そう、私の人生は私が決めて生きていくんだから!
という訳で、しっかり朝ご飯を食べたら、今日はやる事がある!
「ユリウスさん、今日は図書館じゃなくて冒険者ギルドに行きます」
「行って何をするのですか?」
「ラーシュ君が受け(させられ)た依頼を聞こうと思って」
邸を出て歩きながら言うと、ユリウスさんはチラリと私を見た。
「聞いてどうするのですか?」
「まだわかりません。聞いてから考えます」
「そうですか」
「はい」
依頼内容を聞いたら(聞いてもわかるかわからないけど)この心配も少しはマシになるかもしれない。逆パターンもあるかもだけど。
それと、何日くらいかかるのかが聞ければ、それ以上になった時の対策を考えられる。クラウス君の時のように、満身創痍で捨て置かれた時に助けに行くとかね。
もちろん依頼内容を聞く以外はしないよ?
ラーシュ君は成人している(成人は十八歳だそうだ)立派な男なんだし、もうずっと冒険者をしているプロなんだから。
普通だったら口出しも手出しもしないけど、世間の当たりがアレでしょ?そうならない事を願うけど、酷い時には助けに行ってもいいと思う。私たちはパーティーではないけどシェアメイトなんだから。
それ以前に、好きな人の危機を助けたいと思うのは正しい心理だと思う!
この時私は何かが引っ掛かったのだけど、ちょうどギルドに着いたので、意識がそっちに向いてしまった。
冒険者ギルドには一度だけ、登録をしに来たきりだ。
その日受けた薬草採取で、私には冒険者は勤まらないとわかって、その後来る事はなかった。
それに、まぁ……、
その時ちょっとやらかしちゃったからね。
私は悪くないけど!
あれからしばらくたって、普通なら平凡な私の顔なんて覚えてる人はいないと思うけど、この世界的にローブ者をかばうなんて衝撃的な事をしたもんだから、もしかしたら覚えられているかもしれない。
ローブ者と親しい人は(そんな人はいないそうだけど)同じに扱われるのかもしれない。ラーシュ君はいつもそれを心配していた。
だけど私は躊躇なくギルドの扉を開けた。何故か?
騎士様が一緒にいるからね~♪
商業者ギルドでは騎士様効果抜群だった。さすが身分社会!なのできっと冒険者ギルドでもいける筈!
中に入ると、少し遅い時間だからか(ラーシュ君たちにはいつもくらい。ちなみに、一緒には歩いてないけど、エネちゃんも出勤しているよ)ギルドの中はそれ程混み合っていなかった。前に来た時と同じくらいかな。
私はちょうど空いた受付に向かった。
「おはようございます。ちょっとお聞きしたい事があるのですが」
「おはようございます。はい、何でしょうか?」
受付のお姉さんは(いや、私より年下かもしれないけど!)ぽっちゃりしたややブサさんだ。この世界的には美人さんだね。
「昨日の朝に、ラーシュが受け(させられ)た依頼の内容を教えていただきたいのです」
「え? 誰ですって?」
お姉さんは、その名前にまったく覚えがないという顔をして小首をかしげた。
自然にそんな仕草ができるなんて、やっぱ十代かな~。いやいや。
「ラーシュです。ローブ者の」
「…………」
途端に顔をしかめるお姉さん。
おい!可愛い顔が(私的にはよけいブサイク。おっと失礼!)台無しだぞ!
「依頼内容を聞いてどうするんですか?」
あれ?依頼に守秘義務でもあるのかな?(そりゃあるか)
「彼らへの世間の扱いが酷いので心配しているだけです。特に何かをする訳ではありませんけど、予定の日数を過ぎても帰ってこないようなら迎えに行こうと思いまして」
「…………」
お姉さんは信じられない!って顔をした。表情豊かな人だなぁ。
で? 教えてくれるの?くれないの?
その後聞いた依頼内容によると(特に守秘義務はなかったよ)古都から南に二日ほど歩いた、王都への街道沿いに魔獣が出たと。Bランクとそれほど強い魔獣ではないけれど、数が多い上に飛行型なので、魔法使いがいるとの事だった。
行き帰りに四日、魔獣討伐に二日から三日、通常なら一週間ほどで戻ってくるだろうと教えてもらい、お礼を言ってギルドを後にした。
ちなみに、やっぱり騎士様がいらっしゃるからか、私なんて覚えてなかったからか、誰も私に声をかけてこなかったよ。
騎士様の姿に、ちょっと避けられてるくらいだったわ。
それにしても……。
「一週間かぁ……。長いな」
「私は殿下の護衛でしたので魔獣討伐をした事がありませんが、騎士団でも討伐隊があって、けが人は出ますが死者はめったに出ないと聞いています。今回討伐に向かった冒険者も経験豊富な者たちだと言っておりましたから、そう心配する事もないでしょう」
う~ん……。
そう言ってくれたユリウスさんを見て答える。
「ラーシュ君はなかなか強い魔法使いって聞いてますけど、それと心配とはまた別っていうか……。魔獣もだけど、もっと心配なのが人間の方っていうか……」
「あぁ…」
皆まで言わずともわかってくれたようだ。
クラウス君のような事になったらどうしよう。あの時、クラウス君は私たちに会わなかったら相当ヤバかったと思う。
あんな風に一人で対処できないくらいの大ケガを負っちゃたりしたら……。
誰にも出会えず、一人で苦痛を耐えなければならなくなっちゃったら……。
最悪、一人ぼっちで……
ダメダメダメ!!! 私は勢いよく頭を振った!
そんな想像はしちゃダメだ!
ラーシュ君は成人している立派な男だし、冒険者のプロなんだから(二回目)危険な仕事でもやれると思う。ケガとか心配だけどね。
魔獣より心配なのは、人間の方だ。
初めて冒険者ギルドに行った時、職業柄か体の大きな人(というより重量級)が多かった。力がありそうな上に考え方が最悪で、ラーシュ君が帰りにはどんな状態になるか心配だ。クラウス君の時の例があるしね。
というわけで迎えに行ってもいいよね!いや、行く!
その日の夜、私はみんなにラーシュ君を迎えに行くと話した。エネちゃんとクラウス君はすごく驚いていたけど、フェリクス様は何でもない事のように「では私も一緒に行こう」と言った。
「え? 何でですか?」
「サクラコを一人で行かす訳にはいかぬだろう?」
「私もご一緒しますよ」
「え!ユリウスさんまで?」
「フェリクス様が行かれるのですから当然です」
フェリクス様の護衛だもんね、そりゃそうだけど。
「それに、私の回復魔法は絶大だぞ。自慢だが、上級ポーション以上の癒しになる。ラーシュがどの程度怪我を負うかわからぬのだろう?」
「はい」
上級ポーション以上かぁ……。
クラウス君の大ケガの時を思い出す。
あれ以上って事だよね。すごいな。
「……ありがとうございます。行く気は満々なんですが、町の外には一度しか出た事がなかったので、実はちょっと不安でした。お二人が一緒に来てくれるならすごく心強いです」
情けないけどそれは本心だった。
私は心から安堵して、笑顔になって頭を下げた。




