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商業者ギルドの応接室にて。


さっきの受付嬢さんとは違う女性スタッフがお茶を持って来てくれた。

こういうところは元の世界と変わらないんだな。


違っているのは、びっくりするぐらい太ったブサメンさんが、たぶんイケメンとして目の前にいる事。お茶を持って来てくれた女性スタッフも、お太りのややブサさんだ。

脳内変換が出来ません!


「さっそくですがこれ、バンスクリップというものですが……」


何パターンかの使い方を見せる。材質はプラスチックというもの、それと金具。


「私も買って使うだけの側なので、どう作られているかわからないのですが、分解して仕組みがわかれば作れるものだと思います。現物と併せて商標権もお売りしたいと思っています。 

……いかがでしょう?」


オスカーさんは考えながら尋ねてきた。


「問題がふたつあります」

「なんですか?」


やだなぁ。難しい事は聞いてくれるなよ、と思いながら表面上は落ち着いて構える。


「商標権といっても、聞いた感じではサクラコさんが持っているものではないようですが?」

「それなら大丈夫です。私の生まれ育った国は地図にものっていないような世界の果の島国なのです。私は何かの手違いでこの大陸に飛ばされて来てしまったようです。とても閉鎖的な国なので、この大陸にやってくる事はないでしょう」

「飛ばされたとは、なんらかの魔法で?」

「そのようです」

「……そうですか」

「はい」


さっきの女性スタッフが、バンスクリップはどこにも登録されてないとオスカーさんに報告する。


「もうひとつ。サクラコさんが言った通り、分解すれば仕組みはわかるでしょうが、プラスチックというものが作れません。つまり、バンスクリップは作れないという事です」


そこも考えといたよ!


「プラスチックはムリですが、金や銀で作る事はできませんか?(たしか金属製もあったよね)宝石を飾りつければお金持ちのご婦人たちから喜ばれると思います。

庶民向けには木製ではどうでしょう?花柄など、色んなデザインを彫ったら可愛い仕上がりになると思います」

「なるほど!よく考えられています。サクラコさんはまだずいぶんお若く見えますが、たいしたセンスをお持ちだ」


いや、私のセンスというより、ハンドメイドの小物が好きなので、その手の制作動画をよく見てただけなんだけどね。


「今のアイデア料も込みでお売りしますよ」ニッコリ♪


結局、バンスクリップはひとつ金貨1000枚になった。

この世界にはないプラスチックだからね、希少価値がついたようだ。

それプラス、アイデア料込みの商標権に金貨1000枚、合計金貨5000枚が即金で手に入った!


手元に金貨10枚を(1枚分は銀貨と銅貨にくずしてもらった)残して、後は全部ギルドの私の口座に入れてもらう。


今後の収入もある。

販売してからだけど、毎月売り上げの3%を二年間もらう契約を交わした。

二年と期限をつけたのは、その方が相手も了承しやすいだろうから。あまりがめつくやってはいけない。

まだ売り物はありますよと、匂わせてもおいたしね♪




「はあぁぁ…」


商業者ギルドを出て、大きく息を吐きだす。 

あー、疲れた!話し合いや登録や契約なんか、結構な時間がかかったよ。


お腹すいたし。今何時だろ?

リュックからスマホを取り出す。

画面には20:07の表示。


わっ!ここに3時間もいたの? 

今から宿屋さんに行ってご飯あるのかな……。


一応聞いておいた宿屋さんの方向に歩き出すと、スッと追い抜いていく人が小さく言った。


「サク、サクラコさん、少しいいですか」


あれ? ラーシュ君?

ちょっと先の路地を曲がったラーシュ君について行く。


「どうしたのラーシュ君?まさかずっと待っててくれたの?」

「いえ、宿に戻りました。けど、サ、クラコさんが、この大陸ではない島国から来てこの国の事がわからないと言っていたので、大丈夫かと気になってしまって……。あの、大丈夫だったならいいんです。

すみません!待ち伏せとか、そんなんじゃないんです!」


弱気に話していたと思ったら、大慌てでそんな事を言い出すんだもんなぁ、笑っちゃったよ。


「そんな風に思う訳ないじゃん。ありがとね、ラーシュ君のおかげでお金が手に入ったよ。これで今夜は宿屋に泊まれるわ」


ラーシュ君は目に見えて安堵した。


「せっかくだから教えてもらおうかな。私、泊まるならセキュリティーがしっかりしてるお宿がいいんだ。それで清潔だったらなおいいんだけど。ラーシュ君、そんなお宿知ってる?」


ラーシュ君は考える間もなく言った。


「私たちのような者は一般の宿屋には泊まれません。なので他の宿屋の事は話に聞く事くらいしか……」


え、そこもそうなの? 

美醜逆転厳しいなぁ!


ラーシュ君は何かを言いたそうにしているけど、なかなか言葉がでないようだった。

急かさず待つ。


「清潔は並みかと思いますが……。私の常宿は、サ、クラコさんが、顔さえ隠していれば、安全です。私たちのような者は互いに関心も接触も持ちませんから」


やっと、ためらいながらそう言った。


「え、そうなの?」

「はい」

「助け合わないの?夕方みたいな事はよくあるって言ってたじゃない。あんなの一人じゃ……」


私は言葉を止めた。

ラーシュ君から静かなと哀しみが伝わってきたから。


「ごめん。会ったばかりの私が口出しする事じゃないね」

「いえ!」

「うん、安全というなら連れてってもらおうかな。安全第一!」

「はい」


ではと、移動を開始する。

大通りでは夕方と同じく、少し離れてラーシュ君の後を歩く。


「わぁ…!」


通り過ぎる広場では何やら人が賑わっていた。

町内会のお祭りのように、その場には食べ物や飲み物の屋台も出ている。

漂ってくるいい匂いに、お腹が鳴った。

足早にラーシュ君に近づく


「ラーシュ君、ご飯食べた?」

「いいえ、まだ…」

「私めっちゃお腹空いてるんだよね。あそこで食べて行かない?お世話になったお礼にご馳走するよ!」

「私は……、人が大勢いるところには近づけません。そこで(建物の陰)待っているので、サ、クラコさんは、食べてきてください」


店内じゃなくてもダメなんかぃ!

ほんと厳しいな!!


なんだか無性に腹が立ってきた。

元々理不尽は腹立たしかったけど、お腹が空いているからか余計腹が立つ!


「ちょっとそこで(建物の陰)待ってて!」


言って広場に走り出した。

美味しそうな食べ物をたくさんトレーにのせて、お酒なんかも買ってラーシュ君の元に戻る。(トレーとコップは後で返却)


「さあ食べよう!」

「え…」


ランタンの光で明るく賑わう広場じゃなくて薄暗い場所だけど、理不尽に警戒しながら食べるより全然いいよね!


「ラーシュ君の好みがわからなかったから、私が美味しそうと思ったものを買って来たんだけど、嫌いなものある?」

「食べられるものならば何でも食べます。嫌いなものはありません、が…」


なんかヘビーな事が聞こえたような……。


ラーシュ君の手にお酒の入ったコップを持たせると


「お疲れ様~!」


軽くコップを合わせた。

仕事上がりはやっぱり乾杯でしょ!


「さあ!冷めないうちにどうぞ!」


空いている方の手に串焼きを握らせて、私はさっさと地面に座り込んで食べ始めた。

私が先に口をつけなかったらラーシュ君は食べないと思われるので。


ラーシュ君はコップのお酒を飲むと「美味しい…」と呟いて、串焼きも一口かじった。


コップを持つ手は震えているし、ポタポタと雫が落ちている。


私は見ないふりをして屋台料理を食べた。




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