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「何の騒ぎだ?」
あわや乱闘か!とファイティングポーズをとっていると、ブサイクの上から涼しい声がした。
視線を上げれば、普通サイズ普通顔の…… たぶん騎士さんがいた!!
ほおぉぉ! 生騎士!! テンション上がる!!
じゃなくて!
「こいつから女の子を助けてやろうとしたんです!」
「ローブ野郎のくせに、私に暴力をふるいました!」
おい!何ウソ並べてんだ!
騎士さんがこちらに視線を向けた。
「違います。私が断っているのにムリヤリ連れて行こうと言い出したのはそっちです。彼は私を助けてくれたんです。暴力をふるったのもそっちです。彼は殴られました!」
私が事実を話すと、騎士さんはラーシュ君に確認した。
「そうなのか?」
ラーシュ君は声を発さずに頷いた。
「何いってんだ!俺の手をーー」
「黙れ」
相手を従わす声に、ブサイクAは慌てて口をつぐんだ。
ひょえ~、さすが階級社会!騎士と平民じゃ身分が違うってか!
「どちらが本当の事を言っているかは問題ではない。このお嬢さんがおまえたちの助けをいらないと言っているんだ。この後は私が送ろう。おまえたちは安心して行くがいい」
「……はい」
「失礼します……」
ブサイクsが不承不承返事をすると、騎士さんは恐ろしく低い声で言った。
「今後、このお嬢さんに手出しする事は許さん。次はよく話を聞く事になるぞ」
「「はい!!」」
ブサイクsは逃げるように去って行った。
小物は小物らしく退場!
「ありがとうございました」
私は生騎士さんにお礼を言って、慌ててラーシュ君の顔を覗き込んだ。
「ラーシュ君、殴られたところ大丈夫だった?痛いでしょ?クソ腹立つなぁ!なんですぐ暴力かね!まったく!許せないよ!」
薄暗くなってきているし、フードの中だし、暗くてよく見えないよ!
ラーシュ君はやっぱり声を出さず、大丈夫だというように頷いている。
声を出さないのはあれかな、騎士さんがいるからかな?
じゃあ帰ろう!早く帰って手当てしよう!
「ありがとうございました。私たちはこれで失礼します」
もう一度お礼を言って、ラーシュ君の手を引いて歩き出すと、騎士さんが尋ねてきた。
「君たちは親しい間柄なのか?」
「はい」
立ち止まって返事をする。
ラーシュ君は首を振ってるけどね。
「ラーシュ君、さっきのやり取りを見ていたら知り合いじゃないとはいえないよ」
手も繋いでいるしね、と繋いだ手も上げてみせる。
ラーシュ君は力なくうなだれた。
「……二人とも送ろう。来なさい」
「え…」
二人ともって言った!
ラーシュ君を、きちんと一人の人として扱ってくれた。……なんで?
いや、たくさんの人の中にはそういう人だっているかもしれないけど。
色んな人がいるよね、変わってる人とか。(失礼!)
私はこの時、ラーシュ君が否定されない嬉しさより、どういう事なんだろうという疑問でいっぱいになった。
その疑問はすぐにわかる事になるんだけど。
路地から通りに出ると、少し離れたところに一台の馬車が止まっていた。
通行のジャマだな、とか思いながら横を通り過ぎようとしたら、騎士さんが「乗りなさい」と馬車のドアを開けた。
え、乗るの?馬車に? ……危なくない?
私の警戒がわかったのか、騎士さんが言った。
「私は見ての通りあやしい者ではない。名も名のろう。ユリウス・カッセルという。さるお方にお仕えしている、正規の騎士だ」
「あ、はい……。 私は桜子といいます。この人はラーシュです。二人とも庶民です」
最後いらなかったかな?
だけどユリウスさんは身分を言ったからなんとなく。
「さあ乗りなさい」
「はい……」
まぁ助けてくれた人だし、正規の騎士さんという事は、日本でいったら警察官?それなら大丈夫かな。たぶん。
なんで騎士さんが馬車を使ってるのかわからないけど。(騎士って徒歩か騎乗のイメージ)
馬車に乗り込もうとすると、 あれ?
すでに乗っている人がいた。しかもローブ姿の人だ。ラーシュ君のお仲間?
「おじゃまします」
私はそのローブさんに一声かけて乗り込んだ。
向かいに座っているローブさんを見る。なんだろこれ?ユリウスさんはローブの人を集めているの?(私は違うけど)
え、大丈夫これ。ヤバい状況じゃないよね?
私がそんな事を考えていると、ユリウスさんはローブさんの隣に座った。
あら。ローブ姿の人に近づける人なんだ……。
そういえば最初からラーシュ君の事も見ていたし、“二人”とか、私と一緒の数え方もしていた。ラーシュ君を馬車にも乗せてくれたし……。
この世界に来てから見た人々の、ラーシュ君たちに対する扱いとは全然違う。
ユリウスさん、どういう人なんだろ?
私はかなり不躾にユリウスさんを見ていたっぽい。
ユリウスさんはわざとらしく咳ばらいをした。
「家は?」
「すみません、ベーネ地区です」
ユリウスさんが御者さんに「ベーネ地区へ」と言うと、馬車はすぐに走りだした。
走り出した馬車に揺られながら、やっぱり私は心配になってきた。
ユリウスさんは他の人とは違うように思えるけど、ラーシュ君と、私の向かいに座るローブさんが、偶然同じ馬車に乗り合わせるなんて不自然だよね。
ラーシュ君を危険な目に遭わせるわけにはいかない!
ついでにローブさんも!
「ユリウスさん、聞いてもいいですか?」
「何か?」
「一般的に、普通の人がローブ姿の人と一緒の場所にいるのはありえない状況だと思うんです。何か訳があるんですか?」
ラーシュ君からハラハラする気配が伝わってくる。
すまんね。
「君だってローブ姿の者と一緒にいるのに?」
ユリウスさんは私の問いには答えずに、ゆる~く返した。
これはどう受け取ったらいいの?
「私はこの大陸で生まれ育っていないので、この大陸の常識はないんです。ローブ姿の人を忌避する意識はありません。ですがユリウスさんは違いますよね?」
ユリウスさんは黙って私を見ている。
黙ってちゃわからないよ!
「騎士さんなら、悪い考えはないと思いますが……。ここにローブ姿の人が二人いるのは事実です。何か訳があるんですか?」
私は、頼みの綱のスマホ様をスタンバイして言った。
いざとなったら二人を助けなくちゃ!や、私にできるかわからないけどさ!
「君の心配するような事はない。これはーー」
「よい。サクラコ、そなたの真意はわかった」
「は?」
いきなりローブ君が(声が男性)話し出した!
しかもなんか偉そう!!
「そなたが我々のような者を厭わないのはわかった。親身になる事も」
「…………」
ユリウスさんを見る!どういう事ですかー!
なんていう驚きは次の瞬間吹っ飛んだ!
ローブ君が、顔を上げて私を見たから。
当然私にも彼の顔が見える。これまためちゃくちゃ美しいお顔立ち!暗くなってきている馬車の中でも光り輝くような美しさだった!
「心配する事はない、事情を話そう。若い女が、ローブ姿の者を集っていると報告が上がってな。そなたも言うように、それはこの世界では“ありえない事”なのだ。そなたは調べられ、その報告を見て、私は興味が湧いたという訳だ」
「え…」
調べられたって何?! こっわ!! めっちゃ怖いんですけどー!!
ローブ君の美しさの感動も吹っ飛んだよ!
何これ? 今私、連行されてるの?!




