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31.5




◇◆ラーシュ◇◆




サクラコさんを商業者ギルドに送って、日中は気もそぞろに依頼をこなし、早上がりをしてお邸に戻って夕食の準備をする。

サクラコさんは帰りの時間がわからないと言っていたけど、思ったより早く終わってしまったら困る。

手早く夕食の下ごしらえをすると、あとは食べる前に火を入れればいいだけにして、ぼくは商業者ギルドに急いだ。


この前サクラコさんが迎えに来てくれた時に待ち合わせた路地の入り口で、ぼくは壁に張りつくようにしてギルドの出入り口を見る。

お邸とギルドまでの道すがらはサクラコさんとすれ違わないように気を付けていたから、たぶんサクラコさんはまだギルドの中にいる。


待ちぶせではないけれど、自分のこの行動はちょっと危ないかも……と、頭の中の冷静なところで思っている。

でも心が行動を制御できない。サクラコさんが元の世界に帰ってしまったら、もう二度と会えなくなってしまうという強迫観念もあるのかもしれない。


そういえば、サクラコさんと出会った日もこんな風にギルドのドアを見ていたっけ……。

まだたった二週間足らずの日々なのに、なんだかもうずいぶん遠い日のようだ。


ぼくはあの日と同じに、この幸せな何日かの記憶を思い返しながら待っている。

それまでの二十年分を補って余りある幸せな日々だ。

待つ事なんてちっとも苦ではない。




辺りに夕方の色が濃くなってきた頃、サクラコさんがギルドの建物から出てきた。

ぼくを探す視線が嬉しい。サクラコさんはこんな風に、いくつもの幸せをくれるんだ。


足早にやってきたサクラコさんがぼくの側まできた時、後から二人組の男が現れた。

まとう雰囲気があやしい。激しく警鐘が鳴る。サクラコさんを守らなければ!


ぼくたちのような者はどんなにひどい暴力を受けても反撃は許されない。自分を庇うための抵抗も許されない。

ぼくから手を出す事はできないから、いざとなったら顔をさらして男たちを怯ませるしかない。その隙にサクラコさんを逃がそう。


ぼくはサクラコさんと男たちの間に入った。







◇◆二人組の男◇◆




うだつの上がらない人生だ。親から譲り受けた稼業は傾けちまって、ちっぽけな店がひとつだけしか残ってねぇ。その店の経営もカツカツだ。嫁と子供には出て行かれた。


親の代までは羽振りがよく、それなりの生活ができていた。「坊ちゃま」なんて呼ばれていたんだぜ。それが今ではこれだ。認めたくはねぇが、商才ってやつがなかったんだろう。

ひとつだけよかった事は、両親ともすでに亡く、こんな状況を知られずにすんだって事だ。まったくやんなっちまうよ。


類は友を呼ぶとはよくいったもんで、こんな俺とつるむのは、やっぱり貧乏くさい男だ。

こいつも親から譲り受けた稼業を潰しちまって、また店を持つという意気込みだけで生きてるような奴だ。

まぁ俺は店ひとつ残ってるがな。


何か旨い儲け話はないか。まとまった金が入れば家業を立て直せる。今度は上手くやって、親の代までとはいわねぇが、今よりちっとは盛り返してぇ。人間一度いい思いをしちまうと、それより下の生活はできねぇもんだ。


旨いこぼれ話でもないかと商業者ギルドに通っているが、そんな幸運なんてなかなかねぇよな。これでも一応商人だから毎日通うけど。


そんなある日、幸運が現れた!

朝っぱらから副ギルド長様のお出ましだ。年端もいかないような女の子のお出迎えをしている。

副ギルド長に連れられて女の子が消えた後も、ギラギラとした欲望がギルド内を渦巻いていた。

みんな思っている筈だ、これは上手くやればでかい儲け話になると!


「おい……」

「あぁ」


連れに問いかけると、奴もすぐに返事をした。

言葉はなくとも意思は通じたようだ。


あのお嬢ちゃんと、ちぃ~と話をしてみようか。




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