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可愛い封筒に入った一万円札。

それはこの世界に来る直前、実家の妹二人にあげようと用意していたものだった。


1枚ずつだけど、新卒の初ボーナスとしては奮発した方だと思う!一応ちゃんと新札にしてみたりして。お年玉じゃないけど、なんとなくね。それがここで生きようとは!


「これは……、手に取って見せてもらっても?」

「どうぞ」


オスカーさんはじっくりと見て、矢継ぎ早に質問してきた。


「とても詳細な人物画ですね、サクラコ様の国の王ですか?人物と、これはサクラコ様の国の文字ですか?これらが一緒に描かれている事に何か意味が?それにこの輝いているもの。私はこのような絵画は見た事はありませんが……」

「裏側も見てください」

「裏側? ほぉ……、裏側にも描かれているとは。少し個性的な鳥と思いますが。両面に描く、これはどういう画法なのですか?」


私も画法は知らないよ。そもそも画法っていうのかな?

それからオスカーさん、驚いているところすまないけど、もう一回驚いてもらおうか☆


「オスカーさん、こうやって明るい方に()()()()見てみてください」

「はい? おぉ!(透かし絵に驚いている)

これはもう、私ひとりの判断では値がつけられません!少しお待ちを」


興奮したオスカーさんは、そう言うと飛ぶように部屋を出て行った。

あんなにお太りなのに機敏……。(失礼!)

私は出してもらったお茶を飲んで待つ事にした。


少しして、オスカーさんと一緒にお太りのブサメンさんが(悪口じゃないよ!)やって来た。


「ギルド長のニルスといいます。とても珍しい絵画を持ち込みだとか。見せてもらってもよろしいですか?」

「初めまして、桜子といいます。はい、これです。どうぞ」


ニルスさんは丁寧に一万円札を受け取ると、両面をよくよく見ている。

オスカーさんに聞いたのか、光に透かしたりもしている。


「ほぉ……」


最後に、思わず漏れたような声を発すると、丁寧に返してきた。


「とても珍しいものですね。これはサクラコ様の国の絵画ですか?サイズもですが、どうも絵画にしては……、少し違う様にも思われます」


お、さすがギルド長!鋭い!


「おっしゃる通り、じつはそれは私の国の紙幣なんです」

「紙幣? サクラコ様の国の通貨ですか」

「はい」

「通貨にこれほどの技術……。なるほど、あの髪留めがあれほど美しいのも納得しました。サクラコ様の国がとても進んでいるという事も」


そうなのかな?まぁ確かに文化水準は違うわね。こっちには科学の代わりに魔法があって、どっちが上とかいえないけど。私は元の世界の方が生活しやすいけどさ!


「これはサクラコ様の国ではどのくらいの通貨価値なのですか?」

「…………」


あっぶな!正直に言いそうになったよ!これもう商談が始まってるからね!


「私の国での価値で、買い値は変わりますか?」

「…………」


ニルスさんはじっと私を見た。特に凄まれてもいないのに居心地悪っ!でも負けない! 

……いや、負けてもいいのか?相談事もあるしね。


「たぶんこちらの、金貨1枚と同じくらいかと思います」


ニッコリ笑顔もつけてやった。




それから先の商談なんて、たいして面白くもないから割愛!

結果をいっちゃうと、一万円札は芸術品として買い取ってもらえた。


1枚金貨1000枚、2枚で金貨2000枚!

それほどの芸術的価値があるそうだ。


まぁ実際ギルドが売る時は、それに利益分上乗せするからもっと高くなるだろうけどね。

ただの一万円札が1000万円以上で売られるとか!こっわ!!


で、邸の所有者名義を変えたい事や、ロイヤリティーの契約変更なんかの話だけど。

所有者の名義変更は、商業者ギルドではどうにもできないとの事だった。それはまた別の管轄だそうだ。


だけどロイヤリティーの受取人の変更はしてもらえた。

ラーシュ君たちが利益を受ける、何かを優遇されるという事は、この世界ではありえない事なので、絶対絶対秘密という事で。


それと条件もついた。

私が月に一度はギルドに顔を出す事。表向きは、私がこの国にいるかの確認だって。ラーシュ君がロイヤリティーを受け取れるのは、私がこの国からいなくなったらだからね。実際は珍しい物を売ってくれ、って事なんでしょうけど。


契約変更の()()()は金貨1000枚。

それで変更してくれるなら全然いいわ。金貨1000枚は惜しくない。それに、その手数料は一万円札を売ったお金だから持ち出しじゃないし。

さすが商人。ちゃっかりしてるけど、契約変更してくれるならオールオッケーだ♪


でも困ったぞ。どっちかといえば、邸の所有者の名義変更の方がしてほしかったのに。

そうだとは思っていたけど、ラーシュ君たちの社会的地位は低い。低いどころか、ないというくらいだ。

ニルスさんもオスカーさんも、邸の名変は無理だろうと言っていた。そもそもラーシュ君たちと一緒に住んでいると言ったら奇異な目で見られたし。


世界の常識やラーシュ君たちへの悪条件をねじ伏せられる程の権力者への紹介もできないって。

そんな人はいないと、きっぱり言われてしまった。マジか。

いやいや、商業者ギルドに伝手がないだけで、探せばきっといる筈!希望を持とう!


というところで、お開きになった。




一万円札の鑑定や話し合いや変更手続きなんかで結構時間がかかったな。

途中ランチタイムをはさんだりしたし、すべてが終わった時にはすっかり夕方になっていたよ。

これ、ラーシュ君が迎えに来てくれてる時間だよね。


ギルドから出て、この前待ち合わせした路地の辺りを見ると、うっすいラーシュ君が壁の一部になっていた。

こっちを見てる目は一途なのに、存在感はないという不思議。ちょっと笑える。


随分待たせちゃったかな?足早にラーシュ君の元に向かう。

路地に入ってラーシュ君に声をかけようとしたら


「お嬢さん、ちょっといいですか?」

「はい?!」


急に声をかけられてびっくりした!


「今朝、ギルドにいらしたお嬢さんですよね?お聞きしたい事があるのですが」


見ると、二人組のややブサさんが薄ら笑いで立っている。

……胡散臭い。


「なんでしょう?」


正直関わらない方がいいと思うけど、ギルド関係者ならちゃんとした理由があるかもしれない。


「立ち話もなんですから、一緒に来てもらえますか?近くの店にでも入ってーー」

「いえ、急いでますのでお断りします」


何勝手に話進めてんの。見ず知らずの人についてく訳ないじゃん。断るに決まってるでしょ。

当り前に断ると、ややブサたちは態度を変えた。


「下手に出ればいい気になりやがって」

「おい、もういいから連れて行こうぜ」


表情もただ胡散臭いものから小悪党みたいになってるし!態度変わりすぎでしょ!

すると私を庇うように、ラーシュ君が二人組との間に立った。ぎくりとするブサイクs。


「なんだおまえ!おまえみたいな奴が人様の前に出てくるんじゃねーよ!」

「目障りだ!さっさと行っちまえ!」


何度か見た、理不尽に暴力をふるうブサデブのように即暴力という事はなかったけど、このブサイクsもラーシュ君を見下して暴言を吐いた。

ラーシュ君がフードに手をかけた。


「おいやめろ!ふざけんな!」

「おいおまえ!早くこっちに来い!今なら助けてやる!」

「助けてくれてるのはこの人だよ!こっちの意思を無視して“連れて行こう”とか、あやしいのはおまえたちじゃないか!」


何が助けてやるだよ!何をされるかわかったもんじゃないよ!

私が()()()()返すと、ブサイクAはカッとしたように私に手を伸ばしてきた。その手をはじくラーシュ君。


「てめぇ!てめえみたいなもんがよくも俺に触れやがったな!」


激怒したブサイクAが、その激情のままラーシュ君を殴った。

ラーシュ君はそれを予想していたのか、びくともしなかったけど!


「ラーシュ君! 何をする!この野蛮人!!」


ギルドにいたのなら商人かと思ったけど、ただの野蛮人だったよ!!




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