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異世界に来て10日目の朝。
はっきりと自分の気持ちに名前をつけて一晩たち……。
でもまぁ、今までと特に変化はないように思う。認めただけで、好きは好きだったしね。告白するつもりもないし、たぶんラーシュ君も何も言わないと思う。
でも意識しちゃったりとか、あるのかな〜。
……うん!とりあえず起きてやる事をやろう!
私にできる事をひとつずつやっていこう!
私は気合を入れて立ち上がると、着替えて顔を洗ってダイニングキッチンに行った。
「ラーシュ君、クラウス君おはよう!」
「サクラコさん、おはようございます」
「お、はよう、ございます」
「今日は二人に負けた!」
「勝ち負けじゃないですよ」
ラーシュ君が笑って言う。いつも通りだ。
「まぁそうなんだけどさ」
「女性は支度に時間がかかると聞いた事があります」
「かかる人はかかるけど、クラウス君、私のこの格好を見てかかってると思う?」
私もいつも通りにやり取りをする。
意外と普通だ。
「わかりません……」
「あぁ、私の知っている世界と(バッチリメイクと服選び)逆かもしれないか。じゃあ私もわからないわ」
なんて話していたら、あらエネちゃん!
「おはようエネちゃん!体調はどう?」
「おはよう、ございます? 体調は、いいようです」
また疑問文だし!
エネちゃんも挨拶に慣れないんだろうなぁ。
「いいようならよかった♪朝ご飯にしよう♪」
「……わたしも手伝っていいですか?」
「ありがとう!助かる♪」
昨日の夜と同じ、四人でご飯を作る。
お風呂のために大きすぎるこの邸を買ったけど、今となってはよかったと思う。四人でキッチンに立つって、私の知る一般家庭の広さじゃムリだもんね。
「今朝はお味噌汁を作るから、それに合わせて玉子料理もだし巻き玉子にしてみようか♪」
「それはどう作るのですか?」
「うん、一緒にやってみよう」
難しいイメージのだし巻き玉子だけど、私は自分と妹たちのお弁当を作っていたから作れたりする。
正確にいうとだし巻き玉子風だし、形はきれいではない(どうせお弁当箱に入れちゃうし)んだけどね!
玉子焼き用の四角いフライパンをポチる。
よく溶いた卵液に白だしを入れたら、
「焼いてみるよ。見ててね」
「はい」
ラーシュ君だけじゃなくて、クラウス君とエネちゃんからも視線を感じるよ!
フライパンに油を引いて、卵液を流す。火が通ってきたら、(私は)右から左に巻いていく。焼かれた玉子を右に戻したら、空いたところにまた油を引いて卵液を流す。後はそれを繰り返す。
お弁当は三人分だったから、ほぼ毎日まぁまぁ大きい玉子焼きを作っていた。今朝は四人分だけど無事成功♪
「とても……、繊細な技ですね」
うんうん。
クラウス君とエネちゃんが頷いている。
「え、そうかな? ……そういえば最初は上手くできなかったかも」
「難しそうです」
「毎日焼いていたらこのくらいはできるようになるよ。ラーシュ君は手先が器用だし、きっとすぐできるようになると思う」
「そうでしょうか……。やってみます」
「うん」
四人分焼いちゃったんだけどね、意欲は買うよ!
ラーシュ君が焼いた分はお昼用にしよう。
「ぼくも焼いてみたいですが……、多いですよね。何か別の事でお手伝いします」
「そうだね、みっつは多いかな。クラウス君は明日焼いてみて。今日はお味噌汁を一緒に作ろう」
「はい!」
「わたしは何をしたらいいですか?」
「エネちゃんは、スープにするなら玉子料理も洋風がいいよね。目玉焼きにする?エネちゃんが作れる玉子料理を作って」
「……わたしもおミソ汁が食べてみたいです」
「え、いいの?」
「はい、食べたいです。昨日いい匂いだったし」
「そっか♪じゃあそうしよう。そしたらクラウス君とお味噌汁に入れる野菜を洗って切ってくれる?基本はスープを作るのと変わらないのよ。だしと味付けが違うってだけで」
「そうなんですか。わかりました」
「うん、よろしく♪ じゃあラーシュ君やってみようか!」
「はい!」
よかった。私もラーシュ君も特に変わらず、昨日までと同じ朝だ。ほっとしたわ。
内心ちょっと心配はあったけど、みんなで作った和風の朝ご飯は美味しかった!
昨日の夜にすでに煮物とお味噌汁は食べていたけど、毎食だって飽きる事はない。やっぱ私は日本人なんだなぁと実感したわ。
さて、食後のお茶を淹れたら本題にいこうか。
エネちゃん、ここの住人になってくれたらいいなぁ。
「一日で返事っていうのも難しいかもしれないけど、」
「いえ、ここに住まわせてください」
「え!いいの? や、嬉しいけど!」
思わず、いいの?と聞いてしまったら、エネちゃんから困惑の気配が。ごめんごめん。
「昨日エネちゃんが目覚めた時の私って、いきなり大泣きしたヤバいやつだったかな~って心配してたもんで……」
エネちゃんは、あぁ~、と小さく声を漏らして
「驚きましたけど。でも、昨日からのサクラコさんのわたしたちのような者への接し方や、一緒に夕食や朝食を作った時のやり取りなんか……、本当に、昨日二人が言っていたように、わたしも夢なんじゃないかと思います。
だけど……、夢なら目覚めるまで見ていたいです」
「夢じゃないから!」
三人で同じ夢見る訳ないじゃん!
想像して笑っちゃったわ。
「とても現実とは思えないんです。……でも現実なら、これ程の幸運は二度とありません。サクラコさん、わたしにはわからない事や知らない事がたくさんあると思います。わたしが間違えたら教えてください。よろしくお願いします」
「エネちゃんが住んでくれて嬉しいよ!常識や感じ方が違うなんて、違う国の人どうしなんだもん当たり前だよ。片方だけ直すんじゃなくて、みんなが気持ちよく暮らせるようにしていこうね!こちらこそよろしくお願いします」
こうしてシェアハウスの住人は四人になった。
それではオーナープレゼントを選んでもらいましょうか♪
クラウス君の時と同じく、私はカップをプレゼントする理由を言って、スマホの画面を見せた。
「たくさんあるから色々見て好きなものを選んでね♪」
エネちゃんはスマホの画面を見て、私のカップを見て、棚にふたつ並んだラーシュ君とクラウス君の(二人は洗い物をしてくれているので、まだお茶を淹れてない)カップを見た。
「皆さんがいいと言ってくれるなら、私も三人と同じカップがいいです……」
「あらそう、じゃあそうしようか。いいかな~?二人とも」
「「はい」」
「という事で、色は?何色にする?」
「え…? 色……」
私たちが使っているカップのページを開いて見せると、エネちゃんはめちゃくちゃ迷っているようだった。
「ちなみに私は自分の名前にちなんだ色だし、ラーシュ君とクラウス君はそれぞれの瞳の色だよ」
「名前にちなんだ?」
「うん。私の名前って、私の生まれた国に咲いている桜って花からつけられたのよ。私、その花が咲くころに生まれたから」
「可愛い色ですね」
「でしょ!日本人はみんな桜が好きなんだよ。桜が咲くころは、お花見ってイベントがあるくらいなの」
「お花見……?」
おっと、趣旨がそれた!
「お花見の話はまた後でね! で、気に入る色あった?」
私はスマホの画面をスライドさせた。
エネちゃんは俯いて、スマホの画面をじっと見ている。
「エネちゃんの瞳の色とかは?」
「わたしの……」
「うん、よかったらだけど」
「…………」
迷ってるなぁ。 う~ん……。
「抵抗はあると思うけど、見せてくれたら一緒に選べるよ」
「え!」
「いやならいいんだよ。でも私は、エネちゃんの顔見てみたいなぁ。傷の手当てをする時に目をつぶっている顔を見たけど、めちゃくちゃ綺麗だった。目を開けてたらどれ程美人だろうって思たんだ~」 ニコニコ
「…………」
結局顔は見せてもらえなかったけど、エネちゃんは時間をかけて紺青色のカップを選んだ。
残念!これからも地道に布教活動(違)をしていこうと思う☆




