表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/93

27.5




◇◆エネ◇◆




ふと目が覚めた。いやぁ、よく寝たわ~。夢も見ない程。

シーンと静まり返った豪華な広い部屋に落ち着かず、ご飯を食べた一階の部屋に行ってみる。


当り前だけど、誰もいない一階の部屋も静かだった。

わたしは朝食時に座らせてもらった椅子に座って部屋中を見まわした。

一人だからフードはかぶってなくて視界がいい。


明るい白木のテーブルセット。クッションはきれいなレモン色。

卓上には一輪挿しに小さな白い花。女性らしいな。

食事スペースも調理場も清潔で気持ちがいい。


少し開いている小窓にはレースのカーテンが揺れている。わたしは立って行って全部の窓を開けた。

夏の午後、窓を開け放たなければ暑いわ!


それから、朝サクラコさんに言われた事を思い出して“レイゾウコ”からお昼ご飯を出した。

「エネさんは痩せすぎですから、たくさん食べてくださいね!」だって。

そんな風に言われたのは初めてだった。

()()()()()()()()()()()()ご飯をいただく。


「美味しい……」


朝ご飯もすごく美味しかった。ちょっと混乱してて味わう余裕はなかったけど。

今は一人だし、ゆっくり味わう。


「美味しいなぁ……」


言ったら涙が溢れてきた。

あ~ぁ、塩味の追加はいらないのに。

涙はぽろぽろ止まらないし、鼻水もすごい事になっている。それでも食べてるから息が苦しい。


少し多い量を食べ終わると「冷たいお茶も用意しておきますから、遠慮しないで飲んでくださいね!」と言われていたアイスティーもいただく。


「いい香り……」


でも甘くない。甘いものなんてほとんど食べた事がなかったけど、今朝すごく甘くて美味しいアイスティーを飲ませてもらったから思う。これとは違う。

思い出して、氷とシロップをグラスに入れた。

我ながらずうずうしいと思うけど、幸せな思い出をなぞるようにーーー


幸せ? 

……って、自然に思ったわ。


そっかぁ。わたし幸せって思ったんだ。

そんなの初めてだから、これが本当に幸せかわからないけど。でもわたしがそう思うんだからそれでいいや。


そっかぁ。

わたしにも幸せな思い出ができたのかぁ……。


カラン と綺麗な音がした。







◇◆ラーシュ◇◆




依頼をこなしてギルドに向かうと―――


サクラコさん?

何故かギルドの建物のそばにサクラコさんが立っていた。

急いで近寄り、横を通りすぎて路地裏に入る。サクラコさんも続いてくれた。


聞くと、サクラコさんはぼくを迎えに来てくれたらしい。サプライズ成功♪と笑顔で喜んでいる。


ぼくなんかに笑顔になってくれる……。

いまだに慣れないけど、嬉しさでいっぱいになる。嫌な思いも疲れも吹っ飛ぶ喜びだ。


迎えに来てくれたのには理由があった。

サクラコさんは商業者ギルドに用があるそうだ。


そういう事か……。

ぼくがサクラコさんを図書館まで送っていくのは、初日に頼まれたからだ。だけど帰りに迎えに行くのは、ぼくが勝手にしている事だ。


サクラコさんを隠れて待っている姿は、ちょっと、いや、かなりあやしいから、絶対見つからないようにしなければならない。(特にサクラコさんに)

そんなぼくを、サクラコさんは図書館で待ちぼうけしないようにってここまで来て、待っていてくれたんだ。


ぼくは、こんな気遣いを受けた事はない。

サクラコさんには出会った日からたくさんのものをもらっている。

ぼくの知らなかった気持ち、サクラコさんに出会わなかったら一生知らずにいた思い。

もうずいぶんもらったと思っていたのに、まだあった事に驚く。


待たせるのは悪いからと、先に帰るように言われたのも気遣いだ。この気遣いはちょっと困る。

サクラコさんと一緒に(一緒にではないか)歩ける大切な時間なのだ。どうか待たせてほしい。


「ありがとう。じゃあ、お互い用を済ませたら、またここで♪」

「はい」


笑顔と、少し先の約束がたまらなく嬉しい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ