26.5
◇◆トマス◇◆
「失礼。お嬢さん、少し聞いてもいいですかな?」
「ひゃい!」
目当ての少女に声をかける。小さく驚きの声をあげ、私を見る目が、誰?!と見開いている。素直な性格のようだ。
いや、もう少し様子を見なければ。
そのまま隣の席に着く事に成功した。
ここが図書館だからといって、こんなに警戒心がなくては……、心配になる程だ。
サクラコ。名前は知っていた。何気ない話をしながら観察する。
報告にあった通り十四~十五歳くらいに見える。
少し高めの声は落ち着いていて、丁寧な言葉遣い。年齢はもう少し上か?
普通に可愛らしい顔をしている。(桜子「……」)
ほとんど黒といっていい濃い茶色の瞳には知性の光が見えるし、同じくほとんど黒といっていい濃い茶色の髪は艶やかだ。肌も荒れておらず指先まで整っている。
服装は平民のものだが生地は上等だ。
見た目だけなら、上流階級のお嬢様とお見受けする。
少し会話をして、やはり素直な性格のようだと思う。
いで立ちだけなら上流階級のお嬢様と思われるが、貴族令嬢なら一定の傾向に作られている。それは富豪の娘にも当てはまる。サクラコさんにはそれがない。
では平民なのだろうか……。いや、そうとは思えない。
何というか、纏う雰囲気が、表現しづらいのだが…… “きちんとしている”。
サクラコさんにはしっかりとした芯があって、他者に侵されない強さのようなものを感じる。平民にはそういったものはない。
気にかけていなければその他大勢に埋もれてしまうだろう容姿だが、会話をしているうちにその印象がどんどん変わってくる。
いったい何者だ?このお嬢さんは、どんな理由であの者たちを集っている?
……今日のところはここまで。
次に声をかける口実を取り付けて、私はその場を離れた。
◇◆商業者ギルドの受付嬢◇◆
一週間ほど前、初めて見る女性がやってきた。
女性というよりまだ少女のようで、こんなに若い子が何用かと所見する。
自慢じゃないけど、商業者ギルドの受付は一定の審美眼をもつ者しか座れないのよ。
お付きはいないし、平民の服装(品は良さそう)だけど、言葉遣いはきちんとしているし、総合的に見てどこぞのお嬢様かと思われる。
ギルドには“訳アリ”もいらっしゃるのだ。
私の判断は間違っていなかったようで、副ギルド長の態度から、あの少女はよほどの上客と思われた。
「サクラコ様という方がいらしたら、何をおいても私かギルド長に知らせなさい。二人ともいない時は必ず次の約束を取り付けるように。何事もなく帰してはいけません」
翌日の朝礼でしつこいくらい言われ、受付にはサクラコ様の特徴を書いた文書まで回された。(私しかサクラコ様を見ていないので)
さもありなん。サクラコ様がお持ちになったあれ。あんな物、初めて見たわ。ほんのちょっとしか見てないけどとても美しかった。驚くほど軽かったし、初めて触る感触だった。
あれはいったい何だったのかしら?
営業や開発なんか、受付には知らされない。けれどあれがそうとう貴重な物だという事はわかる。
そんな事を思いながらお昼ご飯を食べていると、経理部の同期がスッと隣に座って小さく尋ねてきた。
「昨日のラストのお客様の応対したでしょ?持ち込まれた物って見た?」
「見た。どうした?」
「どんな物だった?ものすごい買取価格だったんだけど」
「初めて見た物で表現しようがないわ。 ……ものすごいってどれくらい?」
後半、もっと声を潜めて聞く。
同期は私の耳元にささやいた。
金貨5000枚!!
それはまた……
同期と顔を見合わせる。お互いの瞳にギラリと火がともった。
サクラコ様がまだ価値のある物をお持ちなら、商業者ギルドにとってお宝様だ。
サクラコ様、お早いご来訪お待ちしております!




