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フードさんはがんばった。
先頭を行くラーシュ君、次は私、あまり後ろを振り向けなかったけど、最後尾はヨロヨロとフードさんが続いた。
幸い、といっていいのかわからないけど、ラーシュ君もフードさんも見咎められる事もなく無事邸についた。
あんな状態なのに、あれ以上暴力を受けたら死んじゃうよ!どうなってんのこの世界!美醜逆転では殺人もありなの?怖すぎるんだけど!
敷地に入ったところでフードさんに肩をかす。ラーシュ君も反対側を支えてくれた。
ラーシュ君たちもそうだけど、この人も細すぎる。女性らしい丸みや柔らかさを一切感じられない。ガリガリなのがローブ越しでもわかる程だ。
軽すぎるフードさんを支えて邸に入ると、迎えに?出てきたクラウス君が驚いて動きを止めた。
「ただいまクラウス君」
「おか、おかえりなさい」
フードさんを連れてダイニングキッチンに直行する。
この状態じゃ手洗いうがいはできないからね。
「クラウス君、椅子を引いてくれる?」
「はい」
やっと椅子に座れたフードさんは力尽きてしまった。
「ラーシュ君どうしよう!この人気を失っちゃったよ!」
「しばらくすれば目覚めるでしょう。私たちにとってこのくらいの事は珍しくありません」
クラウス君も、うんうんと首を縦にふっている。
「ハードすぎるよ!」
私は天を仰いだ。
「ラーシュ君、この人を上まで背負ってもらっていい?背負える?私じゃちょっとムリだと思う」
「はい」
フードさんを背負ったラーシュ君と一緒に階段を上がる。
そわそわとついてきたクラウス君が、階段を上がってすぐ、自分の部屋の隣の部屋のドアを開けてくれた。
「ありがとう」
部屋に入ってフードさんをベッドに寝かせる。
もちろん寝かせる前にしっかり清浄魔法をかけてもらったよ。
「意識を失っちゃったからポーションが飲めないね。ベッドが濡れちゃうから体にかけちゃう訳にもいかないし……。しょうがない、状態を見てできる事をしようか」
打撲って冷やすんだったよね。とりあえず湿布をポチる。
それからふたりを見る。
「ねぇ、勝手に顔や体を見たらイヤかな?」
「「…………」」
沈黙は肯定か。
「イヤかもだけど、傷の手当は早い方がいいよね。うん、じゃあ服を脱がすから君たちは席を外してね」
なんか言い訳めいてるな。なんだろこれ。
「では廊下に出ているので、何かあったら声をかけてください」
「うん、ありがとう」
二人が出て行くと、私はフードさんのフードを取った。(ややこしい)
勝手に顔を見てすみませんね。顔に傷があるか確認するだけですからね、と心の中で話しかける。
了承をとってないから罪悪感があるのだよ。
顔には大きな傷はなかったけど、ほっぺが腫れて唇が切れている。
あのやろう、女の子の顔を殴ったな!
傷薬もポチって傷に塗る。腫れたほっぺはどうしよう。湿布をしたら目に沁みちゃうかな……。
フードさん、目をつむっているので正確には分からないけど、私と同じ歳くらいに見える。
そして目をつむっているにもかかわらず、やっぱり美しかった。
これ、目を開けていたらどれほど美人さんだろう!見てみたいわぁ!
……美人を見たテンションは、あっさりと罪悪感に勝ったよ。
フードを戻して、次にローブの前を開けた。
中はシャツとズボンだ。女性なのにズボンなんだ。意外だな。この手の世界観というか、この国の女性はみんなロングのスカートをはいているから。
やっぱりラーシュ君たちの事情的な?わからないけど。
仰向けに寝かせられているから、まずは前側を見てみよう。あんなに蹴られたんじゃ痣になっているだろう。
シャツのボタンをはずす。
わぁひどい!脇腹が広範囲に青黒くなってるよ!痛々しい!痛々しいのは痩せすぎた体もだけど!
頭とお腹を庇うように丸まっていたからか、お腹の方はそれほどでもない。だけどあの感じじゃ、きっと背中の方はすごい事になっていると思う。
ごめんなさいね、冷たいですよ。でもマシになる筈だからちょっとガマンしてね。
心の中で話しかけながら、青黒い範囲全部に湿布を貼る。
背中も見たいけど、私の力じゃひっくり返せない。男手を呼ぶ前に、先に前側をすませよう。
シャツのボタンをはめたら、次は足だ。
ごめんなさいね、失礼しますよ。また心の中でことわりながらズボンを脱がす。
わぁこっちもひどい!熟れすぎたバナナのようになってるし!
湿布を貼りながら、何といっていいかわからない感情が込み上げてくる。
何の涙かわからないけど、後から後から溢れて止まらない。
なんでこんな酷い事ができるんだろう?この人が何をしたっていうの?きっと何もしてないよね?ただ醜いからって(醜くないけど!)何でこんな非道な事ができるのさ!
哀しかったような感情は、だんだん怒りへと変わっていった。
許せないよ!こんな世界間違っている!こんな世界大嫌いだ!!
この世界のルールなんて知るもんか!私は私の思うようにやってやる!
メラメラと謎の闘志を燃え滾らせて、その後クラウス君に手伝ってもらって(ラーシュ君は夕ご飯の支度をしてくれていた)簡単な手当は終わった。
目が覚めたらポーションを飲んでほしい。あんな酷い有様を見ちゃったからにはお節介を押し売りしようと思う!
それから、フードさんの様子を見ながらご飯を食べたりお風呂に入ったりしたけど、フードさんは全然目覚めなかった。
病気やケガの時は寝るのが一番だもんね。起こさず目覚めるのを待とうか。
ふと目が覚めた。
スマホを見ると5:22の表示。
いつもより少し早い。フードさんが気になってるのかもしれない。
私は寝ていたソファから起き上がってフードさんを見た。
同室なのは、フードさんが困るだろうと思って。夜中に目覚めたら訳が分からないでしょ?
と、かすかなノックの音。
そぉっとドアが開いて、ラーシュ君が顔を覗かせた。
まぁフードで顔は見えないけどね。
「おはよう、ラーシュ君」
「おはようございます。サクラコさん、疲れてませんか?」
フードさんを起こさないよう小さな声で朝の挨拶をすると、ラーシュ君も小さく返してきた。
「大丈夫。すっかり寝ちゃってたし」
ちょっと笑って言う。
「それよりフードさんどうかな、見てみよう。あ、見られるのイヤかな。でも見なくちゃ様子がわからないし」(見てもわかるかわからないけどさ)
なんて話していると、ドサッと大きな音がした。
音の方を見ると、 ―――フードさん!
「やだちょっと!大丈夫ですか?!」
フードさんがベッドから落ちている。
私は慌てて駆け寄った。
フードさんはギシギシと音がしそうな動きで土下座した。
「すみません。どうしてかはわかりませんが、こんな立派なベッドに勝手に横になってしまってすみません。すぐに出て行きますから、どうか許してください」
やっと絞り出したような小さな声で、真っ先に謝った。
何が何やらわからない中で、真っ先に口にするのが謝罪の言葉!
私は、なんというか……
昨日の夕方、傷の手当をしていた時に感じた、可哀想すぎるというか、痛ましすぎるというか、全然わからないと思うけどこの人たちの辛さとか、そんな感情がまた襲ってきて、盛大に泣き出してしまった。
ぼたぼたと涙を流しながら、床についているフードさんの手をとって両手で包み込む。
フードさんは全身打撲だから抱きしめる訳にはいかない。背中をさする事も出来ない。
私のその行動に(たぶん)恐怖に震えていたフードさんの震えが止まった。
そりゃ驚くよね。自分に酷い事をする側の人間が、いきなり泣きながら無言で手を握るんだから。逆の意味でホラーかも。
混乱しているフードさんに説明したかったけど、口を開けば泣き声になってしまいそうで、何も話せなかった。




