21.5
◇◆クラウス◇◆
信じられない1日を過ごし、ご馳走を食べさせてもらった後
「クラウス君、今夜はここに泊まって、明日、ここに住むかやめるか聞かせてね」と言われ返事をし
「空いてる部屋、どこでもいいよ~」と言われて、階段を上がったすぐの部屋におじゃました。
立派過ぎる部屋に落ち着かない。
高級なベッドに横になれるはずもなく、少し考えて、高級な椅子を窓際に持って行った。
座らせてもらっても、後で清浄魔法をかければいいだろう。
座ると深く沈み込む柔らかな椅子に驚く。ぼくは木の椅子にしか座った事がなかったから。
だけどそれ程たたないうちに、体を受け入れられる心地よさに楽しくなってきた。
そのまま窓の外を見る。
月と星は、どこから見ても変わらないんだな……。
少し落ち着いた。
月がゆっくりと動いていく。
今日サクラコさんと出会ってからの事を思い返す。
信じられない事ばかりだったな……。
ぼくなんかに上級ポーションを使ってくれて、心配なんてされた事がないから違うかもしれないけど、たぶん、心配してくれた。
あんなに美味いものを食べさせてくれて、驚く事に一緒に住まないかと言ってくれた。ぼくなんかに。
別の意味があるのかと考えたけど、今ここにぼくはいる。ぼくが知っているのと同じ意味だと思う。
お茶もお菓子も美味かった。どっちも初めて口にした。
夕食も美味かったな。あんな肉、初めて食べたよ。パンもスープもサラダも美味かった。
あのサラダ、ぼくが作ったんだよな……。
ぼくなんかを、一緒の調理場に立たせてくれたんだ……。
サクラコさんは、ぼくなんかが作ったものを食べてくれた。美味しいねって、言ってくれた。
サクラコさん……、どういう人なんだろう。
この大陸の生まれじゃないって言ってたけど、それだけでこんなにも違うもんなのかな……。
色々考えていたけど、いつの間にかぼくは眠っていたようだ。
朝日の眩しさで目が覚めた。
椅子と自分に清浄魔法をかけて、一階に下りる。
「おはよう、クラウス君」
「お、おはよう、ございます……」
ぼくなんかにかけてくれる、明るい声。挨拶なんてものも初めてされた。びっくりして、ぼくは上手く返せなかった。
それから、また一緒にご飯を作った。
ただ座っているだけなんてできない。一生懸命働いていても怒声や暴力を受けるのに、働かずに座っているだけなんて恐ろしすぎる。
だけどサクラコさんは、今日も怒鳴らないし嫌味さえ言わない。昨日からずっとぼくなんかを普通の人のように接してくれている。
なんといっていいかわからない思いが込み上げる。
こんな気持ち、ぼくは知らない。
願望を夢に見ると聞いた事がある。
夢なら覚めないでほしいと思った。
「で、クラウス君、どうする?」
朝食後、サクラコさんから返事を聞かれた。
ぼくは、 ……どうしていいかわからない。
昨日からとても現実とは思えない事ばかりだ。
その中でも一番信じられないのがこれだ。ぼくなんかと同じ家で暮らそうなんて思う人はいない。
でもすでにラーシュがこのお邸で暮らしている。現実なんだ。信じられないけど。
「えっと、本当はこんな言い方イヤだけど……」と話してくれたサクラコさんの言う事で合点がいった。
なるほど!確かにラーシュが住んだ事で、こんなに立派なお邸なのに、ここに住むのは“ぼくたちのような者”だけに決まってしまった。
それならぼくが誘われたのもわかる。
納得できたけれど、それよりも驚く事を言われた。
「私は、君にここの住人になってほしいと思ってるよ」
そんな事を言われたのは初めてだった。逆の事なら生まれてからずっと言われ続けてきたのに……。
サクラコさん、ぼくたちのような者を厭わないでくれる事が、これほど嬉しい事だなんて知りませんでした。
昨日からたくさんもらっている、信じられないくらいの嬉しい事や、人から向けられる温かい思いや、普通の人のような……、いや、こんなお邸だ、恵まれた人の暮らしをさせてもらって、感謝しかありません。
サクラコさん、ぼくが……、ぼくなんかが、こんな人並みの望みをもってもいいでしょうか。
「……ここに住まわせてください。お願いします」
「もちろん! これからよろしくね♪」
サクラコさん……。
ぼくが一緒に住む事を喜んでくれるんだ……。
もう明日捨てられたとしてもかまわない!という訳のわからない熱い思いが、体中を駆け巡った。
「じゃあクラウス君、さっそくオーナープレゼントをあげようか♪たくさんあるから色々見て選んで!」
サクラコさんは小さくて四角いものを差し出した。
見るとカップが描かれた小さな絵が並んでいる。
意味がわからないでいると、サクラコさんは説明してくれた。
「よかったらクラウス君もマイカップを選んでね。これは私からのプレゼントだよ!」
……それなら、
サクラコさんとラーシュは色違いのカップを使っている。
ぼくもお揃いがいいです。
「じゃあ、君の瞳の色と同じ緑色にしようか」
サクラコさんは緑色のカップをプレゼントしてくれた。
初めての贈り物。
嬉しくて、受け取る時はさっきまで使わせてもらっていた高級なカップより手が震えてしまった。
後に、このお邸に住む事になる“こちら側の者”はみんな、サクラコさんからこのプレゼントをもらうんだけど、生涯このカップを大事にした。
生まれて初めての贈り物だ。その後の人生でどんなに高価な物を手にしたとしても、一番の宝物は変わらない。
その気持ちはよーくわかる。
ぼくも同じなんだから。
読んでくださってありがとうございます^^
残念なお知らせが・・・
書き溜めたものが終わってしまいました><
なるべく早い再開を目指しますが、作者遅筆なため、少しお時間をいただければ幸いです。
よろしければ、のんびりとお付き合いくださいませm(_ _)m




