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ラーシュ君とクラウス君とシェアハウスに帰ってきた。
あ、まだクラウス君は“帰ってきた”じゃないか。
「こんなに、立派な……」
邸があるお金持ちの居住区域に向かう頃から、クラウス君の足取りは重くなっていたけど、邸の前まで来たら止まってしまった。
「とりあえず入って入って。そこに立っていると目立っちゃうよ」
「……はい」
庭を抜けて邸に入る。クラウス君は無言だ。
「いらっしゃい。ここが私たちの住んでいる邸だよ。広いから使いきれてないけど」
「…………」
クラウス君は立派な玄関ホールに圧倒されている。ゆっくり待つか。
ラーシュ君は先に行ってしまった。きっとお茶の準備をしてくれるのだと思う。
「落ち着いた? じゃあ、まずは手洗いとうがいをしようか。こっち」
「おち、ついては……、いませんが」
手洗いうがいをするため、クラウス君を浴室に連れて行く。
「こっちは男湯、隣が女湯ね。男女別になってるから、クラウス君が使うのはこっちの男湯の方ね。
帰宅して手洗いうがいをするのは、病気の予防のためだよ。よかったらクラウス君もやってみて」
「はい」
今ではラーシュ君も習慣になっているよ。
ラーシュ君たちは低賃金で働いているからね、病気やケガは収入に直結する。予防できるならなんでもするって感じだ。
手洗いとうがいをしてダイニングキッチンに行くと、やっぱりラーシュ君はお湯を沸かしてくれていた。
「ラーシュ君ありがとう♪ お茶はどれにしようか?」
「今日はサクラコさんずいぶん歩いたので、疲労回復のハーブティーはどうでしょうか」
「ありがとう。でもラーシュ君が飲みたいのでいいんだよ? あ、クラウス君座って座って」
私はいくつか並んだお茶の缶を見ながら言った。
お茶を選んで振り返ると、クラウス君はまだ立ったままだ。
「あれ?クラウス君?」
「サクラコさん、ぼくたちのような者は……」
「そっか、ごめんね! クラウス君、ここに座って」
私は椅子を引いてクラウス君を座らせた。
ちなみに、色々汚れていた体は清浄魔法できれいになってるよ。引き裂かれたローブの替えはスマホ様からポチりました。
「夕ご飯の前だから、お菓子は軽めにしておこう」
まぁ3時のおやつという事で♪3時は過ぎてるけど。
クラウス君には元から邸にある高そうなカップでお茶を出す。まだお客さんだからね。
「どうぞ、召し上がれ」
勧めて、私は先にお茶を飲む。
「いただきます」
「…………」
ラーシュ君もカップに口をつけた。フードはかぶったままだ。
「ラーシュ君、クラウス君がいるからフードは取らないって感じ?」
「……はい」
「え?」
お茶とお菓子を前に、どうしていいかわからない様子だったクラウス君は、私たちの会話を聞いて驚いた声を上げた。
「まぁ飲みながら聞いてよ。私はこの大陸の出身じゃないって言ったでしょ?
繰り返しになっちゃうけど、私の生まれ育った国とこの国とでは、考え方も感じ方もかなり違っていて、特に美醜に関する見方が真逆なの。だから君たちみたいな顔は、私にとって美形になるんだよ」 ニッコリ♪
「…………」
クラウス君はラーシュ君を見る。
ラーシュ君は頷いた。
「とても信じられないけど、本当みたいだ。サクラコさんは顔を見ても悲鳴を上げなかっただろ?ぼくにもそうだ。吐かれないし、倒れるという事もない。嫌悪の目で見ないし、何よりこんなに近くでこんな風に接してくれる」
「え、そんななの?ひどくない?私の国にだってブサイクさんはいるけど、そりゃあんまりすごい人なら目を逸らすくらいの事はあるかもだけど、ラーシュ君が言うようなあからさまな失礼な事は誰もしないよ(たぶん)」
「「…………」」
ふたりからは言葉もない。
まぁいいか、続けよう。
「でね、そのフードってジャマじゃない?視界は悪いでしょうし、食べる時なんて特にジャマでしょ?だからラーシュ君に、食べる時はフードを取ったらって言ったのよ」
「……取ったんですか?」
「うん」
で、私はチラ見して喜んでます♪
「……取ったんだ。 ……それで、……あの、……大丈夫だったんですか」
「もちろん大丈夫だよ!いや、反対の意味で大丈夫じゃないかも。ラーシュ君が綺麗すぎて」
「…………」
ラーシュ君は見えている手首から指先まで赤くなった。
ちょっと褒めただけでこの反応。ピュアだなぁ。
「もちろんクラウス君も美人だよ。ごめん、さっき目が合った時、1秒くらい見ちゃった」
クラウス君は固まった。
こういうのも日常になってるなぁ。
「無理強いはしないよ。だけど顔を見せてくれたら嬉しいな♪」
機能停止したふたりはほっといて、私はお茶を飲んでお菓子を食べた。
おやつタイムはあったけれど、夕食の時間になった。
「ラーシュ君、今夜は何が食べたい?」
「サクラコさんがいいなら、肉料理が……」
「OK♪」
「何が食べたい?」と聞いて「なんでも」と返された時に、「それが一番困るんだよね」という会話をしてから、ラーシュ君はおずおずと大雑把な方向を言ってくれるようになった。
そもそもラーシュ君はそんなに色んなものを食べた事がなかったから、適当に答えたんじゃなくて答えられなかったんだよね。
やっと食べられるものを、文句を言わずに食べるのが当たり前の生活だったのだから。
お肉かぁ……。
それじゃあステーキにしようか!
クラウス君も失血した分お肉を食べたほうがいいでしょうし。(イメージ)
ステーキの他には、私とラーシュ君はお米(炊飯器も異世界仕様で売られていたよ!動力は魔石ね!)クラウス君はパン。
それからサラダとスープという、ファミレスのランチメニューみたいな感じになった。
お料理は嫌いじゃないけどレパートリーは少ないかも。和食がこの世界の人の口に合うかわからないしね。
お米はラーシュ君の口にあったようだけど、おかずはしばらく洋食な感じでやっていこうと思う。
夕ご飯は三人で作った。
クラウス君に、座っていていいよと言ったけど、ずっとそわそわしてるんだもん。隣に立って調理をしてもそわそわしてたけど。
火を使うのはラーシュ君。
クラウス君は意外と包丁使いが上手かった。
それはラーシュ君もそうだけど。野宿なんかで自炊しているからだそうだ。
夕ご飯はみんなで楽しく作れたと(私は)思う。
「じゃあ食べようか」
「「いただきます」」
「いただきます」
このいただきますは、二人的には“もらいます”の意味だ。
もちろん私は正規?のいただきますね。
「美味しいね~」「この味つけいいね!」なんて話しながら食べる。
本当に美味しいし♪ラーシュ君の火加減は抜群だなぁ♪
四人席のダイニングテーブルには、男子チームが横並びに、向かいに私が座っている。
お茶の時に「顔を見せてくれたら嬉しいな♪」と言ったからか、ラーシュ君はフードを外してくれている。
今までの横並びではなく向かい合わせだから、ラーシュ君の美しすぎる顔がよく見える。
眼福眼福♪♪
まぁ、あからさまにジロジロ見ないけどさ。
クラウス君はフードをかぶったままだ。
残念だけどしょうがないよね、そのうち外してくれるようになったらいいな。
そんな風に食事を終えて、食後のお茶を飲みながらクラウス君に言ってみた。
「クラウス君、今夜はここに泊まって、明日このままここに住むか、やめとくか聞かせてね」
「……はい」
クラウス君は、やっぱり迷うような声で返事した。




