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「で?体の調子はどう? ラーシュ君、上級ポーションって、なくなった血も戻るのかな?」
「すみません。上級ポーションの事はよく……」
「あ、そうだった。 えっと(フード君)どんな感じ?」
私は、フード君、ラーシュ君、またフード君と話しかけた。
「……はい、だい、じょうぶと、思います」
「そう!それならよかった!
じゃあ行けそうなら行こうか。よかったら町まで一緒に戻ろう」
「え…」
「今はよくても、さっきまでずいぶんひどいケガをしていたんだよ?町までけっこう距離があるんだし、途中で具合が悪くなったら困るでしょ。
あ、イヤだったらムリにとは言わないけど」
フード君は三度ラーシュ君を見た。
「好きにしたらいい。この方はそんな事で怒鳴ったり殴ったりしない」
怒鳴らないし殴らないよ!今のどこにそんな要素があったのさ!
私はビックリしてラーシュ君を見た。
「ぼくたちのような者は、常に暴言と暴力に警戒しなければならないのです。いつ、どんな時にどうなるか、相手の機嫌次第なので…」
「…………」
心配の言葉にも警戒って!
機嫌次第ってなんだよ!ほんとひどいな!
はっ!
「ちょっと!もしかして、その背中の傷って、誰かにやられたの?!」
私は最悪な想像をしてフード君に尋ねた。
「いえ、そんな事はありませ……」 グウゥゥ
フード君の返事は、途中からお腹の音に変わった。
「すみません!」
「いや、謝らなくていいから」
「……が、 ……て ……」
恥じらうような小さな声は聞き取れなかった。
「え? なんて?」
その後、何度か聞き返してようやく聞き取れた内容が
「腹が減りすぎていて……、魔力が足りなくて、攻撃魔法が使えませんでした。それで……」
なんだってぇ?!
倒れそうになったよ!
「……とりあえず、町に戻る前に何か食べようか」
ひどいケガの後って、何が食べられるんだろ?
とりあえずレトルトのおかゆをお買い上げ。「私の国の病人食だよ」と言っておく。
フード君はよっぽどお腹が空いていたのか、初めて食べるであろうお米のおかゆをバクバク食べている。
最初は遠慮していたのに、ひと匙食べたら手が止まらなくなったようだ。
この感じなら大丈夫かな?失血した分、やっぱお肉かなと(イメージ)レトルトのハンバーグもお買い上げ。フード君はハンバーグもバクバク食べていく。
ちなみに湯煎するためのお湯はラーシュ君が沸かしてくれてるよ。
パンと、野菜も食べたほうがいいよね?パックのサラダもお買い上げ。
ふたを取って渡すと、サラダも残さず食べきった。
ちゃんと野菜も食べて偉い偉い。なんて子供扱いは悪いか。
それにしても、いったいどれくらい食べてなかったんだ!っていう程の食べっぷりだよ。必死過ぎて憐れになってくる。
そんな姿を見ているうちに、私はある事に思い至った。
「ラーシュ君、この子をシェアハウスに誘ってもいいかな?」
「はい」
同居人の同意は必要だと思って尋ねたんだけど、即答だった。
ラーシュ君の方が先に住んでいるんだもん、ラーシュ君の気持ちを大切にしたい。
といっても、ラーシュ君は私の考えに反対しそうにないんだけどね。
必死に食べていたフード君は満足したのか、余裕ができて?ハッとしたように言った。
「すみません!こんなにたくさん食べてしまって! ……すみません、料理のお代が……。ポーション代と一緒に、必ずお返ししますから」
「あぁ、うん。気にするならもらうから、今は気にしないでいいよ。
そういえばまだ名のってなかったね。私は桜子。あのね、君にひとつ提案があるんだけど、聞いてくれる?」
「……はい」
フード君はピンと緊張した。
やだなぁ、警戒しなくていいって。
「私たち、私と、このラーシュ君ね、一軒の家で共同生活してるのよ。シェアハウスってわかる?
でね、もしよかったら、君もどうかな?」
「え…」
突然こんな事を言われても困るよね。考える時間は必要だ。私たちは会ったばかりの見ず知らずの他人なんだし。
だけどこの子、今日の宿代もないんじゃないかな?
だってご飯も食べられなかったんだし。
「ごめんね、失礼を承知で聞くけど。君、あまり稼げてないんじゃないの?君たちの事情的に」
「…………」
フード君はお決まりのようにラーシュ君を見る。
「本当だ。ぼくはサクラコさんの家でお世話になっている。とても信じられないと思うけど、サクラコさんはぼくたちのような者を厭わない。
ぼくもいまだに信じられない気持ちがある。夢じゃないかと思う事もある」
夢って……。
ラーシュ君、そんな風に思ってたんだ?
まぁ私も夢かと思った時もあったけどね。というか、思いたかったというか。
現実ですよ。お互い受け入れましょう。
「ラーシュ君たら、お世話になってるんじゃないじゃん。ちゃんと家賃というか生活費はもらうし、ラーシュ君は家事も一緒にやってくれてるし、ちゃんとした住人だよ。
という感じでね、私が一方的に施すんじゃないよ?」
最後はフード君に語りかけた。
フード君は黙っている。考えてるのかな?
あぁ、なんで私が君たちを大丈夫なのか話そうか。
聞いたら少しは納得できるかもしれないよね。
「私がなんで君たちを大丈夫かっていうとね、私はこの国、この大陸の生まれじゃないからなんだと思う。私は地図にものってないような小さな島国から、魔法みたいなもんで飛ばされてきちゃったみたいなの。そこんとこは私もわからないから説明ができないんだけど。
でね、私が生まれ育った国と、この国、この大陸とでは常識とか価値観がかなり違うのよ。特に美醜の感覚が正反対なの。君たちが美しいと思っている人たちが私にとっては太ったブサイクさんで、君たちみたいな人が美形に見えるんだな」
「…………」
フード君からは驚愕という空気が漂ってくる。
うんまぁ、カルチャーショックも甚だしいよね。気持ちはわかるよ。
こういうのは慣れている。私は急かさずゆっくり待つ。
待つ間に一杯お茶を淹れようか。
「ラーシュ君、お茶を淹れるよ。冷たい方がいい?ちょっと暑いし」
「そうですね、帰りもまた歩くので冷たい方が嬉しいです」
「OK♪ ピーチティーにしてみようか。甘いの!」
「嬉しいです!」
ラーシュ君の嬉しそうな声。ラーシュ君はほんと甘党だなぁ。
さっそく甘いアイスティーを淹れる。
「ラーシュ君、もっと甘い方がよかったら使ってね」
「ありがとうございます」
(外用の落としても大丈夫な)プラスチックのカップとシロップを渡す。
それからフード君にも声をかける。
「君も食後のお茶をどうぞ。紅茶、大丈夫?」
「……はい。 いえ、わかりません。 あの、お茶を飲んだ事がなくて……」
「あら、君もなの」
ラーシュ君を見る。
「ぼくたちのような者は、お茶を飲める生活はできませんから」
腹立つな!
「……ラーシュ君、美味しい?」
「はい、とても」
怒りを飲み込んでラーシュ君に質問する。
その答えを聞いて、再度フード君に声をかける。
「ラーシュ君も美味しいって言ってるし、よかったらどうぞ」
「……ありがとうございます」
フード君は遠慮がちにカップを受け取ると、ゆっくりと口をつけた。
小さく、美味しい……。と聞こえる。
まぁね♪
「……あの、クラウスといいます。 ……えっと、……えっと」
「うん、クラウス君。すぐに決めなくていいよ。とりあえずうちに来て、見て決めたら?」
「……はい」
クラウス君は迷うような声で、小さく返事をした。




