18.5
◇◆ラーシュ◇◆
ヒール草が多く生える森についた。サクラコさんはすでにお疲れのようだ。
「冒険者の仕事場ってどこもこんなに遠いの?」
「すみません、遠かったですか?」
ぼくが普段の距離や行き方なんかを話すと、サクラコさんは黙り込んでしまった。そしておもむろに叫んだ。
「そんなのムリ~!私に冒険者は勤まらないとわかった!」
「…………」
サクラコさんはお嬢様だ。(本人は否定しているけど)ぼくは最初からサクラコさんに冒険者は無理だと思っていたけど、本人も実感したようだ。
よかった。サクラコさんにあんな荒くれ者ばかりの場所は似合わない。
あっさり冒険者を諦めたサクラコさんは、それでも「思い出に薬草採取をして帰ろう♪」と、ころりと言った。
子供が新しい事に興味を持つような純真さだ。可愛い。
ぼくはヒール草の見分け方とナイフの使い方を教えた。
冷や冷やしながら見守る。
サクラコさんは張り切って午前中いっぱい頑張った。だけど残念な事に、採取したうちヒール草は半分くらいしか合ってなかった。
初めてでももうちょっと……。
いや、サクラコさんはできる事がたくさんある!
こんな草摘みなんてしなくていいのだ。
薬草採取は残念な結果だったけど、帰りもまた1時間半ほどかかる。昼飯を食べたら、ちょっと早いけど帰る事になった。
帰り道を考えたのか、サクラコさんはげんなりした顔をした。
サクラコさんは本当に気持ちが表情に出るなぁ、と微笑ましく思っていると
何かが来る!
サクラコさんを庇って様子を見ていると、森から出てきたのは“こちら側の者”だった。
ヨロヨロとしていて、何か怪我でもしているのかもしれない。
「ラーシュ君、あの人具合悪そうじゃない?」
サクラコさんが心配そうに言う。
それに答えるように、見ている前で男が倒れた。
サクラコさんは急いで駆け寄った!
サクラコさん!ぼくも慌てて続く。
倒れた男の背中はローブごと引き裂かれていて、ザックリとした傷が見えている。深手だ。
「ラーシュ君!この人すごいケガだよ!どうしよう!」
これじゃ何の役にも立たないだろうけど……。
ぼくは下級の回復薬を男の背中にかけた。
「う… うぅぅ……」
「ラーシュ君大丈夫なの?この人苦しがってるよ?!」
回復薬の説明をすると、サクラコさんは金貨10枚もする上級ポーションを買って、惜しげもなく男の背中にかけた。
男はすぐに回復した。
あんなに大怪我だったのに……。上級ポーションってすごいな。
いや、それより。ひれ伏している男を見る。
意識を取り戻した男は怯え切っていた。何が起こったのか、これからどうなってしまうのか、恐怖しかないだろう。
ぼくたちのような者ならば、それは当然の事だった。
ぼくたちのような者は互いに関りを持たない。それは死の直前にあってもだ。
こんな風に関わり合いになる日がくるなんて……。
サクラコさんといると、色んな事が変わっていく。
◇◆クラウス◇◆
腹減った……。
もう何日も食べていない。
運悪く、ギルドからよりぼくたちのような者を嫌うパーティーにあてがわれてしまった。
緊張しながら魔獣狩りに同行した。
散々使い果たされて、足手まといだからと捨ていかれる。
なんのストレス解消か、殴る蹴るの運動をしていきやがった。よくある事だけど。
何日意識を失っていたかわからない。やっと動けるようになって歩き出す。
なんのために歩いているんだろう。
なんのためにあの町に戻るんだろう。
なんのために生きているんだろう……。
考えてもしょうがない事が頭の中を巡る。
痛みと疲労でまともな判断ができなかったようだ。空腹すぎて、食べ物を求めて森に入ってしまった。
小動物なら狩れるかも。何か果物でもいい。
そう思ってるのに、運が悪い事は続くもんで、大型獣に遭遇してしまった。
魔力はほとんど残っていなくて、逃げるのがやっとだった。
やられたな~。ヤバいな。もう死ぬのかな。せめて日の下で死にたいな。
朦朧としながら足を動かす。全身が痛すぎて、何がなんだかわからなくなってきた。
日の温かさを感じたところで、意識が途切れた。
ふと、気がついた。
最初に思ったのは、生きてるんだ、という事。
のろのろと起き上がる。死ぬのが少し延びただけだ。生きていたって何もいい事なんかない。
顔を上げてーーーーー
何故か、女の子と目が合った。
こんな近い距離で誰かの顔を見た事はなかった。
いや、こんなに人に近寄った事もない。
どういう事だ?これはなんだ?
混乱しながらも、女の子の黒い瞳から目が離せない。
「大丈夫? 傷の具合は?」
反射でひれ伏す。
だけど、心配そうな声が耳に残った。
ぼくに言った? ぼくを心配してくれた?
まさか! でも……。
一瞬あった女の子の目を思い返す。
心配していた? ぼくを?
もしかしたらだけど、ありえないけど、だけど……
これがサクラコさんと出会った最初の記憶。
生涯忘れない。初めて向けられた人の心だった。




