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16.5




◇◆ラーシュ◇◆




冒険者ギルドに着くと、出かけに決めておいた通りぼくが先に中に入った。

そのまま隅の方に行って、気配を消してサクラコさんを待つ。


少しの間をおいて、サクラコさんも入ってきた。もの珍しそうに建物内を見ている。

表情から、好奇心や興味津々なのが満ちあふれている。というか、あふれ過ぎている。

あんなにキラキラと素人感を出していたら目立って仕方ない。


変なやつに目をつけられたらどうしよう。

ぼくは気が気ではない。


満足したのか、サクラコさんはやっとカウンターに向かって、職員に話しかけた。

まずは冒険者登録をしなければならない。

ぼくは気配を消したまま、サクラコさんを目で追う。


もしも悪いやつに絡まれたら……。

そんなやつはたくさんいる。何も知らない新人だからといいように使おうとするやつや、サクラコさんは女の子だから不埒な事をしようとするやつもいるかもしれない。


あぁそれより!サクラコさんは冒険者の事を何も知らないから、酷いやつに騙されてしまうかもしれない!

いや、サクラコさんのお国柄か、サクラコさんは妙に危機感というか警戒心がない。冒険者以外のどんなやつにも注意が必要だ。


心配しながら見守っていると、職員からの説明が終わったのか、サクラコさんは当たりを見渡した。


ぼくを探している……?

そう思ったら嬉しさでいっぱいになって、ぼくは注意を怠ってしまった。


「ぐっ…」


いきなり蹴り飛ばされて無様に床に転がる。こんな姿を見たらサクラコさんがどう思うか。

早く起き上がらなければと必死にあがくけど、全くノーガードだった体は思った以上にダメージを受けていた。


あぁ、サクラコさんが倒れているぼくに気づいてしまった。

お願いです何もしないでください!ぼくは大丈夫ですから!あなたに何かあったらぼくは耐えられません!


ぼくの心からの願いは届かず、サクラコさんはこっちに走ってきた。


「やめなさい!」


サクラコさん、いけない!

サクラコさんは自分の三倍はあろうかという男に体当たりをした。


「……何だおまえ? 何すんだ」

「おまえに名のる名前はない!それよりおまえこそ何をする!」


そんな風に言ってはだめです!この国、この大陸では、より美しい人の言動が優先されていて、それが正義なんです!


サクラコさんに言い負かされた男が感情に任せて太い腕を振り上げた。


……サクラコさんを殴る?


目の前が真っ赤に染まった。

そんな事は許さない。


体中の血が沸騰する。

今まで経験した事がないくらいの激情が渦巻いて、魔力が暴れ出そうとした。


「そこまでだ。いい大人が子供相手に手を上げるんじゃねぇよ」


全身に冷水を浴びせられたような低い声が聞こえて、ぼくは我に返った。


ぼくは今、何をしようとした……?

激情のまま、魔力のすべてを放出してしまうところだった。

サクラコさんまで危険にさらすかもしれなかった事に心底震え上がる。

怒りの感情とは、なんて恐ろしいものなのだろう。


「ラーシュ君!大丈夫?どこかケガしてない?痛いところは?」


サクラコさんの声を聞いて平常心が戻ってくる。


「すみません。サクラコさんは怪我をしてませんか?」

「私は大丈夫だよ。殴られる前にギルマスさんが止めてくれたから!」


サクラコさんは、あっ!とギルマスに向き直った。


「ありがとうございました!おかげで助かりました!」

「お嬢ちゃん、無謀な事はしないこった。下手したら死んでたぜ。あぁでもその前にここが崩れたか」


ギルマス……。わかりましたか。


何か罰を受けるだろうと思っていたぼくは、建物内にいるやつらをしかりつけるギルマスの声を聞いて驚いた。

いつもなら問答無用でぼくが罰せられる。それなのに、今日は何故……?


「こう見えて、俺は子供好きなんだ」


ギルマスがサクラコさんに笑いかけながら言った。


ギルマス、サクラコさんにそんな顔を向けないでください。

窮地を救って、悪者を追い払い、そんな笑顔まで。かっこよすぎてサクラコさんが好きになってしま…… わないか。


この国でかっこよければよい程、美しければ美しい程、サクラコさんにとってブサイクに見えるらしい。

こんなにかっこいい人がブサイク……。

やっぱり信じられない。


サクラコさんの瞳には恋情の色は見えなかった。

純粋な感謝と、少しだけ疑問のようなものが見える。


ぼくは心からホッとした。 ……何に?







◇◆ギルマス◇◆




「おまえに名のる名前はない!それよりおまえこそ何をする!」


ずいぶん威勢のいいお嬢ちゃんだ。

自分の三倍はあろうかという男に向かって堂々と言い合いをしている。


見ない顔だな。新人か?

いくら年齢制限がないといっても、あんな子供が冒険者になろうとは。よっぽど家が貧しいか、親なしか。可哀想に。


「あやかってるの間違いじゃないの?だってラーシュ君たちの魔法がなかったら依頼を達成できないんでしょ!」


おっと、煽りすぎだ。


「そこまでだ。いい大人が子供相手に手を上げるんじゃねぇよ」


間一髪で、男()()を止める。


危ない危ない。俺は子供好きなんだ。子供が殴られるところなんざ見たくねぇ。

まあ、お仕置きというのなら“お尻ぺんぺん”くらいしてもいいがな。


それにしてもこのお嬢ちゃん、なんだって()()と一緒にいるんだ?

目でも見えないのか? いや、見えてるか。


ギルドマスターの俺でさえ直視はキツイ。

女子供ならフード越しでも無理だろうに……、何故向き合えている?


それとこいつ……。

止めなかったらこの辺り一帯どうなっていたか。

まったく恐ろしい魔力量をもってるもんだぜ。


その後、新人らしくお嬢ちゃんは薬草採取の依頼を受けて、二人でギルドを出て行った。

なんなんだ?

こんな取り合わせは短くもない冒険者人生で初めてだった。




(のち)に、このお嬢ちゃんはとんでもない事をしでかす。

この日、強く印象に残ったこのお嬢ちゃんがねぇ……。


あの日を何度も思い出す。

まぁ、あの感じならありえるか。




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