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異世界にきて7日目の朝。
今日で一週間かぁ……。
見慣れてしまった天井は変わる事なく、窓に目を移せばお気に入りのピンクのカーテンが見える。
やっぱ夢じゃないんだな。夢だとしたら長すぎる。
昨日は、なんだかちょっとここの生活に馴染んじゃってる気になってたけど、やっぱり現実を考えるともの凄い不安に襲われる。
これ、私帰れるんだろか?
このままずっと帰れなかったらどうしよう……。
一生家族と会えなくなっちゃったらどうしよう。
友達とも会えなくて……
って!そういえば会社はどうなってるんだろ?
元の世界では、私はどういう扱いになってんの?失踪?蒸発?まさか死亡?
家族や友達を哀しませてるのかな!どうしよう!
いやいやいやいや!!!!
どんどん落ち込む思考に、ムリやりストップをかける。
窓まで歩いて行って、カーテンを開ける。
朝の光がいっぱいに入ってきて、暗い思いを押しやってくれた。
押しやっただけで、なくなってはないけど。
うん!考えてもしょうがない事は考えない!行動あるのみ!!
帰れる方法を探して、探せるだけ探して、なかったらその時考えよう!
幸い私にはチートなスマホ様がいらっしゃる。ラーシュ君もいてくれる。
不幸な主人公にはなっていない。どっちかといえばラッキーな方だ。何とかなる!がんばれ桜子!
私はひとつ気合を入れて、今日を始めた。
身支度をしてダイニングキッチンに下りて行く。
「ラーシュ君おはよう!早いねぇ、今日も負けた!」
「サ、クラコさん、おはようございます」
調理場にはすでにラーシュ君がいて、先に朝ご飯の準備をしてくれている。
これはこの邸で暮らしだした2日目からずっとそうだ。
初日は私の方が先だったけど、たぶんあれはラーシュ君が遠慮というか様子見をして、私より後に下りてきたんじゃないかと思う。
さっそく私も隣に立って一緒に朝ご飯を作る。
今朝もハムエッグとトーストだ。それとヨーグルトと野菜ジュース。
もうずっとこのメニューだな。そろそろちょっと変えようか……。
ラーシュ君がハムエッグを焼いてくれている間に、私は食パンをトースターに入れる。
スマホ様でポチッた異世界仕様のトースターだ。動力は電気ではなく魔石ね。
バターとイチゴジャムも用意する。ピーナツのも美味しいよね。ラーシュ君に食べさせてあげたい。朝からポチる。
起きた時の憂鬱は、こんな風に動いていればまぎらわせる。
ご飯を食べてお腹いっぱいになれば、きっと元気になる。
そう思っていたのに、ラーシュ君が心配そうに言うんだもんな。
「サ、クラコさん、どうかしましたか? 何か心配事でも、あるんですか?」
「……え?」
なんで?私ちゃんとできてたよね?
個人的な問題にラーシュ君を煩わせないように、元気にできていたと思ったんだけど……。
「少し、元気がないように思えたので。勘違いならいいんです。すみません」
やばっ と、思った時には遅かった。
がんばって押しやった哀しみはあっさりと戻ってきて、涙という主張をした。
「サクラコさん!」
ラーシュ君がおろおろしてるけど、今は大丈夫と言ってあげられない。
だいたい君が泣かせたんだからね。責任を取ってしばらく泣かせてよ。
私は何も言えず、ただ涙を流し続けた。
「ごめん、もう大丈夫。いっぱい泣いたらすっきりした」
「…………」
めちゃくちゃ鼻声だし、たぶん顔もパンパンなんだろな。ラーシュ君は心配そうだ。
ラーシュ君が手渡してくれた濡れタオルを顔にあてる。ありがとね。
「ごめんね、ご飯が冷めちゃったね。
……食べながらでいいから、私の話を聞いてくれる?」
「はい」
私は一つ、息をついた。
「まず、ラーシュ君に謝らなければならない事があるの……。
初めて会った日に、私は小さな島国から魔法で飛ばされて来たって言ったけど、あれ半分ウソなの。小さな島国は本当だけど、この国には魔法で来たかはわからないんだ。
といって、じゃあ何でと聞かれてもわからないし、そもそもここにきた理由もわからないんだけど。
それから、言ってない事もあるの……。
信じてもらえないかもしれないけど、私はこの世界ではない、別の世界からやってきたんだ」
ラーシュ君の反応を見る。
いきなりこんな突拍子もない事を言われても、頭に?マークが並ぶだけだよね。
「……はい」
その「はい」がどんな意味か分からないけど、ラーシュ君の返事を聞いて話を続ける。
「世界を渡る人は今までもいたみたいで、そういう人の記録は残っていて、私は元の世界に帰る方法を探してるの」
「……図書館ですか」
「うん、そう。まだ探し始めたばっかりだし、帰れないと決まった訳ではないけど。
こっちの世界にきて今日で一週間。まだたった一週間だけど、私、すごくがんばってたみたいで……。
このまま帰れなかったらどうしようとか、もう一生家族に会えないのかもしれないって思ったら……」
また目の前がぼやけてくる。
「サクラコさん、ぼくがずっと側にいます。ぼくができる事は少ないと思いますが、サクラコさんがこの……世界にいる間、ずっと一緒にいます。
泣かないでください。ぼくも一緒に元の世界に帰れる方法を探します。大丈夫です、こっちの世界に来たのなら、元の世界にも行ける筈です」
「……うん。 ラーシュ君、ありがとう」
吐き出したおかげか、ラーシュ君が励ましてくれたおかげか、私は少しだけどちゃんと元気になって、ラーシュ君と冷めてしまった朝ご飯を食べた。
全部冷めちゃってるし、トーストなんてかたくなっちゃってるのに、何故か美味しくて、ラーシュ君のおかげだなと感謝した。
ラーシュ君は「ぼくができる事は少ないと思いますが」なんて言ったけど、私は少しだけど心が軽くなっていた。
私がラーシュ君にしてあげているって思っていたけど、逆だったかもしれない。
いつの間にかラーシュ君を頼りにしていたみたいだ。
いや、思い返せば最初からだったわ。
思い上がりはいけないね、人は助け合って生きているって本当だ。
無意識だったけど偉そうに思っててごめんね、ありがとうラーシュ君。
さて遅くなってしまったけど、今日は冒険者ギルドに行ってみようと思う。
この3日、図書館で過ごしてたから体を動かしたいっていうのと、それとやっぱり、今朝のこの気分を変えたいっていうのが大きい。
冒険者ギルドでは登録と、危険がない仕事かあったらしてみたいと思うけど、なんなら見るだけでも満足だ。
だって“冒険者ギルド”だよ!ファンタジーファンならぜひ見てみたいじゃない!
商業者ギルドはお役所みたいな感じだったから、もうひとつ感動できなかったんだよね。
冒険者ギルドに出向くにはだいぶ遅くなっちゃったけど、ラーシュ君はいつも少し遅いくらいの時間に出勤すると言ってくれたから(すでに少しじゃないけど)お言葉に甘えて連れて行ってもらう。
こういうところでもしっかり頼ってるんじゃん、私!
とまぁ、反省をしながらラーシュ君の後をついて歩く。
これもね、全然慣れないよねぇ……。
ラーシュ君が哀しむから言う通りにしてるけど、無関係のように歩くのはやっぱり理不尽に従っているみたいで腹が立つ。納得してないからずっとこんな思いのままだよ。
そもそも私が望んでここに来た訳じゃないのに、従う理由はないんじゃない?
したくもない事を、なんで私がしなくちゃならないのさ。
なんてふつふつと憤りながら歩いていたら、冒険者ギルドに着いた。




