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異世界にきて5日目の朝。
朝ご飯を食べたら、さっそくカーテンを付け替える。
淡いピンクのカーテンは、それだけで部屋が明るくなった。
窓を開けるとレースのカーテンが風に揺れて、桜の花びらが舞っているように見える!
綺麗だわぁ。これにしてよかった♪
桜だから春以外季節外れになっちゃうけどね!
まぁ日本じゃないからいいでしょう!
ラーシュ君の方はどんな感じかな?
ちょっと見せてもらおうか♪
「ラーシュ君、つけ終わった?」
ノックをしながら呼び掛けると、ラーシュ君はすぐにドアを開けてくれた。
「はい。見て、みますか?」
「うん!ぜひ♪」
中に入れてもらうと、新しく付け替えられたラベンダー色のカーテンは、外からの明かりでとても綺麗に見えた。
「わぁ綺麗だね!レースの方も見ていい?」
「どうぞ」
ラベンダー色の方を束ねてタッセルで止める。
「わ~!書いてあった通り銀色が綺麗に映えるねぇ!」
「本当に。綺麗ですね……」
「これさ、窓を開けていい?風に揺れるともっと綺麗だと思う!」
「ぜひ!」
部屋主が了承したので窓を開ける。
サァッと風が入ってきて、レースのカーテンを揺らした。
「ラーシュ君!銀色がキラキラして綺麗だね~!」
「はい!」
これ、何かに似ているなぁ……。なんだっけ?
……あ!
「ラーシュ君、イヤじゃなかったら少しだけフードを取ってくれない?このカーテンの感じ、ラーシュ君の髪みたいじゃない?」
「え…」
明るいし向かい合ってるもんね。
難しいかなと思っていると、ラーシュ君はおずおずとフードを取ってくれた。
銀色の髪が風に舞う。
「わぁ!カーテンより全然綺麗だった!ほんと綺麗!輝いていますね~♪」
思ったまま褒めると、やっぱりラーシュ君は固まった。
うっふっふ。このすきによく見ちゃおう♪
驚いたような瞳は透明なアメジスト。これまた美しい。ラベンダー色とお揃いで、なかなかよろしいんじゃないですか♪
それにしても、ほんと美形だなぁ。
なんというか、私のイメージでいうならイケメンというより“美しい”がピッタリくる。
なんて遠慮なく見させてもらっていたら、ラーシュ君の顔がだんだん赤くなってきた。
お、戻ってきたか?
「もう……、いいですか?」
「うん、ありがとう。堪能しました♪」
ラーシュ君はまた固まりそうになったけどふんばって、あたふたとフードをかぶった。
ごちそうさまでした♪
「じゃあ私の部屋のカーテンも見に来てよ!花びらが綺麗なんだよ!」
さて、今日も図書館に行こうか。
思ったより調べる本の数が少なかったので、一気にやってしまおうと思う。
考えてみたら、蔵書が多い図書館といっても本を読みたい訳じゃなかった。
調べものならそれだけ調べればいいんだもんね。
という訳でいってみよ~!今日も図書館までラーシュ君に送ってもらう。
ラーシュ君の後をついて、ただ20分歩く。しゃべりながら行くなら時間も短く感じるだろうになぁ。
自分と連れ立っていると私が危ないってラーシュ君は言っていたけど、私は逆だと思っている。
私(一般人)と一緒にいたら目立っちゃうラーシュ君が危ないと。
ラーシュ君が望むし、危ない目に遭わないようにとガマンして離れて歩いてるけど、理不尽に従ってるみたいで本当はすっごく不快だ。
私にチートな強さがあったらなぁ。
チートなスマホ様を持っているだけの、ただの女の子だもんね。(二十三歳はまだ女の子といってもいいのかな?)
そんな事をふつふつと考えていたら図書館についた。
「送ってくれてありがとう。ラーシュ君も気をつけていってらっしゃい」
今日もしっかりお礼を言う。
当たり前の感謝と、理不尽に抗う私の自尊心だ。
ラーシュ君は、今日もわかるくらいに頷いて、そのまま1秒くらい足を止めた。
ん?
黙って見ていたけど、結局ラーシュ君はそのまま歩き出した。
なんだったのかな?
出会ってまだ5日だけど、わかってきた事がある。
ラーシュ君は“好意”に戸惑う。
今の私の言葉、ありがとうとか、気を付けてとか、いってらっしゃいとか、私の今までの生活では特別ではない日常会話だった。
だけどラーシュ君にとってはきっと“特別”なんだよね。たぶん、今まで誰にも言われた事がないんだから。
「ふぅ…」
遠ざかる背中を見て大きく息をつく。
私には当り前の言葉、たぶんこの世界の人たちにだって当たり前の言葉。
そんな言葉なんていくらでも言ってあげるよ!
私が一方的に言うだけじゃなくて、色んな会話をしよう。たくさん会話をしよう。
そんな事を思いながらラーシュ君を見送った。
では!とりあえず読みますか!
二階の奥の棚の上の段、左から三番目の本を抜き取って閲覧席に持って行く。
一日二冊読んだとして、100冊読破するのは単純計算で50日かかる。二ヶ月弱か。
まぁ、もっと早く帰れる方法が見つかるかもしれないし!
もしかしたら全滅かもしれないけど……。
そうして、昨日と同じ一日を送った。
夕方、図書館から外に出れば、スッと近寄ってくる人影。
「ラーシュ君!今日も来てくれたの?ありがとう!あと、お疲れ様!」
「はい、えっと……、はい」
ラーシュ君は戸惑いながら、ちょっと変な返事をした。
「じゃあ、帰ろっか♪ お腹すいた?今日は何が食べたい?」
なんて話しながら歩き出す。
ラーシュ君は立ち止まったままだ。
「ラーシュ君?」
「サ、クラコさん、あの……」
「あぁ、そうだった」
やだなぁ。20分も無言で歩くんだよね。
そんな思いがつい顔に出ちゃったらしい。
「すみません……」
哀しい声で言うんだもんなぁ。
ごめんごめん。ラーシュ君を哀しませたい訳じゃない。
「ごめん、後からついて行くよ」
「すみません、ありがとうございます」
ラーシュ君はホッとしたように言った。
歩き出したラーシュ君からは、どんどん存在感が消えていく。
私はラーシュ君から目を離さないように、うっすい存在について歩く。
これどうやってんだろ?生きるために身につけた術なんでしょけど、すごいな。
さて。帰って、ご飯を食べて、私がお風呂から出ると、今夜はこの家に住みだして4日目にして変化があった。
ラーシュ君も入浴したのだ!
私があまりに気持ちよさそうにしていたからか
「入浴とはそんなに気持ちいいものですか?」
「そりゃあいいよ~!すっきりさっぱりリフレッシュできるよ!」
「そんなに……」
「なぁに?ラーシュ君入ってみたい?」
「……いいですか?」
「いいに決まってるよ!お湯を抜いちゃったからちょっとまってね!」
という事で再度お湯をためる。
魔石の扱いも慣れたものだ♪
ラーシュ君はお風呂に入るのは初めてだそうだ。
ラーシュ君たちの事情的に、街の公衆浴場には入れてもらえない。腹立つな!
だけど夏場には川や泉なんかで沐浴はした事はあるんだって。清潔にするというより涼むために?
で、初めてのお湯の入浴。感想を聞くと
「本当に、サクラコさんがあんなに気持ちよさそうにしていたのがわかりました。水とお湯とでこんなに違うとは……。身体がほぐれました」
上気した顔で(暑いでしょ!とローブを脱がせた)ほっこりと言っていた。
そうでしょそうでしょ♪♪
お風呂のよさを知ってもらえてよかった♪
私はちょっと考える。
これからラーシュ君も毎日入浴するとなると、お湯と時間の節約のためにあのムダに広い浴槽はいらないな……。
「ラーシュ君どうぞ。甘くしておいたよ」
「ありがとうございます」
ラーシュ君がお風呂に入っている間に作っておいたアイスティーをわたして、私はスマホを開いたのだった。




