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1.5




◇◆ラーシュ◇◆




今日は精神的に楽な日だった。

昨日は久しぶりにかなりきついパーティーに当たったからな……。


昨日の反動で、今日は薬草の採取をした。

あまり金にはならないけど、一人で心穏やかにいられる事は金には代えがたい。


本当はずっと一人でやっていたいけど、月に二~三度、ギルドからその時々のパーティーへのヘルプが依頼される。

ぼくたちのような者に断る権利はない。


醜いぼくたちのような者に依頼がくる理由、それは強い魔力だ。

神が、すべての人たちから忌み嫌われるほど醜いぼくたちを憐れんだのか、ぼくたちのような者は強い魔力を持つ者が多い。


普段はぼくたちを虫けら以下扱いしている奴らも、自分たちだけでは難しい依頼を受ける時はギルドにヘルプを依頼する。

ギルドはぼくたちの中から、前回から間の空いた誰かをヘルプにつける。

ぼくたちのような者と親しくなっていると思われるのを嫌がる奴らが、続けて同じ者をつけられるのを拒むからだ。


ヘルプを依頼するくせに、奴らのぼくたちへの扱いはひどい。

ぼくたちのような者が自分たちより魔力が高い事を許せないのだ。


存在を無視して一言も話さないならマシな方で、罵詈雑言を浴びせられる事は日常だ。

魔法を使う時に影響が出ないように、行きは言葉だけですんでも、帰りには暴力を受ける事もある。


ギルドの管理がしっかりしているから依頼料は入るけど、それだって一般の報酬の半分にしかならない。

ぼくたちのような者は、それで十分とみなされている。


誰よりも働いて報酬は半分。

それに不平を言う考えはない。不満はあるけれど、言っても無駄だと知っている。


ぼくたちはただ言われるままに働き、それ以外は息を殺して生きていくしかないのだ。

人々から忌み嫌われる、この醜い姿のせいで。


時々、このまま一人淋しく死んでいくのかと思うと、無性に空しくなる。

ぼくたちのような者は、何のために生まれてきたのだろう……。




午後の少し遅い時間、だけど夕方にはまだ早い時間。

このくらいだとギルドには人は少なく、依頼達成報告に行っても絡まれる事が少ない。


いつものように気配を消して道の端を足早に歩いていた時、目の前で顔立ちの良い男が女の子にぶつかったのが見えた。

謝罪もない捨て台詞に自分が重なって、とっさに手を伸ばした。


しまった!手を触れてしまった!


大声を出される前にと急いでその場を離れようとした時、大きな声が聞こえた。


「ありがとうございます!」


よすぎるタイミングに、一瞬反応してしまった。


ぼくなんかに礼を言う人はいない。きっと他の誰かの会話だろう。

反応してしまった事が恥ずかしくて、更に俯いて足早に去る。


だけど、まるで自分にかけられた言葉のようで……。


そんな筈はないと思うのに、胸が温かくなるのを止められない。

一生に一度でも、あんなにいいタイミングで聞こえたお礼の言葉。

もう二度とないだろう幸運に、ぼくは勝手にその言葉をもらう事にして、心の中に大切にしまいこんだ。




ギルドに薬草を買い取ってもらった帰り、ぼくは温かい気持ちのまま、さっきの場所に向かった。

別にまだあの女の子がいると思っている訳ではない。もうすでにあれからずいぶん時間が経っているし。


ただもう一度、この幸せな気持ちがあるうちに、あの場所を見たかった。

生まれて初めて礼を言ってもらえた(と勝手に思っている)場所。


え……


あの子がいた。

なんで? あれからずいぶん経つのに? どういう事だろう?


注意深く見ていると(もちろん人目につかないよう気配を消して隠れながら)どうも何か困っているような、迷っているような。


なんでだろう。自分から何かするなんて……。

そんな事をすれば悲鳴を上げられるか、罵声を浴びせられるか、運が悪ければ立てなくなるまで殴る蹴るの暴行を受けるのに。

自分でもわからないけれど、一歩踏み出していた。


「あの……」

「はい?」


ローブ姿のぼくを見ても悲鳴は上がらなかった。

返される声には不快さはない。純粋な疑問だけが聞き取れた。


だから言ってしまったのかもしれない。

今まで嫌悪や拒絶や理不尽な暴力ばかり叩きつけられてきたぼくは、初めて目を逸らされない事に舞い上がってしまったのだと思う。


「すみません。あれからずいぶん経っているのに、まだここにいるのを見かけて気になりまして。 ……お困りでしたら、私に何か手伝える事はありますか?」


ぼくなんかで何かできる事があるのなら、何でもしたいと心から思った。

だけどそう言ったぼくに、女の子は警戒の色を見せた。


「あ、すみません!お困りでなかったらいいんです!すみません、私なんかが差し出た事を。では」


しまった!調子に乗った!

どうか、どうか、大声を上げないでください。


必死に祈りながら足早に去ろうとすると、戸惑いが混ざったような声が追ってきた。


「いえ、すみません。おっしゃる通り少々困っていまして、助けていただけるとありがたいです」


悲鳴を上げられて、最悪の事も考えていたのに。

こんな、ぼくなんかに丁寧な言葉遣い。

初めて聞いた、頼られる声音に激しく心臓が暴れ出す。


「何をお困りですか?」


初めて知った、きっと喜びという感情に、声が震えた。




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