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9.5




◇◆ラーシュ◇◆




ぼくにこんな日がくるなんて……。


フードをとったぼくが、サクラコさんと横並びに座ってご飯を食べている。


「フードをとっちゃいなよ!」と、軽い感じでサクラコさんが言ったからだけど。


サクラコさんはぼくを嫌悪しない。

醜いどころか、美、男子だとも言ってくれた。

サクラコさんの国とこの大陸とでは、考え方や感じ方が違うのだと言っていた。


今朝はずいぶん長い間サクラコさんに顔を見られていた。

だから、そうなんだと思う事はできる。

サクラコさんを信じる事もできる。


だけどそうは思っても、長い間に身についたものはすぐには納得はできないようで、すごくドキドキしてしまう。


普通の人のように接してもらえるのは嬉しい。

サクラコさんに言われる事は、全部言われた通りにしたい。


このドキドキも、いつか落ち着くのだろうか?

“いつか”だなんて。

ずいぶんずうずうしい事を思ってしまった。


こんな幸運はいつまでも続く訳はないと、しっかり戒めておかなければ。




ゆっくり食事をしていたから、辺りが暗くなってきた。

灯りをつけて魔石の説明をして、そろそろ帰らなければ。


「ラーシュ君、暗くなってきたからまずは灯りのつけ方を教えてくれる?」


タイミングよくサクラコさんにそう言われる。

なんだかちょっと嬉しい。


だけど顔をさらしている事が落ち着かない。

ぼくはずいぶんソワソワしていたのだろう、サクラコさんから、ぼくのしたいようにと言われた。


すみません。フードをかぶって落ち着く。

今まで人前でフードをとる事はなかった。

こういう事は徐々に慣らしていくしかないのかもしれない。

サクラコさんが望むなら、ぼくはフードをとりたい。


落ち着いたところで、ロウソクに火をつける。


「ラーシュ君!何それすごーい!魔法?どうやったの!」


サクラコさんは、こんな生活魔法くらいでとても喜んでくれた。

あまりに褒めてくれるから、大いに照れてしまった。

あぁ、照れる、恥ずかしいという感情も知ったなぁ。


サクラコさんは魔法に喜んでいたけれど、ロウソクの明かりは不満のようだった。

それではと、照明器具に魔石をセットする。


「わー!明るい!ロウソクより明るいよ!魔石ってすごいね~!他には?他にはどんな使い方があるの?」


見た目のまま、少女のように喜んだ。

サクラコさんは本当にぼくより年上の、大人の女性なのだろうか?


それから、魔石を使って風呂の準備する。


「わー、すごい!お風呂だ!!入りたかったんだ~!ラーシュ君ありがとう!!」


今日一番の喜びようだ。

近い近い!! 

そんな事はあるはずないけど、抱き着かれるかと思った!


手強い魔獣討伐なんかを終えた時、仲間同士で抱き合って喜んでいるのを見た事がある。

ぼんやり、あれはどういう感情なんだろうと思った事があった。


サクラコさんからは抱き着かれてないけど、こういう気持ちなのだろうか?

いや、あいつらは焦っているようには見えなかった。

危機感とは違う焦りの気持ちも初めて知った。


それからサクラコさんは“スマホ”を取り出して、朝と同じく表面に指を滑らせると、

目の前に、突然見た事もない物が現れた!


「私の国の魔法みたいなもんよ♪」


サクラコさんは笑って言うけど、ものすごく驚いた!

サクラコさんはぼくの魔法を見て驚いていたけど、サクラコさんだって魔法使いじゃないか!


驚いているぼくに、サクラコさんは、もっと驚く事を言った。


「ラーシュ君、もしよかったらここをシェアハウスにするから一緒に暮らさない?私はこの国の生活に慣れてないし、こんなに広い家に一人でいるのはちょっと、いやかなり怖いんだ。もう少し色々教えてもらいたいし、一緒に住んでくれたら心強いよ」


こんな事が……

ぼくがこんな事を言われる日がくるなんて……


ぼくなんかが、こんな事を言われて、いいのだろうか?

いくらサクラコさんが自分の国とは感性が逆だといっても、この国、この大陸では、ぼくは忌み嫌われる醜い者なのだ。


だけどサクラコさんが言うように、サクラコさんはこの国の事を知らない。

この国で生活するなら、もっとたくさん色んな事を知らなければならないだろう。


サクラコさんがこの国での生活に慣れるまで、ぼくはぼくにできる全てをサクラコさんのために役立てたい。

ぼくが側にいる事でサクラコさんが迷惑になるようならすぐに離れよう。


「……私でよかったら、よろしく、お願いします……」


やっと言えた声は、かすれてしまった。


「ありがと~!こんなに広い家に一人暮らし、ほんと怖かったんだ!助かったよ!ラーシュ君、よろしくね!」


サクラコさんは心から喜んでくれているようで、ぼくはまた泣きそうになった。


こうして、ぼくはこの日、信じられない幸せをもらった。




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