表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/93




大きな食堂の大きなテーブルで、ラーシュ君と隣同士に座ってご飯を食べている。

大きなテーブルは幅があるから、向かい合わせに座るとずいぶん離れちゃって一緒に食べてる感じがしないんだよね。

それに向かい合わせだと、ストレートに顔が見えるじゃない?


「ラーシュ君、フードをかぶったままじゃ食べづらいでしょ?ここには私しかいないし、とっちゃいなよ!」


と言ったからね。

ラーシュ君はまだ顔出しに慣れてないから、こんな風に慣れていってもらいたい。

私がラーシュ君の顔を見たいからという訳では……、ちょっとしかない。

ラーシュ君からはものすごい困惑が伝わって来たけど、NOとは言われなかったからいいよね。


疲れたねとか、これまぁまぁだね、なんて言いながら、前を向いてゆっくりご飯を食べる。

そんな風にゆっくり食べていたから、ご飯が食べ終わる頃には薄暗くなってきた。


「ラーシュ君、暗くなってきたから、まずは灯りのつけ方を教えてくれる?」

「はい」


食事が終わって向かい合うような事も増えてくると、ラーシュ君はソワソワしだした。


「ラーシュ君、落ち着かなければフードをかぶったらいいよ。ご飯の時はジャマでしょうけど、まぁ今もジャマだと思うけど、ラーシュ君のいいようにしてね」

「……はい」


ラーシュ君はフードをかぶると、ロウソクに火をつけてくれた。

ライターもマッチもないのに、手から直接ロウソクに火をつけたよ!


「ラーシュ君!何それすごーい!魔法?どうやったの!」


初めて目に見える魔法に(清浄魔法は目に見えなかったからね)私は大騒ぎだ。


「これくらい、生活魔法が使えるなら誰でもできます」


ラーシュ君は大いに照れて言った。

ちなみにラーシュ君は火の魔法使いだそうで、それで冒険者の依頼も受けているんだとか。

水の魔法も少し使える、珍しい二属性の魔法使いなのだそうだ。


「そんな事を言われても、私は魔法が使えないからものすごく感動しちゃうよ!

だけどロウソクってあまり明るくないね。魔石って灯りのものもあるんでしょ?」


読み知っているものは、電気の代わりになるイメージだ。


「魔石を使いますか? でしたら、ここに魔石をはめれば明るくなります」


言いながら、ラーシュ君は壁についている照明器具に魔石をセットしてくれた。


「わー!明るい!ロウソクより明るいよ!魔石ってすごいね!他には?他にはどんな使い方があるの?」


ラーシュ君は次にお風呂の準備をしてくれた。

これもやっぱり浴槽にあるへこみに魔石をはめただけなのに、浴槽はみるみるお湯がいっぱいになった。


「わー、すごい!お風呂だ!!入りたかったんだ~!ラーシュ君ありがとう!!」


私が抱き着くような勢いでお礼を言ったから、ラーシュ君は、いえとか、はいとか、困惑具合が伝わってくる返事をしたいた。すまんね。


お風呂は、一人で入るにはもったいないような大浴場だ。

私は早速スマホからシャンプーとトリートメントとボディソープをポチった。

この国のそれらは、私の欲しいものとは違ったからね。


ラーシュ君が目の前でやり取りされるそれに驚いているので「私の国の魔法みたいなもんよ♪」と言っておく。


「ラーシュ君、このお湯の温度ってどのくらい保たれるの?」

「魔石を外すまでずっとです」

「壁の明かりも?」

「はい」


スイッチみたいなもんかな?

まだまだわからない異世界の仕様。


そこで私は我に返った。

私一人では広すぎる家。それに、ここに一人で住むのは怖いよな……。

私は、ちょっと考えていた事をラーシュ君に提案してみた。


「ラーシュ君、もしよかったらここをシェアハウスにするから一緒に暮らさない?私はこの国の生活に慣れてないし、こんなに広い家に一人でいるのはちょっと、いやかなり怖いんだ。もう少し色々教えてもらいたいし、一緒に住んでもらえたら心強いんだけど」


ラーシュ君は固まった。

もうこの状態には慣れたよ。ゆっくり待とう。


我ながら大胆な提案だと思う。

知り合ってたった二日の、よく知らない男の子と一緒に暮らそうだなんて。

だけど、たった二日だけど、ラーシュ君は信頼できる人だと感じている。

昨日、この人は大丈夫だと思った自分の勘も信じられる。


それに、ここでの生活に慣れてないのも、こんなに広い家で一人で暮らすのが怖いのも本当だ。

どうか、うんと言ってほしい。


「本当に、私が一緒に住んでも、 ……いいんですか?」

「住んでくれたら嬉しいよ!色々面倒をかけちゃうと思うけど、がんばってなる早で色んな事覚えるからさ!」


ラーシュ君は何度も何か言いかけて、やっと


「……私でよかったら、よろしく、お願いします……」


聞こえないくらいの小さな声で言ってくれた。


「ありがと~!こんなに広い家に一人暮らし、ほんと怖かったんだ!助かったよ!ラーシュ君、よろしくね!」


手を取って大きく振る。握手握手♪♪

ラーシュ君は、また固まった。


その後、固まりから解けたラーシュ君には悪いけどさっそくお風呂に入らせてもらった。


はぁ~、生き返る!

髪も身体も洗って、お湯の中で手足を伸ばす。


こんな大きな浴槽に一人で入るなんてお湯がもったいないな。贅沢すぎる。

これはなんとかしなくちゃな……。




さて。

部屋は私が二階の主部屋を使う事にして、ラーシュ君は隣の部屋にしてもらった。


洋館って、なんか独特の雰囲気があるじゃない?

ゆうれいとか(怖いから漢字で表せない程ビビりです)私はホラーとかダメなのよ。

本当は一緒の部屋をお願いしたいくらいだけど、さすがにそれは自粛した。


それから!全人類の敵!Gなんかが出た時も迅速に退治してもらいたい!

その後部屋に清浄魔法もかけてもらいたい!

私は生き物の中でアレが一番嫌いなのだ!


さりげにその辺の事を聞くと、仕事柄野営も多いというラーシュ君は全然OKとの事だった。

頼もしい!


優先順位的には三番目になるけど、泥棒とか犯罪も怖い。

騎士団が警邏してくれているといっても犯罪は0ではないでしょ?だから警邏してるんでしょうし。


ラーシュ君は、こんないい部屋を使わせてもらえないと固辞していたけど、そんな理由で何かあった時にすぐ助けてもらいたいと言うと、それならば…… と、やっと了承してくれた。


後から知ったけど、ラーシュ君はこのおどおどした態度からは想像できない程強い魔法使いらしい。

ラーシュ君たちのような、忌み嫌われるほど醜いといわれる人たちは(超絶美しいけど!)強い魔力を持っていて、都合よく使われているのだそうだ。


どういう事かというと、危険度の高い依頼を受けるパーティーがギルドへ魔法使いの助っ人申請をする。

するとギルドからラーシュ君たちのような魔法使いに要請がいくと。

でも一緒の依頼をこなしても報酬は半分だとか。


なんだそれ!そっちが要請してくるんだから報酬はちゃんと払え!

それと!忌み嫌われるって表現ほんとひどいな!実際使われているのも初めて聞いたわ!


聞けば聞くほど腹立たしい。

まだほんの少ししか聞いていないけれど、過酷すぎる人生だ。

自分のせいじゃないのに、差別されたり、暴力や暴言も当たり前のように話している。


ラーシュ君は親切だし優しいし、気遣いのできるいい人だ。

そんな理不尽な人生を送っていたら、世を恨んで捻くれたり悪人になっていてもおかしくないと思う。

私だったらぐれてるね!


それなのに見返りもなく私を助けてくれた。

今もずっと助けてくれている。

超絶美形の上、心まで綺麗とは!ラーシュ君は天使のような人だ。


一人ベッドに横になってからも憤っていたけど、家を買って色々やった疲れとか、一日ぶりのお風呂とか、しっかり清浄してくれた部屋とか、お布団が気持ちよくて、私はいつの間にか眠っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ