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8.5




◇◆ラーシュ◇◆




「これからの計画を書き出してみようか……」


サクラコさんは独り言のようにそう言うと、小さくて四角いものを取り出した。

そしてそれの表面に指を滑らせたり、叩いたりしている。


何だろう? 

サクラコさんのお国の何かかな……?


「あぁこれはスマホっていって、えっと…… この国でいうと魔法みたいなもんかな?

私、紙のメモ帳とか持ってないから、スマホのメモ機能使ってるのよ」


ぼくが不思議顔で見ていたら、サクラコさんが“スマホ”の表面を見せてくれた。

サクラコさんの国の文字で、何やら書き連ねてある。

ずいぶん小さい文字だ。


魔法か。

サクラコさんの国の魔法はずいぶん繊細なんだな。


「サクラコさんの国の文字ですか?ぼくには読めませんが」

「え、ラーシュ君読めない?」

「はい。初めて見る文字です」


サクラコさんは「そっか~、私はこっちの文字は読めるけど、こっちの人は日本語読めないのか……」と独りごちている。


“ニホン語”

サクラコさんのお国は“ニホン”というのか。

サクラコさんの事をひとつ知れて嬉しい。


それにしても、何を計画するんだろう? 

サクラコさん、何を書いているんだろう?

気になるけど、集中しているようで黙って待つ。

知れれば、ぼくに何ができるか考えられるんだけどな……。


「こうして書きだすと整理できるし、優先順位もわかるじゃない?私、頭悪いから、こうしないと効率よく動けないのよ」


時々、ぼくを気遣ってくれてるのだろう、一言二言話しかけてくれる。

ぼくは邪魔にならないように短く返事をする。


計画が立て終わったのか、サクラコさんは顔を上げて言った。


「家だな」


家?


「ラーシュ君、不動産屋さんってある?」

「はい。 サ、クラコさん、家を買うのですか?」

「え?賃貸ってないの? ないなら、高級お宿の連泊とどっちがお得か考えて、買った方が安上がりなら買うかもしれない」


サクラコさんは家移りするようだ。

そうだよな……。


サクラコさんはこんな、ぼくたちのような者が泊まる宿屋にいていい人じゃない。

わかっていたけど。サクラコさんがこんな宿屋に泊まる方がおかしいんだけど。


だけど、サクラコさんが泊る宿屋には、ぼくは泊まれない。

サクラコさんが家を借りても買っても、ぼくは近くに住む事が出来ない。


お別れだ。しかたない。元々ぼくなんかが側にいられる人じゃなかったんだ。

サクラコさんのためにも、本来サクラコさんがいるべき場所で暮らした方がいい。


ぼくのような者が、生きているうちにたった一度でもいい事があったんだ。それを思い出に生きていける。

何度もそう思っているのに。それも本心だけど。

サクラコさんの側にいられなくなると思うと、真っ暗な人生しか見えない。


いっそ、これほどの喜びを知らなかった方がよかったと……

いや、そんな風に思ったらだめだ。それはサクラコさんと過ごした時間を否定する事になってしまう。


サクラコさんには感謝しかない。

サクラコさん、ありがとうございました。

出来る事なら、これからも側にいて役に立ちたかったです。




この日、サクラコさんは家を買った。

金持ちの邸宅なので、小さいというけど庶民の家から見たら大きい。すごく大きい。(驚きすぎて二度いう)


その金持ちの邸宅を、サクラコさんは即金で買った。

驚きすぎて言葉も出ない。


これほどの邸宅を……。

いったいいくらしたんだろう?

ぼくなんかじゃ思いつかないくらいの金額だろう。


「ラーシュ君のおかげだよ。昨日、ラーシュ君がバンスクリップは商業者ギルドに持って行った方がいいって言ってくれたでしょ?副ギルド長と商談してね、価値に見合った金額で買い取ってもらえたの。ほんと、その辺の雑貨屋とかに売らなくてよかったわ~。ありがとね!」


副ギルド長と?! 

それほど価値があるものだったんだ!


どのくらいの大金になったかはわからないけど、これ程の邸宅が買えるという事はわかった。

商業者ギルドを勧めてよかった。ぼくでも役に立てたんだ。


それから買い物に行きたいというサクラコさんに、店に連れて行ってほしいと()()()()

ぼくなんかに頼んでくれる。

サクラコさんのためなら、ぼくは何でもしたかった。


それからサクラコさんはぼくが何かをすると、必ず「ありがとう」と言ってくれた。

そう言われると、ぼくなんかでも役に立てたとわかるのでとても嬉しかった。


サクラコさんはぼくを気遣ってもくれた。

昼食を抜いた事を謝って、夕食を勧めてくれた。

本当に、サクラコさんはぼくが生きてきた今までで、なかった事ばかりしてくれる。


一食抜くくらいなんて事はない。いつもの事だ。ぼくがそう言うと、


「まぁ……、とりあえず食べようか」


サクラコさんは何ともいえない声で言った。




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