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5.5




◇◆ラーシュ◇◆




みっともなく泣いてしまったぼくは、泣き止んだ後に冷めた屋台料理を食べた。

冷めていても美味しくて、泣いてスッキリしたからか、美味いと感じたからか、急に空腹を覚えて、勧められるまますっかりたいらげてしまった。


「じゃあ行こうか」

「はい」


食べ終わって食器を返しにいった(あぁすみません!ありがとうございます!)サクラコさんが何事もなかったように言う。


案内するのはぼくだけど、行動するのはサクラコさんに言われてだ。

この日確立されたぼくたちのこの関係は、このままずっと続いていく事になる。


もちろん不満はない。こんなぼくなんかを側にいさせてくれる、ぼくなんかの側にいてくれる、これほどの幸せがあるだろうか。感謝しかない。


歩き出してしばし。ぼくには慣れた道、身についた、暗い場所や端を歩く事が常のぼくは、サクラコさんへの配慮がまったくなかった。


「わっ」

「大丈夫ですか!」


サクラコさんが何かにつまずいたようだ。

なんて事だ!サクラコさんに怪我をさせるところだった!

猛反しているぼくに、サクラコさんが言った。


「あっぶな!転ぶところだった!暗くて足元よく見えないし。ちょっとラーシュ君の腕につかまらせてもらっていいかな?」


……え? つかまる? 腕に? ぼくの? ぼくの腕に?


言われた言葉はわかるけど、言われた事がわからなくて一生懸命考える。

考えてもよくわからなかったけど。


!!!!!


ぼくの腕に! 小さな手が触れた?! サクラコさん? サクラコさんの手? 

「つかまらせてもらっていいかな?」って、 え? こういう事?


「ごめんね、宿屋さんまでだから助けてね。こう暗くちゃ何度転ぶかわからないわ」


……うん。 転んだら危ない。 

……うん。 うん。


頭が真っ白になって、手足の感覚がわからない。

ぼくは今、どうやって歩いているんだろう?


他人に触れた事が全くないとはいわない。

ダンジョンなんか、せまい場所では触れてしまう事はあったし、魔獣から守るために触れた事はあった。


そのたびに勢いよく振り払われ、罵声を浴びせられ、ひどいと暴力を受けた。

ぼくなんかが言っていい事じゃないとわかっているから言わないけど、だけど、ぼくが助けなかったら大怪我か、最悪死んでいたかもしれないのにと、思ってしまう。

皆、死よりもぼくに触れられる方が嫌なのだ。


そんなぼくに……。

サクラコさんはぼくなんかの腕に、触れてくれた。

悲鳴でも罵声でもなく「これで安心だわ~♪」と言ってくれた。

あんなに泣いた後なのに、ぼくはまた泣きそうになった。堪えたけど。


その後、宿のぼくの部屋で、サクラコさんに尋ねられるまま話をした。

何故かサクラコさんは、“ぼくたちのような者”の事を聞きたがった。

そしてぼくたちのような者には当たり前の社会にひどく怒ってくれた。


それから、生涯で一番驚く事を言われた。

ぼくが、美、男子だと。


サクラコさんの生まれ育った国とこの大陸とでは、美醜の価値観が逆なのだそうだ。


ぼくが美男子?そんな事があるんだろうか? 

こんな、人扱いもされない、忌み嫌われる程醜い容姿が、“とってもカッコいい人”?


言葉の意味はわかるけど理解できない。

今日だけで何度も経験している。


ぼくが混乱していると、さらに難しい事を言われた。


「ちなみに私は、この国とか大陸の人たちにはどのくらいの評価になるの?」


ぼくはなるべく客観的に、正確に答えた。

本当は、サクラコさんはとても可愛いと言いたかった。だけどそれはぼくの主観だし、サクラコさんは一般的な評価を聞きたかったのだから言わなかった。


ぼくなんかに笑いかけてくれるサクラコさんは可愛い。

ぼくをかばってくれた時のサクラコさんはかっこよかったなぁ……。


「遅くまでありがとね!また頼る事もあると思うけど、その時はよろしくお願いします。 じゃあ、おやすみなさい」 

「はい! ……お、おや、すみなさい」


頼ると。サクラコさんは、ぼくなんかに頼ると言ってくれた。

制限が多いぼくには出来る事は少ないだろうけど、ぼくに出来る事は何でもしようと強く決意した。


「おやすみなさい」と言われたのも初めてだった。

初めての言葉に、恥ずかしながら返事をかんでしまった。

心と、身体もふわふわと温かくなる。


今日はいったいいくつの初めてを経験しただろう。

ぼくのような者にも普通の人のように接してくれるサクラコさんは、慈愛深い聖女様のようだ。


なんて、ぼくが感謝と敬いの気持ちでサクラコさんを見送っている時に、サクラコさんは忍耐力を培っていたなんて……。思いもしなかったです。




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