8. (完結)
※最後の方にオマケがあります。
ベルタとティアと話をしたその数日後、何時も通りの時間に開店させたアリスは晴れ晴れとした表情で働いていた。
「やぁ、アリス…何か良い事でもあったのかい?」
「ペーターさん、こんにちは! まぁ、そうですね…そんなところです。」
アリスの何処か嬉しそうな顔を見て、理由は分からなくてもペーターは満足そうな顔をした。
アリスの店の評判は上がっていき、売上は数日前の倍以上となっていた。地獄のような経験をした学校での技術は、決して無駄にはならなかったのだ。
ティアとの関係は何もなくなると思っていたのだが、身寄りのない子供達の為の服をアリスに作って欲しいと依頼されたのだ。そのお陰で貴族専用の仕立て人にならなくても繋がりを持つ事が出来て、同じ経験をした仲間のような友人関係となる事が出来た。
「アリス!!」
仕事を終えると、ベルタが会いに来てくれた。お互いに告白を終えて、友人関係のままで居る事を決めたベルタとは、その後も変わらずに接していた。いつかベルタに恋人が出来て、離れてしまうかもしれない…そしてアリスにも、恋人が出来るかもしれない、そうなれば今の関係も変わってしまうかもしれないが、今のこの時間を大切にしたいとアリスは思った。
――私は物語の主人公のように、何もかもを満足のいく結末を迎える事は出来なかった。けれど、一番に自分に合った生活がどれだけ大切なものなのか理解出来たのだ。
私は2度目の人生を慎ましく、自分らしく生きていこうと思った。
「今日はどうする、また食事にでも行くかい?」
「良いけど…あのレストランは勘弁してね、恥ずかしいから。」
ティアとの話でやらかした事を思いだし、苦笑いをするアリス。
「…もう誰も覚えていないんじゃないかな?」
「と、兎に角駄目よ!! 他の店にしましょう、今度は私が奢ってあげるから!!」
2人は笑い合いながら、歩みを進めたのだった――。
〈これにて完結ですが、下に行くとちょっとしたオマケがあります。〉
2人で食事を終えて、アリスと別れた後、ベルタは溜め息を吐いた。
「やっぱり、アリスには言う必要はないよね。」
実はティア、アリスと3人で話をした後に、ティアは専門学校を調査する為に潜入捜査の計画をしたのだ。ティアの協力者の一人に偽りの身分証明書を渡して、王女に推薦された平民の生徒として入学して貰ってたのだ。案の定、アリスに聞いた通りの嫌がらせに遭い、ティアに指示された通りに退学しようとすると教師に反対されたそうだ。ティアは報告を受けて、虐めに加担した生徒を全員強制退学させて罰を与えるように責任者に指示を出した。教師には解雇を言い渡したのだった。
元々正義感が強く、アリスに対して自責の念もあったのだろう。しかし、アリスは報復を望んでいなかった為、ティアには秘密にするように指示されていたのだった。
――それにしても時間が巻き戻った、か…。
ベルタには分からない現象だった。アリスとティアからの話でなければ信じなかったであろう現象…何が切っ掛けで起こったのかは不明であるが、戻った時間帯を考えると2人がやり直したい、と思った事を変えるために最低限必要な時間に戻る事が出来るように感じたのだった。
――もし、僕が元に戻れるのならば…。
アリスが貴族社会に対して恐怖心を持つ事がなく、自分がティアの専属執事になる前の見習い執事、もとい一般の給仕の仕事をしていた段階で告白していれば上手くいったのではないか…そんな考えが頭を過ぎった。
「…っ、馬鹿な事を考えるな、もう終わった事なんだ。」
もう自分はティア王女の執事を辞める訳には行かないし、立場としては貴族社会に関わらざるを得ないのだ。そんな自分の為にアリスを巻き込むわけには行かない、アリスは前を向いているのだ、足を引っ張ってどうするというのだ。
未練がましい自分に苦笑しながら歩き続けるベルタは、いきなり眠気に襲われて、意識を失った――。
目を開けると、数メートル先にアリスのお店があった。しかし、何処か様子が可笑しかった。
「……えぇ!?」
店の中から出てきたアリスは、初めて会ったばかりの頃の、子供の頃の姿であった…。
これにて完結です。有難う御座いました!!
最後のオマケは、オマケと言えないのかもしれませんが、読まなくても大丈夫だと思いつつ書きました。
何故最後に彼が巻き戻ったのか、そもそも何故主人公達の時間が戻ったのか、ご想像にお任せします。
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