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「いらっしゃいませ!」


 2度目のこの人生では、学校には行かずに、この店で身の丈にあった生活をしていくと決心したアリス。今日が営業日であった事に気が付き慌てて準備をした。アリスにとっては久しぶりの仕事であったが、問題なく準備を進める事ができた。開店すると懐かしい常連客や、新しい客が入店してくる、その姿を見て懐かしさと安堵感で涙が出てきてしまいそうだった。


――帰ってくる事が出来たのね、私…。




 


 そもそも服屋は、両親が居なくなった事で生活していく為に働き始めたのだが、私がやりたいと思った仕事であった。きっかけは私が14歳の頃、お手伝いばかりであった私は母のように服を作ってみたいと思い、余り物の布で初めて服を作ったのだ。出来栄えは当時の私として中々の物で、母からも売り物には出来ないが才能があると褒められた。しかしサイズは小さめになってしまったので、自分では着る事ができなかった。

 誰かに着て貰えないかと散歩をしていると、貧困な者達が屯している場所に来てしまっていた。金目のものは持っていなかったが、襲われる可能性もあった為、その場を離れようとした時に、集団から離れた場所で蹲っている少女を見かけた。薄汚れているが恐らく金髪で、服はほつれて泥が所々についていた。

 …このまま放って置けないと思ったが、さほど裕福でもない家柄であった為、連れて行く事も出来なかった。しかし、自分の作った服をあげたいと思ったのだった。


「あ、あの…良かったらこれ。」


 アリスが話しかけると少女は顔を上げた。貧困ながらも食べる物はあったのか、想像していたよりも顔色が良かった。


「…私…お金、ないよ。」


「この服ね、私が初めて作ったものなの。だから、着てみてくれないかな?…お金は要らないから!!」


 アリスがそう言うと、少女は目を丸くした。そして頷くと人に見られないように茂みの中に入っていった。暫くすると出てきて姿を見せる。

 アリスの作ったワンピースは余りの布を使った事により、所々赤や青の布が縫われている白色が多いワンピースだった。


「…似合ってる。サイズもバッチリだね!」


「……ありがとう。」


 少女は嬉しそうに笑った。その笑顔はアリスの脳裏に焼き付いたのだった。自分が作った服で笑顔になってくれた事が嬉しくて、これからも色んな人に感謝されるような服屋になりたいと思った事が切っ掛けだった――。








「それなのに、欲をかくから罰が当たったのね。」


 アリスは苦笑いをした。


「やぁ、アリス…どうかしたのかい?」


 アリスが考え込んでいると、常連客の一人である親しい老人、ペーターが話しかけてきた。


「ペーターさん、何でもありませんよ。何かお探しですか?」


「いや、買いたい物はもう見つけたよ。それよりこの服は最近作ったのかい?」


 ペーターが近くにある女性用のワンピースを指さした。腰辺りに薔薇をモチーフにしたコサージュが付いている物だ。このワンピースは朝起きた時に、作りかけのまま作業台に置いてあったので、ワンポイント付けたいと思い、コサージュを付けて完成させておいた物だった。


「はい、本日完成したばかりの物です。」


「服の事は詳しくないんだが…この服の薔薇は凄いな、こんなに綺麗に付いている服は身近で初めて見たよ。まるで貴族のドレスに付いてる薔薇みたいだな!」


 感心したように褒めるペーターの言葉に、アリスは複雑な気持ちになった。


――分かっていた事だけれど、やっぱりあの日々は夢じゃないのよね。


 実は自分は長い悪夢を見ていたのではないか、という事も考えていたのだ。普通に考えて時間が巻き戻るなんて有り得ない事だったから…けれど、ペーターが褒めてくれたワンピースを見て確信を持ったのだった―――。



 



 






 無事に店は終わり、服の作成に取り組み始めたアリスは、無意識に学校で学んだ技術を使っている自分に笑ってしまった。入学する前に作っていた服を見ると、気になる部分が見つかり作り直していた。


(此処の縫い方は間違ってます、こちらの方法でなくては合格はあげられません!)


(…この程度の実力で推薦もらったなんて冗談でしょう?)


(やり直しです、1から作り直すように…終わるまで居残りですよ。)



 学校のクラスメイト、教師に言われた言葉を思い出し、苦い気持ちになってしまう。



――本当は思い出したくもないけれど、あの経験も無駄にしないように考えた方が良さそうね。


 自分に言い聞かせて、アリスは作業を再開させた――。









 




 翌日、開店していると店の扉を開けてその人はやってきた。


「やぁアリス、久しぶりだね。」


 嬉しそうに笑いながらアリスの傍に歩いてきたのは初恋の人、ベルタだった。


「えぇ…久しぶりね。」


――今日は私の誕生日の前日、会いに来てくれたのは今日だったわね。

 本当に久しぶりだわ、学校に入学してから一度も会えなかったものね…。


 そして記憶の通りに、ベルタの傍には大きな帽子を被った少女が居た。少女は店を歩き回っていると、ピタリと足を止めた、少女の視線の先にあったのは、昨日から今日にかけて作成した白いワンピースであった。売れ行きが好調で、朝10枚あった服は1枚しか無かった。何時もなら同じ系統の服は、10枚作れば1日で3枚売れれば良好であった。

 少女は服を見つめた後、店を出ていった。


――記憶と同じだけれど、今回は少しだけ変わったのね。常連客では無さそうだけど、服を気に入ってくれたのかしら?


 ベルタは店を出ていく少女を見届けた後、


「それにしても、驚いたよ。何だか僕が知っている時よりも服の枚数が少なかったように見えるね、売れ行きが良いんだね。」


「ええ、ちょっと服の作り方を工夫してみたら成功したみたいなの…それより大変だったわね、王女様の事とか。」


 褒められるのは嬉しかったが、服の話題をできるだけ避けたかったアリスは、前回と同じようにベルタを気遣った。


「…まぁ殺人未遂が起きたからな、けれどティア王女様は聡明な御方で、殆ど一人のお力で解決してしまったよ。」


――そういえば、前回もそう言っていたわね。


 前回での会話でも、ティア王女は平民生活しか経験していなかった筈なのに、礼儀作法をすぐに完璧に身に付けてしまい、女王…元女王とベラ王女、その側近や侍女達の嫌味や、嫌がらせにも冷静に対応してしまったそうだ。周りの人間は「王族の血を引いているからだ」と言って褒め称えていたが、それだけでは納得しようのない才能を持っていたそうだ。


――ティア王女様こそ、物語の主人公なのでしょうね…。


 過去の自分と比較して内心笑ってしまった。もし自分がティア王女のような才能があったなら、学校でも上手く立ち振る舞う事ができたのかもしれない、けれど現実はそうは行かずに自分は追い詰められて自殺してしまった。所詮自分は、モブキャラでしかなく、主人公などではなかったのだ。


「アリス…? どうかしたのかい。」


 心配そうに此方を見るベルタに、アリスは意識を戻した。


「な、何でもないわ。兎に角、ベルタが無事で安心したわ。」


「…ありがとう、アリス。」


 アリスの言葉に頬を紅くしたベルタは嬉しそうに微笑んだ――。









 




 その日の夜、アリスはカレンダーを見つめた。


「明日…私の誕生日に学校の話が来るのね。」


 当然、断る事は決まっていた。そして、その後はこの店を続けて自分らしく生きていくだけなのだった。けれど…そうなればベルタとの恋を完全に諦める事と同義だった。


「馬鹿ね私…そもそも初めから報われるなんて思ってなかったじゃない、学校を卒業できた所で、結ばれる保証なんてなかったのに…。」


 分かっていた事ではあるのだが、改めてベルタと会った事でやはり彼の事が好きなのだと思ってしまった。みっともなく、何処かで彼と結ばれる可能性を期待してしまっているのだった。


「…でも、それでも死にたくない…もうあんな目に遭いたくないもの…。」


 アリスはそう言うと、沈んだ表情で部屋の電気を消した。







 




 




 

 服、てそんなすぐに完成するのか? というツッコミがありそうですが、ご都合主義ということで宜しくお願い致します。 

 もう完結済みなので、ちょくちょく載せていきます。


 評価とブックマークを是非宜しくお願い致します!!

 広告の下にある☆を押して頂けたら幸いです!!

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