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「……あれ、私の…部屋?」


 ベッドから身を起こし、辺りを見渡すと懐かしい部屋の風景が目に入ってきた。状況が分からず、呆然としながら辺りを見渡していると壁に掛かっているカレンダーが目に入った。


――…え、私の誕生日の3日前の日付になってるのは何故?


 






 私の名前はアリス、24歳の平民で職業は服屋だ。両親は私が16歳の時に病気で亡くして、天涯孤独となった。しかし、母は服屋を営んでいた為、子供の頃から手伝いをしていた私は最低限の知識と技術を習得していた。そのお陰ですぐに働き始める事が出来た。最初こそは様々な苦労があり苦しい日々もあったが、今は服屋の営業は順調で、贅沢しなければ何不自由なく生活する事が出来た。


 そして18歳のある日、私は初恋を経験した。偶然知り合った男性で名前はベルタ、出会った当初は知らなかったが、出会った当時は見習い執事で給仕の仕事をしていたそうだ。そして後に、王女の専属の執事となる城の執事だった。私の服屋に寄って時々服を買ってくれたり、話をしたり、一緒にお出掛けする仲となった。しかし、私は彼と結婚はおろか、恋仲になれるとは思っていなかった。彼は城の執事で、私はただの平民の服屋では立場が違った。執事である事を知らなかった時でも、問題が一つあった…私の顔には火傷の痕があった。幼い頃にドジをして出来たものであり、範囲は小さくて薄いものであったがコンプレックスであった。幸い周りの人達と、客から何かを言われた事が無かったので、深く気にする事はなかったが彼に恋をするようになってからは気にしてしまうようになった。


――今の友人のような関係で良いの…これ以上は望まないわ。


 そして23歳になり、2か月後には24歳になるというある日、ベルタは私に会いに来なくなった。彼の身に何かあったのではないかと心配していると、彼から手紙が届いた。手紙には【もうすぐ発表されると思うけど、暫く忙しくて会いに行けそうにない、身体に気をつけて】といった内容が書かれていた。当時の私には何も分からなかったが、彼が無事である事が分かり安堵した。

 そして手紙が届いてから2週間程経過したある日、この国の王であるセザール・ベルメール王から発表があった。王の実の娘が見つかり、王女になったというものだった。王には前妻、つまり前女王が居たのだが、子を産む事が出来ないという理由で城から追い出されたという噂があった。今の女王は二人目の妻で、女王に即位した時には連れ子である娘、ベラが居たのだった。ベラは王の血を引いてはいなかったが、王と女王様の間に子供が産まれる様子もなく、ベラ・ベルメールという王女として即位していた。しかし子を産めないというのは違っていたようで、追い出された後に出産していたのだった。その娘の名前はティアといい、方法は分からないが、調べた結果王の血を引く実の娘である事が確認された。その後、王女に即位した事で姓が与えられティア・ベルメールとなった。(姓は貴族や王族のみに与えられており、平民には名前しかなかった。)

 そして数日後に、ベルタが会いに来られなくなったのは、ティア王女の専属執事となったからだと知った。色々と大変だなと思いつつ、彼に会えないのは寂しいと思った。


 そして1カ月後、国にとっての大事件があった。女王とベラ王女が、ティア王女を殺害しようとしたのだ。さらに女王が、前女王の事を子供が産めないと嘘を流し、計画的に城から追い出したという事が判明した。当然女王とベラ王女、それに加担した者達は死刑となった。余りの衝撃に国中は騒いだものの、王とティア王女の仲睦まじい姿に歓声が上がり、事件は幕を下ろしたのだった。


 そして私が24歳になる誕生日の前日に、ベルタは服屋に訪れた。約2ヶ月ぶりの再会でとても嬉しかったのを覚えている。彼の傍には大きな帽子を被った10代後半くらいの少女が居た、誰なのか気になっていたが、暫く店の中を見ると少女は店を出て行った。ベルタに聞いても何でもないと言われて、話す気が無い事が分かった。その後ベルタと、近状報告や、城での事件について色々な話をした。

 

 次の日、私の24歳の誕生日当日にベルタはまたやって来て、お祝いの言葉と髪飾りをプレゼントしてくれた。そして王族からの推薦で、私に王族・貴族の服屋の専門学校に入学する権利が与えられたと話した。この専門学校は、主に貴族や王族のドレス、スーツや燕尾服などの作り方を学ぶ場所で、余程裕福な家庭で無ければ通えず、金があっても入学試験が厳しい場所であった。そんな場所に何故私が入学できるのか分からずに質問すると、私が気が付かない内に、王女が店の服を見て気に入ったらしく、将来自分専用の仕立て人になって欲しいと思ってくれたそうだ。


――信じられない…そんな事って!!


 驚きつつも、私はとても興奮していた。まるで物語の主人公になったかのように、喜びと驚きで胸が一杯になった。彼も嬉しそうに笑って、応援すると言ってくれた。もし、学校を卒業して、王女様の仕立て人になる事が出来たら、ベルタに釣り合う存在になれるのではないかと思った。そして到底自分では行くことのできなかった、選ばれた者が味わえる世界に行けるのだと自惚れた。

 勿論入学すると返事をした…後悔するとも知らずに。







 




 学校に入学すると、私以外が裕福な家庭や、元貴族といった人達ばかりで、普通の平民は私だけだった。さらに推薦された人は私だけで、他の人達は合格試験を通過した一般入学であった。そこから地獄の始まりだった…。

 課題で作ったドレスを引き裂かれていたり、無視や陰口、そして今まで触れられた事のなかった火傷の痕について何度も言及された。さらに、上位を獲得する為、技術の勝負ではなく水面下での卑劣な駆け引き、蹴落とし合いが常に行われていた。

 そんな中で思うような服を作る事など出来なかった。そしてドレスを作る事は、最初は新鮮でとても楽しかったが、段々と綺羅びやかな物にハサミを入れる事に恐怖を感じるようになった。理由は自分の身の丈に合わないものに手を出していると感じたからだ。自分は平民の為の服を作り、周りの人達に喜んで欲しいのだと分かったのだった。

 しかし、学校をやめようとしても「貴女を推薦した女王様の顔に泥を塗る気なのか、巫山戯るな」と教師に睨まれてしまった。家に帰りたくても学校からの距離が遠い為、寮で生活していた。店は長期休暇という事で閉店していた……居場所が何処にもないと孤独感を感じていた。


「…馬鹿だ、私。」


 思わず口に出してしまう。初めから身の丈に合っていないと理解して、断れば良かったのに…夢を見て、見たいと思って足を踏み入れるなんて本当に馬鹿だった。入学してから約1ヶ月、精神的に追い詰められていた私は、明日が来るのが怖くてたまらなかった。寮の屋上をふらふらと歩き、あと一歩で落下する位置で下を眺めた。


「…此処から出て、家に帰りたいな。」


 自分の家、店の方角はあっちだろうかと、家があるであろう方角を眺めていると、背中を押すように突風が吹いた。 



――えっ?


 身体が押されて放り出され、浮遊感が襲い落下していた。そして大きな衝撃を感じると、意識が遠くなっていった。


――私…しぬ、ん…だ……。


 不思議と恐怖はなかった。ただ終わる事への安心感と、悲しみがあった。

















 



 そして冒頭に戻る。目が覚めると私は自分の部屋に居て、日にちはアリスの誕生日の3日前に戻っていた。アリスは寝る前の前日に、カレンダーの翌日の部分に印を打つ習慣があったのですぐに理解した。鏡に写る自分の姿も2、3ヶ月前では余り変化はないが、髪型や服は入学する前の、自分の店で働いていた頃と同じ物であった。

 そして机の上を調べてみると、ベルタからの暫く会えなくなるという手紙が置いてあり、ティア王女が見つかったと発表される前に送られてきた物と同じであった。


――何が何だか分からないけれど…もし、これが現実なら!


 


 そして、アリスは決心した。


「もし…これが神様から頂いたやり直しのチャンスなら、今度は身の丈にあった慎ましい暮らしをして生きていくわ!」


 今度は学校になんて行かずに、彼との恋を夢見ることもなく、平穏に生きると決めたのだった。








 始めまして、そして今他に連載中の小説を閲覧して下さっている方はこんにちは。

 今回はもう最終話まで書けている短編小説を投稿させて頂きました。時代背景に合っていないと描写や、ご都合主義な部分もあると思いますが、もし宜しければお付き合いを宜しくお願い致します。

 今回はほんの数ヶ月前に時間が戻る逆行小説となります。恋愛要素は少なめとなります。  


 もし宜しければ、この小説の評価とブックマークをお願い致します。広告の下にある☆を押して、評価をして頂けたら幸いです。

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