錦上添花(ジャンシャンティェンフア)
フランツさんの説明回です
透明な硝子ポットに手毬みたいな小さな丸い物が入れられていて、其処に沸かしたてのお湯がトポポポッと勢い良く注がれる。
何だろう、とワクワクして見ているとポットの中の手鞠が花が咲くみたいにゆっくりと開いて……。
うわっ綺麗ッ! 何コレ吃驚ッ!!
「ツィスカちゃんってば驚きすぎ、目がこぼれ落ちちゃいそうよ」
ソフィー様がくすくす笑いながら仰るとフランツさんとウィル兄様がコクコク頷きます。 失礼な。
「え~っ、だって初めて見ました。 コレってお茶ですよね?」
子どもっぽい、王女らしくないって笑われても良いもん。 だってコレ、凄いわよね?
興奮してポットを覗き込む私にフランツさんは嬉しそうに微笑って説明してくれます。
「此のお茶はね、中国茶の花茶の一種で工芸茶って云うんだよ。 そこまで喜んで貰えるとは何よりだ」
ふーん工芸茶って云うのかぁ…、ってアレぇ?
「えっとフランツさん?今『中国茶』って仰いませんでしたか」
いや否、え、でも真逆ね、フランツさんも転生者?
混乱している私にフランツさんはにっこりと良いお顔で一言。
「そう、私も転生者だよ。 しかも日本人」
う~わ~やっぱりかー! ナニコレ、春の転生者祭りでも開催されてるの?
頭を抱えたくなってきた私を横目にソフィー様はカウンター席に腰掛けて供されたお茶を優雅に召し上がっていらっしゃる。 ん?供されたって何だろう、うーむ。
「百面相していないでツィスカちゃんも冷めないうちにお茶を召し上がれ」
私とウィル兄様の前にもお茶が置かれています。
恐る恐る飲んでみると、少し渋みがあるけどスッキリした味わいで後から仄かに甘味を感じる。
「美味しい!」
思わず口を衝いて出た言葉に誰も端ないとは言わなかった。
現在ソフィー様ウィル兄様と三人で並んで腰掛けていて、カウンター内にはフランツさんがいらっしゃいます。
「で、改めて自己紹介すると私の名前はフランツ、家門は捨てたので家名は名乗らないよ。 ソフィー様の前の転生者で前世はお茶農家をやっていたんだ」
へーっお茶農家さんかぁ。 ってコトは此のお茶って、もしかして。
「ひょっとして此のお茶はフランツさんが作られたのですか?」
「うん、そう。 私が造ったんだよ、讃良ちゃんのリクエストでね。 讃良ちゃん…あぁ失礼、王妃様は色々なお茶をリクエストしてくるから大変なんだよね」
身内だけの会話とはいえ王妃様の事を讃良ちゃん呼びするとは、相当親しい間柄なのでしょうか。 家門は捨てたと仰っていたので、多分今は貴族ではないのですよね。
「ふふっ不思議そうな顔をしているわね、ツィスカちゃん。 フランツさんは転生者として先輩でもあり、転生者の研究をされている学者でもあるのよ。 だから色々と親しく話をしているわね」
ソフィー様が疑問に答えてくださいました。 私ってそんなに顔に出ていますかね。
その後も説明が続いて、フランツさんが血縁関係ではないけれど曾祖叔父、つまり前々国王の妹の夫なのだと教えて貰いました。
「曾祖叔父って言葉、初めて聞きました。 つまりは曾祖父様の妹さんの夫ってことですよね」
「まあそうだね。 でもツィスカちゃんにも『フランツさん』って呼ばれていたよ。 だから此れからもそう呼んでね」
うん、だって曾祖父さんって年には見えないものね。 此の世界の人の年齢って本当に解らない!!
*♪*♪讃良のワンポイント日本語講座♪*♪*
◎供するとは身分の高い方などに差し出す、差し上げる事よ「お茶を供する」とか使うわね
◎『作る』と『造る』の違いは大きさや規模の違いね。 例えば普通の家庭では『味噌を作る』だけど、工場などでは『味噌を造る』になるの。 ツィスカちゃんはお茶を『作った』と言ったけど、フランツさんは販売用に大規模に『お茶を造った』と答えたの。
錦上添花は工芸茶の一つです
菊の花を使ってあるので眼精疲労をとる作用や体の熱を下げる解熱作用があると云われています