9.王国の『勇者』
――Sideレオン
今日は実にいい気分だ! なんたってあの忌々しい女と婚約破棄できたのだからな!
『勇者』のギフト持ちで王太子でもあるこの俺様の婚約者が、『踊り子』のギフト持ちなど屈辱以外の何物でもなかった!
元々予言で公爵家に『聖女』のギフト持ちが生まれると言われたから婚約したのに、それが『舞踊家』とかいうよくわからんギフト持ちだと。
やはり『勇者』の婚約者は『聖女』というのが常識であろう。
あの女の妹という話だが、あの女とは比べ物にならない程の美人だという話じゃないか。
ますます俺様の婚約者にふさわしい。
早速婚約を申し込むとするか。なに、この俺様が直々に婚約を申し込むんだ、拒否はしまい。
「何? 婚約できないだと?」
「はい。聖女様は生涯未婚と決まっておりますので」
「王太子で『勇者』の俺様が言っているのだぞ! わかっているのか」
「例え王太子で『勇者』である殿下であっても無理です。これは神がお決めになったことですから」
「――もういい!」
全く、教会の奴らめ調子に乗りやがって、神だなんだと言って自分たちの権力を誇示したいだけの癖に。
折角あの身体を抱けると思ったのに……クソっ。
こんな時はあそこでストレス発散するか……。
王宮の一角にある訓練所で騎士団による訓練が行われている。
「――殿下!」
今日も無駄なことに精を出しているな。
さて、どいつで楽しもうかな……。
「……あいつは誰だ?」
俺の目に一際無駄に一生懸命になっている男がいた。
今まで見たことないから、最近入団したやつなんだろう。
「……彼ですか」
「……どうした。この俺様に隠し事か? それならお前が俺様とやるか?」
「……いえ。先日教会から『剣士』のギフトを授かったので、騎士団の所属になったものです」
『剣士』ねぇ。それはまたいいギフトをもらったな。
『勇者』の俺様には劣るが。
「ふーん。どこの家のやつだ?」
「いえ……孤児院の」
そうか。孤児の平民か。貴族の子息だったら少し面倒だったがそいつは丁度いい。
「平民か。丁度いいな。あいつにしよう」
「……かしこまりました」
俺様の目の前には、団長に呼び出された男がいる。
なんて希望に満ち溢れた目をしているんだろうな……。
「王太子殿下に直接稽古をつけていただけるなんて光栄です!」
「俺様は手加減できないからな。気を抜くなよ」
「はいっ!!」
そういうと男は剣を構えて俺様に向かい合っている。
「はじめ!」と審判の騎士の合図とともに、勢いよく向かってくる。
俺様は手に持った剣でそれを弾く。
「うおおお!!」
威勢よく剣を振りかざして来る。
それを受け止めるが、さっきより剣の威力が重い。
「ふーん。それが『剣士』のギフトか」
「はいっ! どんどんいきます!」
と言うと連続で切りかかってくる。
よくもまあ一生懸命になっちゃって……。
《ギフト『勇者』――スキル『剣術』のレベルが上がりました》
レベルが上がったか。『勇者』のいい経験値になってくれたな。
それじゃあ――さようなら。
先ほどまで互角の勝負を繰り広げていた両者だが、次第にレオンの手数が増えてきて男が防戦一方になる。
とどめにレオンの一撃は男の持つ剣を真っ二つに折りながら、男を勢いよく吹き飛ばした。
レオンは男の方へと歩いていく。
「いやー。中々やるねぇ君。まぁ『勇者』の俺様には比べるまでもないがな」
そのまま男の健闘を称える――
「……流石『勇者』のギフトを授かった殿下です。ご指導ありがとうございまし」
ザシュ――
「……え」
わけもなく男の腕を手に持っていた剣で切り落とした。
「あああああああああ!!!!」
「最初に言ったよね? 手加減できないから気を抜くなよって」
そういいながらもう片方の腕も切り落とした。
「将来が楽しみだよ。ま、もう腕はないんだけどね。あっははははは!!」
腕の無い『剣士』って……笑える。
「そいつ。処分しといて」
「……かしこまりました」
ほんと。こいつらは憂さ晴らしには丁度いいな。
それにしてもあんな男程度に手こずるなんて、今日は調子が悪いな。
まあ『勇者』にもそういう時もあるか。
この時レオンは気付いていなかった。
――『勇者』のギフトの効果が、いつもより弱かったことに。




