6.花柳咲夜③
それが私が家を出る決め手になったのかもしれない。
毎日母の稽古は厳しく、妹に実力が抜かれそうで不安だった私は、何気なくスマホで適当に動画を見ていた。
稽古の疲れで動画もぼーっと見ていた私は、見ていた動画が終わったことに気付かずに別の動画に切り替わっていた。
流れている動画はアニメらしい。
ネットで少し探してみると、いわゆる異世界転生ものらしく滅茶苦茶酷評されていた。
それでも今まで触れたことのなかった私には新鮮で、あっという間にハマってしまった。
母はそういった娯楽は教育に良くないと私たちに見せないようにしていた。
私は母に内緒でそのアニメの原作やグッズに至るまで集めるまでにハマっていた。もちろん母に見つかったら怒られることは分かっていたので、バレない様に隠していたけど。
それからの私は、稽古で辛いことがあるとそのアニメを見たり、グッズを眺めて癒されたりしていた。
それがあったから続けていられたんだと思う。
そんなある日。
いつも以上に母の稽古が厳しくて、その日は夜遅くに家に帰った。
いつものように、アニメでも見ようと動画サイトにアクセスしようとすると、何故かそのサイトにアクセス出来なかった。
「(アクセス障害でもあったのかな……)」
そう考えた私は、仕方ないからグッズでも眺めようと、隠し場所にしていた床下収納に向かった。
しかしそこには……何もなかった。
「教育に悪いから捨てました」
淡々と母からそれを伝えられた私は……。
この時、今までかろうじて繋がっていた糸。
それがプツリと切れてしまった……そんな感覚。
それから私が家を出るのは、そう遠くない未来だった。
「あの人は私たちのことを次期家元にする以外に興味のない人よ。それがよくわかったわ」
「そんな……」
「分かったら早く帰りな? もう夜遅いん……」
「キャアアアアアアアア!!!!!」
と近くで女性の悲鳴が聞こえた。
声のした方を見ると、女性が血まみれで倒れていた。
その近くには、血の付いた包丁を持った男性が立っていた。
「こんな時間に若い女性が出歩いちゃダメじゃナイカ……指導が……必要だ……」
と襲いながら呟いている。明らかに薬かなんかキメてる感じでヤバいやつ。
逃げようとした私たちだが、ドサッと音がすると妹が恐怖のあまりその場に倒れてしまった。
その音に反応したのか、男は妹の方に向かってきていた。
恐怖で動けない妹に迫る男の持つ包丁。
考えるより先に体が動いていた。
そのあとのことは、はっきりと覚えていない。
周りの慌ただしい音。
ぼんやりとした視界に移る泣いている妹。
妹の口元が動いているが、何を言っているのか聞き取れなかった。
……それが私の最後だった。




