1.『踊り子令嬢』――婚約破棄
「サーシャ・フロイライン公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」
何も学園の卒業記念パーティーの会場でなくてもいいのに……
私、サーシャ・フロイライン公爵令嬢は、王太子であるレオン・デュボア殿下から、婚約を破棄されてしまいました。
「……理由をお伺いしても?」
「そんなの決まっているだろう! 貴様のギフトが『舞踊家』などというわけの分からないものだからだ! 『勇者』のギフトを持つ私の婚約者にはふさわしくない!」
『ギフト』
生まれつき一部の人間が神から与えられる技能と言われ、王国では成人の儀を受ける際に教会で判定を受けることになっている。
殿下は世界でも数人といない『勇者』のギフトを授かっている。
私もそのギフトを持っているが、『舞踊家』という王国で初めて発見されたギフトだった。
神官はその名から踊りに関するギフトなのだとおっしゃった。
王国で踊りといっても、社交界のダンスか後は……。
「『勇者』の私には『聖女』こそが婚約者にふさわしい」
「『踊り子令嬢』はいらない!」
「……かしこまりました」
踊り子……酒場で踊りを披露し日銭を稼ぐ平民の職業。
私の社交ダンスの成績は中の中。特段秀でてはいませんでした。残る選択肢は踊り子しかない。
ゆえに貴族の人たちは、嘲笑の意味を込めて私のことを陰でこう呼んでいます。
――『踊り子令嬢』