1.異界
1 異界
あれ…… ここは……
少年は横たわっていた。
「……生きてる。でも確か、俺は学校の屋上から飛び降りたはずじゃ……」
パシャパシャとまぶたを動かし、辺りを見渡す。しかし、そこは薄暗く上手く目が機能しない。
『あら、やっと起きたの? 待ちくたびれて寝ちゃうところだったわよ』
突如、背後から何者かに話しかけられた。少年が振り向くと、そこには真っ白なドレスを身に纏った銀髪の女がいた。
「誰……ですか……」
細々とした声だった。
『そうね、セレーネとだけ名乗っておくわ』
木箱のような物に腰掛けながら、セレーネは応えた。
「ここは……」
『見れば分かるでしょ。馬小屋よ馬小屋。アンタが中々起きないから、ずっと待ってたのよ私』
「馬小屋……」
薄暗く、よく見えなかったが、この柔らかい地面はワラの様だ。それに、この臭い…… 糞だな。
「その、セレーネ……さん?」
『セレーネで良いわよ。もう、一つ屋根の下で過ごし
た仲なんだら』
セレーネは一人この状況を理解しているかのように冷静であった。少年はゆっくりと立ち上がる。
「そのセレーネ、俺はいったい……」
『ちょっと、レディーにそんな物見せないでくれる?』
「そんな物って……」
少年は全裸だった。慌てて近くに落ちていたワラで局部を隠す。
『ねぇあなた。自分の名前は覚えてるかしら?』
「そりゃまぁ名前くらいは…… えっと、確か……」
少年は沈黙した。
『思い出せないのね。仕方ないわ、私が名付けてあげる。そうね…… ヘリオス。今日から貴方の名前はヘリオスよ。胸を張って名乗りなさい!』
「ヘリオス……」
少年には馴染みのない名前だった。
「まぁ、正直、呼び名は何でも良いんですけど…… その、俺は死んだはずじゃ……」
ヘリオスは自身の手をじっと見つめたまま呟いた。
『まさか。ちゃんと生きてますよ。ただ、慣れるのに少し時間がかかりそうだけど』
「慣れる?」
セレーネは腰を上げると、ヘリオスのすぐ前まで近寄った。辺りは薄暗く視界が悪いと言うのに、ヘリオスの目にはセレーネがハッキリと映った。
『大丈夫。次は絶対に……』
" バンッ "
突如、馬小屋の扉が勢いよく開かれた。