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その執着には気づかなくていい

作者: Akira

短編。やればできる子、と思いたい。



そこは田舎町という程、田舎ではなかった。

けれど、旧家の多い街であり、それ故に若い人が少なかった。

並ぶ家々も立派だ。

広い庭のある家も多い。

でも、子供が走り回るような庭ではなく、整備された人口の美が、そこにはあった。


だから、その地区の小学校は歴史ある学校で広さもあったけれど1学年1クラスという少なさだった。

そんなところに父の仕事の都合という理由でユキが転入してきた。

色白で真っ黒、真っすぐな髪。


彼女のクラスは5年1組。

このクラスにはクオーターの双子がいた。

ルイとレイ。男女の双子だったが、よく似ていた。

クオーターと言っても四分の一外国人、ではなく、四分の一日本人。

ルイもレイもプラチナブロンドの髪、ブルーがかったグレイの瞳を持つ子供だった。

自分たちと違う子。

きっかけはそれ。

大人のちょっとした一言もあったのかもしれない。

2人はクラスで孤立していた。

2人だから孤立とは言えなかったかもしれないけど孤立だった。


ユキは、たまたま隣になったルイに「綺麗な目の色だね」と言った。

その後、ユキはクラスの子供たちに囲まれていた。

「あの子とは、あまり話さない方がいいよ」

そんな声が聞こえた。

でも、ユキは誰とでも同じように接し、同じように話した。

やがて、ルイとレイはユキとよく遊ぶようになっていた。

「ユキちゃん、わたしたちと一緒にいると他の子と仲良くなれないよ」

レイは警告をした。

「そうかもね。でも、いいよ。わたしはやりたいようにする。どうせ、また転校するかもしれないし。ルイとレイちゃんは、わたしを介して他の子と普通に話せるようになりなよ。なるべく早めに頼むね。わたしが一番の標的になる可能性もあるしさ。それに、いつ転校するかわかんないし」

「何かされたらどうするの?」

「ボスはわかってるんだ。だから誰に何をされてもボスに同じことをやり返す。目には目を歯には歯をだよ。最終手段は登校拒否する」

「学校こないの?」

「ルイとレイちゃんは遊びにきてもいいよ」


ルイとレイもクラスに馴染めるように努力したのか、クラスで誰かが孤立するようなことはなくなった。

卒業する頃にはクラス全員仲がいい、と言われる程になった。

中学に入学すると他の小学校の子たちも混ざって3クラスになった。

中学生になるとルイもレイもモテるようになる。

レイは何人かの男の子と付き合ったがルイは誰とも付き合わなかった。

仲の良いユキと付き合っているのでは、と噂されたりもしたが2人は否定した。

3人は仲が良く、レイは彼氏よりルイとユキを優先し、そのためにケンカしては別れていた。

ユキは1学年先輩に憧れていたこともあったが、それだけで終わった。


勉強ができた3人は、まぁまぁの進学校へ進学した。

ここでもレイは何人かの男の子と付き合っては別れる、を繰り返していた。

「レイちゃん、もう少し彼氏を大事にしてもいいんだよ?気持ちを疑われるの辛くない?」

「ユキちゃんは、わたしがユキちゃんより彼氏を大事に思ってもいいの?」

「わたしを大事に思ってくれるのは嬉しいけど、レイちゃんは、それでいいのかなーと思って」

「わたしは自分の好きなようにしてるよ。相手がわたしを理解しようとしないだけ」

「それならいいんだけど...」

「...何か気になることがあるの?もしかして好きな人でもできた?」

「え!?」

「ぷ。ユキちゃん、分かりやす過ぎるー。てゆーか、なるほどね。妄想しちゃった?その人と付き合って、わたしやルイと遊ぶ時間減ったら、わたしがどう思うか、とか?」

「.....」

「ホント分かりやすいー♪で、誰よ?わたしの知ってる人?」

「んー。あのね?ルイには言わないでね?」

「わかったわかった。誰よ?」


でも、ユキが、その男の子と付き合うことにはならなかった。

その男の子に彼女ができたのだ。

レイとルイはユキを慰めてくれた。

レイとユキはお互いの家に泊まったり、ルイは「オレとデートしよう」と誘ってくれた。

「あいつは見る目ないよ。ユキよりいい女の子はいないのに」

「...言い過ぎ。けど、ありがとう」

「弱ってるとこにズルいとかいう考え方もあるけどオレはそうは思わないから」

「何?」

「オレはユキが好きだよ。付き合って?」

「.....え?」

「慰めてるつもりはないよ。ズルいと思われても卑怯と思われてもチャンスを掴もうとしないよりいい。ユキが誰かのものになるなんて想像するだけで嫌だ」

「えー、と」

「これでオレを意識しないわけにはいかなくなったよね」

「あの、ルイ。気持ちは嬉しいんだけど...」

「これからは遠慮しないし覚悟しておいてね。オレに落ちる気持ちの準備もしておいて」

ユキは自分の気持ちがわからなくなった。

ルイのことは好きだ。

でも恋愛の好きか、と言われるとはっきりそうとは言えなかった。

だから、時々ルイに緊張させられることはあったけれど、そのままの関係で高校3年の秋になった頃、ルイに彼女ができた、という噂が流れた。

レイはユキにただの噂だから気にしないように言ったが、ある日、学校の玄関でルイと噂になっている女の子が2人だけで話しているところを見てしまう。


女の子を見てわかった。

女の子は絶対ルイが好きだ。

「ざまぁ」

背後で声が聞こえる。

振り向くと女の子が靴を履き替えているところだった。

女の子はクラスメイトだった。

目が合うと、にこっと笑って「バイバイ」と言うと、さっさと行ってしまった。

ユキはいたたまれなくなって静かに、けれど足早にその場を去った。

手をきつく組むと冷たくなっているのがわかった。

今日は、そんなに冷える日ではないのに。


ユキは気づいた。

自分でも知らないうちに、とっくに落ちてた。

でも、もう遅いのかもしれない。

レイから図書館で勉強しよう、とお誘いがきた。

気が乗らなかったが勉強はしなければ。

こんなことで勉強が手に付かなくなって大学落ちるとか最悪だ。

これ以上、最悪にはなりたくない。

でも、ユキは気づくとルイと女の子が話していた、あの情景を思い出してしまっている。

「ユキちゃん、ちょっと出よっか」


ユキはレイに話した。

レイは当人を除けばルイとユキの関係を一番詳しく知っている。

「ルイ、今日は家で勉強する、て言ってたから帰りに寄ろう」

レイは嫌がるユキを強引に家に連れて行った。

ルイとレイの部屋がある2階に行くと話し声が聞こえてくる。

「大丈夫。オレが祈ってあげる」

相手は女の子だ。

きっと女の子だ。

男友達相手に、こんな優しい話し方しない。

ユキは掴まれている手を振りほどこうとするがレイは強い力で離さない。

ユキは目に涙をためて懸命に首を横に振りレイの手から逃れようとするが、細いレイのどこにそんな力があるのか、どうしても逃げられない。

そのとき、ルイの部屋のドアが開いた。


「何してんの?」

「ユキちゃん連れてきた」

レイは、そう言うとユキをルイの部屋に入れてしまう。

ユキは部屋を出ようとするがルイがドアを閉めて立っているので出られず部屋に立ち尽くしてしまった。

「ユキ、泣いてるの?」

「泣いてない」

口を開いた途端に溜まっていた涙がぽろっと流れてしまう。

ユキは指で涙を払う。

「なんかごめん。レイちゃんと図書館で勉強してたんだけど集中できなくて。そしたら家に寄って行って、て言われて。邪魔するつもりないし帰るよ」

「なんで泣いてるか聞くまで帰さない」

「泣いてないってば」

「じゃ、こっち向いて」

「...邪魔したくないから。また今度ね」

ルイは部屋を出ようとするユキの腕を掴む。

「ちょ...ちょっと!」

ルイはレイをベッドに座らせて前に跪く。

「ユキが泣いてるのは辛い。なんで?何があった?オレは力になれない?」

「.....」

「ユキ?」

「...そんな優しくしないで」

「するよ」

「なんでよ」

「好きだから」

「...ルイに、彼女できた、ていう話があるけど」

「あぁ、知ってる。まだだよ、て言ってるけどね」

「まだ?」

「だってユキからOKもらってないけど、そのうち落ちる予定だから“まだ”」

「...落ちた」

「ん?」

「落ちた、て言ったの!」

「...ようこそ。待ってたよ」

ルイが両腕を広げる。

ユキは戸惑っていたが、そのまま待ち続けるルイに、そっと抱きついた。






ユキは知らない。


ユキが好きだった男の子に彼女ができたこと。

学校の玄関で話していた女の子のこと。

部屋から聞こえてきた通話。

高校、大学の進路。

ユキに近づいてきた男子。

父親の転勤に伴うユキの引っ越しがなくなり祖父母との同居になったこと。



全部全部、ルイが計画して、ルイが誘導して、ルイがタイミングを計って、ルイが潰して、ルイが牽制して...。


そんなルイの最大の協力者がレイであること。

ルイはユキのことで知らないことはない。


でも、ユキは自分が真綿で見えなくなるように包まれていることも知らない。

それでいいのだ。

知らなくていいのだ。



ユキはレイの警告を「いいよ」と言ったのだから。




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