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落胤09:旧知

 宿屋へ戻る。

 エリノアは、難しい顔をして「うーん、うーん」とうなっていた。


「いい名前が出てこないか?」


「あ、ライトさん。

 ……と? そちらは?」


「俺が召喚した、特別な魔物だ。

 ヘルハウンドの変異体で、名前はペロ。

 ペロ。こっちは僧侶のエリノア。俺のパーティーメンバーだ」


 召喚したのは俺じゃなくて魔王だが、ダンジョン管理者としての召喚なので、通常の召喚魔法とは違って、俺がペロを召喚する事もできる。過去に1度召喚したこともあるので、ギリギリ嘘は言っていない。


「ライト様の忠実なる猟犬ペロだ。

 ……ふむ。エリノア氏は、ドラゴンの血肉を取り込んだようだな。少々人間の枠からはみ出している。

 ようこそ、我らが魔の領域へ。だが調子に乗るなよ? お前など、魔の深淵に立つライト様とは比べるのもおこがましい。せめて私の場所まで達するように精進することだ」


「こら。ペロ。

 仲良くしなさい。お前が傷ついたら、俺じゃ治せない。エリノアに頼ることになるんだからな」


「す、すみません、ライト様……」


 しゅんとしたペロから犬耳と尻尾が飛び出し、しょんぼり伏せていた。


「ふふっ……よろしくお願いします」


 俺たちのやり取りが面白かったのか、エレノアは口を押えて笑っていた。


「さて、パーティーの名前だ。どうしようか?」


「はい。色々考えたのですが、やっぱりライトさんが主軸になるので『〇〇の騎士』とか『〇〇ナイト』とかの名前がいいと思います。

 私としては、私をピンチから救ってくれた英雄でもありますから『光の騎士』とか『ガーディアンナイト』とかはどうかと」


「俺、暗黒騎士なんだけど?」


 一応光魔法も使えるが、自分にしか効果が出ない。

 まともに使えるのは、闇魔法のほうだ。なのに「光の騎士」はどうなんだろう。

 それに、闇魔法は攻撃や状態異常を付与する魔法が多い。なのに「ガーディアンナイト」はどうなんだろう。守るのは苦手だ。


「攻撃は最大の防御、的な意味では『ガーディアンナイト』もなくはないと思いますが、どちらかというと『テラーナイト』のほうが合っているのでは?」


「テラーナイトか……。

 ペロ。お前、センスあるな」


 エリノアもなるほどとうなずいていたので、パーティー名は「テラーナイト」に決定した。

 さっそく冒険者ギルドに行って、結成手続きをしてもらおう。





「相手はミスリルゴーレム。Bランクの魔物だ。

 俺たちじゃあ、ちょっと攻撃力が足りない。仕方なく撤退を決めたが、ミスリルゴーレムは動きも素早かった。逃げきれない。

 だが、そんな時だ。エリノアは俺たちを逃がすため、自らミスリルゴーレムに突っ込み、荷物に入っていた爆撃の魔石を起動したんだ。

 勇敢な女だった。俺たちが思っていたよりもずっと。惜しい奴を亡くした」


 冒険者ギルドに到着すると、窓口の前で身振り手振りを交えて感情たっぷりに語っている男がいた。


「アーロン! 何を勝手なこと言ってるんですか! 私を蹴飛ばして囮にして逃げたくせに!」


 即座にエリノアがプッツンしていた。

 これはしょうがない。誰だってそうだろう。俺だって、そういう立場になったら、そうするし、そうなるはずだ。


「げっ!? エリノア!? なんでここに!?」


「俺が助けた。

 久しぶりだな、アーロン。20年ぶりぐらいか?」


「てめぇは……やっぱりライトなのか?

 てめぇはてめぇで、どうして生きてやがる!? 魔王城に続くダンジョンで死んだはずだろうが!?」


「そうだな。お前たちに放り込まれたせいでな」


 アーロンは、あのとき俺をダンジョンに放り込んだ村人たちの1人だ。

 落下の途中で星空にシルエットが浮かんだのが、まさにアーロンだった。


「やかましい! てめぇがビビッてまともに魔法を使えなかったせいで、オヤジもオフクロも村のみんなも死んだんだ!」


「別にビビッて使えなかったわけじゃない。その証拠に、今でも他人には使えないからな。あの時は、誰もその事をちゃんと知らなかっただけだ。

 それに、親が死んだっていうなら、あの事件では俺の母親も死んでいる。お互いに被害者だ」


「うるせぇ! てめぇがちゃんと魔法を使えりゃ、みんな死なずに済んだんだ!」


「そんなこと言われても、できない事はできないんだ。

 勝手に期待して、勝手に外れて、勝手に恨まれても、どうにもならんぜ。

 第一、そこまで言うなら、俺なんかに期待しないで、自分で魔法を使ってやればよかったじゃないか」


「俺には魔法が使えねぇんだよ!」


「俺にも無理だと言ってるだろ」


「この野郎……ッ!?」


 我慢の限界に達したか、アーロンが俺につかみかかろうとする。勝てないとはいえ、ミスリルゴーレムが出る5階までは自力で登っていた連中だ。アーロンの動きは、Cランク冒険者の上位、またはBランク冒険者の下位といったところだった。

 だが、その動きは途中で止まった。

 ペロが強烈な殺気を放ったからだ。


「……ッ!」


 口もきけないほど身動きできなくなり、アーロンとその仲間の男は硬直している。

 他の冒険者たちや受付嬢は、恐怖に駆られてその場でへたり込んだり、ガタガタ震えたりしていた。


「こら、ペロ。ここでは抑えろ。他の人たちに迷惑だ」


「は。申し訳ありません、ライト様」


 ペロは俺に頭を下げ、すぐさま殺気を引っ込めた。

 金縛りが解けたように、全員が一斉に荒い呼吸を始める。


「ぶはっ……! て、てめぇ……!」


「アーロン。俺のことより、エリノアのことだ。

 俺たちはすでに、冒険者ギルドに事の顛末を報告してある。今さら印象操作は無理だ。

 第一、お前の言う事が正しいなら、生き延びたエリノアがお前らを恨むわけがない。2人とも生きててよかった、私もどうにか生き延びたよ、と感動の再会になるところだ。

 だが、そうなっていない。

 エリノアは、お前らが裏切ったからこそ、お前らを恨んでいるんだ」


「く……!」


 反論できずにアーロンが黙る。

 もう1人の男も、何も言えないようだった。

 周りの冒険者たちがざわめく。「まさか」「本当に?」「そこまでやるか?」などと聞こえてくる。


「『朱色の聖剣』の2人、詳しい話を聞かせてもらおうか」


 筋骨隆々のおっさんが現れて、アーロンとその仲間の男を捕まえた。

 支部長だ。

 そのまま支部長は2人を引きずっていった。


「……さて、パーティー結成の手続きをお願いします」


 俺たちは、パーティー結成の手続きをしてもらった。





 「朱色の聖剣」というパーティー名の由来は、村を襲った魔物への復讐を誓ったものだ。

 すなわち、魔物を殺す聖剣となろう、その聖剣を魔物の返り血で朱色に染めよう、という意味である。

 10年前、当時はまだ進化する前だった「荒野の塔」を制覇して、「朱色の聖剣」は結成の目的に対して一定の成果を出した。

 だが、この功績の代償に、メンバーの半数が死亡。4人組だった「朱色の聖剣」は、2人組になってしまった。それから「朱色の聖剣」は、何もかもうまくいかなくなった。バランスの悪いパーティー構成で、人数も2人だけとあって、うまくいくはずもなかったのだ。

 それでも魔物への復讐心は止まらなかった。2人の素行は荒れに荒れて、ますます評判は下がっていった。それでも各地を転戦し、1年前にはエリノアを新しい仲間に加え、荷物運びなどの雑務を押し付けることで、いくらか調子を取り戻した。

 これからだ。すべてはこれから、再び始まる。

 アーロンたちは復讐の誓いを新たにしていた。

 そんな折の、今回の事件である。下された処罰は、冒険者ギルドからの除籍処分――登録抹消である。評判最悪のパーティーが起こした、人間の風上にも置けないような倫理観のかけらもない事件に、厳しい処分が下ることは当然だった。すべては自業自得、身から出た錆である。自分たちがやらかしてきた事のツケを払う時が来たというだけのこと。だが、これから盛り返そうと考えていたアーロンたちの思いは、完全に踏み潰された。





「ライトぉぉぉ!」

「てめぇのせいでぇぇぇ!」


 宿屋の1階にある食堂で夕食をとっていると、アーロンとその仲間の男が血走った目で現れた。

 他にも宿屋はあるのに、どうやってこの宿を突き止めたのだろうか?


「「死ねぇぇぇ!」」


 剣を振り上げ、アーロンたちが突撃してくる。

 突然の凶行に、周囲の客たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。その中には、けっこうな割合で冒険者もいるのだが、まさかこんな場所で、まさか冒険者が、まさか剣を振り回すなんて、と「まさか」が重なって不意を突かれた形になっている。

 普段は屈強な冒険者や兵士でも、奇襲を受けると意外ともろい。兵法では、奇襲の効果によって3~5倍の敵に勝利できると言われる。


「度し難いな」


 俺はため息をついた。

 隣でペロもため息をついている。

 エリノアだけは驚いているが。

 奇襲によって3~5倍の敵にも勝利できるとはいえ、俺とアーロンたちの戦力差は5倍どころか50倍でもきかない。ミスリルゴーレムに手も足も出ずに逃げるような奴らが、ミスリルゴーレムなんて弱すぎて使えないからと召喚もされない魔王城で修業した俺に、奇襲した程度でどうにかできるわけもないのだ。ましてや俺は、その魔王城に君臨する魔王と互角に戦えるのだから。


(どうしますか? 私がやりましょうか?)


 と目で訴えるペロに、俺は同じく視線で答える。


(いや、俺がやる)


 これは俺たちの因縁だ。決着は、俺の手でつけなくてはならない。とはいえ、俺の方は別に怒りも恨みも持っていないのだから、因縁というより言いがかりだ。しかし、こうまで敵視されては、もはや決着をつけるしかないだろう。第一、自分たちの仲間(エリノア)を裏切って殺そうとするような奴らを、野放しにはしておけない。

 剣を振り上げて突っ込んできたアーロンたちが、眼前3メートルまで迫る。

 あと1歩ふみこんで剣を振り下ろせば、俺に届く距離だ。

 だが、その剣が俺に届くことはない。


「お前らが死ね」


 殺気をぶつけてやると、アーロンたちは雷に打たれたようにビクンと震えて、その場に倒れた。

 強すぎる殺気にやられて心臓麻痺を起こしたのだ。ショック死である。


「……あ。やべ……」


 できるだけ周辺への被害をおさえたつもりだったが、周りを見ると他の客たちが全員泡を吹いて気絶していた。


「さすがはライト様。やはり格が違いますね」


 周辺被害を出すことを悪いことだとは思っていないらしく、ペロは手放しでほめてくれる。さすが魔物だ。価値観がアレである。

 もちろん俺としては、素直に喜べない。なんせペロにやめろと言った事を、俺自身がそれ以上にやらかしてしまったのだから。

 うーむ……殺気をもっと収束できるように訓練したほうがいいのか、それとも今のような場合には殺気を向けずに手を出したほうがよかったのか……。後者かなぁ……。相手が剣まで抜いて殺す気で来るなら、手を出しても正当防衛だし。


「…………!」


 エリノアが俺を険しい目で睨んでくる。

 少々「尊厳」を解放してしまったようだ。

 見ないふりをしてあげよう。

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